名ウマ娘列伝『トウショウトドロキ』   作:ヒジキの木

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そしてそのウマ娘は英国デビューする裏2

ロンドン。

イギリスの首都でありヨーロッパ最大の都市でもある。

高層ビル群が立ち並ぶ区画と、古い街並みが残る区画が入り乱れさらに森林を有する公園、行政施設、大学などが点在する予想以上に混沌とした都市だった。

日本の都市のようにスクラップアンドビルドで形成されず古い建物と近代の建物が同区画に混在するように建設された結果だった。

 

そして同時にこの都市は世界有数の観光客がやってくる観光都市でもあった。

 

そんな大量の観光客に紛れるようにトドロキとタケホープはのんびりと観光を楽しんでいた。

流石に帽子などで顔を隠す努力はしていたが、タケホープは兎も角としてトドロキは髪色と眼帯で目立ってしまっていた。

それでもまだまだイギリスでの知名度は大きくない。精々がウマ娘に詳しいファンやマニアが気がつく程度だろう。

「世界有数の魔都の妖香は悪魔神すら惹き寄せるとは」

漂ってくる匂いに釣られてトドロキは飲食店に寄せ付けられる。そのまま気がつけば2人の手にはフィッシュアンドチップスが収まっていた。

「フィッシュアンドチップス意外と美味しいねえ」

 

「老若男女問わず魔術錬金は手順を間違えなければ成功するはずなのだ」

 

「寧ろ揚げ物で不味く作れる方が不思議だよ」

 

フィッシュアンドチップスが不味いと言うのは使い古した油で傷みかけの古い魚を揚げて油も切らず数時間放置されて提供されるからと言う中々冒涜的な事をするからであって飲食店の常識の沿って普通に作ればただの白身魚のフライトポテトの付け合わせなのだ。

ただしそんな冒涜的な事をしてしまうのもイギリスであり飯まずのイメージにつながってしまっているのだが……

「産業革命の遺産なのかもね」

食べれれば良い、味よりも速度と安さ。その超極端なエネルギー補給という点だけを重視した結果が飯まずと言うのであればそれはもう現在では存在しないものなのかもしれなかった。

 

 

そんなロンドンを満喫しようとしていたトドロキ達とすれ違ったウマ娘が振り返った。

歩き去るトドロキを見て何かに気がついたのか反転して声をかけた。

ショートで肩あたりまで短くした鹿毛に青色の瞳。やや垂れ気味になっている耳。ブランドではない量販店の服を着ながらも手堅く着こなしているその少女こそ、クラシック三冠に挑むエルグランセニョールだった。

隣にチーフシンガーがいないのはロンドンに来て早々に彼女と逸れて迷子になっていたからだった。

「やあ、イギリスロンドンへようこそ。楽しんでいるかな?」

流石に振り返って話しかけてきた相手の顔をまじまじとみれば、トドロキでもエルグランセニョールに気がついた。新手のナンパかと思っていたこともあって一瞬反応が鈍る。

「ア、ドウモ……」

 

「まさかロンドンで会うとは、これも何かの縁だ。私はエルグランセニョール。よろしく頼むよ」

トドロキとしてもクラシック三冠を争うであろう相手に遭遇したことにようやく頭が追いついてきた。

「わ、我が名はトウショウトドロキ!」

目を細めるエルグラン。素早くトドロキを観察した上で、やはり彼女は策士であるが同時に足腰の筋肉のつき方に体の面でも相当なポテンシャルがある事を見抜いた。

「名前は常々聞いているよ。でもイギリスに来たからにはそう易々と王冠を手にすることはできないから覚悟しておいてくれ」

 

「つまりは宣戦布告?目が宜しくて何より。だが我が悪魔神は宣戦布告如きでは揺らぎはしない。手段に栄光はなくただの一つの敗北もなく、ただの一つの勝利もない。それでも我が体の一部。我はとっくのとうに開戦の狼煙を挙げている。半月いうのが遅い」

トドロキにしてはよく口が回った。英語だったからというのもあるだろう。異国の地ではどことなく気が強くなる傾向があった。

不敵に笑みを見せるトドロキに対して、エルグランは面白いと笑った。当然目は笑っていない。獲物を見据える鋭い視線にトドロキの瞳も細くなる。

「ふはは!なら君もまた等しく挑戦者だ。極東からのね!楽しみにしているよ」

 

「バックダンサーを楽しみにしている」

2人の合間に飛び散る火花に巻き込まれないよう他人のふりをし続けたタケホープも、流石にあまりの火花の飛び散り方に止めようかと動こうとする。

 街中で出して良い殺気ではなかったせいか周囲の人々もウマ娘同士が一触即発な状態になっていると思ったのか遠巻きに見つめていた。

「それはこっちのセリフさ。英国淑女から台詞を奪うのは感心しないな」

だけれどそれを察したのかトドロキもエルグランもすぐに気持ちを切り替えた。

「言ったもの勝ち。ところで……ロンドン観光には詳しい?おすすめの観光スポットとかあったら教えて欲しいんだけど」

あと出来ればロンドン一緒に回りたいとトドロキはエルグランと仲良くなれるチャンスかもしれないと思い始めた。話した感じ決して悪い奴ではないと感じたからであった。

「ん?それならロンドン塔はどうかな。あそこは人によって好き嫌いがあるが私は案外気に入っている。後はセントジェームズパークの池かな。夜行くと良いよ。後私は連れを探しているから今日のところはこれで失礼するよ」

トドロキの意図に気がついたエルグランだったけれどチーフダンサーと早めに合流したかったためその場を後にする。

「感謝する賢王よ。次はターフであおう」

 

そう言って互いに道を歩き出すも、少しの合間トドロキはモヤモヤとした違和感を抱いていた。

タケホープにその事を言おうとするもどう表現したら良いかわからず、ロンドン塔まで来てしまっていた。

そこでようやく違和感の正体に気がついた。

 

「東海岸の訛りがある英国淑女というのも複雑怪奇…」

ものすごく今更なものにタケホープも面食らう。

「……少なくとも英国住みだから英国淑女でいいと思うよ」

 

「なら我も英国淑女だ!」

そうだけれどそうではない。

「大和撫子じゃなくて?」

 

「悪魔の神であるぞ!」

 

「どっちなのさ」

そしてしれっと教えられていた公園の池がただの心霊スポットだったことを知ったトドロキは激怒した。かの暴虐なエルグランを必ずレースで倒さねばならない。ついでだから心霊スポットに一夜縛りつけておこうとも考えた。

 こう見えて怖いのは完全にダメだったのだ。それは単純に怖いのが嫌だと言うのではなく実体験を幾つかした上で霊に対する本能的な恐怖が骨の髄にまで染み込んでいるからだった。元よりロンドン塔も心霊スポットとしてある程度名が知れているところなのだが、それは知らぬが仏である。

 

 

 

 

「そう言えばチーフを探さないと……」

何を隠そうエルグランセニョールは携帯電話を寮の自室に忘れていたのだった。どうにかして彼女と合流しなければと思っていると後ろから声をかけられた。

「あら、誰を探すと?」

そこには、ホットドッグを両手に持ち、買い物袋をいくつか持ったチーフシンガーの姿があった。

「ちょうど良いところに来てくれたね」

 

「あれだけ殺気をばら撒いていたら流石にわかりますわよ」

それもそうかと思ったが、そこまで意識して殺気を出していたわけではないと彼女も反論するが他人からすれば痴話喧嘩にしか見えなかった。

なお人参ハンバーグ(世界共通)で手を打ったがエルグランが案内したお店の人参ハンバーグが人参を刺すのではなく横に置くタイプだったため2人揃って大激怒だったのは永遠の秘密である。

 

 

 

 

2000ギニーステークス。

天候は晴れてはいないものの、事前に沖野がコースを確認した次第では良場であった。

レースが近づくにつれて流石の沖野も緊張が体を支配するようになる。

クラシック三冠の一冠目にしてニューマーケットレース場で行われる歴史あるレース。それだけに規模は桁違いだった。

 

出走するウマ娘達の勝負服も日本と違いイギリスの民族衣装のデザインや感性が出ている。

パドックで衣装のお披露目を行うウマ娘達の中でトドロキの勝負服は一際目立っていた。

「ふふふ、我が使命は悪魔神に逆らうもの達を改心させること」

わざわざ朝日杯で来ていた勝負服から新しく海外レース用に仕立て直したのだ。

理由はかっこいいからイメチェンしたかった。ただそれだけ。そんなトドロキの勝負服は、黒いシャツと黄色いラインの入った黒いスカート。それらを包み込むような太ももまで長さのある赤色のロングコートに眼帯を避けるようにして片眼鏡をレンズをサングラスにしたものを装備していた。

 

すっきりとしつつも、赤と黒で今までの勝負服からはイメージを一新させた。開拓者としての勝負服だった。本人の希望ではもう少しデザインを凝ったものにしたかったが、わざわざロンドンで仕立ててもらったものであり費用を抑えたいがゆえに色の追加は最小限になっている。その分だけ実用性を突き詰めたようなシンプルさと飾りボタンとポケットによる機能美に振っていた。

なお機能美ではあるがレースに必要かと言われると必ずしも必要はない。

そして奇抜な見た目も相まってやはり周りからは浮いていた上にイギリスウマ娘に混ざっている唯一の日本ウマ娘であるからか観客の視線は自然とトドロキに向いていた。

レースに詳しくない人であってもレース前に戦績などを見ることができる。しっかりとイギリスOP戦で勝っているトドロキは、それでも勝ちが軒並みOP戦なせいもあって、最低の14番人気だった。G2の実績でも一つあれば変わっていたかもしれないが、結果は結果である。

 

そして案の定トドロキは絡まれた。盛大に目をつけられていたのだからレース前に挑発を受けるのもまた仕方がない事だった。

スタンドの最前列にいてもゲートの近くにいるトドロキ達の声は聞こえてこない。

それでもあまり良い事を言われなかったのかトドロキの表情が曇っていた。

「あれ大丈夫か?前みたいに落ち込まなきゃ良いんだが……」

 

「そうだね……彼女の場合はそれが1番の懸念だからね」

落ち込みやすい。傷つきやすい。そして必要以上に相手を心配してしまう優しさがある。

だけれどこの時トドロキは本気でキレていた。

「わからないなぁ。何を言っているのかさっぱりわがらぬ。日本語喋れ。喋れないなら大人しく後ろ走ってろ」

 

レース前に顕にする感情としては初めての怒りの感情だった。

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