とある隠の奮闘が鬼舞辻無惨を苦悩に落とす。   作:狂骨

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その隠 感謝を

 

 

「目を覚ました…!天一郎さんが目を覚ましたぁぁああ!!!!!」

 

「「「「「「うぉおおおお!!!!!!」」」」」」

 

炭治郎のその叫び声が響き渡ると、それに呼応するかのように見守っていた隊士達の皆が大歓声をあげた。

 

__やったぁあ!!!

 

___無惨を倒したぁあああ!!!!

 

ようやく、長きに渡る闘いに終止符が打たれ、皆は歓喜に満ち溢れるのであった。

 

「終わった…んですか…?」

 

皆が肩を抱き合いながら喜ぶ中、天一郎が自身の手を握り締めるカナエへと尋ねるとカナエは頷いた。

 

「えぇ!終わったんですよ!」

 

「う…うぅ…!!」

その言葉を耳にした天一郎は目元から涙を流し始める。

 

「終わった…終わったよ〜!!父さん!母さん!」

 

 

すると

 

ドサッ

 

煉獄や悲鳴嶼、実弥や伊黒、甘露寺などの柱達が次々と倒れていった。それは炭治郎や善逸達も同じである。

 

「皆さん!大丈夫ですか!?」

 

それを見た天一郎が声を上げると、膝をついた悲鳴嶼は息を切らしながら答えた。

 

「はぁ…はぁ…すまないな…珠世殿の薬の副作用か、身体が凄く重いのだ…」

 

「そういや…無惨の野郎と戦ってた時も薬で無理矢理回復させて動いてたもんな…」

 

「なんですって…!?」

 

悲鳴嶼も実弥の言葉に、天一郎は驚く。

 

 

すると

 

「皆ぁああああ!!!ここからは私達の出番ですよぉおー!!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

ボロボロな身体であるにも関わらずアッサリと立ち上がると、皆へと呼び掛けた。その姿を見た柱達は驚きのあまり目を点にさせるが、そうしている合間にも立ち上がった天一郎は呼び掛けた隠達へと次々と指示を出し始めていく。

 

「医療班は柱や隊士達の軌道確保!あとは台車など見つけてください!!残りの半分はこの場の工作を!半分は私と共に台車に隊士の方々を積んで蝶屋敷へ運び込みます!時間は有限です!特に隊士の方々の救命を優先的に!」

 

「お…おい!お前疲れてるだろ!?休んでろよ!!」

 

「うるせぇえ!!!私ら隠がやらずして誰が皆を助けるのですか!」

 

それを見た後藤が、休憩するよう訴えるも天一郎は首を横に振ると、手をパンパンと叩く。

 

「ほら、ちゃっちゃとやりますよ!!はい!動く!!あと珠世さんと愈史郎さんを運ぶ際は絶対に日の光に当てないように!!」

 

「「「「えぇ…!?」」」」

天一郎の言葉に周囲の隠の皆は動き出し、次々と倒壊した建物の簡易的な修繕や死亡した隊士達の処理、負傷した隊士達の治療を行っていった。

 

「お…おいおい嘘だろ…!?何であんなに元気なんだよ!?」

 

絶対に誰よりも疲れているであろうにも関わらず、他の隠よりもピンピンなその様子に流石の実弥や伊黒などの柱達もドン引きしていた。

 

「無惨よりもしぶといかもな…」

 

実弥のその言葉に皆も頷くのであった。

 

すると

 

「〜!!この分からず屋!」

 

それを見ていたしのぶは頬を膨らませながら立ち上がると、天一郎へと向かい彼の肩を掴んだ。

 

「ちょっと!貴方も休んでください!」

 

「いえ。肝心な時に隠の私が寝込んでる訳にはいきません」

 

首を横に振った天一郎はそのまま、スタスタと柱を運ぶために荷車へと向かっていき、それを見たしのぶは頬を膨らませる。

 

「むぅ〜!!」

 

「うふふ。相変わらずね」

 

応じる気のないその様子にカナエは笑みを浮かべる一方で、しのぶは懐から一本の注射器を取り出すと

 

グサっ

 

「え?」

 

天一郎の背中へとブッ刺した。すると、天一郎の身体が硬直しその場に倒れた。

 

ドサッ

 

「なに…すんです…か…」

 

「麻酔薬です。貴方も怪我人ですからね。何が何でも休んでもらいますよ」

 

「な…なんのこれしき……動けない…」

 

天一郎が立ちあがろうと四肢を動かそうと試みるも、その手足はまるで縄で縛られているかのように動かすことができなかった。

 

その様子にしのぶは邪な笑みを浮かべる。

 

「痺れ薬も調合して作ったものです。しばらくは動けないので」

 

「う…うそぉん…隠…なの…に…」

 

しのぶの言葉に悔やみながら天一郎はゆっくりと目を閉じたのであった。

 

それを見たしのぶは咄嗟に後藤に目を向ける。

 

「後藤さん!お願いします!」

 

「うす!!!皆!手分けして運ぶぞ!特にこの体力バカと炭治郎は丁重にな!!」

 

そしてそれを見た後藤は天一郎に代わり指示を出すと皆は大きく返事をしながら仕事へと取り掛かっていったのであった。

 

そんな中、しのぶは運ばれた天一郎を見送ると、自身が打ち込んだ注射器を見つめる。その注射器には既に液体は残っていなかった。

 

「姉さん…こんなちょっとの麻酔薬で眠るのよ…?」

 

「そうね…いつもずっとずっと…私達よりも頑張っていたから…怪我以外で休んでる姿なんて見た事がなかったわ」

 

「天一郎さん…本当に無理してたんだと思う…」

 

ようやく彼も休めるのだと、しのぶとカナエは安堵の息をつくのであった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「……んあ?」

 

目を覚ますと、そこには美しい桜が咲き誇る景色が広がっていた。

 

「ここは…私…死んだのか…?」

 

そんな中であった。

 

「いいや。死んだわけじゃないよ天一郎」

 

「え?」

 

背後から声が聞こえ、振り向くとそこには10人中の10人が振り向くであろう美しい美青年が立っていた。

 

「あ…貴方は」

その顔に天一郎は面影を感じたのか驚きながらもすぐさまその名を呼ぶ。

 

「お館さま!?」

 

「アッハッハ!そうだよ」

 

言い当てられた耀哉は今まで見た事がない程に高らかに笑い声を上げる。

 

「そのお姿は…もしや!病気が!!」

 

「…うん。皆のおかげさ」

 

天一郎からの言葉に一瞬ながら耀哉は少し悲しそうな表情を浮かべるも、すぐに笑みを浮かべる。

 

「それにしても君は凄いな!行冥によると、一番疲れているのに動けたらしいじゃないか」

 

「それは勿論!隠ですから」

 

「違うと思うよ」

 

○◇○◇○◇

 

それから天一郎は耀哉と共にその場に腰を下ろすと、今までの事を語らいあった。天一郎は、カナエ、しのぶ、カナヲと初めて会った縁日の思い出や、後藤と“色々とやらかした思い出”などを。

 

それを聞くたびに耀哉は少年のように手を叩きながら笑った。

 

それから話を終えると、耀哉は空を見上げる。

 

「これで鬼のいない世界になる…皆が安心して寝て暮らせるように…本当に皆には感謝しきれないよ」

 

「そんな。お館様がいたからこそ皆さんも頑張ってこれたのですよ!」

 

「あはは。僕なんか、ただの当主という看板を背負っただけのオッさんさ」

 

そんな中であった。

 

「ねぇ天一郎。カナエやしのぶとはどうかな?」

 

「!?」

 

耀哉からの言葉に天一郎は顔を真っ赤に染めると顔を逸らす。

 

「な…ななな何がでしょう…!?」

 

「カナエの鴉から聞いた話によると、まだ君からお出かけや散歩、夜の誘いも無いと言うじゃないか」

 

「何で知ってんですか!?」

 

「ふふ…私は鬼殺隊のまとめ役だよ?隊士達の事情を知ることも役目の一つさ!」

 

「カッコよく言ってますけど、やってること覗きと変わらないからね!?なにサラッと言ってんの!?」

 

「……で、どうなんだい?」

 

耀哉から問われた天一郎は表情が暗くなり俯いた。

 

「それは…私も分からないんです…。私は鬼のみならず人をたくさん殺しました…こんな手で2人を愛していけるか…愛して良いのかどうか…」

 

そう言い天一郎は自身の両手を見つめる。鬼のみならず、この手で銃剣を握り、人の頭を潰し、爆弾を投げた。

人の血に濡れたこの手であの姉妹をもらって良いのか、幸せにできるのか不安で仕方なかったのだ。

 

それに対して耀哉は答える。

 

「それは君次第だよ。上手く行くも行かないも君次第」

 

「それまぁ…」

 

「だけど、私には君が上手くいかないだなんて思わないなぁ。何度も2人の命を救って最後には皆の命を救って仇を取った。だから君は必ず2人を幸せにできると思うよ。

それに、君は人を殺したというが、それは君自身が『殺したい』と思ったからかな?」

 

「いえ…違います。日本のために戦い、生き残るために殺しました」

 

「そう。そしてそれは君だけじゃない。君の仲間もそれぞれの思いを掲げて戦ったんだ。たとえ殺めたとしても相手も同じだ。命懸けで日本を護った君たち一人一人は英雄であり私は心の底から尊敬しているよ。

 

だからね」

 

すると、耀哉は天一郎の両肩に手を置いた。

 

「自信を持って。過去がどうしても忘れられないならば、行動すれば良い!そして2人も幸せにすれば良い!」

 

「…!」

 

本来ならば、そんな言葉を掛けられても、ただ部外者の綺麗事という印象しか持たないだろう。

だが、耀哉の人間性そして落ち着かせるほどの優しい声色や嘘ひとつない純粋な瞳から発せられたその言葉は不思議と心を落ち着かせると共に心の奥底から2人への好意を思い立たせてくれる。

 

故に天一郎は頷いた。

 

「はい!」

 

「良かった。これで2人の事は心配ないね」

 

その言葉に耀哉は笑みを浮かべる。

 

そして、空を見上げた。

 

「さて、そろそろ“行かないと”ね」

 

「え?」

 

「頑張ってくれた子供達に皆が無事に無惨を討伐してくれた事を伝えにいかないと」

 

「…」

 

その言葉に対して天一郎は、その言葉の意味を理解したのか口元を震わせ、涙を流し始める。

 

「泣かないでよ。無惨を討ち取るにしろ、こうなる運命だったんだ。ここまで来れたのは奇跡みたいなものなんだ」

 

「…分かってますけど…まだ…料理食べさせてないじゃないですか…!!全部!!アイヌやモンゴル人の人から教わった料理!!!」

 

「…」

 

その言葉に耀哉も先程の笑みが消え去り少しばかりか悲しげな表情を浮かべる。

 

「あぁ…食べてみたかったよ。チタタプにルイベ、鹿肉カレーに鯱の竜田揚げ…そして一度は家族や皆で食卓を囲んでみたかった…」

 

耀哉は生まれつき病弱であり、自由に動ける時間もあまり多くは無かった。故に今の柱や隊士どころか、歴代の皆と深く交流する機会はなく、それが心残りなのか、やりたかった事を次々と口にしていく。

 

それでも耀哉は笑みを絶やさなかった。

 

「だからさ。あまねや輝利哉達にたっくさん食べさせてあげて欲しい。あの子達もずっと、楽しみにしているんだ。私…いや、僕からの最後のお願いだ」

 

『最後のお願い』その言葉に天一郎は首を横に振ろうとする。だが、既に耀哉の姿は少しずつだが薄くなっていた。

 

もう運命は変えられない。故に自身の大将である彼からの最後の頼みに天一郎は頷いた。

 

「必ず…!!」

 

「ありがとう」

 

その言葉に耀哉は再び笑みを浮かべると、手を振った。

 

「“じゃあね”天一郎。カナエ達と幸せにね」

 

「お館様も…お疲れ様でした!!!」

 

すると、耀哉の姿が遠ざかっていくと共に目の前の景色が暗闇に包まれた。

 

ーーーーー

ーーー

ー 

 

しばらくして光が差し、いつもの蝶屋敷の天井が映り込んできた。

 

「目が覚めたか?」

 

「後藤さん…」

 

見るとそこには暗い表情を浮かべた後藤の姿があった。

 

 

その後、後藤から聞いた話によると耀哉は天一郎が目を覚ます1時間程前に息を引き取ったようだ。

 

 




あと数話ほどで完結するかも
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