とある隠の奮闘が鬼舞辻無惨を苦悩に落とす。   作:狂骨

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弱い奴は食われる

_____by Aさん


その隠 帰還する

 

猗窩座の奥義でさえも葬る事が叶わなかった天一郎。巻き上がる煙の中、仁王立ちするその姿はもはや人と呼べるものではなかった。

 

「貴様…一体どうやって…」

 

「はい?」

 

猗窩座は口元を震わせると天一郎の胸倉を掴んだ。

 

「一体どうやってそれ程の力を手に入れたんだ!?」

 

「何ですか急に騒がしい!」

 

「俺はこの数百年間全てを鍛錬に費やしてきた!!なのに数十年程度しか生きていない貴様がなぜそれ程の力を手に入れる事が出来たのだ!!」

 

そう言い猗窩座は天一郎へと己の疑問を打ち付ける様に問い詰めた。彼は勿論が、後ろに立っていた炭治郎、伊之助や煉獄も同じだ。人の身でありながらも鬼どころか上弦の全力攻撃を喰らっても立っていられるなど、もはや人間ではない。

 

どれほどの鍛錬を経て、それ程の力を手に入れたのか。

 

 

 

その瞬間 

 

周囲の空気が変わった。

 

 

「な…(なんだこれは…天一郎さんの全身から猗窩座以上の血の匂いが…)」

 

その変化を真っ先に感じ取れたのは感情さえも読み取る炭治郎の驚異的な嗅覚だ。炭治郎は天一郎のいつもとは一変した雰囲気と全身から発せられる個々の匂いより、猗窩座以上の濃密な血の匂いを感じ取ったのだ。

 

 

 

それは鬼特有の逃げ惑う人々を喰い殺し、その返り血を浴びたものではない。____

 

 

_______武器を持った人々とぶつかり合い、己と嬲り殺した他者の血が混じったものであった。

 

 

 

 

その一方で、雰囲気を一変させた天一郎は猗窩座の問いに対して答えた。

 

「どうやって…ですか?簡単ですよそんなもの。死に物狂いで闘えばいい。死地へ赴き生還する事で人は肉体的にも精神的にも大きな成長を遂げます。そこへ更に武術に対する欲望が重なれば人は自然と力をつける事ができるのです」

 

その言葉と共に天一郎の顔隠しの間から見える鋭い瞳が猗窩座へと向けられた。

 

「それに、数百年とか馬鹿みたいな数字並べてる貴方の様な輩如きに負ける訳ないでしょう。______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______元軍人を舐めんじゃねぇぞ…ッ!!!」

 

 

その言葉と共に発せられた威圧感は周囲にいる人物達の背筋を凍り付かせた。それは人間である煉獄や炭治郎、伊之助のみならず鬼である猗窩座までもだ。

 

 

その一方で、天一郎は隊服についた埃を払うと腰を低くし拳を構えた。

 

「さて、話は終わりです。今度は此方からも行かせて頂きますよ」

 

「ぐぅ…!!!」

その言葉に猗窩座は歯を食い縛りながらも天一郎を睨む。その構えは正に一才のブレも感じられず、確実な経験を積み重ねた姿勢であった。

 

先程の雰囲気と今もなお全身から溢れ出る柱以上の闘気に猗窩座は流石に不味いと判断したのか歯を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

その時であった。

 

暗く染まった山と山の間から明るい朝陽の光が差し込んできた。

 

「…ッ!!!」

 

それを見た猗窩座は天一郎から意識を逸らすとすぐさま林の方へと駆け出す。 

 

だがそれを天一郎が逃す筈もなかった。

 

「ちょっと、どこ行くんですか?」

 

駆け出そうとした猗窩座の手を握る形で天一郎は引き溜めた。だが、猗窩座は陽の光に焼かれる事を恐れているのか、必死に抵抗する。

 

「離せ!!退けぇええええ!!!」

 

「はぁ!?何叫んでるんですか!?」

 

猗窩座の必死な抵抗に天一郎は彼を鬼と認識していないために激しく動揺する。

その一方で、猗窩座は何としてでも太陽から逃れたいのか、最終決断を取る。

 

「ぐぅああ!!!!」

 

「な…!?」

 

なんと猗窩座は天一郎に握られた両腕をまるでトカゲが尻尾を切り離すかの様に同様に切り離し彼の拘束から逃れたのだった。

 

天一郎が驚きのあまり固まる中、猗窩座はすぐさま跳躍し深い深い林の向こうへと飛んでいく。

 

それは完全なる【敵前逃亡】であった。

 

 

「待て…ふざけるな…逃がさないぞ…ッ!!!!

 

朝日が来れば迷わず逃げていく。その無様な姿に炭治郎は激昂し自身の刀を拾い上げると猗窩座を追いかけ始めた。

 

 

見れば猗窩座の姿は次第に闇の中へと消えていき、小さくなっていった。

だが、炭治郎は決して逃がさなかった。

 

「うぉおあああああああッ!!!!!」

 

巨大な叫び声と共に手に持っていた刀を猗窩座目掛けて投げつける。

 

「ガハァ…!?」

 

その投げつけられた刀は闇の中へと消えようとしていた猗窩座の心臓部を正確に捉えて貫いた。

流石の猗窩座もその追撃を予想していなかったのか投げつけた炭治郎を睨むが炭治郎は叫んだ。

 

 

「逃げるなぁあ!!!!逃げるな卑怯者ッ!!!」

 

その叫びは正確に猗窩座の耳へと届き彼の額に筋を湧き上がらせる。

 

だが、それでも炭治郎は叫び続けた。

 

「俺たちはずっとお前達の有利な夜の中で戦っているんだ!!生身な人間がだ!!傷なんて塞がらない!!手足だって元には戻らないんだ!!」

 

それを見た煉獄は咄嗟に彼を静止させる。

 

「落ち着け竈門少年!!塞がった傷が開いてしまうぞ!」

 

「逃げるなぁ馬鹿野郎ッ!!お前の負けだぁ!!天一郎さんと煉獄さんの勝ちだぁぁあ!!あの二人は誰も死なせなかったんだぁ!!!」

 

「落ち着け!!」

 

ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

それから煉獄が宥め続けるも、炭治郎の猗窩座を罵る言葉は途絶える事は無かった。

 

それ程まで逃亡した彼が許せなかったのだろう。

だが、煉獄の必死の説得と伊之助の頭突きもあってか、その後炭治郎は無事に落ち着きを取り戻した。

 

「すみません…」

 

「気にするな。俺はこの通り無事だし上坂少年も見ての通り無傷だ。乗客達の命も君達のお陰で全員無事で任務完了だ」

 

そう言い煉獄は炭治郎の頭を撫でると、天一郎の方へと目を向けた。

 

「上坂少年!!いや天一郎殿!助けてくれて感謝する!胡蝶姉妹の言う通り君の力は本物のようだな!今まで疑ってすまなかった!!後で胡蝶姉妹にも謝罪しなくてはな!!」

 

 

そう言い煉獄が天一郎へと目を向けると____

 

 

 

______そこには猗窩座の手を握りしめながら立ち尽くす彼の姿があった。

 

 

「ん?どうした天一郎殿!」

 

煉獄が何度も声をかけるも天一郎がその声に応える事はなかった。すると、朝日の光が天一郎を照らすと同時に彼の両手に掴まれていた猗窩座の両腕がゆっくりと焼け焦げていき、空気へと溶けて消えていった。

 

 

その瞬間

 

「こひゅぅ〜…」

 

天一郎はその場に倒れてしまった。

 

「うぉおおおお!?天一郎殿〜!?」

 

「天一郎さぁぁぁん!!!」

 

「チビジロ〜!!!」

 

驚いた煉獄、炭治郎、伊之助はすぐさま駆け寄るも、彼は白目を剥きながら倒れており完全に気絶していた。

 

「あ…そういえば俺も傷が塞がっているとはいえ血が…」

 

それに連鎖する様に煉獄もその場に倒れた。

 

 

「ああああああ!!!煉獄さぁぁぁん!!!医者ぁああああああああ!!!!」

 

 

その場にパニックになる炭治郎の悲鳴が響き渡ったのであった。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

それからしばらくして。目を覚ました天一郎は駆けつけた後藤に倒れた煉獄の搬送を頼まれ、乗客の救助を任せると煉獄を荷車に乗せて驚異的なスピードで蝶屋敷へと向かった。

 

「すいませ〜ん。誰かいますか〜」

 

蝶屋敷へと到着した天一郎は玄関の戸を開けて、声を掛ける。すると、

 

「…」

 

病室の影からヒョコッとカナヲが顔を出した。

 

「あ、栗花落様、丁度良かった。炎柱の煉獄様の治療を頼みたいので蟲柱様を…ん?」

 

カナヲは天一郎を見つけると、トコトコと駆け寄り、彼の両腕を包み込む様にして握り締めた

 

「お帰り…義兄さん…」

 

「んん!?」

 

 




天一郎情報その12→気絶しても目覚めが早い。あと脱ぐと凄い
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