走り続けて30分。何十個もの山を超えた天一郎はカラスの案内の元、遂に那谷蜘蛛山まで到達した。
それから那谷蜘蛛山の中へと入っていくと、既に到着していた後藤と合流する。
「あ!後藤さん。お待たせしました!」
「おぅ悪いな遠いところ。十二鬼月は途中に駆けつけた柱の二人に無事に倒されたらしいぜ」
「良かった…では中に入り隊士の方々と合流しましょうか…」
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それから山の中へと入ると、事後処理を行うための作業が開始される。
「な…!!」
山の中を散策する中、林の中から見えてきた光景を目にした後藤は思わず口に手を当ててしまった。見れば周囲には糸のようなものが張り巡らされており、その周辺にはバラバラに切り刻まれた隊士達の姿があった。
「コイツはひでぇや…これが十二鬼月か…惨い事しやがるぜ…」
後藤だけではない。他の隠の皆もあまりにもの惨状に見るに耐えないのか、吐き出してしまいそうな者もいた。
だが
一番前でその光景を見ていた天一郎は違う。
「後藤さん、そして皆さんも落ち着いてください。幸いにも見つけられただけで何よりです。全て回収して、ちゃんと送ってあげましょう」
悲しみに暮れる事もなく、目の前の状況を受け入れ、ただ冷静に手袋を装着したのだった。
「では、早速作業を始めましょうか。ここからは我々の仕事です」
◇◇◇◇◇◇◇
その後 周囲に倒れている隊士達を優先的に運び出し、治療を行っていった。今回の闘いが激しかったのか、死体の数がいつもよりも数倍以上も多くあり、皆の精神を削って行った。
隠は処理の際に死体も運ばなければならないために肉体的よりも精神的に負荷が掛かりやすい仕事なのだ。
「……」
皆が隊士達を搬送する中、天一郎は目の前で身体を真っ二つにされ息絶えている女性隊士を見つめながら手を合わせた。
「お疲れ様です…我々の為にありがとうございました…」
彼女の魂が天に届く事を祈るかの様に。天一郎は彼女へと労いの言葉を掛けると、その遺体を優しく持ち上げて、遺体を置く場所へと静かに寝かせた。
「ゆっくり休んでください…」
それから天一郎達は作業を進めていった。今回は十二鬼月が相手であったためか、特殊な能力『血鬼術』によって姿を変えられてしまった隊士達もいるらしく、それらの保護も行なっていた。
そんな中であった。
「ぎゃぁああ!?何だコイツ!?」
遠くから隠の叫び声が聞こえてきた。
「どうしました!?」
「猪が…猪が縛り付けられてるんです!!」
「え?」
言葉の意味が分からず首を傾げる中、また別の場所からも声が聞こえてきた。
_____走れ禰豆子ぉおー!!!逃げろ!!早く逃げろぉ!!
「禰豆子…?え?今の声…だれ?」
その声は先程よりも近い場所から聞こえた為に天一郎の意識は自然とその声の方へと向く。
すると
タタタタ
暗闇の中から自身の腰までの背丈を持つ小さな少女が現れた。
「え…?」
その少女を見た天一郎は首を傾げて思わず見つめてしまう。見る限り隊服を纏っていない為に一般人であると思われるが、こんな所になぜいるのだろうと不思議に思ってしまう。
だが、その一方で現れた少女は天一郎に向かって走ってきていた。
「えっと君は…誰?あとその口に咥えてるのって竹…?」
「フガ?」
自身の元へと駆け寄ってきた少女へと詳細を尋ねようと天一郎はその場に彼女と目線を合わせる様に抱え込んだ。
その時であった。
少女の来た暗闇の中から、洋風な隊服を纏った女性隊士が現れ、此方に走ってきた。
「えぇ!?ちょな…!?」
それを見た天一郎が驚く一方で、小さな少女は隠れる様にして天一郎の背後に回り込んだ。
すると それを後から追ってきた女性隊士は虚な瞳を向けながら自身に刀を向けた。
「…鬼を庇うの?」
「ひぃ!!」
静かで透き通る様な不思議な声色で問い掛けてくる女性隊士に天一郎は恐怖のあまり怯えながらも首を横に振りながら答えた。
「これは違います!!それにこの子はただの一般人ですよ!?」
「何言ってるの?ただの鬼でしょ?邪魔するなら斬る」
「終わった…」
そんな中であった。
「……ん?」
此方を見つめていた少女の目が突然と変わり、向けていた刀を下げると見つめてきた。
「えっと……何か…?」
見つめられていた天一郎は切られる覚悟を決めながらゆっくりと問い掛ける。すると、その女性隊士は首を傾げながら答えた。
「貴方……前に見た事…ある」
「え?」
唐突に女性隊士から出た言葉に天一郎は首を傾げる。
「い…いや!!見間違えじゃ…」
「一度見たものは忘れない。貴方のその死んだ魚の様な目…覚えてる」
「えぇ…?」
女性隊士の言葉に天一郎はもう訳が分からずどうしたら良いのか分からなくなってしまった。
そんな時であった。
「伝令!!伝令アリー!!炭治郎、禰豆子ヲ拘束!本部ヘ連レテ帰レ!炭治郎額ニ傷アリ!竹ヲ噛ンダ鬼 禰豆子!!」
空中から伝令係である鎹烏の声がその場に響き、自身に剣を向けていた女性隊士の殺気が解けた。
「は…はうあ〜…」
そして 殺気が解けると共に全身を縛り付けていた緊張が解けた事で天一郎はその場に膝を突き、女性隊士も天一郎の背後についていた少女に目を向けていた。
「貴方…禰豆子…?」
「フガ」
その後、天一郎は後藤と共に呼び出しを受け、後の始末を他の隠へと任せると、後から来た柱達と共に本部へと向かうのだった。
その際に蟲柱と記される柱の少女から鋭い視線を送られていたのはまた別の話である。
天次郎 情報その2
→仕事の時は別人