「詠知様、こちら紅茶ですわ。」
「あぁ、ありがとう。・・・美味しいなこれ、お茶会の時に飲んだもののような・・・もしかして紅魔館産の紅茶か?」
「ふふ、その通りです。紅魔館の茶畑で採れた特上品の茶葉を使った紅茶ですわ。」
紅魔館にはかなり大きい庭園が存在し、その中の一角で野菜や茶葉が栽培されている家庭菜園がある。正直家庭菜園と呼ぶにはあまりにも広い畑なのだが、使用人含めた住人の多さによって殆ど紅魔館内で消費されている。
その中で、採れすぎた分やレミリアの気分でごくまれに人里に出荷されることがある。これがまたとんでもなく品質が良いのだ、野菜は店先に並べば数倍の値段でも一瞬で売り切れ、茶葉は高級料亭でしか飲むことができない。これほどの食物を普段から食べている紅魔館は相当の舌の肥えた美食家揃いと言えるのかも知れない。
「残りの茶葉はこちらの棚において置きますので、好きな時に飲んでくださいね。」
「ありがとう、何か見合う礼ができればいいんだが・・・」
「でしたら庭園での作業を手伝っていただけないでしょうか?収穫の際に美鈴が"人手が足りない"と良く言っているので。」
「分かった、そのときになったら手伝いに行くよ。」
美鈴は門番に加えて庭園の管理者の役職も持っている、普段の管理に加えて収穫作業もあるのはかなり大変な作業であろう。普段門番で寝ている姿しか見ていないが実は結構多忙なのである。
「詠知様!こちらをどうぞ、どら焼きです!」
「あ、あぁ、ありがとう。・・・うん、美味しい。」
私と咲夜の間に割り込むように来た妖夢から渡されたどら焼きを食べる。紅茶の適度な渋みに餡の甘みが良い具合に合っており非常に美味しい。和菓子と紅茶を食べ合わせることがなかったため知らなかった。
「どこの和菓子屋で買ったんだ?」
「いえ私の手作りです!幽々子様お墨付きの自信作なんです。」
「・・・凄いな。和菓子屋のものと遜色ない、いやこっちの方が好みかもしれない。」
「えへへ、ありがとうございます。」
和菓子屋のものだと間違うほどの見た目、味である。今すぐ店を開いたとしても里の菓子屋の頂点を取れるであろう。そもそも甘い物好きで胃袋無限大な幽々子の元に仕えている時点で、菓子作りの技能は相当高いものになっている。
「てっきり買い出しの際に買った物だと思ったんだが・・・わざわざ私のために作ってきてくれたのか?」
「はい!詠知様に食べて欲しくて持ってきました!」
満面の笑みでそう言う妖夢を見て泣きそうになる。妖夢を生まれた時から見ている身として今の境遇が合わさりすぐに甘やかしたくなるし感情が動かされる。今すぐ妖忌を張り倒してでも連れて帰りたくなってきた。
だからこそ一時期辻斬りと化した*1時は本気で衝撃を受けた。妖夢と、妖夢を私に託してくれた妖忌に切腹にて詫びようか本当に考えたほどである。よくよく話を聞くと「斬れば分かる」という妖忌の教えを実践したとのことだったが。分かりにくい言葉を残した妖忌が悪い、妖夢は何も悪くない。
そんなこんなで咲夜の紅茶と妖夢の菓子を頂いている私だが、時間帯は午後の3時。おやつの時間である。既に妖夢が来てから3時間、咲夜が来てから2時間近く経つ訳だが2つ不思議に思う点があるのだ。
1つ、何故私がもてなされているのか。そもそもここは私の家であり妖夢と咲夜が客人なのである。私がもてなすのが道理であろう。
実際最初は2人をもてなしていた。妖夢はいつも通り(?)甘やかし、咲夜には茶を出したり家の間取りを実際に各部屋を見ながら紹介したりしていたのだが、部屋を移動する際の扉の開け閉めに始まり居間に戻った後の座布団の用意、雑談をしながら仕事(資料の確認等)を軽くしていた際の必要な文具の差し出しにペンのインク補充・・・等細かな咲夜の気遣いに「これが完全で瀟洒なメイドか・・・」と感心していたらいつの間にか洗い物に部屋の掃除が始まっていた。私も何故こうなったのかは分からない。本当にいつの間にかもてなされていたし呼び方も様呼びに戻ってしまった。下剋上を受けた気分だ、実際には逆下剋上みたいなものだが。
加えてそれを見た妖夢も対抗心なのか庭の手入れや障子の貼り替え、服の修繕等を始めた。そしてお互い一段落が付いたらしくおやつタイムにつながった。
正直な話止めようとは思ったのだ。妖夢には生垣の手入れをしてもらったがそれ以上何かを手伝って貰うつもりもなかったし、咲夜は完全に客人である。
だが私が声を掛けられなかった理由がある、それが2つ目であり・・・
「あの世で作ったものを食べさせるなんて・・・
「いえいえ、そんなことありませんよ。咲夜さんこそ普段主に出すみたいに血を入れて飲ませているんじゃないですか?」
「「・・・」」
・・・妙に2人の会話がギスギスとしているのだ。今も私に出したものに関してお互いに嫌みを言い合っている。私に聞こえないようにか少し離れた位置で声を抑えて会話しているようだが割と聞こえる、というより1度聞こえてしまうと気になって耳がそちらに意識が向いてしまう。
別に喧嘩をしたり嫌味を言ったりすることは特別悪いとは思わない。幻想郷の住人は外の世界の人間よりもはっきりものを言う傾向にあるし、弾幕ごっこの際など初対面の相手に嫌味を言い合ったり殺人予告をしたりするくらいには言葉の治安は良くない。だが本当に殺し合いをしていた時代と比べれば可愛いものである。
そういった言動になるのは異変等の影響で自らに不利益が生じる場合、自らや仲間、主に対しての侮辱や被害があり怒りの感情がある場合、単純に虫の居所が悪い場合等負の感情が強い際に起こりがちである。普段仲の良い関係でも異変の際に共に行動する際は雰囲気が良くないということも起きる。
しかし今回は別だ。お互いに虫の居所が悪かった場合、もう少し私への対応も悪くなるはずである。
2人とも優秀な従者であるためその感情を隠している可能性もあるが、表情管理が基本完璧な咲夜はともかく妖夢に負の感情があったらすぐに分かる。
(まさか不仲・・・?この2人が?)
咲夜と妖夢は異変の際に一緒になったり宴会の際に準備を共に行なったり交流は割と多いと記憶している。レミリア・スカーレットと西行寺幽々子という幻想郷において影響力の高く割と行動力の高い主がいるという事があり2人が会う機会は結構ある。
その際には普通に談笑したり咲夜が妖夢をからかったり、霊夢や魔理沙を交えて複数人で楽しそうにしている姿を見たことがある。霊夢や妖夢が色んな人仲良さげにしているのを見て安心してちょっと泣きそうになった、完全に親馬鹿になっている気がする。
何か確執が生まれてしまったのか、聞きたくても中々聞けない状況になってしまっていた。交友関係は個人の問題でありあまり踏み込みべきではない、もう少し状況を見定めてからさりげなく個々に話を聞くのが最適であろう。
だがこのままだと夕飯まで作り出しそうな気がする、流石にそろそろ立場を入れ替えなければいけない。
「じゃあ今度は私が作る番だな、2人は何食べたい?」
「「・・・?」」
「・・・?」
揃って首を傾げる咲夜と妖夢。その姿にこっちも首を傾げてしまう、何か変なことを言っただろうか。
「ほら、2人は客人だろう?ここからは私の番だ、何でも好きな物を言ってくれ、可能な限り作ろう。」
「「・・・?」」
「お腹が空いてないなら買い物にでも行こうか?あまり高い物は厳しいが是非何か奢らせてくれ。」
「「・・・?」」
「・・・夕飯は和洋中揃ったフルコースが良いな。」
「では今から買い出しに行ってきますわ。紅魔館産の食材もふんだんに使用した料理を提供します。」
「私は料理の前準備をします!白玉楼には調理器具も沢山あるので取ってきますね!」
「待ってくれ!?じょうだん!冗談だから!」
完全に従者スイッチ(?)が入った2人を必死に引き止めながら、これからの対応に頭を悩ませる私であった。
もう1か2話続きます、ゆっくり書くのでゆっくり待っていただけると嬉しいです。