『産屋敷 輝利哉』
病気によって後先短い父に変わり幼くして新たなる産屋敷当主となった少年。
当主となった彼を筆頭に妹のかなた、くいなに加えて姉のにちか、ひなきの5人は無限城内を飛び回る鎹鴉達の目を借りて無限城内の地図の制作を行っていた。
「鴉達にもっと行動範囲を広げるように指示して」
「はい」
「上弦と対峙しているのは?」
「上弦ノ弍とは竈門隊士、炎柱様、水柱様が、上弦ノ陸とは我妻隊士が交戦中です」
そんな中であった。
「上弦ノ壱が動き出しました」
「…!?一番近くにいる隊士は?」
かなたからの言葉に輝利哉は驚くもすぐに冷静になると彼女に尋ねる。すると、彼女は答えた。
「十数名の鬼と対峙している“隠”の上坂隊士です」
◇◇◇◇◇◇
数年ぶりにみるその顔と、変貌ぶりに天一郎は驚いてしまった。
「無惨に攫われた皆!?どうしたんだその姿は!それじゃまるで化け物じゃないか!?」
「「「「お前にだけは言われたくねぇんだよッ!!!」」」」
「おのれ無惨めぇ…よくも私の戦友をこんな姿に!!待ってろ!!いま助ける!!」
「誰が戦友だぁ!?」
「構わねぇ!やっちまえ!!」
その言葉と共に鬼となった元陸軍兵士達は天一郎へと向かうと彼の周囲から次々と攻撃を加え始めた。
「こんだけで恨みが晴らせると思うなよ!?」
「テメェだけは何回ぶっ殺しても足りねぇぜ!!分かってんのかぁオイ!?」
「お前のせいで俺達がどんなに辛かった分かるかぁ!?テメェがちゃんと死んどきゃ俺達は帰還できて昇進してたのによぉ!!!
「そうだそうだぁ!!これっぽっちじゃ終わらねぇぞぉ!!俺達が受けた苦しみを倍にして返してやらぁ!!!」
そう言い天一郎のかつての同期達は恨み辛みを叫びながら次々と天一郎へと攻撃を加えていく。その拳や蹴りの速度は一人一人が無惨から与えられた血の量が多いのかとても高く周囲へと次々と鈍い音を響き渡らせていった。
だが、そんな彼らに殴られていた天一郎は
「そんな……鬼化は優しい皆の心までも…穢してしまうのか…」
「「「「「は?」」」」
全く180度違う解釈を起こしていた。
「い…いや…俺達は元々お前が大嫌いで…」
「そんな事はない!!戦地で私が眠っていた時もナイフで私の顔を掠る位置で刺すように起こしてくれた事を覚えていないのか!?あのお陰で私は皆からたとえ陣地だろうと危険地帯で睡眠は命取りである事を学んだんだ!」
そう言い天一郎はあの日を思い出すかのように語り始める。
「更に疲れた私に精をつけるために特殊な味の食料を振る舞ってくれた!敵陣に突入して…誘き寄せるために皆は散り散りになってくれた!!どれもこれも私のためを思ってくれた行動によるものじゃないか!」
「思い出せば思い出すほど殺意が湧き上がってくんだよ!!不意打ちも毒も囮も効かねぇしよぉ!!!」
「何が特攻部隊だぁ!!ただの身代わりじゃねぇか!!隊長が死ねば即帰還のはずが、テメェは銃に打たれようと刺されようと毒を盛っても死なねぇし!!おかげで俺達は少数で敵陣に突っ込むことになっちまったんだぞ!!!」
「それにテメェ!俺の分の食糧まで食いやがっただろ!」
「だからテメェは今日ここで殺す!!無惨の野郎の血で強くなった俺達の力でここで______」
鬼となった兵士達は次々と真心を込めた恨み辛みを天一郎へとぶつけていく。だが、
「必ず助けるからな皆ぁああ!!!私を信じろぉお!!!」
______全く彼の耳に届いてなどいなかった。
「ちがぁぁぁう!!!全然ちがうわぁ!!」
「コイツ全然変わってねぇ!!全く話が通じねぇじゃねぇかぁあ!!!」
「しかもさっきから攻撃してんのに傷一つついてねぇ!!どうなってんだよちくしょぉぉぉ!!!」
その時であった。
「一つ教えよう。若き戦士よ…」
「!?」
背後から巨大な影と共に6つの光が輝いた。
「貴様がどう足掻こうと…あの方によって鬼となった者を元に戻すことなど…逃れ者の薬を用いぬ限り不可能だ」
その声が響いたと同時に天一郎が振り向いたその瞬間___
_____巨大な一閃が輝き天一郎の身体に一筋の切り傷が刻まれた。
「猗窩座や童磨をあしらったと聞いて来てみれば…私の剣速には対応出来なかったようだな」
天一郎を切りつけた正体は彼の背後に立っていた。
【上弦ノ壱】『黒死牟』
何百年と続く十二鬼月の上弦の中でも頂点に立ち続けている歴戦の鬼であり、無惨に次ぐ強さを持つ鬼だ。
そんな彼は刀に染みついた血を振り払うと鞘へと仕舞う。
「あとは任せたぞ。私は他の隊士達を仕留めに向かう」
それだけ告げるとその先へと歩いていく。
「す…すげぇ…」
「これが…『上弦ノ壱』の力かよ…」
あの天一郎を彼が気づくこともなく一瞬にして一撃を加えた力に元軍人の皆は唖然としていた。
その一方で。
「…(此奴らも無惨様から猗窩座と差して変わらぬ量の血を与えられし者…その集団からの攻撃をたった一人で傷一つ負うこともなく受け止めた男が…この程度で傷を負うものなのか…?)」
黒死牟は違和感を感じており、己の刀を握り締めながら彼への攻撃に対して不審を募らせていた。
その時であった。
「コイツまだ立ち上がるぞ!?」
「む…?」
背後から軍人達の騒ぐ声が聞こえ、黒死牟が振り向くとそこには血溜まりの中、立ち上がる天一郎の姿があった。
「私の一太刀を受けて立ち上がるか…」
「ふふ…妙ですね…いつもは見るだけで震え上がる程怖い鬼が…とても哀れに見えてきます…どうやら貴方も鬼となり心が汚れてしまったようですね」
「何だと…?」
天一郎の言葉に黒死牟は立ち止まり刀に手を掛ける。
「軽はずみな物言いをしてくれるな。私は本心からあの方に仕えている。今もこうして貴様ら鬼殺隊を斬り捨てる事に何の迷いもない」
「そう言っている人ほど、何か大切なものを抱えて押し込んでいるんですよね。もしくは…_____
_______それを探しているとか」
「…!!」
その言葉を聞いた瞬間 黒死牟の脳裏に何かが思い浮かぶ。それは、長きに渡る無惨に仕えてきた時間の中で忘れ去っていた“弟”の記憶であった。
「どうしました?昔の記憶でも思い出し____」
「黙れ」
黒死牟の姿が消えると一瞬にして天一郎の前に現れ、彼の首目掛けて刀を振り回した。
「貴様の話を聞いていると虫唾が走る…!!」
だが
「ふん…!!!」
「なに!?」
その振り回しを天一郎は掴む形で止める。
「ほら。本来なら私の身体を両断できる程の力があるのにこうして受け止められてしまう…それは後ろにいる私の戦友と同じく…まだ人を傷つける事に葛藤があるんですよ。即ち貴方達はまだ人間でもあるんです」
「違うわボケッ!!!」
「さっきから全力でやってんだよぉ!!!」
天一郎の言葉に対して彼の同期達は反対の声を叫んでいる一方で、黒死牟の刀を受け止めていた天一郎は黒死牟へと鋭い目を向ける。
「貴方先程、人間に戻れないと言っていましたが…それは違うッ!!!心が少しでも人間ならばそれはもう立派な人間だッ!!!!」
その言葉と共に天一郎の拳へと力が込められる。
「オラァ!!」
「な…」
すると、金属音と共に握り締められていた黒死牟の刀が折れた。
そして、黒死牟の刀をへし折った天一郎は鋭くも信念の宿る目を向ける。
「私は諦めない…必ずこの手で…共に戦場を生き抜いたかつての戦友達を救ってみせるッ!!!友情に不可能などないッ!!!」
その叫び声は静かにその場に響き渡っていったのであった。
「ちくしょおおお!!良いこと言ってる風だが全然分かってねぇ!!」
「あと俺ら戦友じゃねぇよ!!」
「勝手に友達にすんじゃねぇえ!!!」
そんな中であった。
「そうか…」
天一郎の言葉を耳にした黒死牟は俯くとゆっくり刀の塚を握り締めた。すると、折れた刀が形を変えると元の長さへと戻っていく。
「ならばやってみせろ」
_______月の呼吸 陸ノ型 『常夜孤月・無間』
その瞬間 黒死牟の刀が縦横無尽に振り回されると共に彼の刀が振り払われた軌道から月の様な欠片が次々と溢れ出し天一郎や、その周囲へと放たれた。
「おい黒死牟テメェ!!俺らまで殺す気かぁ!?」
「心配無用。たとえ切れたとしてもすぐに再生する。当たりどころが悪くなければな」
背後から響く軍人たちの声に黒死牟は淡々と答えながら天一郎へと目を向ける。
その一方で、黒死牟の攻撃が向かってくる中、元軍人である彼らは天一郎の手足へとしがみついていた。
「おい俺らはすぐに再生するんだ!!サッサとコイツの手足を__ぐへぇ!?」
「危なぁい!!!!」
すると、突如として天一郎の腕や足が動き出し、しがみついていた彼らを左右へと吹き飛ばした。
「ホォオオオ…」
そして、天一郎は呼吸と共に足の位置を変えると共に拳を構え______
__________向かってくる月の刃を次々と殴り飛ばしていった。
「「「「「「なにぃいいいいいい!?」」」」」」
その場に驚きの声が響き渡る中、黒死牟自身も己の血鬼術により進化した技を捌かれている光景を目にした事で驚いていた。
「ほぅ?それが現代における武術か。私の技を素手で捌くとはな…」
「一振りでこんな刃物を投げるなんて物騒な技ですね!!私の背後には大切な仲間がいるんです!!絶対に手を出させはしませんよ!!」
そう言い天一郎は向かってくる月の刃を全て殴り飛ばす形で捌いていった。
そんな中であった。
天一郎の防いでいた刃は無理に軌道を変えられた事で____
____背後に立っていた天一郎のかつての仲間たちへと向きを変えてしまった。
「「「「「あ」」」」」
気づいた時にはもう遅い。
その月の刃は次々と軍人たちへと降り注ぎその身体を切り刻んでいく。
「「「「「「ぎゃああああ!!!!」」」」」」
「しまった!?巻き込んでしまった…!!」
その悲鳴を耳にした天一郎はようやく最後の一発を捌き終え、すぐさま振り向くとそこにはバラバラに切り刻まれ、無惨な姿となった皆の姿が広がっていた。
「そ…そんな…!!!」
それを見た天一郎は涙を流しながらその場に崩れ落ちた。
「皆ぁあああ!!!!うわぁああああああ!!!」
その一方で、
その光景を後ろから見つめていた黒死牟は己の刀をしばらく見つめると鞘に仕舞い、歩き出した。
「…」
歩いていく中、彼の頭の中に過ぎるのは先程の天一郎の言葉であった。
『それを探しているとか』
「(違う…違う違う…私はただ無惨様に仕えるのみ…決して葛藤など…探してなど…)」
己の頭の中に別の感情が巻き起こった事で黒死牟は苦悩したまま次の場所へと向かうのであった。
◇◇◇◇◇◇
場所は変わり、自身が弾いた攻撃によってバラバラにされた皆の尸を見つめながら涙を流していた天一郎はゆっくりと立ち上がった。
「皆の犠牲は絶対に無駄になどしない……」
そして 立ち上がった天一郎は彼らを背に涙を拭い歩み始める。
「絶対に無惨を倒してみせる……この戦い…見守っていてくれ…!!」
「「「「「「「(クソが…)」」」」」」」
そう言い天一郎は涙を拭い立ち去るが、背後から彼らの悔しがる声が響き渡っていたのであった。
因みに登場した元軍隊の鬼達は一人一人が猗窩座と同程度の強さで、無意識でありながら無惨の呪いを外しています。