突如として訪れた転機。
「て…天一郎さん!?」
「炭治郎くん!無事でしたか!って…わぁあああ!!!」
妓夫太郎へとバックドロップを仕掛けた天一郎はそのまま起き上がると、すぐさま炭治郎へと駆け寄り、折られた右腕へと目を向けた。
「明後日の方向に折れてるじゃないですか!?大丈夫ですか!?痛くありませんか!?」
「あ…いや…痛いですけど……って!!それよりも天一郎さん!!後ろ!後ろ!!」
天一郎はワンワンと泣きながら炭治郎の指を見つめるが、その背後からは既に立ち上がり、天一郎目掛けて鎌を振り下ろす妓夫太郎の姿があった。
「テメェ…いきなり現れたかと思えば…何するんだぁ〜…!?」
妓夫太郎は額に筋を湧き上がらせると鎌を振り下ろした。振り下ろされた鎌は空気をすり抜けていきながら天一郎の首目掛けて向かっていった。
「危ないでしょ」
その瞬間 鎌を振り下ろす手の動きが止まった。
見れば首筋まで届こうとしていた鎌の鋒を人差し指と中指で摘む様にして受け止めていたのだ。
「…へぇ止めたか。なかなかやる……!?」
受け止められた鎌を引き抜こうとした瞬間 妓夫太郎は額から大量の汗を流し始めた。
なんと、天一郎の鎌をつまんだ指が一向に離れなかった。否、離そうにも離すことが出来なかったのだ。
「ぬ…抜けねぇ…!?」
「鎌は軽く人を殺せる凶器なんですよ。それをそんなぶん回したら…
「!?」
妓夫太郎が驚く中、天一郎の片方の手が妓夫太郎へと狙いを定めていた。
「危ないでしょうがぁあああああ!!!!!」
パチィイイイン
その場に生々しい程の叩く音が響き渡ると共に天一郎の平手打ちが妓夫太郎へと炸裂し彼の顔を歪ませながら後ろの燃え盛る家屋へと吹き飛ばした。
「ぐべぇ!?」
「お兄ちゃん!!!」
「全く…近頃の輩は恐ろしいの何の。こんな鎌を持ち歩いてるなんて。___ふん」
妓夫太郎を吹き飛ばした天一郎は取り上げた片方の鎌を両手で掴むと、アッサリとへし折り地面へ捨て、炭治郎へと目を向けた。
「さて、炭治郎くん!音柱様はどこにいるか知りませんか!?」
「えっと…宇髄さんならあっちに…あ…!天一郎さん!善逸と伊之助もお願いします!!特に善逸は瓦礫の下敷きになっていて動けないんです!!」
「ガッテン承知!!すぐに助けますよ!!」
天一郎は宇髄や善逸、伊之助を救出すべく炭治郎が指を向けた方向へと走っていった。
だが、それを堕姫が逃さなかった。
「天一郎さん!!危ない!!」
「…ん?」
炭治郎が叫んだ時には既に堕姫の帯が彼を取り囲んでいたのだ。
「テメェ!!よくもアタシのお兄ちゃんを殴り飛ばしたなぁああ!!!」
「何だこれ蛇みたいですね」
周囲一帯を帯に取り囲まれたことで天一郎は行動を停止させると、周囲を旋回するその帯を見つめた。
その一方で、天一郎を帯で取り囲んだ堕姫は叫んだ。
「今よお兄ちゃん!!」
「おうよ〜…!!!」
すると 満月を背景に妓夫太郎が跳躍すると、残された鎌と、自身の肉で生成した鎌を次々と振り回し、無数の血の斬撃を放った。
__血鬼術 【飛び血鎌】_ッ!!!
放たれた血の斬撃は形を唸らせながら全て帯の中心に立っていた天一郎へと向かっていく。
「あれ?変な液体が降ってくる…しかも色が変だから触ったら危なそうだな…」
天一郎が周囲を見渡すも、周囲は堕姫の全てを切り裂く帯に囲まれており、逃げる場所などなかった。
その瞬間
無数の斬撃が帯の中心へと降り注いでいった。
「天一郎さぁあああああん!!!!!」
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
ー
「アハハハハ!!なによ。もうおしまい?こんなんだったらさっきの額の傷のガキの方がまだ強かったわよ?さて、細切れになったのかしら?それとも毒に侵されてもがき苦しんでるのかしら?ま、どっちにしろアンタみたいなブサイク、お兄ちゃんにあげるけどね」
堕姫は天一郎を囲っていた帯を自身の元へと戻らせる。
見れば先程まで天一郎が立っていた場所は飛び血鎌によって煙に覆われており、その場の様子を確認できなかった。
すると、ゆっくりと煙が晴れていき、その光景を近くまで降りてきて見つめていた妓夫太郎は笑みを浮かべた。
「アイツおれを殴り飛ばせるから結構鍛えてんだろぅな〜。食ったら結構強くなれそうだよなぁ〜…!」
その時であった。
「へぇ。やっぱりあの液体、毒だったんですね」
「「!?」」
背後から天一郎の声が響く。その声に驚いた堕姫と妓夫太郎は即座に振り向くと、そこには天一郎の姿があった。
「はぁ!?な…なんで!?アンタさっきまで…ここに…!?」
「いや、流石にあの量の液体は避けきれないので地面に穴を掘って回避しました」
「「はぁああああ!?」」
その言葉と共に煙が晴れると、そこには確かに掘って埋めた跡があった。
「嘘でしょ…?あの中から穴を掘って抜け出したっていうの…!?」
「おいおいおい…どうなってんだぁ〜?あの短時間で地面を掘り進めるなんて絶対できねぇぜ…?」
天一郎の行動に堕姫や妓夫太郎も流石に驚きを隠せない一方で、彼らの反応に対して天一郎は首を傾げていた。
「いや、出来るからここにいるんですよ。それと、刃物を人に向けるのやめてくれません?」
「く…!!クソが…!!」
そんな中であった。
「…ん?」
近くの燃え盛る家屋の傍に何かが落ちており、それを見つけた天一郎は拾い上げる。
それは 見事に使い古された銃剣であった。弾は入ってはいないが、取り付けられている剣は見事に研がれていた。
「三十年式ですか…懐かしいですね」
「あぁ?ソイツで俺らを殺そうってのかぁ〜?」
「はい?別に殺す気なんてありませんよ」
そう言い天一郎は妓夫太郎の言葉を遇らうと、手に持った銃剣をまるで馴染ませるかのように振り回した。
「ふむ…ふむふむ」
両手で巧みに振り回し、最後は筆を回すかの如く右腕の中で回し掴み上げると銃口を向けるようにして構えた。
「やはりすぐ馴染みますね。取り敢えず、このボヤ騒ぎ起こした貴方方2人にはお灸でも据えて差し上げましょうか」
「「あ"ぁ…!?」」
◇◇◇◇◇
「う…うぅ…!!」
天一郎達から少し離れた場所にて、妓夫太郎によって左手を切り落とされた宇髄は独自の呼吸法と筋肉によって毒の動きを止めながらゆっくりと立ち上がっていた。
「(アイツらが戦ってんのか…?なら俺も早く行かねぇと…!!」
そして 宇髄は己の使命を果たすべく命を捨てる覚悟で歯を食い縛りながら立ち上がると、目の前の光景へと目を向けた。
____そこには。
「なんなのよぉおお!!全然攻撃が当たらないじゃないのぉお!!」
「ふざけんなよ!!なんで2人掛かりだってのに殺せねぇんだぁ!?」
先程まで自身を追い詰めた妓夫太郎と、炭治郎達を追い詰めていた堕姫の攻撃をたった1人で捌き切る隠の姿があった。
それを見た宇髄は目をパチクリさせる。
「……へ?(いや…いやいやいや待て待て待て…幻覚だ幻覚…そんな鬼2体を同時なんて悲鳴嶼とかならともかく…あんなチビが…)」
宇髄は目を拭いながらもう一度見てみる。
「あ!柱が目を覚ましたよお兄ちゃん!!」
「バカ!集中しろ!!ちょっとでも連携崩したらやられんぞ!!」
そこには堕姫の操る帯を全て避けながら妓夫太郎の鎌の振り回しを銃剣や腕で捌き追い詰めていく隠の姿があった。
「え……ええええええぇぇぇぇ!!!!???嘘だろぉおおお!?」
「ん?」
すると その声に気が付いたのか、2人の攻撃を捌いていた天一郎がパァと顔を輝かせながら顔を向けた。
「あ!音柱様!目が覚めたんですね!よかったです!」
「しかも余裕な表情でこっち向いた!?おい!こっちに気ぃ取られんな!!次の攻撃が来るぞ!!」
「大丈夫ですよ。こんなヒヨッコな輩の攻撃なんて」
そう言い天一郎は此方に目を向けたまま、妓夫太郎の振り回した鎌を素手で受け止めると、速度を上げていき、今度は銃剣を用いて妓夫太郎を殴りつけていった。それによって今まで彼に攻撃を当てていた妓夫太郎が今度は防御せざるを得ない状況となり、堕姫も天一郎への攻撃に加えて妓夫太郎の援護をせざるを得ない状況となってしまった。
「ええええ…普通に追い詰めてる…!?しかも何だよあの動き…」
宇髄は改めて天一郎の動きへと目を向けた。
妓夫太郎へと次々と銃剣を振り回すその姿勢と闘い方。まるで、以前からそれ相応の危機を乗り越えてきた経験があるかのようであった。
「あの銃剣を自在に使いこなしてやがる…」
ーーーーーーーーー
その一方で、天一郎の猛攻は止むことを知らず、次々と妓夫太郎へとダメージを与えていった。
妓夫太郎の飛び血鎌の攻撃を避け切れなかったのか、幾度かその身に受けており、隊服の所々から出血していたが、それ程の傷を負いながらも2人を追い詰めていたのだ。
「テメェ…!何で毒が回らねぇんだよ!!!」
「戦場で毒兵器に苦しめられましてね。何かと耐性があるんですよ」
そう言い天一郎は片足を連続で放った。放たれた蹴りは見事に妓夫太郎の両腕を捉えており、放たれた蹴りによって妓夫太郎の鎌は2本とも蹴り飛ばされ、上空に回りながら放り出される。
「よっ」
「がぁ…!!」
動揺する妓夫太郎に対して一瞬にして銃剣の持ち手を変えると、そのまま彼の頭を殴りつけた。
それによって妓夫太郎は足をよろけさせながらその場で疲弊する。
「お兄ちゃん!しっかりしてよ!!」
「わぁってるよ!!」
堕姫の声に乱暴に応えながらも、妓夫太郎は足をフラフラとさせていた。度重なる炭治郎や宇髄との闘いは勿論だが、天一郎の攻撃にも体力を割かれていたために体内の血が不足し始めていたのだ。
「くそ…!!(血肉が足りねぇ…これ以上の血鬼術はキツイぞ…!!)
妓夫太郎は模索する。どうすれば目の前の化け物を倒す事ができるのか?相手は武器も通用しないし、毒の攻撃も見る限り回るのが宇髄よりも更に遅い。
すると
「鯉夏花魁…しっかり…!」
「「!?」」
近くの燃え盛る道から声が聞こえ、妓夫太郎や堕姫、そして近くにいた炭治郎や天一郎は目を向けた。見れば離れた場所には白い着物一枚という軽装と長い髪を下ろした遊女が、2人の少女に手を引かれながら走っていた。
「あれは…鯉夏さん…!?」
その姿を目にした炭治郎は驚きの声をあげるが、それよりも早く、堕姫の目が彼女を捉えていた。
「へぇ。アイツ、まだここにいたのね。私が食いたかったけど…丁度いいわ!!お兄ちゃん!!」
「おうよ…!!!」
その姿を見つけた妓夫太郎は鯉夏目掛けて飛び出した。
「…!!鯉な_____」
「流石に関係ない人巻き込むのやめません?」
妓夫太郎の手が彼女らへと伸びようとした時であった。先程まで彼らの目の前で戦っていた天一郎が、彼の目の前に瞬時に移動し、前に出た。
「彼女らは関係ないでしょ?今の貴方方の相手は私の筈です。彼女が邪魔でしたら私がすぐに運んであげますから、それまで待ってくれませんか?」
「知るかよ!!」
その言葉を無視し妓夫太郎は天一郎の横を通り過ぎると鯉夏を追いかけていった。
それを見た炭治郎はすぐさま後を追いかけるべく駆け出した。
「やめろ!鯉夏さんには!!」
その時であった。
「「「____……ッ!?」」」
その場を超高密度の殺気が襲った。その殺気を肌に感じた炭治郎は思わずその場で硬直してしまう。
「(なんだ…この冷たい殺気は…寒気が止まらない…)」
その殺気の濃度は正に“異常”であり、炭治郎や宇髄は勿論だが、妓夫太郎と堕姫の2人でさえも鯉夏へと伸ばそうとした手を止めて硬直していた。
「(まさかもう一体何処かにいるのか!?しかもこの威圧感…あの2人どころか…猗窩座とも桁違いだ…!!)」
炭治郎は必死に周囲を見渡し、その殺気と威圧感の正体を探す。
だが______
__________その威圧感の正体は鬼ではなかった。
「え…?天一郎さ…ん…?」
炭治郎が殺気の根本である場所へと目を向けると、そこには天一郎が立っており、見れば顔を隠していた顔隠しが剥がれ、素顔が露わとなっていた。
その素顔はとても常人とは思えぬ程、痛々しいものであり、見れば顔面と右頬には十字傷、更に首元から左頬全体は酷い火傷によって皮膚が爛れ、更にその左頬は歯が見える程まで裂けていた。
痛々しい素顔を見せるその姿からは、いつもの穏やかな雰囲気は完全に消え去っており、まるで猗窩座と対峙した時と同じ様なものであった。
「(なんだ…?天一郎さんから感じる血の臭いが前よりも濃くなってる…何が起こってるんだ…!?)」
その雰囲気に炭治郎は勿論だが、後ろから見ていた宇髄も驚いており、動く事ができなかった。
その一方で__。
天一郎から視線を向けられていた妓夫太郎は鯉夏へと向かおうとした脚を止めてすぐさま振り向き鎌を構えた。
「…!!」
その顔からは大量の汗が流れており、炭治郎達と対峙していた時の余裕の表情は完全に消え去っていた。
「何だテメェ…さっきと随分と雰囲気が違うじゃねぇか…!?」
「…」
ゆっくりと歩いて向かってくる天一郎に妓夫太郎は叫ぶが、それでも天一郎は答える事なく妓夫太郎へと向かっていく。
一歩___また一歩と__。
「…くぅ…ッ!!気味が悪ぃ野郎だぁ!!!」
次の一手が読めないその動きに妓夫太郎は遂に限界に来たのか、鎌を振り回し残り少ない体内の血液を放出した。
____血鬼術…飛び血が_____
その瞬間
天一郎の身体が一瞬にして妓夫太郎へと迫ると、その顔面へと拳が数発放たれると共に顔を掴み上げ、地面へと叩きつけた。
「ゴハァ…!!!」
その動き___僅か1秒。炭治郎どころか、鬼でさえも認識が不可能な時間であった。だが、そのダメージは凄まじいものであり、下弦とは比べ物にならない程の再生力を持つ妓夫太郎の苦痛に苦しむ声がその場に響いた。
「……ふぅ」
妓夫太郎を地面へと叩きつけた天一郎は立ち上がると、深呼吸をしながら、突然と炭治郎へと首を向ける。
「炭治郎くん!!」
「はいぃ!!!」
突如として名前を呼ばれた炭治郎は思わず固まってしまう。一方でからの名前を呼んだ天一郎は、後方で、妓夫太郎の接近に腰を抜かしていた鯉夏へと親指を向けた。
「私はあの人を安全な場所まで運んできます。それまで、この輩2人を監視しておいてくださいね!!」
「あ…分かり___って速!?」
炭治郎が何かを言い出そうとする前に天一郎は走り出し、鯉夏を背中へ、2人の少女を脇に抱えて走り去っていってしまった。
「何だったんだ…今のは…!?」
後に取り残された炭治郎や宇髄は彼の突然の変化について何一つ理解する事ができなかった。
_____その後、炭治郎はすぐさま意識を切り替えて、天一郎が作った勝機を無駄にする事なく、復活した宇髄や善逸、伊之助と共に妓夫太郎達を討ち取ったのであった。
天一郎情報その15→熱くなると顔隠しを取る。