名ウマ娘列伝『トウショウトドロキ』   作:ヒジキの木

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そのウマ娘と勝利の後

「あはは‼︎‼︎悪魔神の勝利である!」

歩ける程度にまで体力が回復してきたところで、ようやく気分も上がってきた。

なんだかんだと言ってもやはりG1で勝利するのは純粋に嬉しいのだ。

 

歓声が響く中、ライバルとして互いに意識しあっていたルドルフの姿を探す。掲示板に表示されている番号を見れば彼女は3着に入っていた。

ならば近くにいるはず。レース前に彼女と話した感じだとなんだかそさくさと離れていく感じだった。会話を早く切り上げていたし……もしかして嫌われたのかな……

だけど探したら意外と近くに彼女はいた。顔を伏せたままだった。

ミスターシービーも私の後を追ってルドルフのところに来た。そういえば我らは今回のレースの最有力だったな。全員三冠ウマ娘だし。

 

「我が友ルドルフ! 今回は我の……」

そこまで口から言葉がでたところで、言葉が止まった。

「……?どうしたの」

 

「……戻りましょう、シービーさん」

いつもの口調を忘れて、素に戻っていた。

 

「ああ……」

どこを向いているのか分からないルドルフの瞳から涙が溢れていた。頬には涙の跡がいくつもあって、まだ新しいのが作られていた。

迂闊に話しかけることはできなかった。

だって、励ませるほど口が回るわけじゃないし、なんて声かけて良いかわからなかった。

「……エットォ……あの場合どうしたら……」

結局どうすることもできず、思い浮かんだ提案は勇気が出なくて散っていった。

少し足早にターフを降りる。あの場所にいつまでもいたら気が狂いそうだった。

今だにルドルフの涙で気分がぐちゃぐちゃになる。……私は純粋に勝てて嬉しかった。だけど泣かせたくなかった。祝福してくれたら……いや、勝者は祝福を望んではならない。

祝福はそんなものじゃないから……

 

 

ライブの時には流石に涙の跡は綺麗さっぱり消えていた。

だけれど相変わらず私に対する態度はどこかぎこちなかった。今までにないことだ。それがなんだか拒絶されたように感じて、そんなことあるはずがないとネガティブな思考を追い払おうとして心の中は堂々巡りになってしまっていた。

 

ライブが終わった後に学園に戻ってきたのは日も暮れた18時過ぎだった。

メジロラモーヌさんは今日はメジロ家の方に用事がありチームの部屋は電気が付いていなかった。

ライブ中どんな顔でファンのみんなと対面していたのかが思い出せない。

察していたのか契約者がチームの部屋に連れて行ってくれてささやかながらシュークリームとコーヒーを用意し始めた。

「おめでとう。まあルドルフと何があったのかは詳しくは聞かないでおくからこれ食べて元気出せ」

 

「別に喧嘩したとかじゃなくて泣いていたから……」

本当に喧嘩したわけじゃない。ただ、なんとなく壁が出来ちゃっていたことに勝手にショックを受けて凹んでいるだけだ。

盟友だと思っていたのは一方的に私だけだったのかな?

「まあルドルフだって負けたら悔しくて泣く事もあるだろう。ましてや今まで不敗だったんだからな」

 

「多分あれは調子良く無かったからってのもあると思うけど……」

パドックで各ウマ娘の観察をしていたタケホープさんの見立てでは強行的な出場で体調が崩れていたのではないかとの事だった。

それを事前に伝えたら盟友に対して余計な心配をしてしまうと思って我には伝えなかったらしい。

確かに思い返せばあのそさくさとした態度はどこか隠しているような感じもしたけど……

「そういう感じの涙じゃ無かった気がするけど……」

悔しいと言うよりどこか憎しみのような感情もあった。

「まあまあ、トドロキが考えることじゃないよ。気持ち切り替えていこう!次は有馬だからさ!」

 

 

ジャパンカップから有馬も強行の部類に入る気がする。あ……いや気のせいだね。だってアイリッシュダービーからのパリ大賞典の時の強行に比べたら……あれ?盟友のこととやかく言えないじゃん。

 

ん……やっぱり甘いもの食べる時はコーヒーが合う。

「ちなみに有馬のファン投票だと現在8位だな」

ウマホを弄って何かを確認した契約者がそう言った。

「あれ?結構下じゃない?」

 

「まあ日本国内のレースに殆ど出てないし成績はイギリスとアイルランドだからなあ……」

どこか納得した様子の契約者と全然納得していないタケホープさんの会話を聞きながら、別に人気投票というかファン投票というか……あまり意識していなかったなあ。中央に来るまでファン投票で出走できるかどうかが決まるレースなんかあるなんて知らなかったし。

「で、でも英愛ダブルダービーとクラシック三冠とジャパンカップだよ?」

 

 

「海外の場に強いウマ娘って認識があるんだろうな」

う……まあ確かに一年くらい欧州のレース出てたけど……で、でもそれは開拓だから。

「後CMとか広告媒体に出るのを控えさせていたからってのもあるかもな。ちょっと生々しい話かもしれないが広告塔としての知名度がファン投票には直結しやすいからな」

 

「そもそもイギリスに長期滞在しているんだから国内の広告塔は出来ないだろうってのに。その度にイギリスと日本を往復させてたんじゃ疲れてダウンするに決まってる」

なんだかお酒が入った時のような愚痴の仕方をしている。多分それだけ広告の件で色々言われたんだろうなあ……うう、ごめんなさい。

 

「トドロキも済まないな。多分これからはちょくちょくレース以外の事もこなさないといけなくなるかもしれない」

 

「ふ、ふふ……我は悪魔神を宿す地上代行者‼︎それくらい朝飯前よ!」

 

 

 

 

だからと言ってジャパンカップの2日後に写真撮影を入れ込むのは酷い。

ルドルフとちゃんと話し合い……したかったんだけどなあ。

「いやそもそも話し合う前に長話は目線逸らすし声が小さくなるからまだ無理だろう」

図星だった。

「そんな事悪魔神に誓って無い!」

 

そう言えばスズマッハさん、初G1勝利していた。マイルCSというレースだったらしい。何はともあれおめでとうと言いたかった。けれどジャパンカップに向けて色々忙しくてそれが今まで出来ていなかった。

 

 有馬にも行くって言っていたし初めて公式レースで一緒に走れる。なんだか嬉しくなってきた。

……大丈夫だよね?

 

 

 

 

寮の娯楽室に置かれたテレビは夕方のニュースを淡々と放映していた。

破壊されたベイブリッジの修理がどうとか、少し前にあった同時多発テロとかの話題だった。

それを聞き流しながらノートパソコンで、とあるサイトを開く。そこには今日の昼頃に締め切られたファン投票の結果が映し出された。

 

有馬記念。

 

そのファン投票に私の名前は載っていた。ファン投票は11位。

ギリギリだった。

今回は上位11人による出走と枠が予め決まっていた。

11位はギリギリの滑り込みだった。まあ実際には上位陣でも都合で出走するかしないかは決めることができる。だから12位であっても実はチャンスはある。実際毎年二、三人は繰り上げが行われている。

逆に1番に押されているのはミスターシービー先輩。トウショウトドロキが1位では無かったのは意外だった。けれどなんにせよ有馬にも出られるのなら良い。

 

確定では無いけれど有馬のファン投票を見るとそこに並ぶ人達の凄さに圧倒される。この中でトドロキに勝つのがなんだか果てない坂の上の雲を掴むような事に感じられた。

だけれど怖気付いては始まらない。今更変更もできない。

G1レース。夢の舞台だけれど、私にとっては全てを投げ打って挑戦する一世一代の戦場。だからそこにい続けてねトドロキ。

 

テレビは前に行われたジャパンカップの映像が繰り返し流されていた。テレビキャスターが何やら興奮気味にアレがどうとかこれがどうとか言っていた。

「……対策練らないといけないわね」

 

ジャパンカップの時でさえ彼女は進化していた。有馬記念まで一ヶ月。どのような進化をしているのだろうか……

 

あまりワクワクするわけじゃない。そもそも、倒したいのだからそんな一ヶ月後のレースですら予測不可能な状態にされたらたまらないのだ。

全くもってG1で当たり前のように勝つのだから化け物なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

結局答えを見つけることはできませんでしたわ。

ジャパンカップ。いいようにトドロキにやられた。流石モンスター、領域外の存在……

ああ、結局私はあれには勝てなかった。悔しさばかりが残っていたけれど、それでもなんだかスッキリした気分でもあります。

あらゆる手段を尽くして彼女のその戦略から逃れたと思ったけれど最後の最後にそれに捕まった。

逆にそこまでしたから受け入れてしまったのかもしれない。

きっと彼女に勝つにはもっと、いろんなものを捨てないといけない。

だけれどそこまでしてしまったら私は、彼女と同じモンスターになってしまう。

そこまでする勇気は私には無かった。だからきっと彼女と走るのもこれでおしまいなのでしょう!

いつまでも彼女に執着しているとあちら側から戻って来れなくなりそうですわ。いや……トドロキだけじゃない。G1を容易く何勝も上げる人たちは大体揃ってあっち側だ。

私も半分あっち側だしエルグランセニョールもあっち側に近い。

だけれどいつまでもあちら側にいたら私は何か大事なものを無くしてしまいそうだった。

うん、凡人だし普通の人があそこにたどり着くにはそれだけの代価が要る。それが要らない彼女達はきっと女神に愛されているのかもしれませんわ。

 

「日本を観光したら帰ってまたお金稼ぎですわ」

ともかく私の目標を見失うわけにはいかない。

エルグランセニョールはまだ彼女に執着するのだろうか。それともまた私とレースをするのだろうか……中継で見ていたであろう彼女の顔を見に行くのはもうちょっと楽しみとしてとっておこう。

「……まずは京都観光に行きましょうか」

 

ああ……後有馬記念もしっかりと見ておこう。せっかく日本に来たんだから日本のG1を観る側で行くというのも良いもですし。

隣の部屋にいるトレーナーさんに相談ですわ!有馬まで一ヶ月くらいありますけれどそれだけあれば日本のいろんなところも回れそうですし。

トドロキからもらった旅行本も役に立ちそうですわ。

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