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自在に動き四方八方から私に向かい飛んでくる陰陽玉を避け、時に腕や足で弾いていく。
そしてその回避動作の最中に投げ込まれる封魔針を間一髪で体をひねり避ける。
隙を突いて距離を縮めようと画策するも、陰陽玉、封魔針、加えて邪魔をするように私に飛んでくる札や形代が私を前に進むことを許さない。
「容赦ないな・・・一切近付けない。」
「これくらいはしないとね、そろそろ勝ちたいのよ。」
相まみえるのは博麗霊夢。現"博麗の巫女"であり数多の異変を解決してきた英傑といえる存在。
「なるほどな・・・でも、飛び道具だけでは勝てないだろう?」
陰陽玉は自在に動くため自由に攻撃できるが、封魔針や札は有限となる。消耗戦に持ち込めばこちらに勝機が舞い込んでくる。
「そうね・・・そろそろケリを付けないと・・・ねっ!」
陰陽玉と札の動きがより一層速くなると共に手にお祓い棒を持ち私の方に駆けてくる霊夢に対し、私は陰陽玉を肘で打つように弾き飛ばしてすぐには戻ってこれないようにし待ち構える。
薙ぐような形でお祓い棒を振りかぶる霊夢にカウンターのタイミングを測り・・・違和感に咄嗟に気付き後ろに少し距離を取る。
(普段より振りかぶる距離が遠・・・!?)
そう思った瞬間、霊夢がブーメランのようにお祓い棒を私の喉元に向けて投げつけてくる。普段近接武器として用いているお祓い棒を、初撃で投げつけてきたことに面食らう。
違和感に気付けたことでお祓い棒は、右膝を着き屈むように避けることができたが・・・大地を踏みしめ飛び上がった霊夢への反応が遅れてしまう。
"空を飛ぶ程度の能力"も使っているのだろう。飛び上がり空中を錐揉み回転する霊夢、考えられるのは・・・全体重を乗せた蹴り。私と霊夢では体格差は相当な差があるが、霊夢の身体能力に加え重力も合わさった一撃を受ければただではすまない。
先ほどのお祓い棒を避けた際に右膝を着いたため立ち上がる時間はない。その状態で腕を前に構え、防御の態勢で待ち構える。
普通の跳び蹴りだったら絶対に間に合わなかっただろうが、回転分の時間の余裕があった。だがその分威力は絶大となる。神経を研ぎ澄ませ霊夢からの攻撃を待ち・・・
目の前に飛んできた封魔針と陰陽玉に体が反応してしまった。
あの空中を回る体勢で封魔針を投げ込み、遠くに弾き飛ばされた陰陽玉を操作し飛ばしてくる。どれだけの才能があれば、この3つの動作を同時に出来るのだろうか。
(やっぱり天才だな・・・)
陰陽玉を右腕で弾き飛ばし、封魔針を左手で受け止める。これで霊夢の一撃から身を守る術がなくなり後は一撃を受けるしかない。
負けを確信し、蹴りを待つ。霊夢がこちらに迫り来るのにせめて気絶はしないようにと顎を引き待ち構え・・・
「あっ!」
「えっ、うおっ!?」(ぼふっ)
霊夢の蹴りが私の目の前で空を切り、体勢を崩した霊夢がそのままこちらに突っ込んでくるのを咄嗟に受け止める。そのまま後ろに倒れ、霊夢が上に乗るような形となる。
霊夢と目が合うと、恥ずかしそうに目をそらされる。少し気まずい沈黙が流れた後、とりあえず霊夢に怪我が無いか確かめることにした。
「・・・大丈夫か?」
「大丈夫。・・・慣れないことはするものじゃないわね。針と陰陽玉に集中しすぎちゃったわ。悔しい、ようやく勝てると思ったのに・・・」
「最後は惜しかったが凄かったぞ、お祓い棒を即囮にしたりあの体勢で封魔針を投げて見せたり・・・虚を突かれることばかりだったし、実質私の負けだろう。」
「でも負けは負けよ。まともに一撃も入れられなかったし・・・でも次は何の文句もつけないように勝つから覚悟しなさい、詠知。」
「・・・楽しみにしているよ。」
今日は博麗の巫女への鍛錬として、博麗神社を訪れ霊夢に特訓をつけていた。
幻想郷が出来て(博麗大結界の設置)以来、私は歴代の「博麗の巫女」への体術指南役としての役割を与えられており月に数度近接戦闘に関する鍛錬を行っている。
スペルカードルールが制定されて以降命の危険は格段と減ったが弾幕ごっこを理解、適応できない妖怪も多数おりそういった妖怪を退治する際は純粋な戦闘になる。そういった妖怪は大半が知能の低い弱妖ではあるが、万が一のことがあってはいけないと厳しく教え込んでいる。異変解決や博麗大結界の維持のために博麗の巫女の重要度は非常に高いのだ。
「先に向かっててくれ。道具は私が回収しておく。」
「いいの?ならお願い、私は飲み物を用意しておくわ。」
神社内へ向かう霊夢の背中を見送りながら、鍛錬中にできた地面の抉れの修復や落ちた道具の回収を行う。
博麗霊夢は間違いなく天才である。10代中盤にしてその実力は歴代の博霊の巫女の中でも上位に入る存在であることは間違いない。
純粋な体術勝負となるならばまだ年の功と体格による差でほぼ完封できるが、退治という名目で何でもありの勝負をするのであれば逆にこちらが一方的に完封されるであろう。実際飛び道具有りの戦いでは今のところなんとか勝てているが、今回のようにほぼ私の負けなケースも少なくない。受けたことはないが夢想封印は多分避けられないと思う。
霊夢は紫が連れてきた外来人である。歴代の巫女も大半が外の世界出身であるためてんで珍しいことではないが。
基本的に選定理由は「博麗の巫女としての才能」と「幻想入りしても影響の少ない人物」であるため、曰く付きな子であるパターンが非常に多い。そのため詳しい出自は当人にとって辛い過去である可能性が高い。
だから外の世界の頃の話を聞くことはない。だが一目その動きを見ただけで、かなりの才を持っていることは明確に確信できた。
飲み込みの早い教え子には指導にも熱が入ってしまうもので、歴代の博麗の巫女の中でもかなりスパルタな育て方をしたように思う。
先代の巫女が博麗の巫女としての基本や常識、霊力の使い方等を教え、私が体の使い方や戦い方を教える。代々受け継いできた方法であり、鍛錬以外では博麗の巫女に対して幻想郷に不利益にならないように不干渉の姿勢を貫いてきたのだが…
「詠知、お風呂。」
「…あぁ。」
指導に熱が入るあまり情が入るあまり厳しくした分、対価として甘やかしすぎてしまった。人間の里での買い物や昼寝に付き合ったりと本来はやらないようなことをした結果、霊夢にとって父親のような存在になってしまった。
先代の巫女が母親、私が父親のような疑似家族が形成されたことでその認識が強くなっていったようで、極めつけは代替わりによる先代の巫女の引退である。
霊夢にとっては母親がいなくなってしまったのと同義で、残った父親代わりの私により強く甘えるようになった。その結果がこれである。
はなから先代の巫女のみが親代わりの存在だったのであれば独り立ちとして踏ん切りがついたのだろう。だが中途半端に私が愛情を注いでしまったがばかりにこんなことになってしまった。本当に失敗だったと思う。
「・・・?詠知、どうしたの?」
「いや少し考え事をしてただけだ、先に入ってきて良いぞ。」
「嫌よ。ただでさえ月に数回しか会えないのに、この日くらいは一緒にいたいわ。」
「・・・わかった。準備するから少し待ってくれ。」
世間で言えば思春期に入るであろう年齢、少し口調は素っ気なくなったものの「一緒にお風呂、一緒にごはん、一緒に寝る」という姿勢は一切変わっていない。
お互いに服を脱ぎ、湯浴みをし体を洗う。そして霊夢が私の背中を洗い始める。
「本当にいつ見ても大きくて傷だらけで、頼りがいのある背中ね・・・」
「博霊の巫女様にそんなことをいってもらえるのは光栄だな。この傷も幻想郷のために付いたものと考えれば名誉な物だ。」
今度は私が霊夢の背中を洗う。
「霊夢の肌は本当に綺麗だな。きめ細やかだ。」
「ふふっ、そう?毎日触りに来ても良いのよ?」
「そんなことをしたらいつか捕まりそうだな・・・今くらいのペースで会うのがお互いのためになるから毎日はダメだなぁ。」
「むぅ・・・文句を言うやつは全員ぶっとばすから気にしなくて良いのよ?」
おぉ、こわいこわいと笑い飛ばし洗い終え、一緒に湯船につかる。霊夢は私の足の間に座り胸に背中を預ける。
「~♪」
この状態で鼻歌を歌う姿は、少し紫に似ているものがある。霊夢は紫を「胡散臭い」と切り捨てるがもしかしたら気が合う部分があるのかもしれない。
そんなことを考えていると霊夢が私の顔をのぞき込んでいる。
「ねぇ・・・」
「どうした?」
「詠知・・・お父さんは、いなくならないわよね?」
「・・・」
「私は嫌。お母さんがいなくなって、お父さんまでいなくなるのは・・・もう耐えられない。」
「絶対にいなくならないから安心しろ。絶対に置いていかない。」
・・・接し方は間違えたとは思っているが、なんだかんだ霊夢のことを自分の娘のように思っている気持ちは確かだ。親代わりとしての愛し方は間違っていない。もし私自身が死んだり幻想郷から去らなければいけない時でなければ離れるつもりはない。
霊夢は花が咲くような綺麗な笑顔を見せた後、こちらに振り向き首に腕を回し正面から抱きついてきた。
「絶対、絶対よ?・・・もし私の前からいなくなるのなら、何をしてでも絶対に見つけ出すから。もう絶対離れられないようにするから・・・」
・・・訂正、少し愛し方は間違えてしまったのかもしれない。
本当に幼いころから頼りにしてきた人には霊夢も甘えることがあるのかなと思い書きました。
やんでれいむって良いですよね。
詠知は能力一切関係ない純粋な身体能力と技術を使った殴り合いをするならば幻想郷でもトップクラスの実力は持っています。が、能力ありだとかなり一方的にやられるパターンもあります。紫あたりには絶対に勝てません。