名ウマ娘列伝『トウショウトドロキ』   作:ヒジキの木

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だからそのウマ娘は決断する裏1

我は本当は勝ちに拘る理由は無かった。他にレースを走る子達がどのような思いで勝利に向かって駆けているのか。それほどの熱意を我は持てていたのだろうか。

 元々は我の走りで誰かの走りが潰されてしまっていたから、ならば勝つしかないって思っていた。

だけれどルドルフさんは勝った先に何を見据えるのかが大事だと言った。

勝った先に何を……凡人じゃそれはわからない。だけれど勝つ事によって時代を切り開くことが出来るのなら、後ろに足跡を残せるのなら……勝った先の事は勝ってから考えよう。

だから今は……イギリスダービーを含む3冠を制する。それで私は軌跡を残す!

 

 

 

レース時程としては芝への適応性も見る兼ね合いでヨーロッパのOP戦を挟んでから2000ギニーステークスに挑戦する。そのため、年が明けた1月からはしばらくヨーロッパで過ごす事となる。

12月も暮れでもうあと数日でクリスマス。そんな時期だけれど我はトレーニングの日々だった。今までと違うのは、併走してくれるサブトレーナーが増えたと言う事だ。

 

おかげでレースでの駆け引きや並んでくる相手の見え方。捉え方、見方など今まで疎かになっていたところのトレーニングが充実してきた。

 

 

「日本だとちょっと感覚が違うが、イギリスの3冠ってのはヨーロッパ全土から見ればトップに君臨していると考えられるようなレースだ。理由はわかるか?」

休憩中にタケホープさんが徐に切り出した。さてイギリス3冠。近代レースの発祥であり日本のクラシック3冠などもイギリス3冠を模して作られた。各国き影響を与えたレースである。

「英国が近代競馬の発祥で尚且つ島国ながらヨーロッパ大陸から容易に行き来出来るから?」

日本もまた大陸との位置関係は近いものの、それでも行き来が盛んではないがゆえにレースの性質や芝などあらゆる面でガラパゴス気味である。もっとガラパゴスなアメリカなどもあるけれどあれは大陸自体が違う。

「そういうことだね。ヨーロッパ各国からしたらわざわざ自国開催しなくてもドーバー海峡を船で簡単に渡れるし大陸移動も陸路で簡単だ。だから英国ダービーに集中しやすい」

 

「でも凱旋門とか有名なレースだってあるけど」

 

「日本のようにあれを神聖視まではしてないな。田舎の規模のでかいレースって感じでしかない。ヨーロッパのレースも色々と苦労が絶えないんだなあ」

フランスが田舎か。確かにレース界隈からすればそうなるのかもしれない。

国内でクラシックレースに匹敵する盛り上がりや規模、経済効果を生むレースがそう簡単に生まれない土壌。それがヨーロッパのレースだった。

わざわざ自国で開催しなくても権威も由緒もあるレースが比較的行きやすいところにある。なるほど、また難しいものだ。

「と言うわけでトドロキが挑むイギリス3冠はヨーロッパ代表戦みたいなところあるから覚悟決めてけよ」

 

「前置きが長いが結局それが言いたいだけだろう」

黙って聞いていた契約者がようやく口を開いた。

 

「走るからには英国3冠について知っておくべき事だろう。向こうからしたら田舎モンがひょっこりやってくるなんてレベルじゃない、極東の辺境からやってくるんだからな」

 

「辺境でもそれもまた立派な領地よ。我が砦である」

 

「お前もぶれねえなあ」

我がアヴァロンで好き放題している輩なのだ。逆にやられる覚悟もあろう。それとも自らのホームを守る騎士として戦いに来るのかな。

 

「ところでクリスマスはどうするんだ?」

唐突にタケホープがクリスマスのことを切り出した。

我は今年は寮のクリスマスパーティーに参加するが……出かける予定は今のところない。

正直今まで誰かとクリスマスに出かけるなんて片手で数えるくらいしか無かったし……寮の部屋はまだ1人部屋だし。

「いやクリスマスより前に有馬記念だろう」

ああそうであったな契約者……あ゛⁈

 有マ記念忘れてた!12月25日、クリスマスの日に有マ記念が重なっていた。

誰が出るかとかある程度名前は知っているけれど学年が上だし同期は出てないしで正直有馬の印象が薄い。

「おまえなあ、来年以降は有マにも出る可能性があるんだしあそこで走ってるやつも何人かは当たるかもしれないんだから」

 

「ご、ごめんなさい」

で……でも年代的に重なるかどうかは……ほら、我はヨーロッパに行くんだし。それにクリスマスと駄々被りっていうのも……まあクリスマス予定ないんだけど。圧倒的なクリぼっち……ええい!いいもんいいもん!

「他人の走りを見るのもまたトレーニングに繋がるからね」

 

「ア、ハイ……ベンキョウシマス」

 

 

トレーニングを終えて食事とお風呂に入って部屋に戻れたのは18時を少し回ったくらいだった。華の学生ならまだまだ起きている時間。通常授業の予習復習をしつつ、今年の有マの出走者について調べてみた。

もう既に公式に誰が出走するのかは決まっていて、学園でも教室での噂はたくさん聞いていた。それでも正確に確認するにはウマホは便利な道具だ。

今年の有マ記念。

 

世間の注目はアンバーシャダイとワカテンザンにメジロティターン。我は同じトウショウを名乗るトウショウゴッドとが気になる。先輩だし面識全くないけれど、改めて見るとやはり有マはお祭り気質が強く出るレースだ。

 

 ……トウショウゴッドはトウショウ家本家の出身のようだ。今の今まで学園で話しかけてすらこないあたり向こうも我を認識していないのだろう。我も認識していないのだから……トウショウ家といえど分家の分家。端っこにいるような末端と本家大元では生きる世界が違うと言うわけだ。

 

まだ顔も見ていないトウショウの本家の人の事を考えていると、手に持っていたウマホに着信が入った。

画面表示はスズマッハさん。すぐに出ると、やや冷淡に近い抑揚の抑えられた彼女の声がした。

『急に電話してごめんねトドロキちゃん』

 

「構わぬ!我は神々の悪戯に身を挺していたところだ」

 

『そっかよかった。実はクリスマスの有マなんだけど……関係者席一席余ってるから一緒に行かない?』

それは願ってもないと言うか渡に船な提案だった。

昼頃に契約者達と有マを見に行く話にはなっていたが別に担当がレースに出るわけでもないから関係者席は使えない。一般で入ろうにも当日入場は例年ほぼ無理。入れても遠くのわけわからない席になるか入れず会場外で映像を見るだけになりそうだった。

 

『私を担当している黒沢トレーナーが担当している先輩が出るんだ。それでちょっと色々あってもう1人担当の子がいるんだけど急用で行けなくなって……』

確か黒沢さんの担当はスズマッハさんと…ダイナカール。そう言えばダイナカールさんも有マに出るんだった。もう1人は会ったことがないから我は知らない。

 

「我を誘うとは盟友よ!良き判断だ!」

 

これで有マはどうにかなった。いやあ……盟友よ。感謝するぞ!あれ?いつのまに盟友になってたんだっけ……まあ友達なんていつのまにかなっているものだからいいかな。

 

 

 

 

 

 

クリスマスイブは流石にトレーニングも休養ということで一日退屈してました。

ちょっと街に出かけたものの友人と共に歩く者が多いせいでなんかぼっちが悲しくなってきたから速攻クリスマスツリーだけ見てライトアップの夜景見て帰った。去年より悪化した気がする。

綺麗な写真は撮れたから良いけど、あれ?我の遠出と外出って殆ど写真撮って終わっている気がする……我は写真家なのか⁈

ううん……明日は有マだしクリスマスパーティーやるって言っていたし……ま、まあ良いか。皆クリスマスイブは予定があるだろうからね!我は我の道を行くのだ!

あ……でもクリスマス誰かと出掛けるのはすっごい久しぶりな気がする。気づいたらみんな予定立ててたし、そこに我から混ざるのはなんだか居心地良く無いからやめていたし。

 

あ、でも有マ人多そうだなあ。あまり人の多いところは好きじゃ無いんだよなあ……

 

 

 

 

スズマッハにとってトウショウトドロキは必ず自らの手で勝つべき存在だった。

それは結局、あの模擬レースで散々負かされたのが根底にあるのだろうが、同時に彼女自身が恐ろしいほど負けず嫌いで、それを殆ど自覚していなかった事にも起因する。

「普段の練習ちょっとだけで見学させてもらったけど……ますますわからない。なんでトドロキちゃんはG1で負けているの?まあ、もう過ぎたことは仕方がないか。ううん……」

クリスマスの有マ記念を一緒に観に行く約束を取り付けた後も彼女は悶々と悩んでいた。

彼女に黒星をつけるのは自分だと言うのを糧にトレーニングを続けていたら同じく才能のある相手にそれを掻っ攫っていかれた。

鳶に油揚げを持っていかれた気分だったが、だからと言って彼女は止まらない。

「それに可愛いしかっこいいし。だからこそ私が……」

 

活躍する姿に目を焼かれた。彼女の走る姿に理想と確かな先駆性を観た。

だからこそ魅せてくれたのなら全力でそれに応えなければならない。

だからトドロキからくる併走の誘いは断っている。自分自身に才能が無いと認識している彼女は走り方や戦略など、それが漏れる可能性のあるものは極力控える。

トレーニングですら他人に見られるのを拒む。

徹底的に爪を隠す。そしてそれを使うのは一度きり。

最も本人はトドロキと戦うのはまだ先だと思っていた。彼女がクラシック期の大半をイギリスで過ごす事になったためだ。

流石の彼女も海外にまでついていく事はしなかった。

「おっといけないいけない……今は有マ記念」

 

思考を切り替えたスズマッハは有マのレース予測、もはや秒単位で戦術と戦略を考察する余地じみた作業に戻っていった。

特段趣味でしか無かったが、同時に彼女の武器にもなるトレーニングだった。

 

 

 

「ダイナカール先輩には悪いけどやっぱりリードホーユー先輩かなあ」

同部屋の住人はクリスマスパーティーの片付けのため、まだ帰ってこない。必然的に独り言が多くなる。誰が反応するわけでも無いが、言葉にする事で考えがまとまる正確だった。

(まあ良いや、もう寝よう。結果は明日わかる)

 

 

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