有マ記念が終わった。もう我はトゥインクルを走ることはない。
でもいまだに実感は沸かない。でもそれは今後少しづつ心に落とし込めればいい。
三月になって我は学園ではなく羽田空港にいた。
見送りはシンボリルドルフさんと沖野トレーナーの2人だけ。
大々的に告知したわけでもない。現役を引退しても我はちょっとした有名人だ。人に集まられても困るから。
でも誰にも見送られないと言うのは流石に嫌だったから沖野トレーナーに送りを頼んだ。なぜかルドルフさんまでやってきた。
どうやら情報網に引っかかったらしい。既にとんでもない情報網を持っているルドルフさんにちょっと戦慄しながらも、それでもなんだか嬉しかった。
「本当に行くのだな」
「無論、これは我が前から決めていたこと」
行き先はフランス。フランス中央トレセン学園への短期留学の許可が降りたのは年明けすぐの1月だった。
フランスのトレセン学園はレース以外のスポーツへのプロ進出も行なっている世界で唯一のトレセン学園だ。その学園でレース以外の事も学べるしそれに、国際トレーナー免許を取るには海外のトレセン学園に留学ないしはトレセン学園での実務経験が必要となる。ならトゥインクルがひと段落して少し期間が開く合間に留学してはどうかと沖野トレーナーに勧められたのだ。
「ルドルフさんも生徒会長への立候補、したんですよね」
もうすぐ新入生が入ってきて新しく生徒会の立候補選挙が行われる。同じくトゥインクルがひと段落したタイミングで立候補したのだ。
「ああ、まずは生徒会になって実現できることから実現していくことにするよ」
「少し寂しくなるな……本来なら君に副会長をしてもらおうかと思っていたのだが」
冗談じゃなかったんだねそれって言葉が出かけて止まる。ルドルフさんと一緒に生徒会として夢の共有者として歩んでいくと言うのもあったけど、私は私なりの方法で夢を応援するつもりだ。でもそれは胸に秘めておく。きっとルドルフさんもわかっているはずだ。フランストレセン学園を留学先に選んだんだから。
「我は身の丈に合わない肩書きはつけない主義でね」
微笑んだルドルフさんを見るのも一年ほどお預けって考えるとちょっと寂しいけれど、道はどこかで繋がっている。それに向こうに行けばイギリスまで結構簡単にいける。エルグランセニョールさん達にも会いに行こう。
「確かに違いないね。それじゃあ一年後、また会おう、いってらっしゃい」
「行ってくる。向こうのドリームリーグもしっかり出るから応援よろしくね。私も応援するから」
忘れられないものを思い出と呼ぶのならそれは美しかったり、悲しかったりする。でのそれらが積み上がって人生と呼ぶのなら、思い出はすべてどこか愛おしい。
この寂しさも、新天地への不安と期待も、全て忘れない。
「臨時のドリームリーグ、かあ……」
夢の続き、そう言ってルドルフさんが提案してきたのはドリームリーグのレースの誘いだった。
本来ドリームリーグは夏と冬に一回づつだったが、ルドルフさんの尽力で今回春に一回を臨時で行う事にしたらしい。そこにどんな意図があるのか、我には分からないけれどルドルフさんなりのわがままだろうって予測は立てられる。我とまた走りたいってこの前電話で言っていたし。
しかしこのドリームリーグが普通と違うのは国際リーグになっていると言うことだった。レースにはあのイギリスの2人やフランスで共に走った子も来るらしい。そのことを帰国した時に生徒会室で聞かされた私は、その場で二つ返事のOKを出してしまった。その後になって沖野トレーナーにそのことを報告したら急すぎると小言を言われた。けれど我の勝負服はいつでも使えるように保管してあったし蹄鉄も向こうで使っていたものを取り付ければ問題ない。直ぐにターフを軽く走って感覚は取り戻した。呆れたように笑っていた沖野トレーナーだったけれど、頑張ってこいと結局は背中を推してくれた。
そんな沖野トレーナーが率いるチームスピカには新しく3人のウマ娘が入籍していた。
全員個性豊かで一名かなりぶっ飛んでたけれど、ドリームリーグは見にいくと言っていたからみんな素直でいい子なんだろう。
今年も新しくチームに入ってくる人をどうにかして見つけ出すつもりらしい。
うわあ…我がいた頃より賑やかになってる。我の頃から賑やかになっていて欲しかったよ。
ちなみにラモーヌさんは我と同じでドリームリーグ出走らしい。
そんな感じで1週間はあっという間に過ぎていて我はまた生徒会室にいた。今日はレースの日だけれど、レース自体は最後の第11レースだから、ルドルフさんはひとり生徒会室で仕事をしていた。既に学園から出走するウマ娘は用意されたバスに乗っていた。そんなわけで呼んでくる事にしたのだった。
「ルドルフさん、そろそろ出発だよ」
ペンが走る音だけがしていた部屋が途端に賑やかになった。
「ああ、トドロキか。いや普通の口調だと一瞬誰だか分からなくなるな」
あえて普通の言葉で話してみたら、鳩が豆鉄砲くらったような顔をしていた。ルドルフさんもそんな顔するんだなって新しい発見だ。ちょっと可愛いと言うか、シリウスさんには見せられないかな。
「それは我の擬態が完璧だからか!」
「そっちのインパクトが強いからね」
まあインパクトってのもあったけどやっぱりこの言葉の方が私にはあっているから。
「準備はできているよ。さて行こうか」
あらかじめ準備はすませていたらしい。書類を片付けて素早く机のそばに置いてあったバッグを片手に歩き出した。
その後を追いかけようとして机の上で視線が止まった。机は綺麗に片付いているけれど一つだけ出されたままになっているものがあった。
「ん……?」
生徒会長の席に写真立てが置いてあった。伏せられた状態のそれに興味が湧いてきてちょっと何の写真が飾られているのか覗いてみた。
「なんだ……」
有マ記念の写真だった。しかもゴールの瞬間を切り取ったものだ。なんだかすごい形相でもしているんじゃないかなって思ったけど、結構私もルドルフさんも笑っている。
そっか、きっとルドルフさんはあの夢の続きを見たかったんだ。
だから今日、臨時でドリームリーグの国際レースをやることにしたんだ。
「トドロキ?」
追いかけてこない我を心配したルドルフさんが戻ってきた。
「あ、すまない。今行く!」
「あの写真か?」
イタズラがバレた子供のような顔をしながらルドルフさんが弁解をしようとしていた。だけど照れ隠しなのか彼女にしては珍しく口篭っていた。
「なんでもないよルドルフさん。それよりさ、早く夢の続きを走りに行こう」
それと新しい夢を見にいこうよ。これからもずっと……
開けられた窓から冷たいながらも春の息吹を感じられる風が吹き込んでカーテンを揺らしていた。そのカーテンに当たった写真立てが小さな音を立てて机の上に倒れた。静まり返った生徒会室から夢の続きは始まった。
東京第11レース芝2400m
ドリームリーグ(春)
1番スズマッハ
2番シンボリルドルフ
3番エルグランセニョール
4番トウショウトドロキ
5番チーフシンガー
6番メジロラモーヌ
7番ミスターシービー
8番ナリタブライアン
9番ミホシンザン
10番シリウスシンボリ
11番アトタラク
12番サトノユニヴァース
14番ダイナカール
15番サンデーサイレンス
トウショウトドロキ最終戦績
G1 11勝
英2000ギニー
英ダービー
愛ダービー
セントレジャーS
ジャパンC
有馬記念
ガネー賞
天皇賞(春)
宝塚記念
天皇賞(秋)
ジャパンC
シンボリルドルフ最終戦績
G1 8勝
皐月賞
日本ダービー
菊花賞
サンクルー大賞典
KG6&QES
凱旋門賞
有馬記念
有馬記念