【Side楠木晴楓】
Bクラスとの戦いから週末を挟んで月曜日、いよいよ今日はAクラスに宣戦布告をする日である。クラスメイト達は週末にリフレッシュできてるみたいでやる気も十分に感じられる。
俺も週末は有意義に過ごす事ができた、具体的に説明するならイメトレで美波のハル呼びに対する抗体の取得に励んでいた。なので今後はあの様な醜態を晒すことは無い、そう思いたい。
「ちょっとハル? 聞いてるの?」
「っ! な、なんだよ美波、急に声掛けんなよビビるじゃねぇか」
「さっきからずっと呼んでたわよ。坂本がAクラスの様子を見に行くみたいだから皆で行くわよ」
「お、おう了解。サンキュ」
なるべく平静を装いながら、美波にそう返事する。早速イメトレの効果を感じる、先週の俺なら不意の名前呼びでKO確実だっただろう。今では多少ドキリとするくらいである、人間とは日々成長する生き物なのだ。
「まったくぼーっとしちゃって晴楓は、これから大切な戦いがあるってのに、休日気分が抜けてないんじゃない?」
俺が内心で自分を褒めていると、さっきの俺と美波のやり取りを聞いていたであろう明久が、声をかけてきた。バカのくせして偉そうな明久に言い返してやろうと視線を向ける、そこには予想通りの馬鹿面が、予想に反した格好をして立っていた。
具体的に説明するのなら、明久の掌とちゃぶ台の天板がドッキングしてた。
「……おい明久どうしたその手」
思わず文句を言い返すのを忘れて素でそう尋ねる。
「ほら、Bクラスに勝ったから、支給品が木工用ボンドから瞬間接着剤にランクアップしたじゃん?」
「そうだな」
「それで、瞬間接着剤って一瞬でくっつくじゃん?」
「そうだな」
「つまりそう言う事だよ晴楓」
「まったく意味はわからんが、とにかく何時ものヤツって事だけは理解したわ」
「流石、吉井よね……」
隣の美波もドン引きした声を漏らしていた。
おそらくは、先日のBクラス戦で教室を荒らされた際に折れてしまったちゃぶ台の足を直そうとした結果だろう。そしたらどうしてちゃぶ台と一心同体になるのか謎すぎるけど、明久ならそうなるかと全力で思うことにした。
「まったく、ちゃぶ台野郎は放っておいてさっさとAクラスに行くぞ」
「……明久を待ってると、日が暮れる」
「そうじゃのう、時間は有限じゃ」
「誰がちゃぶ台野郎だ!」
「だ、大丈夫ですか? 吉井君」
騒ぐ明久を無視して教室から出て行こうとする雄二とそれに続くムッツリーニと秀吉、唯一姫路だけが明久を気遣ってオロオロと視線を泳がせているが、それ以外のヤツはただ薄情だった。
「それ、引っ張っても外せねぇのか明久」
「さっきからやってるよぉ! ふんぬぅ!!」
「何やってんだか……」
呆れてものも言えないが、しかしこのまま放置する訳にも行かないだろう。しかし、ここに残ってんのは女子ともやしとバーサーカーの3人。
「なぁバーs……美波が引っ張ったら取れないか?」
「ハル、あんた。ウチの事バーサーカーって呼ぼうとしたのバレてるからね?」
「すいません」
だから指を鳴らすのは辞めてください美波様、鳩尾に視線を向けるの辞めてください美波様。
「まったく、ハルも吉井も相変わらずなんだから」
「おい美波、今俺をこのちゃぶ台マンと一緒くたにしやがったな訂正しろ」
「そうだよ島田さん、ナチュラルクズと一緒だなんて僕に失礼だよ」
「「はぁん!?」」
互いにメンチを切り合う俺と明久、ちゃぶ台と合体するようなバカのくせして、俺よりまともだとでも思っているのならそれは大きな勘違いだ。
俺はクズだけどバカでは無いのだ。クズだけど救いようの無いバカではないのだ!
「せっかく人が助けてやろうってのによぉ、恩知らずな口はこの口か? あぁん!?」
「うるさいよ! 島田さんに凄まれたらすぐ掌クルクルのクズチキンめ!」
「んだとバカがぁ!?」
「やるかぁ!? クズ!!」
ひとまずちゃぶ台で拘束されてる右手を利用して関節を固めてやるか、そう思い行動に移そうとしていると、パンっと柏手の音が響いた。
「はいはい、喧嘩しないの」
「そ、そうですよ、そんな場合じゃないですよ二人とも」
「「…………チィィイッ!!」」
美波と姫路に止められ大きな舌打ちでなんとか矛を収める。くそ、命拾いしたな明久め。
今度絶対にぶっ飛ばしてやると心に決意し、俺は脱線しまくった話を軌道修正する。
「んで、結局美波はこれ剥がせそう?」
「うーん、多分いけるけど」
「けど? この際何でもいいからさっさと剥がして雄二追いかけよーぜ」
いい加減明久の対応に飽きた俺は、首を傾げながら悩む美波を急かすが、しかし美波の気は乗らない様子。
「助けて島田さん! 少し痛いくらいなら我慢する! 君なら出来るはずだ!」
「うん、だから多分剥がす事は出来るけど、そんなにしっかりとくっついてるなら多分手の皮ごと逝っちゃうかも」
「……え゛?」
想像よりもスプラッタな内容に、その様子を想像したのだろう、明久は声を詰まらせ顔色を青く染めた。
そして俺は俺で、人の皮を剥げる宣言をぶちかました美波の腕力に戦慄していた。
「……お前、それ剥げるの?」
「だから剥げるって言ってるじゃない」
何でも無いようにこてんと首を傾げる美波。可愛い仕草とは裏腹に言ってることはバイオレンス。
やっぱお前バーサーカーだよ……。
「……もうそれでいいや、やっちゃえバーサーカー」
「全然良くないよぉ!!?」
「何言ってるんですか楠木くん!? 美波ちゃんも絶対にダメですからね!?」
もう全てが面倒くさくなった俺がそう宣言し、それを必死に止めに入る明久と姫路。そこから再び話が脱線しまくり、結局しびれを切らした雄二が呼びに戻って来て、俺達はようやくAクラスへと向かうことが出来たのだった。
ちなみに明久はちゃぶ台マンのままだった。
◇
【Side吉井明久】
「うわ、金かかってんなぁ」
Aクラスの教室に入るなり、そう呟く晴楓。不躾だけど、晴楓がそう言うのも無理もない、だって巨大なスクリーンに並べられたシステムデスク、支給されたノートパソコンに小型の個人冷蔵庫まであるここはまるで高級ホテルと見間違うほど豪華だった。
僕達はちゃぶ台とペラペラな座布団のみだと言うのに、ここは本当に同じ学校なのか疑問にすら思えてくる格差だ。
そんな豪華すぎるAクラスに驚きを隠せないFクラスの生徒たち。まるで都会に出てきたばかりの田舎者の様なリアクションだ、まったくこれからこの設備をいただく者としての自覚が足りてないんじゃないかな?
「この教室に相応しくなる為には、もっと堂々としないと。僕みたいにね?」
「……堂々とちゃぶ台くっつけてるやつに言われたくない」
「身の程を知れバカが」
そうムッツリーニと晴楓が言ってくるけど、二人とも浮き足立ってるのがバレバレだよ。
「見て見て! フリードリンクにお菓子が食べ放題だってハル!」
「マジか、どんだけ好待遇なんだよ」
その証拠に晴楓はテンションが上がった島田さんに連れられ、一緒に教室内を見学している。
それにしても、お菓子が食べ放題。そう聞いてガッつくなんてはしたない真似はしないよ? 僕はそう心掛けながらスマートに冷静に対応する。
「まったく島田さんも晴楓も、浮ついてちゃ駄目だよ? 足元救われるんだから」
「ポッケぱんぱんにお菓子を詰め込んでる吉井に言われたくないわ」
「つくづく行動と言動が伴わぬのぉ明久は……」
「もういいから黙って座ってろちゃぶ台マン」
「アレぇ!? いつの間にこんなにポケットに!?」
おかしい、スマートに冷静に行動したはずなのに。これだと僕が卑しい貧乏人みたいじゃないか。僕自身の無意識での行動にショックを受けていると、後ろから声がかけられる。
「Fクラスがいったい何の用かしら?」
声のする方を振り返って見ると、そこに立ってたのは女子の制服を着た秀吉。それはとても似合っていて、可愛いかったので、僕は喜びを顕にした。
「秀吉! ようやく本当の自分に目覚めたんだね! そうだよ、おかしいと思ってたんだ秀吉はこんなに可愛いのに!」
「明久よ、儂はこっちじゃ」
「え?」
秀吉の目覚めに喜ぶ僕の前に現れたもう一人の秀吉に、戸惑いの声を上げる。
秀吉が二人?……え? あれ? どうゆうこと?
「木下優子だな?」
僕の頭が処理落ちしてパンクしていると、雄二が女子の制服を着ている秀吉をそう呼んだ。……というか、優子?
「あれ? 秀吉が本当の性別に気がついたんじゃ……」
「何度も言っておるが儂は男、こっちは儂の姉上じゃ」
「不本意ながら、秀吉は私の双子の弟よ」
凛とした態度でそう言った木下さん、見れば見るほど顔付きは秀吉にそっくりだけど、纏ってる雰囲気は全く違った。どちらも美少女だってのは変わらないけどね。
「並んで見るとホントそっくりだよな木下姉弟」
「……っ貴方は、楠木晴楓ね」
先程までの会話を聞いていた晴楓が、僕の隣に立って、秀吉と木下さんを見比べる。すると、木下さんはバッと一歩後ずさり警戒心を顕にしながら晴楓の名前を呼んだ。
まるで不審者にでも会ったかのようなリアクション、またこのクズは僕達の知らぬところでクズムーブをかましたのだろう、そう思い僕は晴楓に白い目を向ける。雄二や秀吉、ムッツリーニ、島田さんまでもが同じ事を思ったのか晴楓を白い目で見ていた。
「オイ何だその失礼すぎる反応と、テメェらの批難の目は、俺は何もしてないぞ」
「嘘だね! どうせ晴楓の事だし、ろくでもない事をしてるに決まってるよ」
「……白状しろ」
「めっちゃ濡れ衣だわ」
「姉上がここまで露骨に人を避けるのは珍しいからのう」
「日頃の行いが悪いからよ、ハル」
「なに味方ゼロなわけ? マジで? どんだけ信頼されてねぇんだよ俺」
そう言って若干しょんぼりとする晴楓だけど、僕達は皆信頼はちゃんとしてる。晴楓はどんな事があってもクズだって信じてるだけだよ。
「で? そんなに警戒されるほど俺何かしたか? 少なくとも木下姉には何もして無いと思うんだけど」
納得いって無いって感じを全面に出しつつ、晴楓は木下さんにそう尋ねる。すると木下さんは、警戒を解かないまま口を開いた。
「先週の放課後、うちのクラスに来客があったのよ」
「おん、で?」
「Bクラスの代表、根本くんだったわ」
「……ん、続けてくれ」
「彼、上半身スカーフのみでミニスカートと網タイツを履いた上に、カウボーイハットでやって来たの」
「……………………」
「さり際に楠木くんのせいだって吐き捨ててたわ」
「うん、ごめん。めっちゃ関与してたわ、そりゃあんな変態野郎送り込んだかも知れない奴警戒するわな」
「やっぱり一枚どころか百枚噛んでやがったなクズめ!」
さっきまでの知らぬ存ぜぬの態度から一転、やっちまったって表情の晴楓。
「というか根本くんも良くそんな格好でAクラスに行けたねっ!?」
「あぁそれな、補習室に連行される時に根本の着替えと無難な服全部隠してたんだよ。だからそれが残った中で一番まともな服だと思うぜ?」
「他のはもっと酷いの!?」
「…………変態仮面のコスプレと葉っぱ一枚だった」
そう言ってムッツリーニは僕達に写真を見せる、そこには根本くんのアラレも無いグラビアが写っていて、全員の気分を害していた。
「やっぱり! うちのクラスにあんな変態よこして何のつもりよ!?」
「一応弁明するなら、あの化け物を作り上げたのは俺だけど。送り込んだの俺じゃない。だから警戒を解いてくれんか?」
「作り上げたってだけで警戒するには十分すぎるわよ!」
そう叫んで木下さんは晴楓から更に距離を取るのだった。
「本当に何をしに来たのよ貴方達! また変態を送りつけて来るんじゃ無いでしょうね!」
「俺達をあのクズと一緒にするな木下、ちゃんとした用事はある」
「いったいどんな用事よ!?」
「──宣戦布告をしに来た」
晴楓のせいでトラウマが造られたっぽい木下さん、このままではいつまで立っても話が進まないので、代表である雄二が本題を切り出した。すると、さっきまでの騒いでいたのが嘘のように、スッと冷静さを取り戻す木下さん。
「どう言うつもり? クラス分けの直後なのにFクラスが試召戦争をしてるのは知ってたけど、マグレで勝ち過ぎちゃって勘違いして無い? ここ、Aクラスなんだけど」
「いいや、間違ってないさ……」
そう言ってニヤリと笑った雄二は、木下さん以外のAクラスの生徒全員に聞こえるように、ゆっくりとハッキリ、声高々に宣言した。
「俺達Fクラスは試召戦争として、Aクラスに代表同士の一騎打ちを申し込む!」
◇
柔らかそうな一人がけ用のソファーに案内され、そこに雄二はドカリと足を組んで座り込む。
向かい合って対面には木下さんが座っていて、こうして僕達の本命の大勝負、Aクラスとの試召戦争の交渉のテーブルは設けられた。
「代表同士の一騎打ち……ねぇ。二年の主席に勝つつもり?」
「当然だろ? そうじゃ無いと宣戦布告なんてしないさ」
「そう、正気とは思えないわ」
「何だ? 負けるのが怖いのか?」
バカにするかの様な雄二のその言葉と態度に、木下さんは不愉快だと言わんばかりに眉を潜める。
「バカにされたものね、そんな安い挑発で私がハイそうですかって一騎打ちを承諾すると思った? リスクは避けるに越したことは無いの」
「流石、懸命だな……」
そう言うと雄二は両肘を膝の上に乗せ、口元で手を組む。一筋縄ではいかない木下さんに、手札を出し惜しみする事を辞めたのだろう。
「しかし、それだとBクラスの連中とやり合って貰うしか無いな」
「ッ! 昨日来てた変態のクラス!?」
Bクラスの名前が出た途端に、心底嫌そうな顔をして動揺する木下さん。半裸ミニスカカウボーイ(網タイツ)姿の根本くんを思い出したのだろう、顔色が真っ青だった。気持ちはとても分かる、あんなのトラウマ不可避だよね。
「あぁ、その変態のクラスだ。まだ正式に宣戦布告を受けて無いみたいだが、さてさて、どうしたものか」
「は、ハッタリよ! BクラスはFクラスとの戦争で負けた、三ヵ月の準備期間を取らない限り試験召喚戦争はできないはず!?」
敗者がすぐに戦争をふっかけて、試召戦争が泥沼状態になる事を防ぐべく、敗者は三ヶ月感の間他のクラスに宣戦布告布告ができないと言うルールがある。当然木下さんもそのルールは知ってたみたいだ。
けど、今回に限ってはそのルールは適用されないんだよね。
「あの戦争は『和平交渉にて終結』と言う事になってる、実情はどうであれな」
「つまり規約には何も問題ないって事ね……」
「そのとおり、ついでに言っておくと、Dクラスも同じだ」
これが雄二がずっと根回ししてきた最大のカード。試召戦争で勝っても設備の交換をしなかった事が、ここに来て芽吹いていた。
「……それ、脅迫よね?」
「人聞きの悪い、ただのお願いだよ」
そう言って笑う雄二の顔は、まるで人を陥れる時の晴楓の様で、誰がどの角度でどう見ても悪人にしか見えなかった。
「…………分かったわ、何企んでるか知らないけど、代表が負けるなんてあり得ないからね。そっちの策略に乗ってあげる」
「ご協力、感謝する」
「条件を呑まないと、更に変態度が増した彼が攻めてくるのは目に見えて分かるからね、あんな変態と戦争なんて、絶対に嫌だもん」
木下さんが疲れた様に呟いたその本心に、他のAクラスの生徒が力強く頷いていた。本当に心労お察しします。
「けど! 代表同士の一騎打ちはダメ。五対五、これが私達の提示する条件よ」
「なるほど、姫路が出てくると警戒してる訳だ」
「そうね、けどそれだけじゃ無いわ」
そう言って木下さんは、晴楓に視線を向ける。いや、もはや睨んでいると言った方が正しいのかもしれない。
「楠木晴楓、彼がこと勝負事に置いて、いかに手段を選ばないかは、直接戦ったことの無い私達の耳にすら入ってきてるわ」
「そうだね、木下さんの警戒は最もだよ」
「なんで敵に同感してんだ明久」
隣で晴楓が不服そうにしているけれど、自分の胸に手を当てて、これまでの悪行を振り返って欲しい。島田さんの影に隠れては敵を煽り、圧倒的戦力差を見せつけては敵を煽り、時には味方を嬉々として裏切り切り捨て、敗者にすらダメ押しとばかりに煽り散らかす。
断言できる、今回の一連の戦争内容を他のクラスが聞いて、一番警戒するのはこのクズだと。
「確かに晴楓のヤツは俺ですら敵に回したくない男だが、安心してくれ、うちからは俺が出る」
「無理ね、その言葉は鵜呑みにできない。これは戦争だし、何より不意をついたり騙したりは彼の十八番でしょ?」
「そうか、ならその条件は呑んでもいい。ただし、勝負の内容はこちらで決めさせてもらう。俺等はFクラスなんだ、そのくらいのハンデはあってもいいはずだろ?」
「…………」
考え込む木下さん、クラスの運命がかかった戦争の事だ、慎重になるのも当然だろう。
正直ここが一番の正念場、姫路さん以外のうちの主力のムッツリーニや晴楓、島田さんは得意教科以外はてんでダメ、晴楓のチート予想を使ってもAクラス相手だと焼け石に水だし、そもそもその教科で戦うのかが分からないからだ。
じっと木下さんの判断を待つ僕達、そんな張り詰めた空気に、突然静かで凛とした声が現れた。
「……受けてもいい」
木下さん隣にいつの間にか立っていたのは、Aクラスの代表、霧島翔子さん。艶やかな黒髪に、透き通るような白い肌、物静かないで立ちも相まって神々しさを感じる。なるほど、学年一の美少女って噂は本当だったんだね。
「……Fクラスの条件、受けてもいい」
「代表!?」
僕達からすれば願ってもない答えだけど、当然木下さんが咎めるように立ち上がった。そんな木下さんをじっと見つめて霧島さんは「大丈夫、優子」と一言。その一言で木下さんは納得して無いのだろうけど、再び椅子に座り込む。
凄いカリスマだ、うちの代表ではとても出来ない芸当だ、彼には頑張ってもゴリラの群れしか率いれられない。
「感謝するぜ、Aクラス代表さん」
「……そちらの条件は受ける。ただし、こちらも条件がある」
「条件?」
「うん」
雄二が警戒しながらそう聞き返すと、霧島さんは、やはり凛とした態度で静かながらはっきりと宣言した。
「……負けたら、なんでもひとつ、言うことを聞く。これが条件」
姫路さんをじっと見つめながらそう言った霧島さんの雰囲気に誰もが呑まれる中、僕は隣のクズが誰にも聞こえないほど小さく「なんでも……だと?」と呟いたのを聞き逃さなかった。
とても嫌な予感がした。
◇
【Side楠木晴楓】
負けたら何でも言うことを聞く、その事をAクラス代表である霧島が宣言した瞬間、俺の脳内で大規模な作戦会議が開かれる事となった。
(取り敢えず弱みを握ればいいと思います! そしたら持続的に言う事を聞かせられるぞ!)
(それじゃ三ヶ月後、試召戦争を仕掛けられて何倍もの仕返しされるのが目に見えている、怨みを買いすぎるのは良くない)
(それなら今後一切のFクラスへの宣戦布告を禁ずるのはどうだ?)
(それだと上振れ要素が無くて面白くないだろ)
この学園で教師に次ぐ権力を持ってると言っても過言ではないAクラスを好きに出来る権利、最大限利用する為にはどうすれば良いか、それを考えるのが俺が楠木晴楓たる由縁だろう。伊達にクズを自他ともに認めて無いのだ。
「…………(カチャカチャ)!!」
「何撮影の準備してるのムッツリーニ!?」
「……霧島、噂、姫路、百合、ここまで語れば分かるだろ」
「だとしても準備が早すぎるよ! というか負ける気しかないじゃん!」
そんな俺とは裏腹に、バカとムッツリが何やら騒いでいる。一部の男子生徒(主にFクラス男子)の間でもっぱら噂の、霧島翔子は女子にしか興味がないと等いう戯言を信じているのだろう。
霧島は男子に興味が無い、もちろん女子にも恋愛的な興味は無い、彼女の意中の相手は今も昔もただ一人だからだ。
「どうすんの雄二」
「……分かった、その条件を呑もう」
「ちょっと待って! そちらにあげる教科の選択権は三つ、それ以上は譲歩出来ないわ。良いわね代表」
「優子がそう言うなら」
そう言って割って入る木下姉、先程彼女自身が言ってたがこれは戦争、相手を侮った奴から死んでいく。その点に関して木下姉は、俺達を最低クラスだと見下しはするが消して侮って居ない。慎重に確実に、勝利の為に思考を巡らせる。流石はAクラス、これは裏を掻くのも大変だ。
「交渉成立だな」
木下姉の態度から引き際を悟った雄二がそう言って立ち上がった。その事に姫路の貞操の危機と勘違いしてる明久が喚く。
「ゆ、雄二! 勝手に! まだ姫路さんが了承して無いじゃないか!」
「心配すんな、姫路に迷惑はかけない」
「何を根拠に!」
「なぁに、勝てばいいだけの話だろ?」
自信満々にそう言う雄二、バカの大将の癖にその自信は何処から湧いてくるのか甚だ謎である。
「……勝負は、いつ?」
「そうだな、明日の午前中でどうだ?」
「……分かった」
そう静かに頷いた霧島、それを確認した雄二は話すことは済んだと立ち上がる。
「撤収だお前たち、教室に戻るぞ」
「はいよ、俺も準備しないとな」
なにせこの戦争の最終目標なんだからな、気合も入るってもんだ。それに勝たなければ、Aクラスの連中に無理難題押し付けれないだろ?
「ほんと、明日の準備で忙しいぜ」
いったいどんな事を命令してやろうか、今から考えるのが忙し過ぎる。時は有限なのだ、俺の言葉の真意に気がついてるっぽい雄二、明久、美波の呆れた視線に構ってる暇はない。
全て無視して俺は明日に向けて思考を巡らすのだった。
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