《異空間》無限城にて__。
「…」
無言なまま、無惨の手に持つスポイトから液体が試験管へと落とされる音がその場に響く。
そして
「ふん…!!!」
腕を振り回し、試験管や他の実験器具ごと、近くの襖目掛けて吹き飛ばした。
それによって吹き飛ばされた試験管が割れていく音が周囲へと響き、割れた破片が下へと落ちていく。
上弦の伍であり、毒を使う事から、妓夫太郎ならば少しでも天一郎に対抗できると考えてはいたがそれすらも通用しなかった。
いや、通用してはいたが全く効果を表さなかったというのが適切だろう。自身の考えを完全に覆され否定された事でプライドの塊である無惨は怒りを見せており、それを発散するかの様に、彼の鋭い瞳が召集された上弦達へと向けられた。
「残る上弦は貴様ら“4人”のみか…少しばかり私も気を抑えられなくなってきたぞ…ッ!!!」
その言葉に召集された上弦は恐れ慄くかの様に頭を下げる。
そんな中であった。頭を下げる上弦のうち、玉壺が声を上げた。
「無惨様ぁ!!私めは違いますぞ!!貴方様に少しでも報いるべくとっておきの情報を___」
その瞬間__。
玉壺の頭が突然、胴体から離れ、一瞬にして無惨の手のうちに収まっていた。
「私が嫌いなものは変化だ…状況…肉体…感情…凡ゆる変化は落下…衰えなのだ。対して私が好むは不変…完璧な状態で永遠に変わらぬ事だ……百十三年ぶりに短期間で上弦が“2人”も…更に何の変哲もないただの“隠”にやられて私は不快な絶頂だ…!!まだ確定すらしていない情報を淡々と話すな…ッ!!!」
無惨は己の感情に身を任せるかの様に手の上に収まった玉壺へと不平不満をぶつけた。それによって無惨の指が玉壺の頭へと突き刺さっていき、血が吹き出し始めていく。
だが、一方で玉壺は顔を赤らめていた。
「(む…無惨様の手が私めを…!!これはこれで…良い♡)」
「…」
無惨はその反応を見て気が失せたのか、下へと落とすと共に指令を与えた。
「玉壺…情報が確定し次第…半天狗と共にそこへ向かえ」
その言葉と共に無惨の姿は襖の奥へと消えていった。
そんな中、上弦ノ壱はただ虚空を見つめていた。
ーーーーーーーー
スタスタスタスタ…
蝶屋敷の病人の寝室へと続く廊下を1人の隠が菓子を持ちながら歩いていた。
彼の名は後藤_。鬼殺隊の隠であり、天一郎の数少ない同期だ。
「失礼します。音柱様〜ご機嫌いかがですか〜?」
「おぅお前は確か後藤か!見ての通りだ!」
そこには所々が包帯で巻かれている宇髄の姿があった。見れば左手に巻かれている包帯は面積が狭くなっており、左手は修復できず、失ってしまったと見れるだろう。
「あの、奥様達の差し入れ来てるんで置いときますよ」
「おぅすまねぇな」
宇髄は後藤から差し入れを受け取ると、口に運んでいった。
「それよりも、よく助かりましたよね。俺が来た時には遊郭全体に攻撃が広がってましたよ」
「あぁ。俺も生き残れるとは思わなかったぜ。まさか、首を切ったにも関わらず、攻撃してくるとはな…アイツの助けがなかったら本当に死んじまうとこだった…」
宇髄によると上弦の伍が最後に放った攻撃が首を刎ねた後も続いており、身体から吹き出した血鬼術の攻撃が皆へと襲いかかってきた様で、それを天一郎が駆けつけて、全員を間一髪で助けたらしい。
「まぁそれよりも、余裕かましながら鬼二匹を相手してた方が驚いたけどなぁ!」
「あ〜聞きましたよそれ。何か今回も凄かったらしいですね」
「お前、あいつの同期なんだろ?何か知ってんのか?」
「え?何かと言いますと?」
後藤が宇髄の質問に首を傾げる中、宇髄はあの日、妓夫太郎を一撃で地に伏せた時に見た彼の素顔について話した。
「力は勿論だが、あんな派手に傷だらけの顔、不死川以外に見た事ねぇぜ。それに戦争で使われてた銃剣も手足の様に使いこなしてやがった。銃剣を教える育手なんて聞いた事ねぇし、ましてや帯刀が許されねぇこのご時世なら一般人も尚更だ。まさかアイツ、ここに入る前はその手の隊に入ってたのか?」
「…まぁ、そうですね」
宇髄の分析からの質問に後藤は頷き、なるべく彼の過去に触れない様に大雑把に話した。
「アイツは一度離隊して結構大きな戦争に出てたんですよ」
「やっぱりか…。となると直近の……いや、これ以上はやめとくか」
「その方が助かります」
宇髄自身も、己が生き残るためとはいえ兄弟を殺してしまった辛い過去があるために、戦役に出ていた彼も仲間の死を間近で体験しているだろうと推測していた。故に天一郎を自身と重ねて気を使うかのようにそれ以上の詮索はやめた。
すると
「音柱様〜ご飯出来ましたよ〜!」
軽快な声と共にお盆を持った天一郎が現れた。
「おぅ。ここに置いてくれ」
宇髄の言葉に天一郎は頷くと、彼のベッドに取り付けられている台へとお盆を置く。
「これがチタタプって奴かぁ!派手に美味そうじゃねぇか」
その出来栄えに宇髄は感嘆の声を漏らすと、口に運んでいった。
そんな中で、天一郎は宇髄だけでなく、彼の見舞いに来た後藤にも気がつき声を上げた。
「あ!後藤さんも来てたんですね。任務帰りですか?」
「まあな。それよりも、お前は大丈夫なのか?もう動いて」
「はい!この通り大丈夫ですよ!」
そう言い天一郎は頷いた。因みに言うと、炭治郎や宇髄のみならず、天一郎も傷を負っていたのだ。
その理由は勿論だが、妓夫太郎の血鬼術による猛毒である。天一郎は戦いの最中、宇髄達が瀕死になる程の猛毒を彼ら以上にその身に受けていたのだ。
「いや〜…死ぬかと思いましたね実際…!!」
「「…」」
天一郎の言葉に宇髄と後藤は呆れ果ててしまう。何故ならば、毒に侵されていると分かったのは診察の後であり、診察する前はそれ程の重傷を負っていたにも関わらず自身よりも巨大な体格である宇髄や炭治郎達を乗せた荷車を山を越えて蝶屋敷へと運んできたからだ。
「そういえば、炭治郎の奴はどうしてますか?」
「「…」」
後藤が話題を変え、炭治郎について尋ねると、今度は天一郎と宇髄が黙り込んだ。
2人の反応に後藤が首を傾げると、天一郎は話す。
「あの日から、目を覚さないのです。ゆすっても声を掛けても。ただ、心臓は動いているので今は蟲柱様の判断で点滴をしながら様子を見るとの事です」
「そうか…」
後藤はなにかと炭治郎含めかまぼこ隊達と交流があるために気に掛けていたのか、表情を暗くさせる。
「ま、他の2人は派手に目ぇ覚ましたんだ。奴もそのうち、起きるだろ」
そう言い少しでも場を和ませようとした宇髄は食事を口に運んだ。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
それから時間が過ぎて夜が来た。隊士達の多くが鬼狩りへと赴く中、天一郎は怪我による休暇があるために蝶屋敷の回廊を歩いていた。
窓から見える美しい月明かりが差し込みベッドで眠る患者達を美しく照らしていた。
そんな中であった。
「天一郎さん…」
「ん?…むむ!?」
突然と声をかけられ、振り返ると暗い表情を浮かべるしのぶの姿があった。
「む…蟲柱様…どうしました…!?」
「…傷や毒の方はもう大丈夫ですか?」
「ま…まぁ…はい…」
その言葉に天一郎は少し申し訳なさそうに頭を下げる。彼女らから赴くことを制限されており、それを破ってしまった事に少し負い目を感じていたのだ。今回の任務の過酷さを既に聞いていたのか、しのぶも少しばかりか心配していたらしい。
すると
しのぶの手がゆっくりと天一郎を抱き締めた。
「無事で…良かった…本当に心配したんですよ…」
その言葉に天一郎は目を大きく開くと、その温かい抱擁を受け入れ目を細めた。
「すいません…ご心配を…お掛けしました…」
「……スン…スンスン…」
「…ん?」
すると、何故だかしのぶの鼻で息を吸う音が小刻みに聞こえてきた。その音に天一郎は細めていた目を瞬時に開ける。
「あの…どうしました…?」
「………女の臭いがしますね…」
「え?」
彼女の言葉に呆気に取られていると、突然としのぶは天一郎の腕を引っ張りカナエの部屋の戸を開けた。
バタン!!
「姉さん!!やっぱり天一郎さんから女の人の臭いがするわ!!」
「なに言ってるんですか突然!?」
その言葉に天一郎が驚きの声を上げる中___
「へぇ〜?あら…やっぱりそうなの〜…」
___部屋の中で此方に背を向けて座っていたカナエの首がまるで壊れかけた操り人形の如くカタカタと動きながらこちらへと向けられた。
「どういう事かしらぁ〜?」
「ひょえ!?ちょちょちょ!待って!待ってください!…ってぇ!?」
天一郎は何が何だか分からずとも、カナエの様子に怯えながら下がるものの、既に部屋の入り口はしのぶによって閉められていた。
「逃しませんよ…?」
6畳より少し広めで、机とベッドのみが設置された部屋の中で前後から2人の女性の虚な瞳が向けられる。
「まさか…私達を差し置いて……遊女の方と酒混むなんて…」
「えぇ!?ちょっと待ってください!どういうことですか!?」
「惚けても無駄ですよ。貴方の身体からとてもとても上品な女性の臭いがしたんですから…」
「はいぃ!?酒混むって何ですか!?そんな遊ぶほどの余裕なんてありませんよ!!」
そんな中、背後に立っていたしのぶが更に顔を寄せて身体中の臭いを嗅ぎ始める。
「スン…スンスン…もう2人の女性の臭いがしますね…しかもとても若々しい…」
「あら〜?まさか4人と酒混んだのかしら〜?」
「だから違いますってぇ!!!!」
「うんうん良いんですよ。そんなに必死にならなくても。話ならちゃんと聞きますから」
そう言いカナエは天一郎の手を引き、ベッドへと押し倒した。
「布団の上で…たっぷりと♪」
「はぃぃ!?」
突然とベッドに押し倒された天一郎は顔を真っ赤に染め上がらせ仰天の声を上げるが、彼女らは止まらない。
「ふふ。ほら、しのぶも早くいらっしゃい。この方が逃げてしまうわよ♪」
「勿論よ姉さん。今度ばかりは絶対に逃がさないんだから…!」
彼の硬い胸板を腕で押さえていたカナエは抵抗できない様にしのぶと共にその上に覆い被さった。
「ねぇしのぶ…こうなってしまったら…もう小賢しい手を使うのも馬鹿らしいと思わない?」
「そうね姉さん。もう直接伝えないとだめだわ…」
天一郎の肌を指でなぞりながら囁くカナエの言葉に呼応するかの様にしのぶも目の色を変えると天一郎の衣服へと指を突きつけていく。
すると、2人の手が天一郎の隊服を無理やり剥がし、自身らも白装束となった。
「いやぁあああん!!!私に何___むぐぅ!?」
「喋らないでください」
天一郎が叫び声を上げようとした瞬間に 彼の口を塞ぐかの様にカナエは自身の胸を彼の顔へと押しつけた。
「貴方に拒否権などありません。そして真意を知る必要もありません。これから分かるんですから…」
「私と姉さんの想いを踏み躙った以上…私達の想いで貴方を押し潰してあげる…!!」
そして 凹凸のある魅惑的な身体で天一郎へと覆い被さった2人はゆっくりと囁いた
「「今夜は寝かせませんよ…」」
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
ー
数日後。後藤は退院した天一郎と共に任務に向かうべく、迎えに来たのか蝶屋敷の前に立っていた。
すると 蝶屋敷の戸が音を立てながら開いた。
「…ん?お〜い。やっと来た……って!?のわぁあああ!」
その場を見た後藤は凄まじい叫び声を上げた。
そこから現れたのは虚な瞳を向けた天一郎であった。顔隠しによって、素顔は見れないが、向けられる虚な瞳からとんでも無いことがあったのは確かだろう。
「どうしたぁ!?何があったんだよ!?」
「後藤さん〜…」
いつもよりも活気のある瞳が完全に消え失せた事に驚きのあまり尋ねると、天一郎はまるで操り人形かの様に千鳥足で此方へと向かってくる。
「…乳房って…凶器にもなるんですね…」
「本当に何があったぁー!!??」
その顔隠しの間から見える額の部分には唇の跡が見えた。
天一郎情報その16→童貞