みょんみょん
「「・・・・・・・・・」」
場所は白玉楼の庭先。
私の5歩先ほど前に向かい合うのは西行寺幽々子の従者であり、庭師の魂魄妖夢。
お互いの手には木刀が握られ、妖夢は居合の姿勢を取る。それに対し私は右手で持った木刀を前に突き出すような姿勢で待つ。
「はぁっ!」
数十秒の沈黙の後、妖夢が動き出す。
体を低く保ちながら距離を一気に詰め、私の胴を横薙ぎにするような居合。
だがその木刀は空を切る、距離が少し不十分であり居合に合わせ一歩後退した私を捉えきることはできなかった。
「くっ!まだま・・・あぁ!?」
すぐさま木刀を持ち替え、返しの姿勢を取ろうとする妖夢の持つ木刀の根元を私はすくい上げるように打つ。
持ち替えの瞬間を狙って打った一撃は、握りきっていない木刀を弾き飛ばすには十分だった。
からんからんという音を立て、妖夢の木刀が白玉楼の石畳の上を転がっていく。
「・・・参りました。」
「お疲れ様。ずいぶん速くなったじゃないか、成長が著しいな。」
「いえ、結局一太刀も当てられなかったです・・・、未熟を実感するばかりです。」
「極めていけばすぐに私の剣術なんて超せるさ。私の剣なんてまともに鍛錬してない汚い剣術なんだから。」
「そんなことありません!剣豪犇めく戦場を生き抜いてきた詠知様の剣を汚いなんて・・・」
「はは、戦に巻き込まれたときの自衛程度しかできないさ。剣を極めた妖忌には一切勝てない程度なのは事実だ。妖忌と同じように超してくれると私も嬉しいよ。」
私の剣術は自衛のための一手段、妖夢に勝てるのも年の功と体格によるリーチの長さによるものに過ぎず将来的には軽々抜かされるだろう、祖父である妖忌のように。
私の魂魄家との関わりは幽々子の生前まで遡る。
西行家の屋敷。そこに一時的に滞在していた私は、紫と幽々子が寝静まった後夜の鍛錬を終え廊下を歩いていた。
横を見れば歌聖の死後満開に咲く西行妖が見える。西行家を狂わせた要因でありながら、我々ではどうにもならない存在。自らの無力を感じながらその桜を眺めていると一人の青年がそばに立って眺めているのに気付いた。
「・・・何をしている?敷地内だぞ。」
「すまない、季節外れの桜に驚いてしまって近くに来てしまった。ただ、これは明らかに異常な存在だ。」
「分かるのか。人間には毒・・・だがどうやら純粋な人間ではなさそうだな。」
「あぁ半分霊だ。お主もただの人間ではないようだ。」
「ふむ・・・随分と剣を極めているようだがどうだ、これを切れるか。」
「まだまだ私は未熟、この大妖を切るほどに至らん。ただ一つ目標が出来た。いずれこの妖を斬れるように剣の道を極めよう。」
「・・・そうか。いずれその日が来ることを期待しよう。名乗ってなかったな、詠知だ。」
「魂魄妖忌。また会おう、詠知。」
それだけの会話だったが、まさか幽々子が冥界の主になった後に庭師として働き始めることになるとは一切思っていなかった。
庭師として、幽々子や孫娘の妖夢への剣術指南として働く日々。向こうも私を覚えていたこともあり、一緒に剣術指南を受けたりもした。
そんな充実した毎日を送っていた妖忌だったが・・・
「本当にいいのか?もう西行妖を切る必要もなくなったんだ、これ以上剣の道を追い求める必要があるのか?」
「結局私は未熟だった。時を斬れても、本当に斬りたかった物が斬れなければ意味がない。そのためにはまだ鍛錬を積む必要がある。私の誇りが許せないのだ。」
「男として気持ちは分かるさ。だが幽々子や妖夢に何も別れの言葉も言わずに行くのは・・・」
「手紙は残した。・・・二人に直接伝えれば必ず引き留めるだろう。それで心が揺るいでしまうのが恐ろしいのだ。庭師として妖夢は十分な技量を持てるようになった。剣の腕はまだまだ未熟だが詠知、お主がいる。幽々子様の護衛としての力をつけさせてやってくれ。」
「・・・分かった。必ず帰ってきてくれよ、そしてたくさん怒られて・・・その夢を為してくれ。」
「勿論、・・・すまん、後は頼んだ。」
それから数十年の時が経ったが妖忌はまだ帰ってこない。今何をしているのか、妖忌ほどの剣豪が散るとは思いたくないがいずれ帰ってくる時を待つだけだ。
そう昔の話を思い出すと妖夢の表情が暗くなったのに気づき・・・はっとする。
「・・・いつ、帰ってくるんでしょうね。おじいちゃん。」
「すまん、辛いことを思い出させてしまったな。大丈夫、必ず帰ってくる。」
妖夢から見れば唯一の血縁者である祖父がいなくなったのだ。まだ幼かった妖夢にとってはあまりにも辛すぎる出来事だっただろう。実際に連日泣いていた。
妖忌は「厳しく育てたから妖夢は私のことを恨んでいるだろう」と言っていたが、私から見ても十分すぎるほど愛情を注いでいた。
「帰ってきた時には思いの丈をぶつければいい。それまでは辛いことがあったら私にでも話してくれれば良い。主従関係として幽々子にも言いづらいことがあるかもしれないからな。」
「・・・ありがとうございます。頭、撫でてもらっても良いですか?」
「勿論。」
幽々子には「甘やかしすぎはダメよ?」とは言われてるが、家族がいなくなるという悲しみは人間として痛いほど知っている。思い出すのも億劫になるほど昔の思い出になるが親を失った時はかなり引きずったものだ。
メンタルケアは非常に大切。幻想郷の住民が大概死の概念を超越している気もするが、外界の思想だと死は今生の別れなのだ。多少のワガママは聞き入れていいだろう。
頭を撫でるくらいはお安い御用だ。
「詠知様、膝枕してください・・・」
「勿論。」
膝枕くらいお安い御用だ。
「詠知様、おんぶしてください・・・」
「勿論。」
おんぶくらいお安い御用だ。
「詠知様、ハグしてください・・・」
「・・・勿論。」
・・・ハグくらいお安い御用だ。
「詠知様、添い寝してください・・・」
「・・・・・・勿論?」
・・・・・・添い寝くらいお安い御用・・・だ?
「詠知様、一緒にお風呂に・・・」
「いやちょっと待ってくれ。」
さすがに多少のワガママの枠を飛び越えてる。これは厳しくしないといけない。
「・・・ダメですか?」
「あぁ、さすがに年頃の子が一緒に風呂なんて「霊夢さんとは一緒に入るのに?」・・・どこでそんな情報を?」
「紫様と幽々子様の会話を聞いてました。」
「霊夢の動向はそりゃ紫は知ってるか・・・、霊夢は娘のようなも「私は違うんですか?」・・・ほら、妖夢には妖忌が「今は詠知様がおじいちゃんの代わりですよね。なら親代わりといってもいいんじゃないですか?」・・・妖夢も恥ずかしいだろ「私からお願いしてるんですからそこは全く問題ありません。」・・・ほら、幽々子がゆるさ「許可取ってきました、明日は私の番ね、だそうです。」・・・ほんとに半人前?」
「・・・ダメですか?」
「・・・ほら着替えが「そのために詠知様に合う衣服を繕ってきました。」・・・行こうか、お風呂。」
「はい♪」
この後めちゃくちゃお風呂入った。
前話がなければきっとゆゆさまがストッパーになってくれた。
不遇キャラはひたすらに甘やかしたい。
その結果デロデロに依存して欲しい。