八雲の相棒   作:陽灯

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こいしちゃん
少し独自解釈をしてます。


古明地こいしとサードアイ その1

「こいしー?入るぞー。」

 

こいしの部屋にやって来た私は、ドアを開けこいしの名前を呼びかけながら中に入る。

 

ベッドとクローゼット、机と椅子があるだけのシンプルな内装。生活感があまりにもない理由は、基本的にこいしが不在のため家具が使われることも殆どないためだ。埃も被らず綺麗な状態になっているのはさとりやペットが定期的に掃除をしているからである、"いつでも帰ってこれるように"という地霊殿の皆の想い故だ。

 

ここにこいしが今居るかどうかは不確定だ。お燐とお空、はたまた他のペットたちの方に行っている可能性はある。もうすでに地霊殿にいない可能性もある。だが・・・きっといるはずだ。確証のない自信だがこいしを見つけてきた自分の勘と経験を信じる。

 

「・・・」

 

部屋の中央に立ち、目をつぶる。「こいしを見つける」。ただ一つに神経を集中する。

 

・・・ベッドの方からゆっくりと近付く気配。"そんな気がする"程度の微々たるものだがそれがこいしだと私は確信できる。

 

そのゆっくりと近付いてくる気配が私の手が届くまでの距離にくるのを待つ。あと3歩・・・2歩・・・1歩・・・

 

(・・・ここだ。)

 

その気配の方に両腕を広げ倒れ込むように抱きつきにいく。絶対に逃さないように抑えつけるよう・・・抱きしめた気配と共に床に倒れ込み・・・

 

「いたた、随分荒いやり方だね・・・でもまた見つけてくれたね、詠知。」

 

「・・・久しぶり、こいし。」

 

私の腕の中で困ったように微笑む"古明地こいし"にそう語りかけるのだった。

 


 

「え、博麗神社にいた時からずっと付いてきてたのか?」

 

椅子に座り、その膝上にこいしを乗せた状態で抱きしめながら会話する。こうしないといつの間にか能力を発動させて目の前から消えてしまう可能性がある。

 

"無意識を操る程度の能力"。さとりの妹であるこいしは同じように覚妖怪であるものの、自らの手でサードアイを閉じ心を読む能力を封じたことで代わりにこの能力を得た。

 

ただこいし自身にとってもその能力は不本意なものであり、無意識状態になると他人には知覚こそされるものの路傍の石のような気にならない存在にしか写らず、"こいし"という存在を認知しない限りいくら目の前を通ったり触られたとしても認識することすらできない。認知していても相当注視しないといけないが・・・

 

それに加えて無意識状態ではこいしの意志関係なく本能のままに行動してしまうため、長い間"楽しい"ものを探して旧地獄に限らず地上でも放浪を続けていた。私が初めてこいしに出会ったのもその頃だった。

 

「うん。」

 

「てことは霊夢とお燐のあれも・・・」

 

「私も猫耳つけたら同じように可愛がってくれる?」

 

「・・・つけなくても可愛がるぞー!」(なでなで)

 

「んふふ・・・♪」

 

今回長い間こいしを見つけられなかったのは、こいしが周りにいることを考えられないくらいイベントが立て続けだったためだろう。

 

まさか博麗神社の時からいたとは思いもよらなかった。・・・霊夢は普段勘1つでこいしの事を見抜くことがあるんだが、流石にあの混沌状態では無理だったらしい。

 

・・・改めて思うがさとりの能力を無効化するこいしを勘だけで見抜く霊夢って、本当に人間なのか・・・?幼い頃から面倒を少なからず見ている身としては100%人間だと分かってはいるが疑問を抱かずを得ない。

 

「・・・他の人のこと考えてるでしょ、消えるよ?私消えちゃうよ?」

 

「ちょっ、すまん!今見てるし考えてるのはこいしのことだけだぞー!」

 

「よろしい♪」

 

こいしにしっかりと意識を向け直す。この後さとり達の所に連れて行きたいのもあり、すぐにいなくなられてしまっては困る。

 

暫く頭を撫でていると、満足そうにニコニコ笑っているこいしの顔が急に頬を膨らまし不機嫌そうな表情にコロッと変わる。

 

「どうした?」

 

「むー!ずっと近くに居たのに全然気付いてくれないんだもん!」

 

「あー・・・すまない、色々ありすぎてな。こいしを見つけられるほど周りに気を遣えなかったんだ。・・・でも、ちょっと失礼だが見てて楽しかっただろう?」

 

無意識の状態でずっと付いてきたということは本能的に興味そそられるものが私の周りにあったということだ。・・・思い返すと道中も地霊殿でもイベントが沢山あったな。端から見たら随分と面白い状況だっただろう。

 

不機嫌そうな表情から今度は少し暗めで悲しげな表情にコロッと変わる。

 

「それはそうだけど・・・気付いてくれなくて悲しかったんだよ?」

 

「ごめんな、次はもっとすぐに気付けるように頑張るよ。」

 

「うん・・・」

 

こいしも随分と表情豊かになったなと思う。今では喜怒哀楽を分かりやすく見せてくれるようになったが、最初に出会った頃は"楽"以外の感情が全て欠落したように何があってもニコニコと笑っているだけであった。

 

・・・いや、そもそも"楽"ですらなかったのかもしれない。サードアイを閉ざすということは覚妖怪にとって心を閉ざすのと同義であるため、全ての感情が欠落していて本来の明るい人格の残滓が"楽"に見えただけだったのかもしれない。

 

だが今のこいしは当時と違いある程度感情が見える。これはひとえにさとりの努力や地上の環境が影響した結果なのだろう。

 

心を閉ざしたこいしの感情を引き出すために、こいし専属のペットを与え世話をさせたりこいしを探しにわざわざ地上にまで出向きコミュニケーションを取る。

 

加えて地上の環境は、こいしを一人きりには決してしなかった。一目見ただけでこいしの存在を看破できる者も複数居たし、こいしという存在が知れ渡ったことで見つけることの出来る人妖も格段と増えた。つまるところ交流を図れる機会が格段に増え、こいし自身の興味の向き先、他者の感情に直接触れる機会が大きく広がったのだ。

 

その結果、今では会話していて特に大きな違和感もない程度に感情を取り戻した?と言えるだろう。サードアイを閉じる前の人格を知らないので取り戻したという表現が正しいかは何とも言えないが。

 

だが、まだ感情の変化の切り替えが苦手なようで、喜怒哀楽がコロコロと予兆なく変わっているが・・・まあ個性の範疇だろう。

 

「別に気付かれるためなら触れたりしてくれても良かったんだぞ?」

 

無意識状態のこいしの声は、耳には入るものの最初から聞かれなかったように気付くことはできない。それはその瞬間の話であり、映像媒体にて無意識状態のこいしが映り込んだ場合は後々見返した際にその姿や声を確認することが出来る。

 

だが触れられた際には即座に感触は伝わるためそれによってこいしの存在を認識することはできただろう。実際こいしから私の服を掴んだり飛びついてきたことで気付いたケースも何度もあった。

 

「・・・それでも良かったけど、私は詠知に気付いて欲しかったの!自主的に!」(ぶんぶん)

 

「なるほど?」

 

手足をぶんぶんと振って怒るこいし。気まぐれな性格なためそういう気分だったのだろう。

 

「ね、お姉ちゃんの抱き心地どうだった?」

 

「・・・そこも見てたのか。えーっと・・・」

 

「あったかかった?やわらかかった?」

 

返答に困る・・・が、こいしは純粋に気になって聞いてきているのだろう、なら正直に答えても良いか。

 

「・・・暖かかったよ、柔らかくもあった。・・・抱き心地も良かったよ。」

 

「ふーん・・・良かったね♪」

 

妹に姉の抱き心地を報告するという状況とは・・・そしてそれを聞いてニコニコとするこいしの無意識・・・無邪気とは恐ろしいものである。

 

「ねぇねぇ、心を読まれることってどう思ってるの?」

 

「うーん・・・今更かなとは思う。」

 

「いまさら?」

 

「周りに殆ど心を読んでいるってほど賢い人が多いからな、今更心を読まれたとてそこまで何も思わないな。」

 

もう少し私の頭が良ければ困ったのかもしれないが、凡人程度の思考能力しか持たない私では心の中を覗かれても正直今更感が強い。

 

「ふーん・・・ね、ちょっと手離して?」

 

「・・・私との話、つまらなかったか?」

 

「ううん、違うの。詠知と話すのはすごく楽しいよ。でもこうやって抱きしめられているのじゃダメなの。」

 

私との会話に飽きたのかと思ったが違うらしい。

 

「分かった。」

 

こいしの要望通りに手を離す。

 

ぴょんと私から飛び降りたこいしはとてとてと私に背を向け、数歩歩く。私の手が届かない程度の距離に達したこいしはくるりとこちらに振り返り・・・

 

 

 

「じゃあさ、私のことはどう思う?」

 

ニコニコとした笑みを浮かべ、そう私に問いかけてきたのだった。

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