「・・・よしっ、これでとりあえず完了です詠知様!」
「おー、すごい綺麗に揃っているな。」
時間は昼過ぎ、人間の里に買い出しに来ていたついでにと私の家に寄った妖夢が生け垣の手入れをしてくれている。
白玉楼にてあの美しい庭園を管理している妖夢の庭師としての腕は高い。1,2時間程度で自分でもかなり広いと思える私の家の庭にある生垣が綺麗に整えられた。
「ありがとう、お疲れ様。」
「いえいえ!これくらいなら朝飯前です、いくらでもやりますよ!」
「本当に良い子だな妖夢は・・・お茶を用意しておいたから居間で休憩してくれ。」
「はい!ありがとうございます!」
家の中に入っていった妖夢を尻目に生垣を眺める。縦横両方ともに綺麗に塀状に整えられ美しさを感じるほどだ。
本人曰く「剣士、庭師としての腕はまだまだ半人前」というが少なくとも素人目では一流の仕事にしか見えない。白玉楼の庭園の庭師としては不十分だという判断なのだろうか、もしくは妖忌と自分自身を比較した場合での半人前なのだろうか。
「外からも見てみたいな。」
いつの間にかできていたあげく拡張されていく我が家だが、数百年住んできた愛着がある。
外観を見るために外周に出て、外側も綺麗に整えられた生垣を眺めていると・・・
「お久しぶりですね、詠知様。」
唐突に真後ろに現れた気配に、妖怪の襲撃かと体が反応・・・する前に聞き覚えのある声であることに気付き、ゆっくりと振り返る。
「咲夜か・・・いきなり後ろに立つのはびっくりするから止めてくれ。」
「ふふ、びっくりしましたか?」
いつものメイド服に手提げカバンを持った十六夜咲夜が、微笑みながら立っていた。
「とっても。今は客人でも何でも無いから様付けも敬語もいらないぞ。」
「そうですか?なら"詠知さん"とでも呼ばせていただきますわ。敬語は年上の男性相手への常識としてなので気にしないでいただけると。」
「分かった。・・・で、咲夜はなんでここに?里で買い物か?」
咲夜は定期的に里に買い物に来ている。食糧調達の場合もあれば、レミリアの娯楽品を探すための場合もあったりする。
「いえ、お暇を頂きましたので里に来てみただけですわ。」
「・・・え?」
お暇を頂く、里では奉公先の仕事を辞めて実家に帰る際によく使われる言葉だ。ということは・・・紅魔館を辞めた?
確かに普段買い物の際に持っている手提げカバンよりも少しサイズの大きいカバンを持っている気がする。それに少し膨らみがあるのが見える、中に着替えや金品等の荷物が入っているのだろう。
何故?理由を考える。レミリアの我が儘か?美鈴の怠慢か?仕事の多さか?妖精メイドとホフゴブリンの仕事能力の低さか?
・・・結構理由があった。だが本当の理由を馬鹿正直に聞くことは、咲夜の心情を考えるとできない。
「・・・行く当てはあるのか?」
「いえ、特に行く当てはないですわ。でも詠知さんのお宅には訪れたいなとは思っていました。」
「なるほど・・・」
特に行く当てはないらしい。とりあえず里で暮らすための住処と就職先の確保が必要になるか・・・それまでは私の家にでも泊まってもらうか。部屋ならあるし。
妖精メイドを供給した身としては咲夜の負担が増えたという意味でこちらにも責任はある。*1
頭をぽんぽんと撫でる。大人びた雰囲気の咲夜だが霊夢や魔理沙とそう歳の変わらない少女なのだ、幻想郷に来る前から住んでいた場所から殆ど荷物も持たずに里まで来た。悲しみに加え不安もある、メンタルケアは必要だろう。
「・・・よく頑張ったな。居たいだけここに居てくれ。」
「えっ・・・えっ?」
「・・・あれ?」
「ただ休みをもらっただけか・・・すまない、勘違いした。」
「いえ・・・」
自分の頭を掻きながら咲夜に謝罪する。お暇には普通に休みという意味合いもあるのがすっかり抜け落ちていた、早とちりを恥じるのみだ。
「あの・・・」
「ん?」
「もし私が諸事情で詠知さんのお宅に泊まりたいとなったら、泊めていただけるんでしょうか?」
「1泊2泊程度なら急に来ても大丈夫なくらいには部屋や設備はあるからな、急な事情があって里に泊まらないといけない時は頼ってくれて構わないぞ。私が不在の時でも使ってくれて良い。」
遠方から里に来たり夜遅くまで里に滞在していた友人がここに泊まりに来ることは結構多い。加えて特に理由も無く泊まりに来る子もいるため基本的に数部屋いつでも使えるように掃除はしているのだ。
「いいんですか?不在の時でも使って良いというは不用心なような気がしますが。」
「咲夜ならいいぞ。」
手癖の悪い娘の場合ではそうはいかないが、咲夜であれば勝手に家の中の物を持ち出したり荒らしたりする真似はしないだろう。
「・・・そうですか。なら「詠知さまー、何かありましたかー?」・・・妖夢?」
妖夢がひょこっと門から顔を出しこちらに問いかける。長く戻らなかったことで心配して見に来てくれたようだ。
「妖夢。ちょうど咲夜に会って話をしてたんだ。」
「そうでしたか。咲夜さん、久しぶりですね。」
「ええ、久しぶりね妖夢。・・・ちなみに、何故詠知さんのお宅にいたのかしら?」
「それは妖夢に生垣の手入れをしてもらったからだ。この生垣を見てくれ、凄く綺麗だろう?」
「確かに・・・丁寧に整えられていて凄く見栄えが良い。」
私と咲夜が揃って妖夢が手入れした生垣を褒めると、妖夢は嬉しそうに頬を掻く。
「えへへ、嬉しいですね。・・・詠知様、いつものをしてもらっていいですか?」
「いつもの?」
「・・・流石に咲夜の前でそれはあんまり・・・」
"いつもの"と言うが大層なものではなく、ただ妖夢への礼として甘やかすだけである。だが、咲夜の目の前でそれをするのは流石に少し気が引ける。
「全然構いませんよ。」
「・・・偉いぞー」(わしゃわしゃ)
「!?」
「~~♪」
妖夢の要望に応え、右手を使って髪型が崩れるくらいの強さで頭を撫でる。・・・この前の白玉楼での宴会でどうやら随分強く頭をなで回したらしく、それが癖になったそうだ。
「・・・・・・」(ジーー)
咲夜に凄く見られている・・・まあ知り合いのこんな姿を急に見せられたらこういう反応になるのも当然ではあるが。
「・・・すごく可愛がっているのですね?」
「妖夢は色々あって娘みたいな存在だからな、何かしてもらった際のお礼代わりみたいなものだよ。」
「そうですか。ですが、人の往来のある場所では控えた方が良いとは思いますよ?」
「・・・確かにそうだな。」
里の端にある私の家だが、決して人通りの無いわけではない。警備隊も周回しているし他の住人の家からも見える位置にある。確かに咲夜の言う通りここでやりすぎるのは良くないだろう。
「とりあえず家の中に入るか。妖夢ー、続きは中でな?」
そう言って頭を撫でていた右手を離そうとすると、妖夢が両手で掴み止められる。
「嫌です・・・もっと・・・」
「・・・しょうがないな、よっと。咲夜、付いてきてくれ。」
「・・・はい、お邪魔しますわ。」
妖夢を抱き上げて連れて行く。とりあえず咲夜にも飲み物を出さないとな・・・普段緑茶とか飲むのかな?
(やっぱり保護欲を感じる方が好きなのかしら・・・)
妖夢を抱き上げて歩く詠知の後ろを私は歩きながら考える。
私はまだ幻想郷に来て日は浅いが、本当に幻想郷の住人なのかと思えるほど詠知が世話焼きな性格なことは分かっている。じゃなければお嬢様の我が儘に付き合った挙げ句、一メイドである私のお見舞いに来てくれるはずが無い。
たまに投げ込まれる天狗の新聞でも、よく寺子屋の先生をしていたり周辺の妖怪や妖精を可愛がっていることが書かれていた。
きっと恋愛感情など一切無く、娘に接するような愛情を持って甘やかしているのだろう。目の前の光景もきっとその一環に過ぎない。
(でもちょっと羨ましいわね。)
見舞いに来てもらった際は気兼ねなく甘えることができたが、私は"完全で瀟洒な従者"なのだ。こんな風に誰かがいる前で甘えることなんて・・・
「・・・」
そう思いながら抱き上げられ詠知さんの肩に顎を乗せている妖夢の顔を見ると、目が合い・・・
「・・・」(にっ)
(・・・!?)
私を見て小さく笑う妖夢に驚くと共に察する。・・・"全部分かっている"ということが。
保護欲を感じさせるように"わざと"甘えている。きっと私と詠知さんの会話を聞いていたのだろう。その上で私の会話を偶然を装うように妨げ、詠知さんの意識をこちらに向けさせるように甘えて目論見通りの結果になったわけだ。
その上で"貴方にはきっとできない"と見せ付けるように笑いかけてきている。
真面目で真っ直ぐな性格の妖夢からは想像も付かない行動に呆気に取られたが・・・それと同時に心の奥にメラメラと燃え上がるものがある。
(やってくれるじゃない・・・)
何故いきなり私を煽るような行動を取ったのかは分からないが、そんな事はどうでもいい。売られた喧嘩は買う、私は私なりの方法で勝負させてもらおう。
「「・・・・・・」」
私の視線に妖夢も意図を感じ取ったようで、お互いの視線が火花を散らす・・・
こうして詠知が咲夜に出すお茶を考えている間に、咲夜と妖夢の戦いの火蓋が切って落とされるのだった・・・
恋愛強者?な妖夢ちゃん
こいし編の続きをゆっくり書きながら、番外編とか過去編とか他小説(匿名投稿)を書いてます。結構時間かかりそう・・・無意識難しい。