_____by MDO
無限列車の任務より数日。
炭治郎、伊之助、善逸は治療のために蝶屋敷へと入院させられていた。それもそうだ。彼らは下弦ノ壱と対峙した際に瀕死とは届かずも怪我を負ったのだから。
そして勿論だが、ここには上弦ノ弍と戦闘し重傷を負った煉獄も入院していた。
「煉獄さん!怪我は大丈夫ですか!?」
「おぉ!竈門少年!!君も目覚めた様だな。この通りすっかり元通りさ!」
寝室にて、部屋へと滑り込みながら飛び込んできた炭治郎を既に目覚めていた煉獄は相変わらず溌剌な表情で迎え入れた。
だが外傷は完治に至っておらず、失われた左目を元に戻す事はできないのか眼帯が付けられていた。
「その怪我は…」
「そう暗い顔をするな。片目を失う程度、鬼殺隊に入った時から覚悟していた。君が落ち込む必要はない」
「はい…」
煉獄の言葉に炭治郎は頷きながらもその表情が晴れる事はなかった。
そんな中である。
「そうだ。一つ思い出した事がある」
「え?」
「君が俺と初めて会った時、日の呼吸というのを聞いてきただろう?今思い返せば、父上がそれらしき書物を持っていたことを思い出した。だから俺の家に行ってみると良い」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
「気をつけて行くんだぞ!」
それから炭治郎は煉獄へ一礼すると出ていった。その姿を煉獄は手を振りながら見送る。
すると
「炎柱様〜チタタプ出来ましたよ〜」
炭治郎と入れ替わるように寝室に食事が置かれたお盆を待ちながら天一郎が入ってきた。
「おうすまないな!そこへ置いてくれ!」
「はい。いやぁ…良かったですよ。治療が間に合って」
「俺も今となっては信じられん。上弦ノ弐との戦いから生きて帰れるとはな。あの時、君がいなければ確実に死んでいただろう!本当に感謝している」
そう言い煉獄は自身の命を助けてくれた恩人である天一郎へと頭を下げた。
「ちょっとやめてくださいよ!!私は隠の仕事をこなしたまでなんですから!」
煉獄からのお礼に天一郎は頬を真っ赤に染め上がらせると手で顔を覆いながら左右に振り回した。
そんな時であった。
「義兄さん…炎柱…の…お茶忘れてる…」
寝室の入り口からヒョコッと顔を出し、お茶が入れられた湯呑みを乗せたお盆を持ちながらカナヲが現れた。
「…あ…はい…ありがとうございます…」
それを見た天一郎は表情を暗くさせ、額から汗を流し、渋々それを受け取った。
するとカナヲは頬を染めながらもじもじとし始める。
「えっと…どうしました…?」
「………撫でて欲しい」
「あぁ…はいはいはい…」
カナヲから撫でる事を要求された天一郎はそのままカナヲの頭を撫でる。すると、今まで無表情であったカナヲの頬が少しだけ緩み笑みを浮かべた。
「ありがとう…」
「い…いえ…」
それからカナヲは頭を下げるとタタタタと寝室から出ていった。
「ほぅ。あの無口な胡蝶の継子があそこまで豊かに。なにかあったのか?」
「…」
煉獄から尋ねられた天一郎は無言のまま、椅子に座ると話し始めた。
ーーーーーー
時は遡る事 数週間以上も前。天一郎はカナエから結婚を申し込まれていたのだ。
『天一郎さん!私と夫婦になってください!!』
『ええええええええ!?無理無理無理無理無理!!!』
自身と彼女が釣り合う訳がない。天一郎はすぐさまその申し出を必死に拒否した。
『そうですか…では日を改めます…』
『出来れば改めないで欲しいんですがね』
拒否した時は、カナエは表情を暗くさせながら引き下がった。流石に悪い事をしてしまったと思ったが、彼女はまだ若い。これから出会いの機会などいくらでもある。だからこそ自身ではなく、まともな男性と出会い交際して欲しいのだ。
その願いが伝わったのか、彼女は大人しく引き下がり、天一郎も安堵の息を吐いた。
だが、その日を境に彼女の行動に変化が起こり始めた。
『お背中流しますよ〜!』
『いやあああああん!!!!』
お風呂に入った時には必ず入ってきたり
『お布団がまだ乾いていないので今夜は一緒に寝ましょうね〜♪』
『何でですか!?』
蝶屋敷で寝る時は一緒に寝かされたり
『あ、花柱様、塩と胡椒をお願いします。あと生姜を』
『は〜い♪』
一緒に台所に立ってご飯を作って洗い物をしたり___と。何かと夫婦らしき振る舞いをする様になったのだ。
どう言う事なのだろうか?
恐る恐る本人に尋ねてみてもカナエは『お気になさらず』の一点張り。
どうにかして理由を聞くべく、カナエとしのぶが不在の日に最も常識人なアオイに尋ねたところ、どうやらカナエは何が何でも自身と婚約を結ぶために行動しているらしく、それに伴い周囲の人物を抱き込んでいるらしい。
それによって、カナヲ達はカナエから自身が将来の兄になると言いつけられており、先はどの様な呼び方をするようになったと言う。
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「成る程!カナエ殿は恐ろしいな!!して、それほど気難しいならば栗花落少女には言わないのか?」
「言える訳ないでしょう…メチャメチャ嬉しそうでしたし、一度断った時は泣きそうでしたもん…」
そう言い天一郎は顔を俯かせる。
カナヲは兄が出来た事が喜ばしいのか、ここへ戻ってきてから毎日、頭を撫でて欲しいなど遊んで欲しいだの甘える様になってしまったらしいのだ。
「そうか。ん?胡蝶妹はどうなのだ?」
「あの人は普通に名前で呼んでくれますよ」
「なら良いではないか」
「………なら良いですよ。ただね、注目して欲しいのが蟲柱様まで花柱様と同じ様になってしまったんですよ」
「むむ!?」
天一郎の話に煉獄は更に驚き食事の手を止める。
話によると、天一郎が過去にしのぶに素顔を見せた時から、彼女もカナエと同じ振る舞いをする様になった。すなわち胡蝶姉妹の2人から迫られているのだ。
「ならば二人まとめて幸せにすれば良いだろう!!色恋沙汰は詳しくはないが、天一郎殿は二人の命を何度も救っている!好かれてもおかしくはない!!」
「荷が重いんですよ!!柱の二人を私が支えられる訳ないでしょうがぁ!!!」
話し終えた天一郎は話す事さえも恐ろしかったのか、ゼェゼェと荒い息を吐いていた。
「煉獄さん…私は貴方の貴方の恩人なんですよね…?」
「うむ!!いつか必ずこの恩を返したいと思っている!」
「じゃあ一つ頼みを聞いてください!!!」
「何だ!!言ってみろ!!!」
「助けてくださいッ!!!色んな意味でッ!!!」
「それは無理だッ!!!命に関わりそうだ!!」
その後、戻ってきた炭治郎だが、杏寿郎の父と一悶着あり、何とか書物を見るもビリビリに引き裂かれていた為に確認する事も叶わず、それどころか蝶屋敷に戻ってきた時に刀を紛失したと聞いて来た鋼鐵塚に追いかけ回され散々な目に遭ったのであった。
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それから数週間が経過した。
無限列車において炭治郎と伊之助の活躍によって下弦の壱の討伐、そして上弦ノ弍の乱入と撃退は鬼殺隊全員へと通達された。その内容には勿論だが天一郎が猗窩座を圧倒した事も含まれていた。
それによって柱合会議も開かれる事となった。
「………ふむ。成る程ね。杏寿郎、今の報告に間違いは無いかな?」
「はい!俺はこの目でしかとお見受けしました!!上坂天一郎隊士が上弦ノ弍を肉弾戦で後一歩のところまで追い詰めた光景を!!」
書類に書かれてた報告書の読み上げを聞いた耀哉から尋ねられた煉獄は、まるで少年の様に意気揚々と天一郎の活躍を熱弁する。だが、やはり今も幾人の柱は信じる事が出来ないのか呆れ果てていた。
「どうやら煉獄まで頭がおかしくなっちまったようだな」
「上弦に顔を殴りつけられた際におかしくなったのではないか?」
「む!?宇髄!!伊黒殿!!俺は嘘などつかんぞ!!見てくれ俺のこの目を!!」
「そんなキラキラした派手な目を向けんな!!」
「しかも自信満々なのが余計腹立つんだよ!!」
煉獄の嘘偽りない眼差しに宇髄は顔を振ると立ち上がる。
「付き合ってられねぇ…お館様、ご勝手ながら、俺はこれで失礼します。今は…最優先任務があるので」
その言葉に産屋敷も宇髄の事情を知っているのか、引き留めはせず、ゆっくりと頷いた。
「うん。気をつけるんだよ天元」
それからしばらくして、天一郎とカナエが不在の中、炭治郎達は新たなる任務へと向かう事となったのであった。
天一郎情報その13→迫られに弱い