こいしの雰囲気が変わった。
あまり感情の機微に聡いわけではない私でもこいしの違和感には気付くことが出来た。
腕を後ろに組み少し前屈みな姿勢を取り、こちらの目をジッと見つめてくるこいし。
いつものように見えるニコニコとした笑顔が本物のように見えない。
悲しいことがあっても苦しいことがあっても、笑う以外の表情の無かったころに見せるような笑顔。
こいしの質問に何と返すべきなのかと思案する。ただこいしの魅力を語れば良いのか、良き友人であると言えば良いのか。
だが、何かを間違えば、何かが変わってしまう。ふわっとした感覚だがそんな予感がしてならず返答の言葉が出てこない。
「悩んでるね。」
「・・・ああ、今頭に浮かんでいる言葉では、こいしの質問を解消することはできないんじゃないかと思うと中々な・・・すまない。」
「ちゃんと私のこと考えてくれているんだね、嬉しい。じゃあもっと分かりやすいように言葉を換えるね?・・・"心を閉ざした覚妖怪"についてどう思う?」
「!」
こいしからの言葉に私は思わず息を呑む。
心を閉ざした覚妖怪は言わずもがなこいし自身の事を指しているだろう。だが「妖怪が自分の存在意義に触れる」ことが意味する事はあまりにも大きい。
妖怪は人間より圧倒的に肉体が強い。加えて首を飛ばしても再びそこから体が生えたり再構築して再生するような存在だ。だがその反対に精神は人間よりも圧倒的に弱いのだ。妖怪の死は肉体の死ではなく精神の死となる。例えば妖怪が怨霊に取り憑かれ精神を乗っ取られるとその時点で死ぬ。
それだけ精神が大切な妖怪にとって、"自身の種族"というのは誇りである。多数の同一の妖怪によるコミュニティの結束力の強さは、それだけ種族としての誇りがあるからこそであろう。特に現在の妖怪の山での天狗社会にこれが言える。天狗以外(旧支配者の鬼は例外だが)に非常に排他的なのも結束力の強さ故だ。
複数個体が存在する妖怪のみならず、単一で存在する妖怪(紫やルーミア)も少なからず自身の種族を誇りに思う気持ちはあるだろう。
それだけ自らの種族を誇る妖怪にとって、種族特有の能力というものも誇りなのだ。
「・・・最初は驚いたし、妖怪として異質だと思ったよ。」
覚妖怪にとっては何があっても"心を読める能力"が誇りである。事実さとりは心を読めることでの厄介な面を全て理解し、自らの能力が多くに忌み嫌われてることを理解した上でその能力を誇りに思っている。
そのため自らその能力を嫌い能力を無くす道を選んだこいしは、妖怪の常識から逸脱している存在であることは間違いない。
「感情もあまりない。代わりに得た無意識の能力が幻想郷や人間の里に何か影響を与える可能性を考えると、どう対処するべきか悩んでいた時期もあった。」
「・・・」
心を読むためのサードアイを閉ざすというのは、"覚妖怪としての存在"を失うことになり消滅してもおかしくないほどの行為であったはずだ。
ただそうはならなかった。瞳を閉じると共に、新しい能力を得て覚妖怪でありながら全く新しい妖怪のような特性を持った存在になった。その対価としてか感情、心まで閉じてしまったが。
無意識状態になると本能に従い里にも躊躇なく入ってしまうこいしへの対応に頭を悩ませている時期はあった。必死に足跡なり痕跡を追ってこいしを捕まえにいったのも、幻想郷にとって不確定な要素だった理由も大きい。
もしこいしが旧地獄の実質的な統治者であるさとりの妹でなければ、今のような関係では無かった可能性もある。
正直なこいしへの思いを言葉を紡いでいると、変わらず笑顔のこいしの目が少しずつ潤いだしていくように見えた。
「やっぱりそうだよね。私のせいで色んな迷惑をかけちゃ「でも」」
「色んなものに触れて喋って、笑ったり喜んだり怒ったり・・・様々な感情を見せてくれるようになった。今はただ好奇心旺盛な無邪気な女の子だと思ってるよ。」
「・・・」
「こいしはサードアイは閉じていても、今は"心を閉ざした覚妖怪"じゃない。」
終わり良ければ全て良し。結果的に今のこいしは多くに知られ、交友関係のある一妖怪だ。感情も持つようになり無意識下でもある程度制御が効くようになった。こうなれば何も不確定な要素もない。
「一人間の私じゃ、覚妖怪としてのこいしの悩みや苦しみを想像することはできない。だからきっとこいしの望む答えを返せはしないと思う。だけど、私の本心からの言葉を言いたい。」
「・・・うん。」
こいしがサードアイを閉ざした理由に想像は付く。そして心まで閉ざしてしまったのは偶然で、本人にとっても望んでいないことだったはずだ。だから・・・
「こいしの選択は何も間違ってない。」
「・・・っ・・・!」
こいしの表情が崩れ、俯きその目からぽろぽろと涙が流れ出す。・・・悲しんでいる姿は見ても、こうやって泣いている姿を見るのは初めてだな。
涙を流すこいしに近づき静かに頭を撫でる。こいしが落ち着いて泣き止むまではこうしていようか。
「地上に行ったときに、最初に私を見つけてくれたのが詠知だったの。」
「それは初めて聞いたな。」
泣き止んだ後、再びこいしを膝上に乗せた状態で会話をする。長い間地上を放浪していたことは知っていたが、まさか私が初めて地上でこいしを見つけた存在だとは思ってなかった。
「ずっと無意識の中で私の意志関係なくあちこち彷徨っていたから、見つけてくれる人がいるってことが嬉しかったはずなの。その頃はまだ何も考えられなかったから何とも思ってなかったけど、きっとそうだった。だから無意識に詠知のいる里やその周りに向かってたんだと思う。」
「なるほどな。だから結構な頻度で里に来ていたのか。」
「うん。それで詠知の周りにいた時に他の人にも見つけてもらえるようになっていって、だんだん色んな物や人に興味を持てるようになっていったの。だから詠知には凄く感謝してる。もちろん私のために色々してくれたお姉ちゃんにもね。」
「さとりに直接言ってあげれば多分泣いて喜ぶぞ。すごくこいしのことを大切に思ってるのだから。」
こいしの捜索のために地上に来るほどだ。さとりの妹愛は相当なものだろう、姉妹仲が良いのはいいことだ。
「ね、お姉ちゃんと私だとどっちが好き?」
「・・・とんでもない質問だな。何か厄介なことが起こりそうだから言わないぞ。」
「・・・・・・」(ジー)
こいしの顔が目と鼻の先くらいの距離に近付き、ジッと見つめてくる。
「そんなに見つめても言わないからな。・・・後こいしの真顔怖い。」
「ね、私、お姉ちゃんと違って詠知の心を読めないの。」
「・・・」
「ずっと詠知も心を読まれるのは嫌だと思ってた。けど心を読まれてもなんとも思ってないって知ったら、もしかしたら普段迷惑のかけないし落ち着いてるお姉ちゃんの方が好きで、迷惑ばっかりかけてる私は嫌われてるんじゃないかって・・・」
「だからあの質問をしたわけか・・・迷惑な訳ないだろう。こいしを嫌うことなんて未来永劫無いからな、安心してくれ。」
出会った当初にはこいしの存在に悩んではいたが、正直その頃からこいしを捕まえるのは割と楽しかった。今のこいしに嫌う要素など一つもない。
「ほんと?一生?」
「一生。」
「・・・きっと本当なんだろうね。でも、心読みたいー!!安心したいー!!」(じたばた)
「膝上であんまり暴れないでくれ・・・」
私の膝の上でじたばた動くこいしを落とさないように抱きかかえる。
「ふと思ったんだが感情が戻った今なら、サードアイが開いたりは・・・流石にないか、ははは。」
「え?」
「・・・え?」
「・・・」
こいしがそっとサードアイに手を添える・・・
パチッ
ギョロッ
「「・・・えっ・・・」」
「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」」
展開超悩んだ結果シリアスを挫折
個人的解釈として
サードアイが完全に開かない状態になっている→覚妖怪として完全に死んでいる状態→死
というイメージなので、こいしのサードアイは条件が揃えば開く状態にある。
サードアイを閉じた際→心も一緒に閉じた
ため
心(感情)を取り戻した→サードアイも開くようになる
という認識です。
てことでこいし開眼+もう一話続きます。古明地姉妹のダブル読心が詠知くんを襲う。