トレセン学園で有名なチームと言えば真っ先に名前が上がるのはリギルとスピカだ。
それぞれのチームに数々の偉業や伝説を打ち立てたウマ娘が在籍、あるいは在籍していたという事。そして何より毎年G1で活躍するウマ娘を送り出すチームであるからだ。
そしてそう言った有名どころはやはり多くのウマ娘からの憧れと嫉妬が向けられる。
入学したばかりの俺やあいつはもちろん前者の感情を持っていた。だけれどどうしても入りたいと言うわけじゃない。やっぱりチームの雰囲気とか自分自身の身体的な特徴に合っているかという方が重要だ。
だから他のチームの情報も集めて、それから考えるべきだ。少なくとも俺はそう考えていた。多分小学校からずっとライバルのあいつも同じ考えのはずだ。
実際最初にあいつが向かって行ったのはカノープスだったし。
俺はと言えば、どのチームに行こうか悩んでいた。考えなきゃいけないことが多すぎてどうしようもできないんだ。
距離とか路線とか、目標や夢が明確になっているならある程度わかるかもしれないが、少なくとも距離適性はイマイチわからない。それに、俺はあいつと競い合いたいってのが大きい。
そう言うわけで俺は各チームが主催する模擬レースを見学しにきていた。リギルのような複数人を同時に見るチームや、ほとんど1人のウマ娘つきっきりの個人チームと呼ばれるチームまで色々と集まっていた。
スタンドからチームに所属している先輩達が準備をしているのを見ていると隣に芦毛のウマ娘がやってきた。どういうわけかサングラスをかけて赤色のノースリーブのジャケットを着た生徒らしきウマ娘は焼きそばの入ったパックを二、三個持っていた。見学か観戦にきた先輩かな?なんて思っているとそのウマ娘は俺の方に視線を合わせてきた。
「しけた顔してるなあ、面白いものをお探しならゴルシちゃんとドライブにでも行かねえか?」
「ナンパ?」
ナンパには注意するようにと親にも、学園の教師からも言われていたけれどまさか学園内で実際に発生するなんて思ってもいなかった。だけどそのウマ娘は首を横に振りながら否定していた。
「いや、チーム勧誘。ちなみにトレーナーはあそこにいるよん」
そう言って目線を振った先にいたのはチームスピカと書かれた看板が立っている場所だった。よく見れば先輩の赤い服にも赤文字で書かれた所属チームの名札がついていた。
見づらい。すごく見辛い
「スピカの先輩だったんですか」
「おうよ、チームスピカ代表取締役兼時期デビュー予定のゴールドシップだぜ」
長い、肩書きがやたらと長い。
「俺はウォッカです。よろしくお願いします先輩」
「ゴルシちゃんで構わないぞ」
「じゃあゴルシちゃん先輩、トレーナーさんがあそこにいるって事は誰か出走するんですか?」
「そうそう、もうすぐ来るはずだ。せっかくだし特等席に行かねえか?」
「特等席?」
「トレーナーのところ」
ゴールドシップ先輩に案内される形でたどり着いたのはさっきまでスタンドから見下ろしていた場所だった。
コースとトレーナーさんたちがいる場所は腰までの高さしかないフェンスで区切られているだけの場所だ。地面も芝がところどころ禿げている以外はコースと代わりない場所だった。
そこにいるトレーナー達や先輩ウマ娘に混ざって、チームスピカのトレーナーさんはいた。棒付きの飴を舐めながら、黄色と黒のジャケットを着たトレーナーはゴールドシップ先輩と俺を見るなり手招きをした。
「お、早速チーム加入候補を連れてきたか」
「ゴルシちゃんに任せればこんなもんよ!」
「初めまして!ウォッカです!」
「よろしくな、まあ来て早々だがもうすぐ模擬レースの出走だからな。レースを見ていこうぜ」
そういえばスピカ所属のウマ娘は誰なのだろうか。所属ウマ娘についてはあまり詳しくない。
「ところでこのチームからは誰が走るんですか?ゴルシ先輩ですか?」
「いんや、私じゃない。私が出るのはラストのチキチキマシン猛レースだ」
そんなレースのあるのか。
「そんなレースねえよ。デビュー前のゴルシは出ないさ。出るのは……」
トレーナーさんの言葉が止まった。目線が俺とゴールドシップ先輩の後ろに向かっていく。
「きたみたいだぜ」
言葉に釣られて振り返ると、そこには長い白毛をツインテールにした眼帯のウマ娘と青鹿毛の妙齢な雰囲気を漂わせるウマ娘がいた。
俺はその姿を知っていた。知っていたと言うか、一方的にこっちが知っていると言うべきだろう。
「トウショウトドロキさん?」
「いかにも!魔王にして怪物、我が名はトウショウトドロキ!」
トウショウトドロキさん。会長のシンボリルドルフさんと並んで日本ニ強のウマ娘だ。俺の憧れでもある。
ターフG1の勝利数は史上最多の11勝、さらに何十年振りかつ日本ウマ娘初のイギリス三冠。とんでもない人だ。他にもいくつかの記録を持つすごいウマ娘だ。そしてすごくかっこいい。
会長のシンボリルドルフさんの最大のライバル。
「あら、新人さん?」
それと隣にいるのは史上初のティアラ三冠、重賞六連勝を達成したメジロラモーヌさんだ。
「新たなる勇者よ、そなたの真名は?」
「俺は、ウォッカです」
「うむ、良い真名であるな!……其方の真の力、目を見張るものがある」
トドロキさんの視線が足元に移った。足元に何かあるのかな?そう思っているとゴールドシップさんが割って入ってきた。
「はいはい、厨ニ病さんはあっちで準備だぜ」
「ふむ、宴の準備をしてくる。そう言ってトドロキさんとメジロラモーヌさんはスタート位置に歩いて行った。
「放っておいたらすぐ足触ろうとするんだからなあ、誰に似たんだか」
「知らねえなあ……」
あ、足触ろうとしてたんだ。確かに触って診断したりする方法はあるけど……
「ところで次の模擬レースって……」
「リギルと合同でやるんだよ。シンボリルドルフとトウショウトドロキ」
トレーナーさんの言葉に思わず吹き出しそうになった。
生徒会長であるシンボリルドルフは史上初の無敗三冠をとったすごいウマ娘だ。そしてトウショウトドロキのライバル。何度も熱い勝負を繰り広げたことでも有名だ。俺もテレビで釘付けになっていた。
そんな2人の勝負がまた見れるって……それすごい事だよ!
「模擬レースですよね⁈」
無敗三冠、有馬記念連覇、凱旋門賞ウマ娘と英国三冠、最多G1勝利数、そして春と秋の御紋付楯を持つウマ娘のレースだ。
そうそう見られるものじゃないしやるとなったらテレビが来るくらい大事になる。
「あれ?ラモーヌも出るって言ってたぞトレーナー」
「ほんとか?また黙ってレースに出るつもりだな」
と思ったらさらに増えた。
スタート位置に目を向けると三人だけじゃない。さらに増えていた。テレビで見たことあるウマ娘ばかりだ。
「…参加人数増えてないですか?」
「……増えてるな。まあそんなこともあるだろ」
「いやいやいや!模擬レースがドリームレースになってるじゃないっすか!」
会長さんとトドロキ先輩の2人に唯一勝っているスズマッハさん。
それと短期留学でイギリスから学園に編入していたグランエルセニョールさんとチーフシンガーさん。三冠ウマ娘のミスターシービーさんに海外でG1を何勝もあげたシリウスシンボリさんまで来ていた。
既に模擬レースのはずがどんどん人が集まっていた。トレセンの広報部の腕章をつけた人たちがカメラや機材まで持ってきていた。
「さあさあ、春の桜はまだ散ってないぞ。トレセン学園2400m芝日英交流ドリームレース間も無く開催だ」
いつのまにか実況と書かれた紙と机を持ってきていたゴールドシップ先輩が野良実況を始めていた。
「これ模擬レースですよね?」
「模擬レースだな」
「……」
「まあ座れや」
ゴールドシップ先輩の隣の席には解説と書かれた紙が貼ってあった。
「解説……俺解説っすか」
「オメー、目は良さそうだからよ」
目が良い?どう言うことだろう。
そう思ってると後ろから足音がした。聞き覚えのある歩調。
「あんたなにしてんの?」
聞き覚えのある声だ。振り返ったらアイツがいた。
「うげ、スカーレット…」
「うげって何よ!他に場所が空いてないから来たんじゃない」
「ここチームの関係者しか入れないんじゃないのか?」
「さっきあそこのトレーナーに誘われたのよ。ま、スカウトってやつね」
トレーナー?スピカのトレーナーは俺らと一緒だったけど……
慌ててスカーレットの指さす方を見ると、そこには黒色トレーナーにハンチングキャップを被ったウマ娘がいた。昔のレースで見たことがある。確か……名前を思い出して思わず飛び上がった。
「タケホープさん⁈」
「あんた、知ってたんだ」
「知らない方がおかしいだろ」
ハイセイコーがあそこまでアイドルになれたのもタケホープがいたからとまで言われるくらいだ。それほどまでに彼女の活躍は大きい。
「知ってたらオタクじゃない?」
そんなわけねえだろ。知らない方がおかしいわ!
「あいつはスピカのサブトレーナーさ」
「お、始まるみたいだ」
気づけば全員がスタートラインに並んでいた。やばい、本当に始まっちゃった。