バカとクズは使いよう。   作:枕魔神

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03

【Side吉井明久】

 

 一日過ぎて、今日はいよいよAクラスとの試召戦争。僕達は敵地であるAクラスにやって来ていた。どちらもクラスもやる気に満ち溢れていて、まさに一触即発といった雰囲気が充満しているが、そんな空気の中でも相変わらずマイペースな晴楓は大きく欠伸をしてとても眠そうだった。

 

「なに欠伸してるのさ晴楓、これから大事な時だってのに!」

「あ? しゃーねぇだろうが、昨日寝るの遅かったんだよ」

「……どうせ、徹夜麻雀」

「いや、ポーカーかも知れぬぞ?」

「どちらにしてもろくでもないよね」

「いや、普通に今日の作戦考えてたんだけど」

「「「ダウト」」」

 

 僕とムッツリーニと秀吉が、声を揃えて晴楓の戯言を否定する。あの晴楓が寝る間も惜しんで試召戦争の準備をするだって? そんな素晴らしい心掛けが出来る奴は学年一のクズ野郎って呼ばれないんだよ晴楓。

 

「わざわざそんなバレバレな嘘つかなくたって、晴楓がクズなのは皆知ってるんだから気にしないで良いのに」

「嘘じゃねぇわ、一応俺だって勝ちたいんだぜ?」

「完全に日頃の行いのせいじゃのう」

「……晴楓なら、雄二に作戦ぶん投げして、勝ったら敵を煽り、負けたら全責任を雄二に取らせようとするはず」

「それはその通り過ぎるわ、ムッツリーニお前俺の解像度高いな。すげぇわ」

「……とても嬉しくない」

 

 全力で首を横に振るムッツリーニ、クズの解像度が高いなんて不名誉すぎるもんね。

 

「ま、お前らが納得する様に説明するなら、Aクラスに対する命令権目当てって訳よ」

「なるほど、ようやく合点がいった、流石晴楓じゃ」

「……流石、晴楓」

「流石クズ! 目先の欲に正直だね!」

 

 肩をすくめてそう言った晴楓に、僕達は完全に納得するしてしまった。システムデスクに興味ない晴楓がやる気だなんて、悪巧みしてるか敵に怨みがあるか以外でありえないのだから。

 

「でも、やる気なら余計に寝不足じゃ駄目じゃ無いか。コンディションは常に整えてないと」

「コンディションねぇ……。なぁ明久、ずっと気になってたんだが、未だにちゃぶ台と熱くハンドシェイクしてるお前の右手、それは良いコンディションだって言えるのか?」

 

 そう言って僕の右手を指差す晴楓。昨日から一心同体の僕の相棒、ちゃぶ台に文句があるらしい。

 

「全く、分かって無いね晴楓。ちゃぶ台とは学園生活を共にする大事な相棒なんだよ!」

「だからって四六時中は要らねぇだろ、お前昨日それで家帰ったの?」

「風呂とかどうやって入ったのかのう」

「……私生活に悪影響しかない」

 

 クラスメイトの呆れた視線が僕に突き刺さるけれど無視しよう。今は試召戦争に集中しよう、なにせ先鋒を任されたのは僕なんだから。

 

「時間です。両クラス、準備はいいですか?」

 

 そして時計の針が十時を示すと同時に、立会人のAクラス担任、高橋先生の凛とした声が響いた。その声に代表である雄二と霧島さんが頷いた事で、ついに僕達とAクラスとの試召戦争は開幕した。

 

「それでは一人目の方、どうぞ」

「それじゃあ、行ってくるよ!」

「俺はお前を信じてる! 逝ってこい」

「お前ならきっと出来る! 逝け明久!」

「……グッドラック」

 

 雄二と晴楓とムッツリーニに見送られ、僕はバトルフィールドに降り立つ。普段僕をこき下ろしてくる三人にあそこまで激励されたら、僕も頑張らなくちゃってなるよね。

 

「ふぅ、やれやれ。僕も本気を出す時が来たようだね?」

「もう隠さなくてもいいだろう、お前の実力をこの場に居る全員に知らしめてやれ」

 

『おい、吉井って馬鹿じゃないのか?』

『ただの冗談だろ』

『だとしたらあの態度は何なんだよ!』

 

 余裕の表情を浮かべながら僕と雄二がそう言うと、ざわざわとAクラスの生徒たちが騒ぎ出す。無理もない、僕の圧倒的なカリスマオーラに当てられて、おののいて居るのだろう。

 

「佐藤さんだっけ? 教科の選択権はそちらに譲るよ。お好きなのをどうぞ?」

「吉井君、貴方まさか……物理でお願いします」

 

 対戦相手の佐藤さんも、僕のただならぬ態度に何か気がついたかの様に身体を強張らせながら教科を指定した。

 僕は相棒に跨りながら、軽く腕まくりをして召喚獣を呼び出す。

 

「試獣召喚」

「っ!! その召喚獣!」

「あれ? 気付いた? ご明答。僕は今までちっとも本気なんて出してない。今まで隠してきたけど僕──」

 

 

「──左利きなんだ」

 

 

 物理

 Aクラス

 佐藤美穂 369点

 VS

 Fクラス

 吉井明久 68点→0点

 

「勝者、Aクラス佐藤美穂!」 

 

 そしてちゃぶ台ごと瞬殺され、僕は床に倒れ伏した。

 

「よし! 前座は終わった! 次鋒のムッツリーニ! 景気づけにまず一勝だ!」

「取れる所は取ってこう、抜かるなよムッツリーニ」

「……任された(グッ)」

「ちょっと待った! 雄二に晴楓とムッツリーニ! 切り替え早くない!? もっと僕に励ましの言葉とか無いわけ!?」

「はぁ? あぁ良かったじゃん明久、ちゃぶ台取れて」

「そんな事どうでもいいんだよ!? 僕を信じてたんじゃないのかよ!?」

 

「「「当然勝つ方に信じてた訳じゃない!」」」

 

「貴様等に本気の左を使いたいッ!!」

 

   ◇

 

「二回戦、準備をお願いします」

「……(スク)」

 

 高橋先生の声に立ち上がるはムッツリーニこと、土屋康太。寡黙なる性職者が選択する科目は当然保健体育一択。

 聞いて驚けムッツリーニはただのムッツリでは無い、総合点数の約八割は保健体育の点数と言うぶっちぎりの究極のスーパームッツリ野郎なのだ。エロに特化した彼の刃はAクラスにだってきっと負けやしない。

 

「じゃ、ボクが行こうかな」

 

 対してAクラスからはショートカットでボーイッシュな女の子が出てきた。見たことない娘だ、誰だろう。

 

「一年の終わりに転校してきた工藤愛子です。よろしくね」

 

 身体の凹凸も少なくてパッと見は少年の様な女の子だ。

  

「教科は何にしますか?」

「……保健体育」

 

 高橋先生の問にムッツリーニが自信満々に即答する。

 

「土屋君だっけ? キミ、保健体育が得意なんだってね?」

 

 工藤さんがムッツリーニに話しかける。転校生みたいだし、その余裕そうな態度からして、ムッツリーニの事を詳しくは知らないのだろうか?

 霧島さんは天才、秀吉はかわいい、晴楓はクズと同じくらい、ムッツリーニが変態って事は僕等の学年の共通認識なのに。

 

「だけど、ボクもかなり得意なんだよ? それも君と違って……実技でね」

「…………実技? ………………ッ!!?(ブバァ)」

「ムッツリィーニィーッ!?」

 

 なんて事を! 常日頃からいやらしい事を想像した結果! 常人の何倍も想像力が逞しいムッツリーニにそんなえっちな誘惑をしたら、鼻血が吹き出るのは当たり前じゃないか!?

 

「よくもムッツリーニに! なんて酷いことを……卑怯だぞ!?」

 

 僕は避難するように工藤さんを睨む。しかし当の本人は楽しそうに笑うだけ。その笑顔は面白い玩具を見つけた子供の様に無邪気で、どこか蠱惑的。僕はいっそう警戒心を強めた。

 

「あはは。それじゃあ君が選手交代する? でも勉強が苦手なんだよね? 保健体育ならボクが教えてあげるよ? 勿論……実技でね」

「「ブッハァア!?」」

 

 そんな僕の警戒心なんて意味をなさず、一撃で僕とムッツリーニをノックアウトする工藤さん。なんて恐ろしい女の子なんだ!

 

「あ、明久くんにはそんな機会来ませんから! そんな勉強、永遠に必要ありません!!」

「……なんでそんな悲しいことを言うのぉ?」

 

 姫路さんの言葉に、僕の瞳から涙がこぼれ落ちる。実は知らぬ間に嫌われたのかな?

 

「まったく、お前ら拗らせ過ぎだろ」

 

 顔を顰めて、まるで恥ずかしい物を見てるかのような視線を僕達に向ける晴楓が、そんな事を言ってきた。

 

「何を! 晴楓は直接食らってないからそんな事言えるんだよ!」

「はっ! んな訳ねぇだろ。誰が妄想で鼻血出すかよ、漫画か」

 

 そうやって僕等を鼻で笑う晴楓。そんな晴楓に僕達をノックアウトした小悪魔が近づく。

 

「ふ〜ん、楠木晴楓くんだったよね?」

「ん? そうだが?」

「もし良かったら楠木くんもどうかな? ボクと二人っきりで実技のお勉強しない? 」

 

 今度は晴楓にターゲットを絞ったのか、工藤さんは晴楓に近づいてそう誘惑をする。女の子にあんな事を言われたら、何時もスカしている晴楓も鼻血を吹き出さざる負えないはず!

 しかし、僕の予想に反して晴楓はまさかの無反応。そしてチラリと工藤さんの胸、その後に島田さんの胸を一瞥すると、

 

「はっ!」

 

 と、哀れみや蔑みの籠もった目をしながら、彼女達を鼻で笑った。

 

「「なっ!?」」

 

 色々と察した二人はバッと胸元を隠し、顔を真っ赤にして晴楓をキッと睨みつける。

 

「ん? もしかしてあの二人みたいに俺が鼻血ブーするとでも思ったか? 残念、美波に勝ってるとは言え、その程度の戦闘力で俺は欲情しないっての。毎日牛乳飲んで出直してこい」

 

 凄い……僕は皆が見ている前で堂々とセクハラ出来るクズに戦慄を覚えた。

 と言うか、島田さんを引き合いに出す意味無いよね? このクズは島田さんをからかわないと死ぬ病気にでもかかっているのだろうか。

 

「ハル! 誰の胸が戦闘力に乏しいのよ!」

「え? お前と工藤」

「滅茶苦茶失礼だねキミぃ!?」

「事実を言ったまでだ。いいか工藤、普段から俺は美波と一緒に居るが、その乏しい胸部に欲情した事は一度たりとも無いんだ。だからそれに毛が生えた程度のお前じゃ俺に鼻血を出させることは無理なんだよ」

 

 晴楓は哀れみの視線を工藤さんの胸に向けながら、優しくそう説明する。

 そんな事を懇切丁寧に説明したら、誰の逆鱗に触れるのかが分からない晴楓でも無いはずなのに。

 

「どうやら本気で殺されたいみたいね、ハル?」

「っ!? まて! これは大事な話なんだ! 工藤に今後無闇やたらとからかわれない様に! 説得力の有る説明をしなければと!」

「だからウチを引き合いに出したと?」

「そう! だって俺が美波の胸単体に興奮したことが無いのは事実だし!!」

 

 晴楓の静止も虚しく、ゆらゆらと晴楓に近づく島田さん。モーゼの十戒の様に人は島田さんを避け、晴楓までの道ができていた。

 

「ねぇ工藤さん。これからウチ、このクズ野郎をブッ殺そうかと思うんだけどどうかな?」

 

 そう言って島田さんはニコッと効果音がつくほどの笑顔を浮かべるけど、目は全く笑ってなかった。暗い怒りの焔で燃えていた。

 

「なっ何を馬鹿なことを、他の奴らはお前みたいなバーサーカーじゃ無いんだ。そんな事言ったって「うん! ボクの分までよろしくね島田さん!」 ちょっ!?」

 

 あのクズは何を驚いているんだろうか、当たり前の結果だと言うのに。

 工藤さんに任されて、晴楓のガッツリと首根っこを掴んだ美波。

 

「ほら、行くわよハル!」

「待って!? マジで!? 引きずらないで! ごめんなさい!」

「何がごめんなさい、なのかな?」

「美波と工藤が貧乳と言う事実を指摘してごめんなさいぃ!」

「死ねクズ」

「バイバイ楠木くん」

「どう答えたって詰んでんじゃねぇか!? ちょっ首閉まりゅ! じ、慈悲をぉ、お慈悲をぉ!?」

 

 青筋浮かべた二人の死刑宣告。晴楓はそんな断末魔を最後にAクラスから連れ去られた。自業自得すぎて何も言えない。

 遠くから微かにクズの叫び声が聞こえるけれど、ちゃんと自分の番までには帰って来るのだろうか。あのクズがAクラスに勝てるとは思わないけれど、不戦勝は勿体ない、本当にそれだけが心配だ。

 

「……(ムクリ、ドバドバ)」

「ムッツリーニ! もう起きて大丈夫なの!?」

「……これくらい、問題ない」

 

 皆がクズにドン引きしているなか、力無くよろよろと立ち上がるムッツリーニ。その鼻からは未だに真っ赤な液体がとめどなく溢れていたが、本人が大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう、常日頃から鼻血を吹き出し、輸血パックすら携帯している彼は鼻血のプロなのだ。

 

「ではそろそろ2回戦を開始します。双方、召喚獣を召喚してください」

「はい、試獣召喚」

「……試獣召喚」

 

 その掛け声で、二人のの召喚獣が現れる。ムッツリーニは以前にも見せた小太刀二刀流の忍姿の召喚獣、一方工藤さんの召喚獣は見るからに破壊力抜群の巨大な斧を携えていた。

 

『なんだあの巨大な斧は!?』

『その上例の腕輪までつけているぞ!』

 

 400点以上の高得点取得者のみが装備できる腕輪を装備した、見るからに強そうな工藤さんの召喚獣にざわつくFクラスの面々。

 始まる前のあの余裕は態度はムッツリーニを侮ってた訳じゃない、例えエロスペシャリストのムッツリーニでも勝てるって自信の現れだったんだ!

 

「実践派と理論派、どちらが強いか教えてあげるよ!」

 

 工藤さんは好戦的な笑みを浮かべてそう言うと、召喚獣を仕掛けてきた。腕輪が光り輝き戦斧に雷光が走る、そしてまたたく間にムッツリーニの召喚獣に詰め寄った。

 

「それじゃバイバイ、ムッツリーニくん!」

 

 まさに一撃必殺、圧倒的な威力の攻撃をムッツリーニに振るう工藤さん。

 誰もが次の瞬間、無残に切り捨てられるムッツリーニの召喚獣を想像して息を飲む中、聞こえてきたのは静かな、しかし緊迫した空気を切り裂くかの様な鋭い声。

 

「……………………加速」

 

 一瞬の瞬きの後、ぶれる忍び装束。

 

「……え?」

 

 戦斧が残像を虚しく切り裂き、工藤さんから戸惑い声が漏れる。気づけばムッツリーニの召喚獣は射程の遥か外だった。

 

「…………加速、終了」

 

 ボソリとムッツリーニが呟く。

 キンッと小太刀をの納刀した音と同時に、工藤さんの召喚獣が全身から血を吹き出して倒れた。

 

 保健体育

 Aクラス

 工藤愛子 446点→0点

 VS

 Fクラス

 土屋康太 572点

 

「500点オーバー!? 僕の総合科目並の点数じゃないか!?」

「Bクラス戦の時は出来がいまいちだったらしいからな」

 

 雄二が驚く僕にそう説明する、保健体育がずば抜けて良いことは知ってたけれどここまで圧倒的だったなんて! 流石ムッツリーニだよ!

 

「そ、そんなっ……! このボクが……!?」

 

 工藤さんはショックのあまり膝をつく。

 

「勝者、Fクラス土屋康太」

「……まずは、1勝」

 

 そう高橋先生の宣言を受けたムッツリーニは、ティッシュを詰めた鼻声で、ドヤ顔でそう僕達に告げる。

 ティッシュからは未だに鼻血が滲んでいて、見るからにみっともない姿だけど少し格好良く見えた。多分見間違いだと思う。

 

   ◇

 

「それでは3回戦、次の方は?」

 

 そう言って試召戦争を高橋先生。ムッツリーニの勢いに乗って行きたいのだが、ここで少しFクラスには問題が発生していた。

 

「中堅は確か……晴楓じゃったのう」

「…………まだ帰ってきてない」

 

 そう、クズが折檻から帰ってきてないのだ。このままでは不戦敗になってしまう、いったいあのクズは何をやってるのだろうか。

 

「どうするのさ雄二、どうせ選択権の無い晴楓じゃAクラスに勝てるわけないし、ここは捨てると思って代わりの選手を用意する?」

「……チッ、仕方ない。姫路、予定より早いが行けるか?」

「はいっ、私はいつでも大丈夫です!」

 

 居ない晴楓の代わりに、副将の姫路さんが代わりに出ることに、それを見たAクラスの集団から出てくるのは、如何にも頭の良さそうな眼鏡をかけた、真面目そうな男子生徒。

 

「それなら……僕が相手しようか」

 

 学年次席の久保利光。一年の頃のテストで姫路さんに次ぐ学年3位の秀才で、振り分け試験で姫路さんが途中退席した結果、彼が次席の座にいる。

 

「やはり出てきたか……ここが正念場だぞ」

「で、でも姫路さんならきっと勝てるよね!」

「いや、いくら姫路でも確実に勝つには相手の不得意科目を突かないと厳しい」

 

 雄二は厳しい表情でこのマッチアップをそう評した。

 

「では、科目はどうしますか?」

 

 高橋先生が声をかける。僕達の教科の選択権はあと2回残っているから、慎重に選ばないと。

 

「総合科目でお願いします」

 

 だけど、僕達が指定する前に、久保君が勝手に答えていた。

 

「なっ! 教科の選択権は僕らに「構いません」ッ! 姫路さん!?」

 

 クレームを入れる僕の声を凛とした声で遮るのは姫路さん。その様子は自信に満ちているけれど大丈夫なのなだろうか。

 

「それでは、試合開始!」

 

 高橋先生の合図で二人は召喚獣を呼び出す。決着は思いの外、早くついた。

 

 総合科目

 Aクラス

 久保利光 3997点→0点

 VS

 Fクラス

 姫路瑞希 4409点

 

『なんだあの出鱈目な強さ!』

『学年主席に匹敵するぞ!?』

『Fクラスで一体どうやってここまでの実力を!?』

 

 教室から驚きの声が上がる。二人の点数差は400点オーバー、つい最近まで実力が互角に等しかったのにここまで差がついているのだ、無理もなかった。

 

「……くっ! いつの間にこんな。君はどうやって強くなったんだ姫路さん」

 

 悔しげに歯を食いしばりながら、久保君が姫路さんに問いかける。

 

「私、このクラスが好きなんです」

「Fクラスが……好き?」

「はい、人の為に一生懸命になれる、大好きな人がいるクラスだから、だから私は頑張れるんです」

 

 優しい笑顔を浮かべながら、そう言葉を紡ぐ姫路さん。そこまで僕達の事を思ってくれるなんて、少しだけむず痒かった。

 

「ッ……3回戦! Fクラスの勝利!」

 

 これで2勝1敗、僕達Fクラスは雲の上の存在であるAクラスに、ついに王手をかけるのだった。

 

   ◇

 

 【Side楠木晴楓】

 

 さて、現在試召戦争真っ只中。俺達の命運をかけた大事な戦いの最中、不用意な事実を言ったせいで激怒中のバーサーカーの許しを乞うために、俺は土下座で謝罪をしていた。

 

「それで? 反省したのかしらハル」

 

 俺の後頭部を踏みつけながらそう問いかけるは美波。その顔を見る事は出来ないが、さぞかしゴミを見るようなキッツい視線をしているのだろう。俺はマゾじゃ無いから普通に踏まれて痛いし、恐怖しかない。なので素直に全力で謝罪をするのだ。

 

「ほんっとうに申し訳御座いませんでしたァ! 美波様の胸部装甲には我々愚民には到底理解の及ばない魅力がありますごめんなさい! 脂肪だけが詰まってる乳袋とは違い、慎ましく控えめながらも夢と希望と優しさと素敵な何かが詰まってますごめんなさい! あとごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

「死になさい」

「カハッ!」

 

 しかし俺の誠心誠意の謝罪虚しく、美波様はその華奢なお見足ではありえないほどの力で、俺の頭蓋骨を踏み抜いた。

 

「……ふん! 慎ましく控えめで悪かったわね、どうせハルだって瑞希や霧島さんみたいな大きな胸がいいんでしょ?」

「い、いや別に? と言うか胸のサイズに関してそこまで思い入れは無いんだけど」

「変な嘘ついたら、今の倍は酷いわよ?」

「別に嘘じゃねぇよ」

 

 そう言って俺は踏みつけられた頭を擦りながら起き上がる。今まで有無も言わず制裁を受けてきて、ここに来て初めて意見を求められ、ここが正念場だと自覚したからだ。美波の怒りを緩和させて助かるには今しかないと、長年の説教で培われた感が囁いていた。

 

「いいか、美波。一つ大事な事を教えてやる」

「……なによ」

「正直女子のお前に言うことじゃないし、言いたくないけど、俺はお前の間違いを正さないといけないと思った」

 

 美波の肩に両手を乗せ、そのエメラルド色の瞳と目を合わせると、俺はゆっくりと子供に言って聞かせるかのように告げた。

 

「いいか、男ってのはな。胸がデカかろうが小さかろうが、最終的に顔が良かったらそれでいいんだよ。そう言う悲しい生物なんだよ」

「想像の何倍も最低すぎる!?」

「あとぶっちゃけ、ちょっと優しくすればコロッと落ちる単純な生き物だから。すぐに付き合えそうな女子とかは大体皆好きになる」

「そして速攻でさっきを上回る最低発言!?」

 

 あまりにもあんまりな俺の物言いに、驚愕する美波。分かる、唐突に異性からこんな下世話な話をブッこまれたら誰だってドン引きする。俺だって引く。

 でもコレくらいのインパクトが無いと、怒り心頭の美波を誤魔化せないはずだ。名付けて『勢いで有耶無耶にしてしまえ作戦』我ながら冴えまくったクールな作戦だ。

 

「これが真実だ! しかしこの事で実証された決定な事実がある」

「な、なによそれ」

「誰かなんと言おうと、顔が良くて面倒見のいい美波は美少女なんだよ!」

「ふぇっ!?」

「ちったぁ自覚しろよ! モデルかって思うほどのスラリと伸びた四肢! 家事全般お手の物な女子力! 極めつけには普通に滅茶苦茶可愛いその顔ォ!!」

「ちょっ 何言って!?」

「それを胸が貧しい位でなんだ貴様は! おこがましいぞ! 全国の皆さんに謝れ! ウチが可愛くてごめんと!!」

 

 俺は美波のショックが回復する前に矢継ぎ早に言葉を繰り出す。この作戦の肝は内容よりも量で相手を圧倒する事と、とにかく相手のご機嫌を取るために媚び諂う事。怒りの感情を驚きで誤魔化し、ヨイショする事で好感に置換する。

 言ってしまえば、よく頭空っぽのナンパ師がやる数撃ちゃ当たる戦法と同じだ、考えるより先に喋ってる俺は、半分以上は何言ってるか分かっていない。とにかく勢いに乗せて美波を褒める。

 

「と、突然何を言い出すのよ。まったく、ハルは」

 

 すると、さっきまでの鬼の形相は何処へやら。打って変わってしおらしい態度でそう呟く美波、頬を染めて少し嬉しそうも見える。

 素晴らしい成果だ、やはり作戦は完璧だった。俺は確実に自分の命を守るため、更に追い込みをかけた。

 

「可愛い」

「まだ言うの!?!」

「美波は可愛い!!」

「ちょ! やめ!」

「ポニーテールが似合ってて可愛い! 自分の事ウチって言うの可愛い! 素直になれなくてすぐに手が出る所実は気にしてるの可愛い! コンプレックスに過剰に反応する所可愛い!」

「──っ!!」

「よっ! スーパー美少女! 顔面国宝! 誰もが羨む美脚女子! こんな美波と付き合える奴は幸せだ! 面倒見がよくて! 優しくて! 料理も美味いし極めつけにかわっ「い……いい加減にしなさいっ!!」アベシッ!?」

 

 茹でだこみたく真っ赤に染まった美波は、その大きな瞳を羞恥に潤ませてながら、俺の頬向けて手の平をフルスイング。壊れたスピーカーの様に美波を褒めるだけの人となっていた俺を物理的に黙らせた。

 

「っそ、そんなにウチを褒めて! ウチが恥ずかしがるのを見て楽しんでるだけでしょ!?」

「……そ、その意図が無いとは言わんけど、別に本当に思った事ただ言ってるd「だからっ! 辞めなさい!!」 ひでぶっ!?」

「しばらく喋るの禁止! あとこっち見ないで、バカ!」

「り……理不尽」

 

 そうだよね、普段ツンデレムーブで拳かましてる美波が極限まで照れまくったら、そりゃ手が飛んでくるよね。

 理屈では分かってはいるんだけど、無事だった方の頬にも再び強烈なビンタを食らい涙がちょちょぎれそう。

 

「さあ! Aクラスの教室に戻るわよ! 晴楓の出番も近いんだから!」

「い、いえっさー」

 

 博打にしても美波を褒めるにしても、何事も引き際が大事だと強く学んだ俺は、足早に戻ってゆく美波の後ろを、頬を擦りながらのそのそとついて行くのだった。

 

 




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