「う~ん・・・普通に美味いが飽きるなこれ。」
「でしょ~。」
とりあえず周辺にあった屋台を回りつつ、萃香の食べ残していた団子を頬張る。味は至って普通、里の団子屋には遠く及ばないがまずくはない。祭りでの屋台という補正が加われば十分美味しいと言える味だろう。
だがいかんせん量が多すぎるのだ、拳大の大きさに加えそれが10個近く。さすがに飽きる、これだけで腹が膨れそうである。
「とりあえずこれを食べきらないとな・・・ほれ、萃香も食べろ。自分で頼んだものなんだから責任を持て、私も食べるから。」
「え~~もう飽きたよー。」
肩車をしていた萃香を一旦降ろし、そこらにあった敷物に座り膝上に乗せる。この大きさの団子串を持って歩き回るのは中々辛いためとりあえず消費したい。
ちなみに飽きたと文句を垂れる萃香は新たに酢漬けのイカを買い、それをつまみに酒を飲んでいる。・・・地底にイカ?とは思うがそれはさておき、買った食べ物は責任を持って食べるのは当然であり道理である。決して残したり捨てたりすることは許されない、食への感謝は忘れてはいけないのだ。
「・・・しょうがないね、じゃあ食べさせておくれよ。両手塞がってるし。」
「その酒瓶を床に置けば・・・まあいいか。ほら、あーん。」
「あーん♪」(かぷっ)
「いててて!指一緒に食べるな!」
なんとか完食した後、再度萃香を肩車して歩き出す。正直もう肩車をする理由はあまりないが、肩車をして屋台を回るというのが割と親子みたいで楽しいので継続する。
「今更なんだが、この宴会っていつから始まったんだ?さっき子ども達が集まって遊んでたが、これだけ屋台があるなら飽きることはない気がするが。」
「屋台とかは昼前から置かれ始めて、そこからちょっとずつ住民達が集まって・・・って感じだからね。」
「なるほどな、流石に昼から晩までかければ遊び尽くしもするか。」
子ども達が暇そうだった理由に納得しつつ、周りを見渡しながら飲み物を探す。団子によって口の水分を持って行かれてしまった。
だが宴会場所にあるのは酒、屋台で売られるのは酒、もしくは酒を使った何かしらである。何だ酒かき氷って、どうやってアルコールを氷にしたんだ。
「なあ萃香。この辺りに飲み物が売っている場所ってないか?」
「それならこのさ「酒以外で」・・・むう。」
100%酒を勧められることが分かっていたためすぐに言葉を刺す。勇儀に会ってすらいないのに酔うわけにはいかない。詳しくは聞けなかったが、勇儀曰く「酔ってパルスィや鬼を腰抜けにする」らしいのだ。・・・改めて酒への接し方をもう少し考えた方がいいのかもしれない。今回は鬼が主体の宴会であり飲まない選択肢はないのだが・・・
「後でいくらでも付き合うから、普通の飲み物が今は飲みたい。」
「・・・絶対だよ?つぶれるまで飲んでもらうからね。でも酒以外ね、多分このあたりにはないんじゃない?」
「本当か?流石に水の1つくらいは…」
「酔い覚ましに薄めの酒を飲むくらいには地底の住人は鬼含めて酒好きなのさ、こんなおめでたい時に酒以外を飲む奴なんていないしね。・・・そうだ!面白いものを見せてあげるよ。そこにある酒2本取って!」
「?わかった。」
"ご自由にお取りください"と親切に書かれた酒置き場にある瓶を手に取り頭上の萃香に渡す。
受け取った萃香が瓶の蓋を開ける音が聞こえ、肩車の体勢であるため見えないが1分近く渡した酒に何かを施しその内1本を私に渡してくる。
「ほれ、飲んでみて。」
「一体何を・・・ん?」
酒に何をしても結局酒では?と思いつつも瓶の飲み口を鼻に近付ける。と、そこからアルコール特有の匂いがしないことが分かる。
口にしてみると酒の味はせず、ただの水の味であることが分かる。
「水だ・・・能力か?」
「そうそう、ちょーっと密度を上げれば水になるさ。揮発したのは私の酒に入れれば濃い酒が飲めるし一石二鳥だね。」
"密と疎を操る程度の能力"を持つ萃香。素人知識だが密度を上げれば温度は上昇するためその力を使えば揮発はできるはずだ。
正直そんな単純な話じゃない気がするが・・・分身したり巨大化したりブラックホールを作ったり滅茶苦茶な能力なので多分できるのだろう、深く考えてはいけない。
「まあ完全に水にはしてないけど。・・・てことで問題は解決したし、次の屋台いこ~。」
「そうだな、ちなみに何処かおすすめの屋台ってあるか?」
「んー、射的とか金魚すくい辺りが面白そうだったね。」
「ならその辺りからまわろうか。」
「・・・・・・」
広場の端。屋台や宴会の喧噪から少し離れた場所、敷物の上に私は横たわっている。何故こんな事になっているか、それは屋台が問題であった。
まず1つ目の射的だが、どこから仕入れたのか分からない猟銃で皿を撃ち抜き割るという射撃場形式であった。しかも少し手元が狂えば横の屋台やら宴会場に弾丸が飛び込むという安全性に欠如した催しだった。地底の住人が弾丸1つでやられるほど柔ではない事は知っていたが心臓に悪い。銃の心得があったのでなんとか無事に撃ち抜けた。ちなみに景品は酒。
2つ目の金魚すくいは、同じくどこから仕入れたのか分からない巨大な桶の中から網ですくうという物だった。水が濁っていて底も見えない中、人間大の金魚?やら謎の物品達等々の中から網が破けるまで気合いですくった。流石に地底ですくった生き物を持ち帰れないので代わりに酒をもらった。
追加で訪れた流し酒樽なる屋台?。斜面の下に立ち上から転がってくる酒樽を気合いで受け止めるという物である。受け止められないと弾き飛ばされる。これも気合いで受け止めた。当然景品は酒。
何だかんだ祭りの空気感も相まって結構楽しかったが色々と疲れ、一時的に休憩するためここに来たという訳である。ちなみに周りにも搬送されてきたらしき住人達が寝かされている。多分屋台の犠牲者だろう。
私の横には景品としてもらった山のように積み重なった酒瓶や酒樽。私は飲まないが萃香にとっては至高であり上機嫌そうに肴を探しに行った。
「さて・・・」
体を起こし胡座の体勢で座り、萃香の帰りを待つ。疲れからか意識が少しぼんやりする。
と向こうから萃香ではない見知った顔がこちらに近付いてくるのが見えた。
茶色いリボンを頭に付け、金髪をポニーテールにまとめている・・・旧都の金髪率高くないか?
それはさておき、蜘蛛をモチーフとした装飾を施した・・・前会ったときよりもスリットが付いて露出度が上がっている気がするが、ジャンパースカートを着用している*1。
「あれ?詠知じゃないかい。」
「ヤマメ、参加してたんだな。」
黒谷ヤマメ。地上と地底を繋ぐ大穴に住む土蜘蛛の妖怪である。区分では一応地底の住人となる。
「勿論!こんなめでたい催しに参加しない理由は無いよ。」
能力は"病気(主に感染症)を操る程度の能力"。軽い風邪から致死性のウイルスまで感染させることができる・・・らしい。だが人間相手にむやみやたらに使うことはないし、そもそも肉体的に強い妖怪には効かない。
「さっきもステージで歌ってたんだけど見てなかった?」
「すまない、休憩してて気付かなかった。」
「それは残念。また後で立つからその時は見に来てよ!」
能力は中々に危険なのだが、性格は非常に明るく気さくであり地底でも結構な人気者。行動も中々アグレッシブで時々地上でも出会う。
「分かった、見に行くよ。・・・そういえばこの前くれた糸、大工にかなり好評だったぞ。"また欲しい"だってさ。」
「ほんと!?嬉しいね、また今度作って渡すよ!!」
「ああ、頼む。」
蜘蛛の妖怪と言う事で体から糸を生成することができ、その糸は細く頑丈であり服の素材として非常に有用な素材である。加えてこの前大工に建築資材として提供し活用出来ることが分かった。
大穴を移動する際にもヤマメに糸を張って貰い、それを上り下りする形を取っている。
「素材提供に加えてヤマメにはここと地上の行き交いの時も世話になっているからな、何か恩を返せればいいんだが・・・」
「いいよいいよ!世間話1つ持ってきてくれれば楽しいしさ、それ以上求めるもんはない、よ・・・」
「ん?どうした?」
ニコニコと上機嫌そうであったヤマメの表情がふっと曇り、怪訝そうなものへと変わる。何かあったのだろうか。
座っている私と目線が合うように屈み、こちらの顔をジッと覗き込み・・・口を開く。
「ねえ、何で地底にいるんだい?私運んだ記憶ないんだけど・・・」
「・・・・・・あっ」
剛欲異聞衣装のヤマメ好き。
残り1話か2話くらい・・・のはず。ゆっくり書きます。