それから天一郎は驚異的な速さで、助けた女性隊士の屋敷である花屋敷へと到着し、彼女の妹らしき女性へと託すと、すぐさま屋敷を出ていった。
妹らしき女性から呼び止める声が聞こえてくるものの次なる目的地へと派遣されるために、あまり休んではいられないために、答える事なくその場を後にした。
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それから時間が経過して数ヶ月。天一郎は次の任務にて、久々に共に担当となった隠と野宿をしていた。
「そういや上坂〜お前が助けた花柱様、無事に元気になったらしいぜ?」
そう言い天一郎の前で薪に手をかざすのは隠の中でもベテランな部類にはいる後藤と言う男だ。
因みに天一郎の同期であり、彼と最も交流がある。そんな彼の話を聞いた天一郎は目を輝かせた。
「本当ですか!?やったぁ!」
「相変わらず感情の起伏がすげぇな」
それから天一郎は後藤に一つ気になっていた事を尋ねた。
「妹さんはどうでした?」
「いや、とくにねぇぞ。まぁあるとすりゃ、すげぇ感謝してた事ぐれぇかな。次来たら必ずお礼がしたいとさ」
「いや〜!そんな〜!!照れますよ〜!!」
妹がからも感謝されていることを聞いた天一郎は頬を真っ赤に染め上げながらその場に転がり始める。
人を救う仕事をしている中で、天一郎は特に命を優先する故に、命が助かった上に感謝される事はそれほど嬉しいのだろう。
そんな天一郎が転がり回る中、後藤はずっと気になっていたことを尋ねた。
「そういやさ、今更聞くのも何だけど、何でお前、隠になったんだ?」
「え?あ〜、まぁ皆と変わりませんよ」
後藤から尋ねられた天一郎は自身が隠になる前のことを思い出す。
「私がまだ成人を迎えていない頃に、家族や友人を鬼に殺されて、その時に私を助けてくれた鬼殺隊の方に憧れて、鬼殺隊に入隊したんです」
「ふ〜ん。意外と皆と変わらないんだな。んで?剣士は目指さなかったのか?」
そう言い後藤は隠とは別の剣士としての道へ進まなかった事について尋ねると、天一郎は恥ずかしそうに頬を掻きながら答えた。
「いやぁ…私には才能が無かったので剣を握る事も、振る事も出来ませんでした。だから私は己を鍛えて鍛えて鍛えまくり、少しでも役に立つべく隠になったんです」
「成る程な〜」
天一郎の話を聞いた後藤は納得すると、もう一つ、気になっていたことを話す。
「あとよ。花屋敷には行かないのか?何度もいうけど花柱様がお前に会いたいって言ってたぞ?」
「確かに顔色を伺いたいのは山々なんですが…まぁ今この時も鬼と戦っている方々がいますし、少しでもそちらの方達の力になりたいので…」
「そうか?一回は行ってやった方が良いと思うのにな〜」
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そこから更に時は流れていき、あっという間に4年の月日が経った。隊士達は増えてはいるものの、それと同時に減ってもいた。だが、たくさんの隊士達の命が散っても、鬼殺隊は無惨の姿を見つけるどころか上弦ノ月の討伐にも至らず、調査は難航を極めていた。
そんな4年が経過したある日の夜の事であった。
「…ん?カラスだ」
夜の山を進んでいた天一郎の方に一羽のカラスが止まり、手紙を差し出した。それを開いて見てみると、後藤からの手紙であった。
読み上げて見てみると、那谷蜘蛛山に十二鬼月が出没し、それを討とうと奮闘していた多くの隊士達が重傷を負っている為にただちに向かい治療と搬送を手伝って欲しいとの事であった。
それを見た天一郎は即座にその場へ向けて駆け出す。
ドドドドドドドドド
「那谷蜘蛛山は…ちょっと遠いか。とりあえず、急がないと」
荒れた山肌を。大きさが不規則な岩が立ち並ぶ険しい山道を次々と超えていきながら、天一郎は那谷蜘蛛山を目指す。因みにここから那谷蜘蛛山までおよそ30キロもある。
「誰だてめ…ぶぎゃあ!?」
「邪魔です!」
「うまそうだ…ぼげきゃ!?」
「退いてください!!」
天一郎は道中に次々と現れる山賊(鬼)を生身でありながら次々と殴り飛ばしていく。殴り飛ばされた鬼達は次々と首を破壊されていき、近くの林の中へと肉片として落下して行った。
その時であった。
目の前の道に突然と空から無数の大木が降り注ぎ、目の前の道へと次々と突き刺さった。
それによって天一郎の進む先の道が塞がれてしまう。
「うぉ!?」
突如として目の前の道が塞がれた事に驚いた天一郎は、即座に立ち止まり速度を落としてギリギリの距離でようやく止まると、目の前に聳える巨大な大木の柵を見上げた。
「な…何だこれ!?」
見ればその大木はまだ葉っぱがたくさん生えている事で腐敗しておらず、たくましいものであったが、根っこごと引き抜かれており明らかに人ができる芸当ではなかった。
すると
「さっきの戦い、見させてもらったぞ」
背後の林の中から、葉っぱの擦れる音と共に、一人の筋肉質な身体を持つ青年が現れた。
だが、ただの青年ではない。全身は真っ白い肌であり、所々に巡る長く直線的な刺青、そして血走った目に、左右それぞれ刻まれた『上弦』と『参』という文字。
間違いない。十二鬼月【上弦ノ参】であった。
全身から溢れ出る闘気と威圧感は周辺を徘徊する鬼とは完全に別次元であり、彼が現れただけで周囲の空気が変わっていた。
「俺は猗窩座。さっきの戦いぶり、実に見事だったぞ?剣を使わずに鬼を殴り飛ばすとは驚いた」
現れた上弦ノ参 猗窩座は笑みを浮かべながら演説するかの様に天一郎へと語り掛ける。
「俺も拳を扱う性分でな。俺と同じ拳で戦う奴に会えて凄く嬉しい」
そう言い猗窩座は自身と同じ拳で戦う相手に巡り会え、闘える事に最高の喜びを感じているのか、空に浮かぶ月を見上げながら拳を掲げる。
「さぁ…ここで巡り会えたのも何かの縁だ……俺と戦え…!!そして鬼となり俺と永遠に戦お__
パァァァァン
突然とその場に凄まじい破壊音が響き渡り猗窩座は言葉を詰まらせた。
「何だ…?」
その破壊音に驚いた猗窩座は即座に、その音が聞こえた方向へと目を向けると、そこには先ほど天一郎の逃げ道をなくす為に地面に突き刺した大木があったのだが、その一本の大木には人型の空洞が開いていた。
それを見た猗窩座の思考は停止してしまう。
「おい…どう言う事だ…?」
先ほどまで自身が話しているにも関わらず、あの空洞の跡に加えて天一郎がいなくなっていたとなると、彼は自身を無視して行ってしまったと言う事になる。
「…!!」
それを認識した瞬間 猗窩座の全身という全身から筋が湧き上がる。
「俺を…無視…だと…?」
湧き上がるのは自身を無視して去っていった天一郎に対する憎悪。鍛錬した自身に立ち向かわないどころか、無視して去って行った事は彼に対する最大級の侮辱であったのだ。
「ふざけるなぁあああああ!!!!!」
猗窩座の口から放たれた巨大な叫び声は草木や大地を揺らし周囲一帯に影響を及ぼし始めていった。
だが、その声が天一郎に届く事はない。
「良い度胸だ小僧…!!次に会った時は貴様の名を聞いた後に惨く殺してやる…っ!!!」
そして 猗窩座は歯を食いしばり、今世紀最大の侮辱をした隠の顔を頭に記憶しながら決意を固めるのであった。
天一郎 情報その1
褒められや感謝に弱い