【Side楠木晴楓】
明日のAクラス戦に備え、一旦教室へと戻ってきた俺達は、早速作戦会議を開いていた。
「明日の戦争は五対五の一騎打ち、絶対に勝ちを掴み取るため、今から明日の作戦を伝える!」
「本当に勝てるの雄二!? 負けたら何でも言う事を聞かないと駄目なんだよ!?」
「まぁ、あれだけの啖呵切ったんだから勝算はあるんだろ? 聞かせろよ」
代表として教卓に立つ雄二に、俺と明久はそう問いかけた。皆がAクラスに勝つ為の策に期待を込めて注目する中、雄二は「順を追って説明する」と言って作戦を説明し始める。
「まず戦う五人だが、うちのクラスからは姫路、康太、明久、晴楓、そして俺が出る」
「妥当な判断じゃのう」
「霧島さんには、姫路さんが当たるんだね」
「いいや、Aクラス代表……翔子とやるのは……この俺だ」
「は? それマジで言ってんの雄二」
「もちろん本気だ」
力強くそう言い放つ雄二、聞き間違いかとすら思ったが、どうやら違うらしい。
初っ端からそんな愚策をドヤ顔で言い放った雄二に、当然の如く明久が噛み付いた。
「バカの雄二に勝てるわけなぁあああぶなぁ!?」
そして噛み付いた矢先に、明久の頬を掠めるカッターナイフ。
「次は耳だ」
犯人はドスの効いた声で明久を脅して黙らせる。その面構えはヤクザのそれだった。
「なるほど、代表自ら捨て駒になるぅうう耳かすったぁあああ!!?」
俺の耳目掛けて投げられたのは、コンパス。
「耳だと言っただろう?」
「ちったぁ躊躇しろやボケェ!! 悪口認識してから投げるまでが脊髄反射の域なんだよ! サイコパスかこの野郎!!」
耳を抑えながら全力で叫ぶ。なんでそんな寸分違わず投擲出来るんだよ! お前ゴリラじゃなくてハンター側かよ!
「まぁ確かに、お前等が無謀だと思うのも分かる。翔子は強い、まともにやり合えば勝ち目は無いだろう。けどそれは今までも同じだ、DクラスもBクラスも、正面から戦えば勝てなかっただろう」
「だから今回も同じだってか? アレは向こうが油断してた結果だけど、霧島は見るからにこちらを侮ったりしないタイプだろうが、付け入るスキなんてない、それこそ致命的な弱点でも知ってない限りな」
学年主席とFクラスの住人では、そもそものステージが違う。例えるならば戦車に歩兵が挑んでいるようなもので、自爆覚悟で突っ込んでも一矢報いる事すら難しい。
しかし、俺がそう指摘しても雄二の態度は依然として自信に満ち溢れており、ニヤリと笑うと続けてこう言った。
「その弱点を、俺が知っているとしたら?」
その一言に、戦前でどこか騒がしかった教室がシンと静まり返り、誰もが雄二に注目する。
勿論俺だって驚いている、霧島翔子といえば眉目秀麗、才色兼備、文武両道、完全無欠の完璧人間というのが、この学校における共通認識。そんな霧島に明確な、試召戦争における弱点だなんてあるのかよ。
「雄二! その弱点って!?」
『あの完璧美少女霧島だぞ!?』
『ちょっとやそっとの弱点じゃ意味ないだろ!』
『さっさと教えろー!』
明久を筆頭に、雄二の次の言葉を急かす。
「 なに、科目の選択権を使って、フィールドを限定してやればいい」
「フィールド……何の教科でやるつもりなのじゃ?」
「日本史だ」
「日本史? 霧島さんって日本史苦手なの?」
「そんなわけ無い……当然学年トップ」
「ムッツリーニの言うとおりだが、内容を小学生レベルのテスト、上限百点満点のものにすれば勝機は十分にある!」
力強くそう宣言する雄二。
確かに試験召喚獣戦争は、召喚獣を用いてはいるものの、本質はあくまで学力を競う戦争。テストを用いた勝負であれば両者の合意と教師が認める限り経緯と手段は不問とされる為、勝負内容には問題はない。しかし、
「両方百点満点ならどうなるんだよ、引き分けか?」
「試召戦争に引き分けは基本無かったはずじゃから、延長戦になるんじゃ無いかのぅ」
「そしたらブランクのある雄二じゃ厳しいよ!」
「おいおい、言っただろう。弱点があるって」
「いい加減もったいぶるのやめろ雄二、コンパス返却すっぞ」
勿論投擲で。
明らかかに人を小馬鹿にしたような態度でそう宣う雄二に、イラッと来た俺は近くに突き刺さったコンパスを引き抜いてそう吐き捨てた。
「そうだな……俺はアイツが確実に間違えるであろう問題を知っている。だからこのやり方で勝負を挑むんだ」
「その問題って?」
「その問題……アイツの弱点は『大化の改新』! その年号の問題がでたなら俺達の勝ちだ!」
雄二は意気揚々とそう語る、まるで自分の策に間違いや不確定要素何て無いみたいに。
まず、その問題が出るかどうかが分からないけれど、事情を知らない者からすれば、それ以上に雄二の言う弱点の情報の真偽の方が疑わしく思うだろう。
皆を代表してか、とても馬鹿だから他の奴らが気づいてないだけかは知らないけれど、おずおずと姫路が手を上げて、雄二に当然すぎる疑問をぶつけた。
「あの、坂本君」
「なんだ? 姫路」
「もしかして霧島さんと……その、仲がいいんですか?」
「あぁ、あいつとは幼馴染だ」
「総員ッ! 構えッ!!」
「なっ! 何故明久の号令で急に皆が上履きを構える!?」
「上履きだけだと思うな雄二! いや、男の敵め! Aクラスの前に貴様を殺すっ! それが我ら──」
『『『我ら異端審問会だッ!!』』』
そうカッターナイフを構えた明久と供に、いつの間にか黒ずくめの組織と成ったクラスメイトが叫ぶ。
当然雄二も叫ぶ「俺が何をしたと!?」って。そしたら当然明久も叫ぶ、「遺言はそれだけか!」と。問答無用、話聞く気ゼロ、弁明の余地なし、あの団体のイカれ具合は俺も身を持って知っている。
「待つんだ須川くん、靴下はまだ早い。それは押さえつけたあとに口に突っ込むんだ」
「了解です隊長」
「こういう時の統率力エグいよなお前ら……」
「そう言う晴楓は参加せんのか? ムッツリーニはボールペンをカチャカチャ鳴らして準備万端のようじゃが」
秀吉が指差す方を見ると、そこには指と指の間にたくさんのボールペンを装備して殺気立つムッツリ野郎の姿が。
正直、俺としては雄二が霧島と幼馴染だったとかどうでもいいのだ、そもそも知ってたし、霧島から色々と聞いてたし。だから別に異端審問会の連中と一緒になって騒ぐ必要も無い。
しかしだ、ここで乗って置かないと後々俺が異端者として吊るし挙げられるかもしれないのが一つ、そもそも雄二の不幸は俺の幸せってのが二つ。
──スチャ
以上二つの理由で楠木晴楓、このサバトに参戦致す。
「おい! なんで晴楓も一緒になってコンパス構えてやがる!?」
「はっ! 説明いるか? ただの便乗だ!」
「このクズがぁ!」
騒ごうが喚こうが狂ったコイツ等は止まらんよ。怨むなら俺じゃなく、不用意に幼馴染とバラした自分を怨むこったな!
「たまにはお前も理不尽を味わいやがれ! はっはっはっ「ねぇハル」……ん? どした美波」
コンパスをくるくる回しながら高笑いしていると、隣にいつの間にかやって来ていた美波から声をかけられる。
「ハルは霧島さんが好みなの?」
「いや別に?」
俺の中での霧島のイメージはまさに大和撫子。美人だとは思うけれど、全くもって俺のタイプでは無い、俺は明るく揶揄うと面白い反応をする女が好みだ。
俺がそう答えると、美波は「……そう」と一言だけ呟いてホッと息を吐く。なんだかよく分からんが、正しい回答だったらしい、良かった。
「あの、吉井君はどうなんですか? 霧島さんが好みなんですか?」
「そりゃ、まぁ、美人だし」
「………………」
「え? 何で姫路さんは僕に向かって攻撃体制を取るの!? その手に持った辞書は何!?」
そして、明久の奴は間違えた回答だったらしい。ピンクの髪を逆立てた姫路から今にも分厚い辞書を叩きつけられそうになっていた。
と言うか姫路よ、お前はFクラスに馴染み過ぎだろ、その辞書どこから出したよ? 俺はFFF団と同じ殺意の籠もった姫路の目を見てそう思った。
雄二を狙う明久を狙う姫路、そんな混沌とした状況に待ったをかけるのは、うちのクラスの数少ない常識人枠の木下秀吉だった。
「落ち着くのじゃ皆の衆。相手はあの霧島、幼馴染とはいえ男に興味があるとは思えん」
『そう言われればそうか』
『霧島は百合属性だったよな』
「……命拾いしたな、雄二」
渋々ながらも武装解除していく面々、雄二はクソでかい溜め息を吐いく。
「はぁああ……とにかく! 俺と翔子は幼馴染で、俺が昔間違えた答えを教えてしまったんだ。あいつは一度覚えた事は絶対に忘れない!」
「間違いないんだな雄二?」
「あぁ! 俺はそれを利用して翔子に勝つ! 目指すは──」
「Aクラスの設備だ!」
◇
明日のミーティングも終わり放課後、俺と美波は例の如く一緒に帰路を歩いていた。二年生になってまだ数日だが、一緒に帰るのが当たり前になってきている気がする。まぁ、体力ゴミカスの俺としては隣にいつでも介護してくれる人が居るのはとても有り難い。
「いよいよ明日ね、頑張りなさいよハル!」
「まぁ俺が負けても、選択権持ってる姫路と康太と雄二で三勝は堅いからな、程々にやるさ」
「何よだらしないわね、こう、俺に任せとけくらい言えば良いのに」
「はっ! Bクラス戦では頑張って点数取ったけど結局自爆したじゃん? やっぱ博打の神様は余裕がある舐め腐った人間には何も下さらないんだよ」
だから今後は初心を思い出し、常に一発逆転を目指して低得点で挑みたい所存です。ギリギリでいつも生きていたいから。
しかし、そんな俺の決意が気に入らない様子の美波。
「はぁ、ハルったら相変わらずのクズっぷりね」
「褒めんなよ」
「褒めてないわよ全く。もう、それで明日全力出さなかったら折るわよ?」
「お、折るってまさか、指?」
「いいえ、背骨よ」
「……我がクラスの勝利の為に全力を尽くしたいと思います」
傅き、俺は冷や汗ダラダラでそう美波に誓う。発想が怖ぇわ、折るにしても一番ダメな所を折ろうとしてやがる。すいません博打の神様、俺はバーサーカーの脅迫に抗えませんでした。
そんな感じでいつもの様にコントをしながら帰っていると、校門の影から現れる一人の黒髪少女。Aクラス代表、明日のラスボス霧島翔子である。さっさと帰って休みたかった俺は、溜め息を吐いた。
「この前の根本といい、放課後に敵クラス代表とよく遭遇するのなんでなん?」
「……楠木、ちょっと良い?」
「だいたい何の話かは予想つくけど、手短にな。俺は早く帰りたい」
「分かった」
コクリと頷き、歩き出す霧島。校門の近くだと人通りも少なくないからな、歩きながら話すのだろう。
早く終わらせたい為、素直に付いて行こうとする俺だったが、裾をクイッと引っ張られ振り返る。俺と霧島のやり取りに完全に置いてかれていた美波が、少し不機嫌そうに俺を見上げていた。
「霧島さんと、知り合いだったの?」
「ん、まぁな」
それは今から半年ほど前、上から目線で偉そうな邪智傍若のゴリラを除かねばならぬと、俺が奴の弱みを探すために身辺を洗いざらい調べていた時の事である。
『……雄二の事、調べてるの?』
『そだけど。え? なに? なんでスタンガン持ってんの? なにバチバチ言わせてんの!?』
『雄二は渡さない』
『は!? なんの事!?』
『とぼけないで……雄二の事好きなんでしょ?』
『はぁあああああ!? ふざけんな勘違い甚だしいわ!!』
唐突に現れた勘違い黒髪少女、もとい霧島翔子にスタンガンで襲われる俺。これが俺と霧島のファーストコンタクト及び、俺が雄二と霧島の関係を知る事になった事件。
その後、スタンガンの脅威から逃れるために俺が持っている雄二の情報を全て霧島に献上した所、妙にいい人認定されて延々と惚気話を聞かされる事となるのだが、そこで俺は気が付いた。
あれ? この惚気話ってまんま雄二の弱みじゃね?
それからと言うもの、俺はクラスでの雄二の情報や盗撮写真等々の物を、霧島は惚気と言う名の雄二の弱みを交換し合う、不思議な関係性が出来上がっていた。
とはいえこの話を美波に一から説明するのは面倒くさいし、霧島の好きな奴をダイレクトにバラすのも下手したらスタンガンだ。しかし誤魔化しても面倒くさい事になると俺のカンが囁いている。なので凄くザックリと霧島との関係性を説明する事にした。
「あれだ、ビジネスライク的な関係だ。需要と供給がマッチした結果、わりと話すことがある」
「需要と供給って?」
「(雄二の)弱みと(雄二の)情報」
「なるほどよく分かったわ、いつもの奴ね」
そう言った美波はパッと裾から手を離した。納得していただけたようで何よりである。
「それで、霧島さんはハルに何の話があるの? 明日の試召戦争の事?」
「違うわ」
「どうせ姫路の事だろ?」
「ええ」
俺の問いかけを静かに肯定する霧島。それに隣の美波が驚いた様子を見せる。
「言っとくけど、霧島が姫路の事どうこうってやつ、あれデマだからな」
「え!? そうなの!?」
「そりゃそうだろ、普通に考えて噂になるほど同性愛をおおっぴろに宣言してる奴いな…………いや、居たな」
「えぇ、居るのよ。ウチの近くに」
思い浮かべるクレイジーサイコレズビアン、そりゃ勘違いもするわ、噂聞いたら疑って掛かるわ、だって美波は一番の被害者なのだから。今、俺はとても苦い顔をしているだろう。隣の美波と同じだ。
「……?」
俺と美波のお通夜の様な雰囲気に、奴を知らない幸せ者の霧島は小首を傾げていた。
全く奴のせいで話が脱線してしまった。どこからともなく『お姉様ァ!』とアレの幻聴が聞こえた気がしたが、無視して軌道修正しよう。
「てか今更だけど、美波にも聞かせても言いわけ? まぁ吹聴して回るような奴じゃ無いとは保証するけど」
「構わない」
「なら霧島の疑問に答えるけど、姫路は別に雄二の事と好きじゃ無いし、雄二も姫路がどうこうってのは無いぞ」
「……本当?」
「マジだ、今まで俺の情報にガセは無いだろうが」
「でも、この前仲良く話してた」
「そりゃクラスメイト何だから話くらいするわ、珍しく雄二の周りに女子が増えたからって警戒しすぎだろ」
今日の対談での霧島の様子から予想して、今俺に聞く事は姫路の事だろうなとヤマを張ってたが、ビンゴだったって訳だ。
「え!? 霧島さんって坂本が好きなの?」
ここまでの話の内容で気が付いた美波がそう驚く。まぁ、明久以外の奴なら普通に気が付くわな。
それに霧島も頬を染めて頷いたため、美波が更に黄色い声を上げる。普段のバーサーカーっぷりで忘れがちだけど美波も女子だもんな、好きなんかね? 恋バナ。
「応援するわ霧島さん! 頑張ってね!」
「ありがとう……島田、良い人」
「俺から言えることは心配すんなって事だ、どうせウチのクラスにしたい命令だって雄二とデートとかだろ?」
つまり今日の無理やりな霧島の提案は、恋敵出現に焦った乙女のいじらしい暴走だったって事だ。
しかし、そう思ってた俺の問いかけを、霧島は首を横に振り否定する。
「命令、デートじゃない」
「んあ? もっと攻めてるのか? 幼馴染だから宿泊とか?」
「雄二には私と付き合ってもらう」
「へ?」
「断ればコレに名前を書いてもらう」
そう言って鞄から取り出すは、ゼクシィの付録でお馴染婚姻届。ご丁寧に妻の欄は全部記入されている。
「断れば即結婚」
そう断言する霧島の瞳は暗く濁っていた。
前言撤回、何が乙女のいじらしい暴走だよ、ヤンデレの確信的犯行じゃねぇか。忘れてた、コイツ勘違いの恋敵消すためにスタンガン持ち出すような女だった。
俺の隣見てみろよ、普通の恋バナ出来るって喜んでた美波がドン引きしてるぞ。自重しやがれ。
「そ、そうか頑張れよ」
しかし、ここで否定すれば矛先がコチラに向くかもしれない。だから俺はそんな当たり障りの無い言葉を返した。
「ありがとう、楠木も良い人」
霧島はそう言うと、機嫌良さそうに去って行った。婚姻届をしまう時に鞄から麻縄やら手錠やらが見えた気がしたけど気のせいだ。気のせいったら気のせいだ。
「坂本も大変ね」
「忘れてるだろ美波、FFF団」
「……地獄ね」
「……だな」
「………………口元、上がってるわよ」
「………………笑ってないよ?」
別に雄二の不幸を喜んだりしてないよ? ただ明日、勝っても負けても愉快なことになるんだろうなぁとか、雄二も俺と明久の仲間入りかぁとか思ってただけだよ?
ざまぁ!
◇
「それにしても、霧島さん。凄かったわね」
「凄い愛が重いよな」
「けどやっぱり……それぐらいしないと駄目なのかしら?」
「オイ貴様何を考えてやがる、ただでさえバーサーカーな美波に霧島の要素加えたら死人が出るぞ? やめろ、マジでやめてくださいお願いします」
「じょ、冗談よ! 流石にそこまでやらないわ」
「全然冗談に聞こえなかったんだよなぁ」
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