____byR.Aさん
「がぁは…!!」
地面へと叩きつけられた玉壺はすぐさま自身の頭を掴む人物へと目を向ける。そこには、此方に向けて鋭い目を向ける隠の姿があった。
「(な…何だコイツは…!?全く気配を感じなかったぞ!?まさか…あの服装…無惨様の言っていた隠とは…コイツの事なのか…!)」
何の気配もなく鬼である自身を生身で押さえつける力から、玉壺は彼が自身のボスである無惨の警戒していた隠であると確信した。
「(ま…マズイ…!!奴は童磨殿を真っ向から討った手練れ…今の私では分が悪い…!!すぐに半天狗に援護を頼まねば…!!)」
確信した玉壺はすぐさま戦闘を避けて撤退を考える。だが、今は天一郎に頭を掴まれている為に動くことなど不可能だ。下手に動けば彼を更に刺激してしまうだろう。そうなると、チャンスは彼が自身から手を離したほんの一瞬だ。
故に玉壺は下手に動く事なく、沈黙を貫いた。
すると
「………あれ!?」
辺りを見回していた天一郎は無一郎が水の牢獄に囚われている姿を目にして、手を離し駆け寄っていった。
「(今だ…!!)」
この瞬間を待っていた玉壺はすぐさま地面から顔をあげ、天一郎の背中を影にし、無一郎から死角になるようにして近くの壺へと向かった。
背後から天一郎の水獄鉢に閉じ込められている無一郎を見て驚く声が聞こえてくる。
「か…霞柱様ぁあ!?どうしたんですかそれ!?しかも針だらけじゃないですか!!」
やはり自身の血鬼術に驚き目が釘付けになったのだろう。無一郎から見て天一郎の身体で死角となっていた背後では玉壺はこれを更なるチャンスと見たのか、無一郎から見られない様にソソクサと後退りしていた。
「(ヒョヒョヒョ…あれは私の血鬼術でも特異なもの…短時間で解けるものではない…その隙に私は退散させていただきま_______)」
その時であった。
「よし、完了と。大丈夫ですか?」
「ぷはぁ!!あ…ありがとう…」
「なにぃいいいいいい!?」
背後から天一郎と無一郎の声が聞こえた。その声に玉壺が驚きながら振り返ると、そこには先程まで水の牢獄に囚われていた無一郎が天一郎に支えられながら立ち上がる姿があった。
「(ば…バカなぁ…!!私の水獄鉢をどうやって…)」
見れば天一郎の手には小刀が握り締められていた。恐らくあの小刀で水を切ったのだろう。
「な…あんなチンケな刃物で…!?あ…ありえない…私の水獄鉢を刃物だけで…!!」
「はい?何言ってるんですか貴方?」
玉壺は自身の血鬼術が刃物で破られた事が受け入れられず、冷や汗を流してしまう。
その一方で、無一郎を解放し治療した天一郎は玉壺へと振り向いた。
「取り敢えず初めまして。私は上坂 天一郎と申します。早速ですが、まず貴方に少し聞きたい事がありますので、その“着ぐるみ”を脱いでいただけますか?」
「…は?……………はぁあああああああ!?」
突然と天一郎から自身の身体を着ぐるみ呼ばわりされた事に玉壺は怒りを露わにした。
「き…着ぐるみだとぉおおお!?我が血と涙の結晶たる身体をあんなモコモコと一緒にするとはどんな目をしているのだクソチビがぁああああ!!!!」
「いやどう見たって着ぐるみでしょうに。それと、チビって呼ばないでください。エラから手ェ突っ込んで顔の皮剥ぎますよ」
そんな中であった。
「…ん?」
辺りを見渡した天一郎の目に突然と、玉壺の作り上げた刀鍛冶のオブジェが映り込んだ。
「……んん!?えぇ!?何ですかこれ!?」
見間違いかと思った天一郎は一度は目を逸らしたものの、見間違いではないと悟りすぐさま玉壺の作品である【鍛冶の断末魔】へと近づくとそれを見つめた。
「これは……肉の感触がある…けど…少し冷たい…死人の感触だ…これって…本物の人…しかも全員刀鍛冶の人じゃないですか…」
「ヒョヒョ…!?もしやお気に召しましたかな!?」
天一郎がその作品を凝視し震えた声をあげると、玉壺は作品に対する感銘を受けたのであろうと捉えたのか、頬を染めながら反応した。
「その通り!!この作品には刀鍛冶を5人も使っております!!ちょっとそこの刀を握って捻れば悲鳴を上げる仕組みになっているのですよ!!!」
そう言い玉壺は先程の無一郎達へ行った同じ内容の説明を天一郎へと繰り返す。自身の作品に興味を抱かれたのが彼自身にとってはよっぽど喜ばしい事であったのか、その喋り方は先程よりも好調であった。
だが、その意気揚々とした説明が“天一郎を激怒させる引き金”となってしまった。
その瞬間______
__________天一郎の背中からその場一帯を覆い尽くす程の超巨大な殺気が溢れ出した。
「「…ッ!!」」
溢れ出したその殺気は一瞬にして周囲へと広がり、気分が高まっていた玉壺の口を遮り、冷静である無一郎でさえも冷や汗を流して硬直させてしまった。
「(な…なんだこの身体の奥底から凍えてしまいそうな殺気は…!!それに…私が震えている…だと!?この私が恐れているとでもいうのか…!?)」
身体に感じる冷たい感覚を玉壺は受け入れられず逆上してしまうものの、それでもなお身体の震えは治る事が無かった。それは玉壺だけではない。
天一郎の後ろに立ち、その殺気を至近距離から感じていた無一郎も身動きが取れず、額から大量の汗を流していた。
「き…君は…一体___」
「霞柱様!!」
「はぃ!!!」
思わず無一郎は口に出してしまう。お前は一体…何者なのか?だが、その言葉が届く直前に天一郎の大きな声がそれをかき消した。
突如として天一郎が振り返り訪ねてきたので驚きのあまり無一郎は思わず大きく返事をしてしまうが、天一郎は続けた。
「アイツで間違い無いですか?こんなことしたのは」
「はいそうです!」
「なるほど」
無一郎が答えると、天一郎の目が玉壺へと向けられた。その鋭い視線から感じるのは“殺気”のみであり、一言でも喋ろうものなら首を掻っ切る狩人の目であった。
それを見た玉壺は完全に彼を怒らせてしまったことを悟る
「ええい!!!やむを得ますまい!!」
もはや後戻りも下手な撤退も不可能であると判断した玉壺はすぐさま応戦するべく大量の壺を生成し、彼らへと向ける。
『血鬼術』蛸壺地獄ッ!!!!
その瞬間 壺の中から大量の蛸の触手が溢れ出した。壺から溢れ出た触手は天一郎と無一郎目掛けて、その圧倒的物質量で押し潰すべく向かってきた。
「潰れてしまぇえええええ!!!」
触手が唸りながら向かってくる中、無一郎は呼吸を行おうとするが、それよりも先に天一郎の手が動く。
「邪魔」
その一言と同時に天一郎の拳が連続して放たれ、溢れ出ていた蛸の触手全てが壺ごと殴り飛ばされた。
「な…!?わ…私の血鬼術が…!!!」
「な〜にが血鬼術ですか?壺から蛸出しただけじゃないですか。こんなものが血鬼術なんて、頭おかしいんじゃないですか?」
「……何かそう思えてきた」
唖然とする中、淡々と言い放った天一郎の傍では、もはや言葉では言い表す事ができない状況によって放心してしまった無一郎がその言葉に同意するかの様にボソッと呟いた。
「きぃいいい…!!!己ぇバカにしおって…!!!」
その一方で、血鬼術を破られた玉壺は唸り声を上げると、全身に力を込めながら今ある身体を脱ぎ捨て壺から飛び出すと近くの木々へと着地する。
脱皮したその姿はもはや、人どころか、鬼とも言えるかどうか分からない程、異形であった。
上半身には先程までとは異なり、筋骨隆々な両腕が生え、多少は人の姿に近づいたものの、下半身はまるで爬虫類の鱗と足の生えていない蛇の様に長い尻尾のみとなっていた。
「ヒョヒョヒョ…この姿を見せるのは貴様らで5人目だ…!!!」
「…結構いるんだね」
「黙りゃあああ!!!!!」
無一郎の発言に玉壺は叫びながらも、すぐさまその場から姿を消して、一瞬で天一郎の目の前へと現れる。
「そっちから来るなら手っ取りばや……ん?」
それを見た天一郎が拳を振るうと玉壺の姿が消え、今度は無一郎の前へと現れる。それを今度は無一郎が刀を振い斬ろうとするが、それを再び玉壺は躱し、次々と周囲に移動し始めた。
ヒュンヒュンヒュンヒュン_____
「ヒョヒョヒョ!いかがかな!?この姿は身体能力が格段に上がるのです!!それは速度も例外ではない!!!いくら貴様らが強かろうと当たらなければ無意味!!」
その言葉と共に周囲を移動する速度もさらに増していき、遂には声さえも周囲に溶け込む様になり、まるで周辺から聞こえてくるかの様な響きとなった。
「怖いかぁ!?恐ろしいかぁ!?この姿になった私は姿!気品!強さ全てにおいて最高潮!!!先程の比ではないぞぉ!!!」
すると
その翻弄する動きが止まり、周囲が沈黙に包まれると無一郎と天一郎の視界から外れた位置に立っていた玉壺の拳が、天一郎目掛けて放たれた。
「喰らうがいい!!我が【神の手】をぉおおおおお!!!!!!!」
バァァァァン…ッ!!!
その場に鈍い音が響き渡る。玉壺の剛腕から放たれた拳が見事に天一郎の身体へと打ち込まれ脆い音を響き渡らせた。
「ヒョヒョヒョ……終わりだ…!!我が神の手をその身に受ければ身体は愛くるしい稚魚となる…!!さぁ最強の隠とやらよ!!貴様の奮闘もここま________」
玉壺が顔を上げた瞬間 その顔が掴まれ玉壺の顔は絶望に包まれた。
「馬鹿な…馬鹿な…!!ばぁぁぁかぁぁぁなぁぁぁぁ!!!!!」
そこにはその拳をその身に受けながらも稚魚と化すことなく、尚も平然と立っている天一郎の姿があった。鬼殺隊の隊服はその拳の影響を受けて稚魚と化し彼の上半身を露出させていたが、その下にある生身は何一つ影響を受けてなどいなかったのだ。
その一方で、天一郎は玉壺を見つけると、その頭を掴む。
「捕まえましたよ着ぐるみ野郎。さて霞柱様は少し離れていてください」
「はい!!」
無一郎はまるで部下の様に天一郎に従うと離れていき、玉壺の頭を掴んだ天一郎はその顔に向けて拳を構えた。
「取り敢えず5人も罪のない刀鍛冶を殺したんです。その分の罰を受けてもらいますよ…!!」
「ま…待て!!!待つんだ!!!……と見せかけて神の手ぇぇえ!!!!」
パァァァンッ!!!!
再び玉壺の拳が放たれ、今度は天一郎の肉体へと直に当たるものの、何ら変化を及ぼす事はなかった。
「か…かか神の手!!神の手!!!神の手ぇえええええ!!!!!」
パァン__パァン__バァァァァン…!!!
何度も何度も玉壺は己の拳を打ち込むも、天一郎には変化を及ぼすどころか、ダメージすらも与えられていなかった。
「…痛いじゃないですか」
「う…嘘だ…私の術どころか肉弾戦ですら傷を与えられないだと…!?」
「成る程…それが貴方の答えか。よぉく分かりました」
「ヒィイ!!!な…鳴女ど______」
血鬼術も肉弾戦も何もかも通じない事によって遂に玉壺は完全に戦意を喪失してしまい無惨の配下である鬼の名前を叫ぼうとするが、もう遅かった。
「5人の命を奪ったお前は…ただじゃ済まさねぇぞッ!!」
その瞬間_______
「オラァッ!!!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!」
天一郎の右拳が無数の練撃となって玉壺の顔へと打ち込まれた。次々と放たれる右拳は勢いを弱める事を知らず、それどころかさらに速度が増していき、玉壺の顔を歪めていく。
それだけで終わると思ったか?___
___否ッ!!!!!
「オラァ!!!!」
天一郎は左腕を振り回し玉壺の身体を投げ上げると、顔から血を撒き散らしながら宙を舞う玉壺に向けて、今度は両腕から拳を放った。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ___」
際限なく放たれていく拳の雨は次々と勢いを増していき、顔のみならず、玉壺の全身を次々と歪めていき、彼の全身へと拳の跡を打ちつけていった。
そして
「オラァッ!!!!!」
最後の力を込めた右拳が玉壺の腹へと放たれ、腹へと深く突き刺さると共にその身体を脆い音を響き渡らなさながら吹き飛ばしていった。
吹き飛ばされた身体は宙を舞いながら次第に落下していき____
ドガシャァァァァァンッ…!!!!
半天狗と交戦する炭治郎達のいる瓦礫の海へと落下した。
天一郎情報その21→キレると手がつけられない