「合同訓練が始まるぜぇ!!!」
窓ガラスを破りながら炭治郎の寝室へと突入してきた伊之助の叫んだその言葉は、炭治郎や同じ寝室で寝ていた玄弥達の首を傾げさせた。
『柱稽古』
それは今まで継子にしか稽古をつけなかった柱が来たる無惨達との決戦に向けて一人一人が隊士全員に稽古をつけるモノであった。
まず引退した天元の下で熱血肉体訓練を行い身体能力を強化。そして次に甘露寺の下で軽い休憩と共に彼女の地獄の柔軟体操によって強化した筋力をなじませるかの如く鍛え上げていく。
その地獄の柔軟訓練を終えたら時透無一郎の下で踏み込み台が壊れるまで打ち込み練習を行い基本的な剣道自体の完成。更に次には蛇柱である『伊黒 小芭内』の住む蛇屋敷にて、やや特殊な障害物が張り巡らされた場所で彼と撃ち合い、無一郎の下で学んだ剣術の応用力を高めていく。
そして ここから先は、彼らとの訓練がまるで天国であるかのように思えてしまう程、過酷さが増していく。
それは風柱『不死川 実弥』と炎柱『煉獄 杏寿郎』の二人と連続の撃ち合いである。
特に実弥は鬼殺隊の中でも最も凶暴な男であるため、その訓練はまさに地獄と呼ぶに相応しく、普段彼と合わない隊士達もこの訓練を経て柱の強さのみならず彼の恐ろしさをその身を持って知ることになるだろう。
そして、そんな彼らとの過酷な訓練を終えた最後に待ち受けているのは鬼殺隊の柱の中でも古株であり最強の実力を持つ大男【岩柱】『悲鳴嶼 行冥』による精神と肉体の双方を鍛え上げる訓練である。
以上が此度の柱稽古の内容だ。
だが、そうなれば鬼が出た時に対処できないのではないのか?否、その心配はない。禰豆子が太陽を克服してから鬼の出現がピタリと止んでおり現在は何の被害も報告されていないと言う。
それは誠に良いことだが、裏を返せば嵐の前の静けさとも取れるだろう。
故に油断など許されない。隊士達は強くなるために柱達の訓練に参加するのであった。
因みに提案を出される際に岩柱である悲鳴嶼が招いた“ある人物”による訓練の追加が彼によって挙げられていたが、その人物が話した訓練の内容が想像を絶する程にまで危険であるために満場一致で却下されたのはまた別の話である。
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そんな中で、天一郎は後藤と共に大きな荷物を背負いながら屋敷へと向かっていた。
剣士達が柱稽古に参加している間、彼らが所属する『隠』の業務は鍛錬の補助である。何日も何日も行われる訓練に向かう隊士達のための食事や訓練によって身体を壊した隊士達の運搬、そして稽古道具の用意など、それぞれの訓練場に一定数の隠達が配置され役目をこなすこととなる。
その中で天一郎は後藤と共に長期に渡り所属してきた為に各屋敷を一定時間見回り、隠達が無事に業務を行えているかの確認や人手不足の報告などの管理を担っていた。
そんな彼らの最初の役目は訓練が始まる前の器具の用意である。
因みに彼らが今いるのは甘露寺が住む恋屋敷であり、彼女の家柄なのか、やや西洋の文化が取り入れられていた。
「恋柱様、頼まれていた訓練着をお持ちしました〜」
「わぁ!ありがとう〜!あ、そうだ二人とも!パンケーキ食べてかない!?」
「ぱ……パンケ?」
「何ですかそれ?」
それから器具の用意を終えた天一郎は次なる屋敷へと向かった。因みに彼女から振る舞われたパンケーキを食べた天一郎は感動のあまり涙を流して彼女に作り方を教わったのはまた別の話である。
そして次に来たのは煉獄が住まう炎屋敷
「おぉ!上坂殿!後藤殿!よくぞ来てくれた!父上と弟が出かけているゆえに俺一人だが、気にせずくつろいでくれ!!」
出迎えた杏寿郎は片目に眼帯をつけながらも相変わらず元気溌剌であり既に鍛錬を行なっていたのか上裸となっていた。
「おや?もう訓練を?」
「うむ!隊士達に強くなってもらう為にも俺たちがそれを成す強さと技術を持たねばならんからな!」
そう言い杏寿郎は自慢の筋肉を強調するべく腕を握り締めながら空に掲げた。
「それじゃ気合が入ってる炎柱様に応える為、早速準備に取り掛かりますか」
「そうだな」
「よろしく頼む!ではまずここに______」
それから天一郎と後藤は後からやってきた隠達と共に煉獄から出された指示通りに器具を設置していった。
このようにして、天一郎は後藤やその他のリーダー格の隠達と共に器具を用意したり、訓練の状況や器具の用意や不備の点検などを確認したり指示したりするのだ。
「そうだ上坂殿!これから俺と組み手を__」
「はい撤収〜!!」
器具の設置を終えた天一郎はそそくさと仲間達と共に次の場所へと向かうのであった。
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そして、最後に来た場所は
「ここですか?」
「あぁ」
【蛇柱】『伊黒 小芭内』が住まう屋敷であり、場所はその屋敷の道場だ。
手入れがこまめに施されているのか綺麗な道場にて、天一郎は伊黒の指示の元、次々と道具を設置していった。
それからしばらくして。
「よいっしょと…これで全部ですかね。では、私はこの辺で」
全ての道具を準備し終えた天一郎は額についた汗を拭うと、次の場所へと向かおうとした。
その時であった。
「待て」
「え…?」
突然と伊黒の呼び止める声が後ろから聞こえ、天一郎は立ち止まりながらゆっくりと振り向いた。
その瞬間
「…ッ!!!!」
突然と目の前に伊黒の姿が現れ、天一郎の顔目掛けて木刀を振り回した。
「危な!?」
振り回されたその木刀を天一郎は頭を下げる形で回避すると、その場から一瞬にして伊黒から離れた。
「何するんですか!?危ないじゃないですか!!」
「……やはり。甘露寺の言っていたのは間違いないか」
「へ?」
伊黒の溢した言葉に天一郎は目を点にし首を傾げると伊黒は答えた。
「お前には確かに鬼に対抗する為の力がある…だが、なぜ刀を握らない…?なぜ剣士にならない…?」
「い…いや…別に力があっても刀を操る技術が無かったので……」
「嘘だな。技術もない奴が俺の軌道を見切れる筈がない。俺は今、本気でお前に当てようとしたがお前はまるでそれを見切っていたかのように避けていた。なぜだ?なぜ剣士にならず隠を選んだ…?」
「いや…なぜと言われましても…」
伊黒の言葉に天一郎はどう答えたら良いか分からず困惑する。
すると、伊黒は構えていた棒を下げる。
「お前、甘露寺を上弦から救ったらしいな」
「え?上弦…?いや…私が相手にしていたのは成熟しきってない子供の鬼ですが…」
「…!!」
その発言を聞いた直後、伊黒は目の色を変えると天一郎へと詰め寄った。
「そういう所が腹立つんだよ!!いいか!前までお前の強さを信じられていなかった俺が言うのも何だがな!貴様は強い!!甘露寺が言うのだから間違いはない!!いい加減自分でも自覚しろ!!」
「えええ!?そんな私なんて…」
「ふん…!!!」
その瞬間 再び伊黒の手に木刀が握りしめられると、まるで蛇のように唸る太刀筋で天一郎へと向かっていった。
「のわぁ!?」
だが、それすらも天一郎は避けてしまった。
「ち…ちょっと!!さっきから横暴ですよ!?」
「知るか!!さっさと次の持ち場に行け!!」
「そんな……酷い!!もう知らない!!」
「どこの乙女だ!?」
その後、伊黒との関係はギクシャクしたまま別れる事となり、天一郎は相当ショックだったのか乙女のように涙を残しながらその場を後にするのであった。
そして、訓練の準備が整った事で柱稽古が幕を開けるのであった。