_____ピチョン。
その場に何かが液体へと落ちていく音が浸透しながら響く。大広間らしき空間の中で立っていた猗窩座、そして彼の目の前には他の上弦の鬼達がいた。
『上弦ノ陸 堕姫+α』
『上弦ノ伍 玉壺』
『上弦ノ肆 半天狗』
そして『上弦ノ壱 黒死牟』
更に彼らが見上げている先には、天井に立ちながら実験を繰り返す鬼の首領『鬼舞辻 無惨』の姿があった。
「…」
無惨は、試験管の中にある液体の変化を見つめノートへと書き写しながら何の前触れもなく語る。
「童磨が死んだ。上弦ノ月が欠けた」
「「「「…!!」」」」
その知らせにその場にいた全員は驚きの表情を浮かべた。それもそうだ。上弦ノ弍は上弦の中でも二番目の実力を持つ豪傑である。誰も彼が最初に倒されるとは思わなかっただろう。
誰も喋らない中、無惨は更に続けた。
「妙な隠にやられた。死んだ魚の様な目の奴に。童磨の攻撃が一切効かず、何もかも、肉弾戦で押され、終いには陽の下に晒されて死んだ」
「…!!」
無惨から伝えられた童磨の死に様に、上弦のうち猗窩座は記憶の中で肉弾戦のみ扱う隠を思い出した。
間違いない。あの日、自分を無視して走り去っていった青年だ。
その一方で、無惨は実験記録を書き続けながらあの日、童磨の目を通して見た光景を思い出す。
「最初から童磨が血鬼術を…いや、もうどうでもいい」
その言葉に周囲は沈黙に包まれた。
その瞬間
巨大な殺気と威圧感が異空間全体を揺らした。
「「「…!!」」」
「ひぃい…!!」
その殺気は十二鬼月たるその場の全ての鬼達を威圧し、猗窩座達は一歩も動く事が出来なかった。
「113年ぶりに上弦がやられて…私は不快の絶頂だ…!!もうお前達を信用しない…!!」
その威圧は完全なる『脅迫』今後、仮にこの様な事態があれば“解体”も覚悟せよという事だ。
「産屋敷邸を見つけるにせよ、柱を葬るにせよ、これからは死に物狂いに動いたほうがいい。私は上弦であるからという理由でお前達を甘やかしすぎたようだ」
その言葉に猗窩座を含めたそのほか全員の上弦はただ跪く事しかできなかった。
「今後は耳飾りの子供並びに童磨を殺したあの隠の男も見つけ次第殺す事を肝に銘じておけ」
その言葉を最後に無惨の姿は襖の奥へと消えていった。
◇◇◇◇◇◇◇
ーーーーーーー
ーーーー
ー
場所は変わり産屋敷邸にて___。
「本当なんです!!信じてください!!」
急遽開かれた柱合会議にて、カナエは今までの冷静な雰囲気を一変させ汗水垂らしながら必死に訴えていた。
内容は勿論、天一郎が上弦ノ弍を倒した事だ。
あの日、上弦ノ弍が討伐された事を鴉を通じて伝えたが、内容が内容で信じられないのか誤報として取られた為に、それに不満を持ったカナエが直に証言するべく、耀哉へと緊急会議を開く事を要求したのだ。
会議が開かれてから、カナエは事の顛末を全て明確に話し、最後に証拠品として、上弦ノ弍の遺品である服や装飾品などを見せた。
だが、誰もその場面を見ていない上に全て鴉からの話故に信じる者は皆無であった。
それもそうだ。何の力も持たない隠は上弦どころか普通の鬼を狩る事すらも危ういのだから。
「いきなり話してぇ事があるって聞いて来てみれば…そんか馬鹿げた話か。信じられる訳ねぇだろ?」
「それはご最もよ!!私だっていまだに信じられないッ!!」
「お…おう…」
雰囲気を一変させたカナエに実弥や他の柱の皆は驚いていたが、彼女の話を信じる素振りは見せなかった。
「なら証拠はあんのか?………服じゃ意味ねぇぞ?オレ達は奴がどんな面か見てねぇんだからよぅ」
「うぅ…」
宇髄の言葉にカナエは証拠品として用意していた上弦ノ弍の衣服を握り締めながら口をモゴモゴとさせる。
「『上弦ノ弍を縛り付け地面に押さえつけながら陽の光の下に晒し討伐』…あぁ可哀想に…鬼を憎むあまり、その鬼が死ぬ幻影が見えようとは…」
「違います!!幻影ではありません!!」
「それに倒したのが隠というのが最も信用ならん。腕力だけなら最低限の呼吸が扱える隊士に何人もいる」
「ですが伊黒さん!!」
「見苦しいぞ胡蝶姉、そんな話、ただのお伽話でしか聞いた事ねぇ」
「うむ!カナエ殿は少し疲れている様だ!休んだ方が良いだろう!!」
「姉さん落ち着いて…」
カナエは何とか伝えようとするも、悲鳴嶼、伊黒と宇髄、煉獄の言葉に何も返せなくなってしまい、しのぶにも宥められた事で引き下がるしかなかった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
柱合会議が終わり、柱の皆はそれぞれの場所へと戻っていった。結局、信じてもらえなかった事に肩を下ろしたカナエはしのぶに付き添われながら渋々、産屋敷邸を去ろうとした。
すると
「カナエ」
突然と耀哉が呼び止めた。
「皆が君の話を全て嘘であると決めつけている訳じゃない。そこは分かって欲しいんだ」
「はい…私も熱が入りすぎてしまい申し訳ありませんでした…。ただ、虚偽の報告ではないんです」
カナエは先程の自身の態度について謝罪すると、再び話は嘘ではない事を主張すると耀哉は優しく頷いた。
「うん。だけど隠は基本的に剣士の補助が仕事だからね。やっぱり皆も信じられないんだよ」
「そうですよね…」
耀哉の言葉にカナエは気を落としてしまう。今回の上弦ノ弍の討伐は隊士達の士気の向上に直結し、更にあの隠に対しての報奨金にも関わる事なので何としてでも皆へと伝えたかったのだ。
だが、それが返って自身の心配をされてしまう形となってしまった。
「どうすれば…」
すると、耀哉は炭治郎の時と同様に信憑性を持たせるための提案をした。
「どうだろう?しばらく彼を柱の皆の任務に同行させてみるのは。やはり直に見た方が皆も納得するよ。試しに君の妹と」
「…!」
その提案にカナエはパァと顔を輝かせた。確かに彼が他の柱と同行し鬼を倒す光景を柱に見せれば、皆は嫌にも信じるだろう。
「良いですね!!是非そうしましょう!!」
「姉さん!?」
その後、カナエからしばらくしのぶの任務に同行するため蝶屋敷で暮らす事を義務付けられた天一郎はその場に倒れたと言う。