ゆゆさま。
「詠知と飲むお茶は美味しいわ~」
「そりゃまたずいぶんと嬉しいことを。」
私は今冥界にいる。なぜ生者の私が冥界にいるのかというと冥界の主西行寺幽々子からお茶をしないかと魂魄妖夢を通じて誘いが来たからだ。
紫から与えられた監査の役割を果たせるのもあって、友人である幽々子からの誘いに二つ返事で了承し、そのまま妖夢と一緒にやってきたわけだ。
妖夢は私と幽々子への菓子作りに台所で奔走している。手伝いに行きたかったが「詠知はお客様の自覚を持ちなさい。」「詠知様はおくつろぎになってください。」と幽々子と妖夢両者に拒否され、結果幽々子と茶を飲みながら雑談している。
人里での出来事、友人との関わりというような何でもないような私の話を幽々子はのほほんとしながらもしっかり反応してくれる。
幽々子はマイペースではあるが、頭は紫と同等レベルの実力を持っている。そんな彼女が聞き手側に回って面白そうな反応を返してくれる。
それだからこそ私の舌も良く回る。ただ理由はそれだけではなかった。
「ふふふ、話が途切れちゃったわよ~?もしかして抱きつかれて緊張してる~?」
・・・完全に右腕に抱きつかれている。明らかに距離が近いしほぼ右耳に囁かれている状態。いくら気の許せる友人といってもさすがに緊張してしまう。
「少し離れてくれないか?距離が近すぎる。」
「でも嫌じゃないんでしょ?ならいいじゃない、詠知成分の補充よ~♪」
「・・・そうか。」
幽々子とは紫との旅の際に出会った少女である。紫を日本文化に触れさせるべく「歌聖」と呼ばれる男性に会いに行った際に出会ったのが始まりだった。
歌聖の娘である幽々子と紫は「歌聖」そっちのけで意気投合していた。こんなはずではないのにと頭を抱えたが歌聖は娘に友人が出来て嬉しそうだったのでまぁ良いとしよう。
その後もかなり頻繁に交流を重ねていたのだが、どうしても特殊な私と妖怪の紫と、人間である歌聖と幽々子ではどうしても寿命の差が出てしまう。
歌聖は満開の桜の下で亡くなり、命を奪う桜「西行妖」が誕生してしまい、幽々子は自らの「死に誘う程度の能力」を嫌い自らの命を絶つことを決めた。
私やまだ力のついていない紫では幽々子の能力をどうにかすることはできず、また能力に苦しむ幽々子の決意を無駄には出来ないとしその自害を見送った。
その死体は西行妖の下に埋め、幽々子の持つ力によって西行妖は封印されることとなった。
多くの別れをしてきた私の中でもかなり記憶に残る内容で、幽々子のことは生涯忘れることのない・・・そう思っていた。
まさか亡霊として復活?するとは思いもよらなかった。いち早く交流を持ち友人関係を築いていた紫の友人として関わりを持ち再び友人としての関係を築いた。
そんな幽々子に今抱きつかれているわけだが、気まぐれなからかいは多く少し心臓に悪い。妖忌は非常に幽々子のからかいに対しあたふたとしていた。普段武人を極めたような男のその姿に妖夢と共に大笑いしてしまったのは懐かしい話だ。その後の剣術指南はめちゃくちゃに厳しかった。
ただ幽々子の能力「死を操る程度の能力」はあまりにも強力すぎる。しかし誰ですら殺しうるその能力は、冥界の管理者として以外にも使える道はあるように思える。
機嫌の良さそうな幽々子に対し、私はふと少し気になっている質問をしてみることにした。
「なぁ幽々子。」
「な~に~♪」
「万が一私が幻想郷の枷になるようだったら、幽々子はどうする?私を殺してくれるか?」
幽々子とはかなり付き合いの長い部類ではあるが紫ほどではない。もし何かしらの要因があって自身が幻想郷に不要な存在になったらどうするのか気になったのだ。
紫は間違いなくよほどのことがない限り幻想郷に留めてくれるか外に連れて行ってくれる。霊夢も妖怪化するまでに至らなければ、私を排除するまでの行動は取らない。
だが幽々子がもし排除しようと考えるならその能力は役に立つ。私の蓬莱人未満の能力を意にも介さず消してくれるのは最も効率的な方法となる。
「立つ鳥跡を濁さず」という言葉のようにもし役に立たなくなって死ぬのならば幻想郷に迷惑をかけずに死にたいという願望を私は持っている。だから気になったのだ。
「・・・」
だが幽々子からの返答はなかった。右腕に抱きついた状態から俯くような形となり、体格の差から顔を覗き込むことができない。
「幽々子、どうし(グイッ)たぁ!?」
普段の姿とは想像もつかないような力強さで虚をつかれ幽々子に押し倒される。こんな力を出せたのか・・・と感心しかけたが、そんなことを考える暇もなく鼻先がつくほどの距離で幽々子に顔を近付けられた。
その顔は、普段微笑みを絶やさない幽々子が見せた事のない、眉間にしわを寄せた明確な怒りの表情。
「それ・・・本気で言ってるの?」
「違う、もしの話だ。少し気になったんだ。不快にさせたならすまない、軽率だった。」
「それは良かった。でも一つ、教えるわ。私も怒ることってあるのよ?」
そう言って幽々子は元の表情に戻った。しかし覆いかぶさるような体勢からは動こうとしない。
「ねぇ、春を集めたときのことを覚えてる?」
「もちろん覚えている。」
「あの時、詠知と紫は普段にも増して私や妖夢に話しかけたり頼み事をしたり様子を見に来るようになった。詠知は特にね。藍に聞いたわよ?博麗の巫女への鍛錬すら忘れるくらいには普段の仕事もほっぽり出していたってこと。桜が満開にならないように、春を集める時間を延ばすためにね。」
「あれは決して・・・」
「それは全く怒ってないわ。・・・なんとなく察しはついていたのよ。詠知と紫がそうやった行動に移したから確信に変わったけどね。だから桜の開花を止めようとしたのはすごく嬉しかった。私に悟られないように私が気付かないように、動いてくれた友人に、感謝してもしきれないくらいの想いがあるの。」
「・・・」
「だから詠知、私に貴方を殺せるかという質問は本当に悲しかった。私の死、消滅を誰よりも望まなかった貴方が私に死を与えてもらおうとするのは、許すことはできないの。」
そういって幽々子は、そっと私の唇に口づけを落とす。ほんの一瞬であったがその唇の感触は長く残るようであった。
呆然とする私を置き、頬を赤く染め笑みを浮かべた幽々子が起き上がり、普段使いの扇子を広げゆっくりと自らを仰ぐ。
「そうね・・・それでも友人の頼み、答えてあげる。もし本当にどうしようもなくなったら私が死を与えるわ。でも死ぬのは肉体だけ。幽霊になってしまえばそれは私の管轄。私と一緒にずぅ~~と暮らしましょう♪だって貴方は"大切な人"なんだから♪」
暇になったことでナイーブになる詠知くん
無意識に曇らせスイッチ踏むシチュエーションが結構好きです。
次回は妖夢。書き上がり次第投稿します。