名ウマ娘列伝『トウショウトドロキ』   作:ヒジキの木

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そのウマ娘とジャパンカップ

菊花賞はルドルフが支配する圧倒的なレースだった。

 

夏に肩を脱臼していた彼女だったが、そんな怪我明けのG1とは思えないほどの好調だった。

 

出走したウマ娘の悉くを引き離す逃げ。今まで刺しか追い込みをメインに走っていたルドルフが初めて見せた走りだった。

最初こそあの後方待機のルドルフが前に出たという事で走者全員が動揺を起こす。逃げを狙っていたウマ娘すら追い越した長距離での逃げ。

だが同時にそれは後半で絶対に息が上がる。スタミナがもたなくて垂れてくる。そう思わせた。

(だが本当にそうなのか?)

大半のウマ娘は垂れると読んで上がりかけていたペースを落とし直ぐにいつもの調子に戻ろうとしていた。

 

だがそうではない……ルドルフとやり合ってきたウマ娘や戦略を読むタイプのウマ娘はルドルフのその動きに不信感を覚える。

あの無敗の、それもシンボリ家の傑作が後半で速度を落とすだろうか?

ましてや戦略、戦術においても恐ろしく強い相手だ。

 

 

あるウマ娘の脳裏に思い起こされるのは似たような事をしていたトウショウトドロキのレース。

あれもまた長距離で大逃げをかました挙句途中で息を入れて最後に加速していた。長距離レースだからできた事だと本人は言っていたが、だとすれば菊花賞もまたそれが可能であると言わざるおえない。

幸か不幸かトドロキのレースを見ていたのは走者の中では2人だけだった。

 

ルドルフ本人はむしろここで掛からず冷静にペースを落としてくれていた方が良かった。

そして同時に巧みな速度コントロールで少しづつ全体をスローペースに持ち込んでいた。

追いかける側は先頭との距離を目視で確認し、速度と距離を制御するぐらいそれを利用したのだ。

全体がスローペースになる事でルドルフはスタミナを温存できる。

そのままレース後半にもつれ込む。

ここでルドルフは速度を上げた。少しづつ、そしてバレないように。

スローペースだった全体が今度は加速し始める。ここまでくると後方でもスパートをかけるウマ娘が出てくる。

一瞬だけ後ろを振り返ったルドルフがそれを確認すると、同時にスパートをかけた。

距離と速度から言えばロングスパート。だがそのスパートの掛け方はむしろ後方にいるウマ娘がするようなものだった。

それを先頭で今まで逃げていたルドルフがやったのだから堪らない。

後ろが追い上げを図るが元から許していたリードを埋める頃ができない。

終始先頭を譲らないレースでルドルフは勝利を刻んだ。

 

「これで3勝、ようやく彼女と胸を張って戦えるな」

三冠を達成した喜びと共に、未だ獅子王はその闘志をむき出しにしたままだった。

当然だ。彼女が真に強者と認め、そして全力を持ってして戦いたいと思えたのはたった1人。そして彼女はジャパンカップに出る。彼女と並ぶ強豪たちが出て来るのだ。今からでも胸が躍らないわけがない。

皇帝の名を持つ少女は、やはりシンボリ家のアイデンティティである戦闘狂の一面をしっかりとその身に宿していた。

 

 

圧倒的な走りで無敗三冠を達成したシンボリルドルフ。しかし喜んでいられるのは彼女の周りと何も知らない世間の人々だけであって、彼女の偉業によって別の感情も生まれていた。

 

「シンボリルドルフ……トウショウトドロキ……なんでこんなのが同時に出てくるんだ」

 

URAの中でも最も煽りを喰らっていたのが、広報担当部署だった。

この部署はURAが関わるあらゆることに対しての広報活動並びに年度代表選定、スポンサー交渉、各ウマ娘のプロデュースなどを一手に引き受ける総合広報部門と呼べる一大勢力だ。最もメディア露出が大きく、同時にその特性から法務部と密接に連携しているURAの中でも指折りの実力派部隊だ。

その部隊が根を上げているのにはやはりシンボリルドルフとトウショウトドロキの2人が起因していた。

 

誰もなし得なかった偉業が立て続けに二つも来ればそれは厄災なのだ。

特に広報ではそのほとんどの業務に彼女達2人が影響を与えた。通常業務に加えてこの2人の広告起用を狙うスポンサー軍団に取材申し込みの台風、年度代表委員会の大乱闘と仕事は二倍以上だった。

 

特に年度代表をどうするかは恐ろしく面倒な上にどちらを取っても世間の批判が回避できないトラップものだった。

 

 

順当に考えれば国内レースで史上初無敗三冠を取ったルドルフに軍牌が上がる。

しかし日本ウマ娘としてこちらも史上初、そして近代レースの始まりのレース。それも10年以上も前から成し遂げられていない三冠を取ったトドロキも十分すぎる功績だ。

日本国内の年度代表であって国内レースで決めるべきというのは合理的ではあったが人間はそこまで合理的な思考はできない。

どちらかを取れば必ずどちらかのファンの反発が予想される。

難しいものだった。

 

 

 

URAが大きく揉めている中で、その本人達は普段通りの学園生活を送っていた。

ルドルフは菊花賞を勝ったもののそのまま強行でジャパンカップに出場を決めていた。

その情報を発表前に得てしまったタケホープは、トドロキとトレーナーがいるチームの部屋に向かっていた。

中で2人が話し合っている声が聞こえていた。

「ぬあ‼︎なぜだ!なぜ勝てぬ!」

 

「なんだ、チェスは随分と弱いんだな。普段あれだけ周りを翻弄しているのになあ」

 

「ぬぐぐ……」

 

なぜか沖野とチェスに勤しむトドロキの姿があった。

何をしているのか一瞬理解に苦しんだタケホープだけれど、すぐに気を取りなおす。

 

「何しているのさ」

 

「頭のトレーニング。柔軟性を上げるのに必要だと思ってな。後たまには脚を休めさせないといけないし」

なおトドロキはチェスや将棋が苦手なタイプだった。逆に囲碁、麻雀はなぜか得意という変わった性格だった。

「まあいいんだけど……そう言えばトドロキは中間テストとか大丈夫なの?」

もうすぐテストの時期になっていたがこんなところでチェスに勤しむ余裕はあるのかという事だった。

トドロキがイギリスにいる合間は、学園から出された課題とオンラインを使用した補備授業を受けていた。またテストに至っても国際郵便で送られたテスト用紙に回答をして送り返すという手間な作業を行なっていたのだ。

それでも慣れない環境でしっかりと学年上位を維持しているあたり学力はある。

「こいつはまあ勉強面では大丈夫だぞ」

 

トウショウトドロキは勉強に関しては特段問題がなかった。

それは勉強が得意とかそういうわけではなく、毎日必ず机に向かう癖が出来上がっていたからだった。

 

元はと言えば友達を作りたかったトドロキが学校で誰かに勉強を教えるというのを密かに望んでいたからそれに備えて勉強していたなどという邪な想いが理由だった。

その為特に語学系は強かった。

勿論そのおかげか学業では常に上位枠に収まっていた。だがいまの今までつい勉強を共にするという事は無かった。

それでもついてしまった癖は治らず、結果としてトドロキはトレセン学園でもやはり上位15位以内に位置していた。

 流石にシンボリルドルフのような文武両道とまではいかないが、別に学業はそこそこ取れていれば良いというスタンスな家庭と本人の性格が一致している為か今まで話題に上がることすらなかった。

最も沖野は学業で問題があるようなら容赦無く出走取りやめにするタイプのためその彼がこうして放置しているのを見れば自ずと答えはわかっているのだが。

「まあそれなら良いんだけど……ああ、それとジャパンカップの事なんだけど」

 

「お?出走確定は明日だっただろう?まあ予想は大きく変わらないと思うが」

 

「それがねえ、シンボリルドルフも参戦してきたよ」

流石にシンボリルドルフまで出走を表明するなんてのは予想外だったのか沖野は驚いた。

「ルドルフが?菊花賞からの強行スケジュールだな……」

 

現在ジャパンカップに参加を表明している有力ウマ娘はカツラギエース、ミスターシービー、トウショウトドロキ。そこにシンボリルドルフが加わることになる。

そして海外からはカナダから年度代表ウマ娘のトラベリングビクター。フランスから凱旋門賞ウマ娘のサガス、イギリスからチーフシンガーまでもが参戦する予定だった。

三冠ウマ娘が3人も集う戦いだ。G1なんて一勝とれたら末代まで誇って良いはずなのだがこの3人にとってはG1などただのトロフィーに過ぎないのかも知れない。

 

「まあ俺がいうのもなんだけど……これ夢の11レースの間違いじゃねえか?」

 

「残念だけどドリームリーグじゃないんだよ」

 

「盟友と一戦交えるのが早くなった……風が騒めく」

 

「いや、ここ室内」

 

「しかしルドルフか……言っちゃ悪いがあいつとお前さんは相性最悪だ。それは向こうも同じだがな」

沖野の心配はルドルフに対してだった。

正直国内のウマ娘とは対戦歴が少ない為沖野と言えど正確に分析することは難しい。だがそんな中でもミスターシービーは兎も角シンボリルドルフとはやり合えばどちらが勝つかわからない。

それほどまでに相性が悪い相手だった。唯一救いなのはルドルフが中1週間でジャパンカップに連投している事だろう。強行する分体調管理は難しくなる。疲労だって抜け切るかわからない。

「私は凱旋門賞のサガスとかの方が相性悪そうに見えるけど?」

凱旋門賞をしれっと生で見てきたタケホープが反論するが、沖野はそれを一蹴した。

 

「サガスは正直東京のレース場に脚を合わせている暇がないだろう」

トウショウトドロキと戦いたいと本人はテレビで表明していたが、沖野は彼女の走りと脚を見て早々に東京レース場との相性が良くないと考えていた。

こういう時の沖野の考えはよく当たる。だからタケホープもすぐに引っ込んだ。

「力で突き破れるほどターフは甘くないし簡単じゃない。難しいところだよなあ」

 

「我は……」

憧れで、励ましてくれた人と本気で戦える!

 

トドロキにとっては何より共に本気で競い合って走ることが出来る。その喜びの方が大きかった。

テンションが1人上がるトドロキに対してなるべく情報収集をしてトドロキが戦略を立てやすくする為に、タケホープと沖野は動き出す準備を始めようとしていた。

 

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