短いですが、どうぞ。
「雄二……おはよう」
「……おはよう、翔子。そしてなんで俺の部屋に居やがる?」
「話があって来た……」
「それは不法侵入してもいい理由にはならないからな?」
「召喚大会……私頑張るから、優勝景品のペアチケットでデートして欲しい」
「俺の意見は無視か……そして当然断る」
「拒否権は無い……もしデートしてくれなかったら……」
「なかったら?」
「即婚約」
「……………………慎んでデートのお誘いを受けさせて貰います」
「……嬉しい(ぽっ)」
◇
【Side吉井明久】
次の日、中華喫茶に出し物が決まった僕達は、学園祭に向けて着々と準備を進めていた。
「それじゃあキッチンスタッフは須川くんがリーダーで、ムッツリーニは人数分のチャイナ服の用意をお願いね」
「了解だ」
「……任せろ」
そう言って各自作業に取り掛かろうとする二人、須川くんの中華に対する情熱と、ムッツリーニのエロに対する情熱ならきっと凄い物が出来上がるだろう、安心して仕事を任せられる。
「あの、吉井くん……私もキッチンのお手伝いを」
そんな感じで皆が仕事に取り掛かる中、手持ち無沙汰になっていた姫路さんが手伝いを買って出てくれる。
僕の脳裏に危険信号が鳴り響く、蘇る三途の川の記憶。
「駄目だよ! 姫路さんはチャイナ服を来て当日はホールに出てもらうんだから! だから今は休んでて! 料理は須川くんに任せれば良いから!」
「で、でも……」
「……ッ! 採寸するから家庭科室まで来てほしい、姫路」
「ほらっ! ムッツリーニもああ言ってるし! 可愛いチャイナ服を仕立てて貰ってきなよ! 楽しみだなぁ!」
「わ、私のチャイナ服が楽しみなんですか?」
「もちろん!!」
僕が力強くそう肯定すると、姫路さんは笑顔で行ってきますとムッツリーニについていく。
ふぅ……危ない危ない、危うく学園祭で大量の食中毒者を出すところだったよ。
ナイス判断だ僕と、自画自賛しているとさっきのやり取りを聞いていた島田さんが声をかけてきた。
「採寸ならウチも行ったほうが良いかな? 吉井」
「島田さんは姫路さんと違ってぺった……スレンダーだから心配しなくていいんじゃない?」
「誰がぺったんこよっ!」
「フックッ!?」
島田さんの拳が僕の右頬をスパーンと撃ち抜く、錐揉み回転して吹っ飛んだ。つい思った事がそのまま口から漏れてしまったよ。
「まったく真面目にやりなさいよね吉井。坂本もやる気ないし、ハルも今朝からなんだか別の事で忙しそうだし……この中華喫茶は何が何でも絶対に成功させ無いといけないんだから!」
「召喚大会に出ると言ったり、昨日からやけにやる気じゃの島田よ」
「そ、そうだね……やる気余りまくって拳が何時もより重い気がしたよ。どうかしたの島田さん?」
僕と秀吉がそう聞くと、島田さんは一瞬悩む素振りを見せて「これ、瑞希には内緒にしてって言われたんだけど」と前振りをして口を開いた。
「実は瑞希……転校するかも知れないの」
「……ぱぇ?」
姫路さんが転校? うちのクラスのマドンナが転校?そんな、そんな、ソンナ……あばばばばばっ!
────
二千XX年ッ! 唯一の清涼剤である彼女を失ったこの世界はまさに混沌と化していた!!
モヒカン頭の世紀末野郎がバイクを乗り回し、荒野を闊歩する!
最後の希望となった秀吉を巡り繰り広げられる悲しき争いの数々!
最後の最後に告げられる、全ての黒幕、第六クズ天魔王ハル閣下の存在!
『お主らっ! こんな事はもう辞めるのじゃ!』
『辞める? そんな状況じゃねぇだろ? 見ろ! Fクラスの残党が美少女を求めて暴れまわっている! 俺が天下を取るにはお前の協力が必要不可欠なんだよ秀吉ィ!』
『晴楓ッ! 秀吉を僕に返せ!』
『はっ! 誰が返すか! 俺はコイツを使ってあの世紀末野郎相手にボロ儲けするんだからよぉ!』
『クソぉ! クズめ! その汚い手を離せ!』
『げへへっ、いくらになるかなぁ? 手始めに秀吉のブルマコスの写真をばら撒くとするか!』
『辞めろぉおおお!!!』
────
「秀吉、晴楓は僕がモヒカンになってでも絶対に倒す。だから戦いが終わったら……結婚しよう」
「待つのじゃ明久よ! 処理落ちしておかしな事を言っておるぞ!?」
「おかしくなんて無い! 僕は本気だよ!」
「ワシらの間には色々と障害があるじゃろ! 年の差とか!!」
「絶対に障害は年の差じゃないわよ木下!」
「そ、そうじゃった、ワシは何を……目を覚ますのじゃ明久よ!」
「このバカっ! どうゆう思考回路したらそうなるのよ! まったく、不測の事態に弱いんだから!」
…………はっ!? いけない、少しトリップしてたよ!
「島田さん! 姫路さんが転校ってどういう事!?」
気を取り直して僕は島田さんに問い直した。
「どうもこうも、そのままの意味よ。このままだと瑞希は転校させられちゃうかも知れないの」
「このままだと?」
「島田よ、どうしてそれが中華喫茶を成功させることに繋がるのじゃ?」
「ほら瑞希って身体が弱いじゃない? それで両親が心配してて」
「なるほど、教室設備が原因か」
「埃とか酷いもんね」
島田さんの説明に僕達は納得する、コレはクラスメイトの学力が見合ってないとかそれ以前の問題だ。身体の弱い姫路さんにとってこの教室は最悪そのものだろう。
そもそも僕が試召戦争にやる気になったのは姫路さんの体調を気遣ったからだし、彼女の親御さんが心配するのも当然だと思う。
「だから島田さんは、中華喫茶を成功させて、設備を向上させたいんだね」
「うん、瑞希も頑張って召喚大会で優勝するって言ってるけど、やっぱり設備をどうにかしないと納得してもらえないと思うから」
暗い顔でそう言う島田さんは、僕達に出来る事をしっかりと理解していた。
僕達がどんなに声を上げて反対しようと、それはただのワガママだ、姫路さんの健康に支障をきたす可能性がある以上、彼女の両親は姫路さんがFクラスに留まることを許してくれないだろう。
バカの僕でも解る。今の僕達に出来ることは、中華喫茶で売上を伸ばして、少しでも環境をマシにする事、少しでも姫路さんの両親が納得してくれるように頑張る事。
「そっか……それなら絶対に中華喫茶を成功させないと! 姫路さんが転校なんて嫌だよね、秀吉!」
「うむ、そうじゃの明久。そう言う事情なら早く説明すれば良いものを、まったく島田も姫路も水臭い」
「アンタ達……相変わらずね」
嬉しそうに笑う島田さん。そうと決まれば絶対に成功させるためにしないと行けない事がある。
「まずは、雄二をどうにかやる気にさせる事が第一だよね」
「うむ、何かあったが知らんが、雄二は昨日よりも学園祭にうんざりしとるように見えたぞ?」
「あとはハルも捕まえないと」
「それも絶対条件だよね」
「こと小銭を稼ぐ事に置いて、晴楓の右に出るものはうちの学園に居らぬからのう」
そう言って僕達三人はこの場には居ないゴリラとクズを思う。Fクラスを一纏めにするには独裁者気質の雄二が必要だし、少しでも儲けを増やすためには詐欺師気質の晴楓が必要だった。
「それじゃあまずは簡単な晴楓から捕まえようか」
「島田が電話すれば一発じゃろう」
「まって、今電話するから……」
そう言って携帯をスピーカーモードにして電話を繋げる島田さん。数コールの後に晴楓が応答した。
「もしもし、ハル?」
『おう、どした美波? 今ちょいと忙しいんだが』
「中華喫茶の件でハルにも協力して欲しいんだけど」
『あーアレなぁ、実は俺も召喚大会に出る事にしてよ、あんま手伝えそうに無いんだわ』
意外にも真っ当な理由で島田さんのお願いを断る晴楓。本当にクズらしくない真っ当な理由だったから島田さんも強く言えないみたいだ。
予想外の晴楓の答えにどうしようかと僕が頭を悩ませていると、隣の秀吉が「……ちょっと変わってくれるかの?」と申し出る。
「別にスピーカーになってるから今言えば良いじゃない?」
「そうなんじゃが……少し込み入った話での?」
そう言って島田さんから携帯を受け取った秀吉は、スピーカーモードをオフにすると、僕達から少し距離をとった。
そして数回の会話の後、通話を切って戻ってくる。
「安心せい、無事晴楓の了承を得たぞ」
「いったいハルと何の話をしてたのよ」
「何、男同士の会話じゃ。あまり詮索してくれるな」
そう言って携帯を島田さんに返す秀吉。あの晴楓が自分の意見を曲げるだなんて……まさか秀吉っ!?
「秀吉! 自分の身体は大事にしなきゃ駄目だよ!」
「お主は何を勘違いしておるのじゃ明久」
「え? 晴楓に身体を売ったんじゃないの?」
「本当に何を勘違いしておる! 男同士の話だと言ったじゃろ!? 」
「だって秀吉は女の子だし!」
「ワシは男じゃ!!」
そんな事ありえないよ! 可愛い秀吉は可愛い女の子なんだ! 世界がそう決めたんだ!
「ストップ吉井! 木下の話も気になるけど、それより坂本に連絡をしなきゃ!」
「あぁ、それなら晴楓が雄二の居場所を教えてくれたのじゃ」
「居場所って?」
島田さんに止められて一旦落ち着いた僕が秀吉にそう問いかけると、秀吉は言いにくそうに視線を泳がせながら、晴楓に教えられた雄二の居場所を吐いた。
「どうせ学園で霧島に会わぬよう隠れておるはず……多分裏の裏の裏を読んでの女子更衣室じゃと言っておった」
「そうだね、霧島さんから隠れてるとしたら、多分僕もそこにいると思うよ」
「じゃの、ワシも不本意ながら納得してしまったわい」
「アンタたちの坂本に対する認識どうなってんの?」
島田さんがドン引きしながらそう問いかけるけど、僕達にはだって雄二の野郎だしとしか言えない。この場には居ないけど多分ムッツリーニも同じ事を答えると思うよ?
◇
「やぁ雄二、奇遇だね」
「……貴様は一度奇遇と言う言葉を辞書で調べてこい」
「ほら島田よ、言った通りじゃろ?」
「本当に居たわ……」
案の定女子更衣室のロッカーに隠れていた雄二を見つけた僕と秀吉と島田さん。
まさか本当に隠れているとは、どんだけ霧島さんに見つかりたくないんだよ雄二。
「すぐに見つけた僕が言うのもアレだけどさ、隠れる場所を選びなよ」
「し、仕方ないだろ! 相手はあの翔子だ! 普通の場所だと見つかっちまう!」
「そもそも何故逃げ隠れしておるのじゃ?」
ロッカーの中で動揺しながら言い訳する雄二に、秀吉がそう問いかけた。
「今朝翔子からデートに誘われた」
「なんだ惚気?」
「違う! 断われば即婚約だと脅された! この話の何処が惚気に聞こえるか!?」
「……ごめん、続けて」
「仕方なくOKしたら、翔子の実家に連れてかれそうになった」
「それで逃げてたの? 女の子の可愛いワガママじゃない」
「……式で着るタキシードの採寸をするんだと、どっちに転んでもゴールは変わら無かった。俺には逃げるしか無かった」
「…………ごめん坂本」
「…………いいんだ。こんな事、分かるわけないもんな」
「……で、今に至るわけじゃな」
秀吉の問いかけに力なく頷く雄二。お通夜の様な空気が更衣室に流れる。
しかし此処でずっと話す訳にもいかない為、僕達は意気消沈する雄二を連れて女子更衣室を後にし、教室へと戻ってきた。
なお移動中は落ち込む雄二を皆で励ましていた。女子更衣室に隠れた事で雄二に冷たい視線を向けていた島田さんも、最終的には同情していた。
◇
教室に戻ってきた僕達は、なんとかメンタルを持ち直した雄二に今までの事情を説明した。
「なるほどな、姫路の転校を阻止する為に教室の設備を向上か……だが、それだけじゃ足りないんじゃないか?」
「どういう事? 雄二」
僕がそう聞き返すと、雄二は指を三本立てて理由を告げる。
「姫路の親が転校を考える原因は大きく三つある」
「三つ?」
「一つ目はオンボロのちゃぶ台にスカスカの座布団というあり得ない学習環境、二つ目は健康に害を及ぼすほどの教室の老朽化、三つ目はクラスメイトのレベルの低さだ」
「なるほどのう、つまり一つだけ解決しても確実に転校が無くなる訳じゃないという事じゃな?」
「その通り、ちゃぶ台と座布団くらいなら売上で新品にする事が出来るだろうが、流石に老朽化した壁の修繕や畳の張り替となると厳しいだろう」
確かに雄二の言うとおり、たかだか学園祭での稼ぎで教室のリフォームは現実的では無い、そもそもFクラスの学力が姫路さんに会っていないのも問題だ。
「問題は山積みだね」
「一つ目は学園祭の売上で、三つ目はウチと瑞希が召喚大会で頑張ってなんとかするにしても、まだ足りないわ」
「その召喚大会だが、姫路が居るとは言え優勝は厳しいだろう」
そう島田さんに告げる雄二は苦い顔で言葉を続けた。
「今朝翔子にデートに誘われたと言ったよな? アレはこの大会の優勝商品であるペアチケットでって話なんだ」
「つまり霧島さんも参加するの!?」
「雄二とのデートがかかって居るのなら、絶対に手は抜いてくれぬじゃろうなぁ」
なんてこった! 事態は思ったよりも最悪じゃないか! 僕は思わぬ最強の敵の出現に頭を抱えた。
「チッ! こんな時に晴楓が居ればまだ対策は練れたんだがな。アイツは何してる」
「晴楓なら召喚大会に出るって色々と準備してるらしいよ?」
「……何? 晴楓も出るのか?」
僕がそう教えてやると、顎に手を当てて思案顔になる雄二。そして「大会の方はなんとかなるかも知れん」と呟いた。
「明久、晴楓の奴は大会に向けて準備をしているって言ったんだな?」
「え? うん。だけど雄二、姫路さん達が出来ないのに晴楓が優勝出来るが訳がないよ?」
「普通ならな……だけどアイツが準備をしてるって言ったんだ。多分なりふり構わず本気で優勝を取りに行ってるはずだ……それこそどんな手を使ってでも」
「…………なるほどね」
脳裏に浮かぶは素敵なゲスマイルを浮かべた晴楓。入念に前準備をしている彼ほど、怖い人間はそうそう居ない。
「目的はFクラスの学力を示す事だからな。優勝出来ずとも、Fクラスには島田以外にも大会で活躍出来る実力者が居ると示せれば、十分に効果はあると思う」
「Fクラスの生徒が活躍すれば中華喫茶の宣伝にもなるはず、一石二鳥じゃの」
どうせろくな動機で動いてないはずのクズ、まさかのファインプレーである。
「となれば後は二つ目の教室の老朽化ね、坂本どうするの?」
「どうするも何も、生徒の健康に問題が生じてるんだ、学校の方針とは言ってもやり過ぎと言えるからな。学園長に直談判すればいい」
「なるほど! それじゃあさっそく乗り込もうよ雄二!」
思い立ったが仏滅と立ち上がった僕の誘いに、そうだなと頷いて雄二も立ち上がる。
解決策なんて無いと思ってたのに、なんだかんだ言ってやっぱり頼れる男だと、僕は雄二を見直していた。
雄二のおかげで希望が見えてきた、姫路さんは大事なFクラスの仲間なんだ、絶対に転校なんてさせない。いざとなったら土下座でもしてやる! 僕はそんな気持ちだった。
「それじゃあ、秀吉と島田は出し物の準備でもしといてくれ」
「任せるのじゃ」
「あと晴楓が戻ってきたら伝言なんだが」
「? 何を伝えればいいの?」
「悪巧みするなら真っ先に翔子を潰してくれと、じゃないとデートするはめになるからな」
「最っ低ねアンタ」
「最低じゃの」
「最低だね雄二」
「お前等に、結婚という銃口を眉間に突き付けられた俺の気持ちは分からんさ」
哀愁漂わせて言ってるけど、そこにさっきまでの頼れる僕らのリーダーは存在せず、居るのは言動が徹底して最低なゴリラだった。
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