【Side楠木晴楓】
『テーブルはこんな感じでいいか?』
『もうちょい窓際に頼む!』
『レンタル用のチャイナ服はハンガーに掛けて此処に置いとくぞ!』
『……この馬鹿でかい翼の絵、何なの?』
『分からん、これが巷で話題の映えらしい』
やんややんやと騒がしく中華喫茶の準備に取り掛かるクラスメイト達。
何ということでしょう、あのクソ汚かった廃屋のFクラスが、ちょっぴり古風な中華喫茶に早変わりしているじゃありませんか。
「すげぇ、マジで中華喫茶だ」
「なんだかんだ言ってもやっぱり凄いよね、雄二の統率力」
「認めるのは癪だがな」
「わかる」
忙しなく働くクラスメイトを横目に、俺と明久は頷きあう。雄二が有能だなんて誰だって認めたくない、俺だって認めたくないと言うか認めない。そんな人望が無いクソゴリラが俺達のリーダーです。はっ、世も末だな。
「まぁ、アイツの事はどうでもいいさ、そんな事より美波達は?」
準備する奴らの中に、女性陣と秀吉の姿が見えない事に気が付いて、俺は明久にそう訪ねる。
すると明久から「島田さんなら姫路さんと秀吉と着替に行ってるよ」との回答があった、なるほどな。
「二人はともかくやっぱ秀吉も着るのな、チャイナ」
「秀吉は可愛いからね、当たり前だよ!」
男に見られず不本意だとよく言ってるわりに、女装に抵抗がないんだよなアイツ、Fクラス連中も悪いけど、半分は自業自得だよな。
なんて、秀吉の女装癖について考えていると、バン!と大きな音をたてて教室の扉が開かれた。
「ちょっと土屋っ! この服際どすぎない!?」
現れたのはそう言って怒りを顕にする美波。エグいスリットが入った藍色のチャイナ服を見事に着こなし、その美脚を大胆に晒していた。
おい、マジか。マジなのか……くそ、チャイナ服! いいじゃねぇかチャイナ服!!
歩くたびに視線が吸い寄せられるふともも、見えそうで見えないチラリズム! 下半身の低防御に比べて胸元はぴっちりと閉ざされているが、ぴっちりし過ぎて普段なら分からない、控えめすぎる美波の美波ヶ丘が「ねぇ」現れている! ノースリーブで脇が見えそうなのもグット!
藍色なのが大人っぽさを演出していて素晴ら「ねぇ晴楓」……ちっ。
明久から肩を叩かれ強制的に思考が中断、せっかくのチャイナ美波に浸ってた気分を邪魔されて、くだらん事ならぶっ殺すと明久の方を振り向く俺。
「んだよ明久」
不機嫌さを隠そうともせずにそう尋ねると、明久はすっと俺にティッシュを差し出してきた。
「鼻血、さっきから垂れ流してるよ」
「……………どうも」
嘘やん……俺はなんとも言えぬ気持ちでいそいそと鼻にティッシュを詰める。そんな俺のみっともない様子をニヤニヤと見てくる悪趣味な明久。
「もう、チャイナ服くらいで鼻血出すなんて中学生でもしないよ?」
「ふんっ!?」
「ぎゃああ!!? 鼻フック!?」
「何だ明久、鼻フックくらいで鼻血とは情けない」
「そんなん誰でも出るわぁ!!」
はっ! 明久の分際で俺を煽ろうなんざ百万年早いっての。
涙目で鼻にティッシュを詰める明久から視線を切る、すると、騒がしかった俺らを見ていたのか美波がこちらをガン見していて、目が合った。
「……………………」
「……………………」
互いに沈黙。
俺は気まずさからすーっと明後日の方向を見上げ、美波は美波で、色々察したのか顔を紅く染めて俯いてる。
「……どう?」
痺れを切らしてぽしょりとそう問う美波。
どうって、そりゃあ可愛い似合ってる最高だが? ……とそう答える事は出来ない。
例え全世界からチキンだと罵られようが、素直にそう答える訳にはいかないのだ。
だって俺の視線の先には、荒縄やカッターナイフ、ズタ袋などを着々と用意しているFFF団がいるから。相変わらず殺意が高いね、くそったれ。
「スーッ…………察してくれ。いや、察して下さい」
「………………ふーん、わかった」
絞り出した俺の懇願に、美波はふっと笑って、ニヤニヤと俺を揶揄うように明後日の方を向く俺と視線を合わせてきた。
「……んだよ」
「いやー? なにもないわよー?」
「…………うるせ」
「ふふっ、はーい。今日はこの辺にしてあげる」
満足気にそう言って姫路や秀吉の元に戻っていく美波。
前回の大会参加の理由がバレた時といい、ここ最近ずっと俺情けなくない? 結局天を仰いだまま、そんななんとも言えない答えしか返せないとか、男としてどうよ?
でもさ、だってしょうが無いじゃん! 素直に答えたら異端審問会! 茶化してセクハラしようものなら美波殺される! もう言葉を濁すしかないじゃんね!? あの場における正解はあれしかないじゃんね!!??
「だから着々と俺を簀巻きにするの辞めろテメェら!!」
『裏切者に血の制裁を!』
『『『リア充死すべき! 殺すべき!!』』』
「なんもしてないじゃん! 俺悪くないじゃん!?」
『島田となんか分かりあった雰囲気だったろうがぁ!!?』
『あれで何もないが通じるかぁ!?』
『ちくしょお! 見せ付けやがって! 死ねぇ!』
「理不尽・オブ・ザ・理不尽!!?」
あれよあれよと簀巻きにされ、取り囲まれて、始まるは異端審問会。
「ちょっと待てよ、俺今日大会あるんだけど」
『大会までには叩き起こしてやるクズめ』
「てかほら、文化祭の準備とか忙しいし、こんなんやってる暇なくね?」
『クズがいない方が捗るわクズめ!』
「ッ! あ!明久が姫路から看病してもらってるぞ!? ほら! アイツから先に殺れよ!!」
『奴は後から葬るから問題ないクズめ!』
「ちょっ!? 僕を巻き込むなクズ! 大人しく一人で死ね!」
糠に釘、馬の耳に念仏。
こいつ等は相も変わらず話にならない、慈悲がない。
「……被告、言い残すことは?」
中華喫茶で忙しい須川と、現在鼻フックのダメージを姫路から献身的看病を受けている明久の代わりに、ムッツリーニがそう問いかけてくる。その手にはバチバチ音を立てたスタンガン。
「もう、スタンガンにはツッコまないからな」
「……それが辞世の句でいいか?」
「よくねぇわ!」
「……最後に一言だけ、発言を許す」
ピタリと俺の首にスタンガンを当てて、そう言い放つムッツリーニ。
言いたい事は当然色々ある、不当な私刑に断固反対するだの、そんな事やってるからモテ無いんだよだの、そもそもチャイナ服作る過程で色々写真が手に入ってウハウハのお前に言われる筋合いは無いだの。
だが、最後の一言って事なら。俺にはどうしてもムッツリーニに伝えたい言葉があった。
「ナイスチャイナ、いい仕事するぜ!」
「……ふっ、当たり前だ」
バヂバヂバヂヂヂィイイイッ!!!
◇
「で、叩き起こされてここに居るって訳よ」
「本気で頭がオカシイ奴らの集まりだな、お前らFクラスは」
「はっ! 否定しないしできねぇな!」
約束通り大会直前に叩き起こされた俺は、一回戦の会場へとやって来ていた。
俺が気絶していた間、明久がFFF団に処されたり、姫路の毒団子で雄二が死にかけたり、姫路に優勝賞品のペアチケットは誰と行くのかを明久が問われ、雄二と一緒に行くと誤解されたり、色々あったみたいだが気絶していた俺の知った事ではない。せいぜい俺よりも不幸になってくれと願うばかりだ。
そんな至極まっとうな願いを祈りながら、俺はスタンガンで少し焦げ臭くなった制服の襟を正して、根本に問いかける。
「根本、売上は今幾らぐらいになってんだ?」
「今ちょうどトータル10万を超えたところだな」
「初戦から上々ってところだな!」
こっからさらに人が増える事を考えれば莫大な儲けが手に入る事だろう! まったくウハウハですよ!
そんな浮かれる俺を横目に、根本はため息を吐いた。
「儲け話も良いが、試合にも集中しろよ楠木」
「必死だねぇ、もっと肩の力を抜けよ」
「貴様が写真集を盾に脅してるからだろうが!」
「ははは! ウケる」
「何もウケねぇよ!」
騒がしい根本を無視して、対戦相手と向き合う俺。相手は二年Dクラスの男子生徒二人か……
「まぁ、一回戦突破はいけそーだな。良かったな根本」
「こんな所で躓いてられないからな、当たり前だ」
俺らのそんな会話が聞こえていたのか、明らかに不機嫌そうな顔をする対戦相手。
「随分と余裕じゃないか? そんなんだと足元すくわれるぞ?」
「?? 足元にすら及んでいないお前らが、どうやってすくうんだ??」
「はっ! 小賢しく足掻いたところで、結果は見えてるわけよ」
「なんだと!?」
「おい!挑発に乗るな! 落ち着けよ! なにせ学園ツートップのクズが相手なんだ! どんな汚い手を使ってくるかわからないんだぞ!?」
「そうだな、危うくアイツ等の作戦に引っかかるところだったぜ」
「戦う前から仕掛けてくるとは、さすが卑怯コンビだ」
「「こんなクズと一緒にすんじゃねぇってあ゛ぁん!?」」
俺と根本をあたかも同類かのように話す対戦相手に意義を申し立てると、なんと言う事でしょうクズキノコとハモってしまったじゃありませんか。
なーに言ってんだこのクソキノコ?
「それ俺のセリフだから、俺よりクズで変態で雑魚な根本くんに言う権利無いから、真似しないでくれる?」
「はぁ? 貴様こそ何を言っている! 誰がどう見ても俺よりお前のほうがクズだ!!」
「ありえませーん! 俺はお前みたいにニヤニヤコソコソと陰湿に悪事を働かねぇんだよ! 堂々とクズムーブを楽しんでんだよ!」
「威張るな! 絶対にお前のほうがクズいだろ!?」
「はいそこ、どちらもクズですので、五十歩百歩の見苦しい言い争いは辞めてすぐに準備してください。これ以上は不戦敗にしますよ」
「「ッチィ!!」」
審判の福原先生にそう忠告され、仕方なくガン付け合うのを辞める俺達。こんな所でしょうもない負け方をするのは納得がいかんからな。
「それでは、双方準備はいいですね? では……試合を開始してください」
「向こうのチームワークは最悪だ! もらったぞこの試合! 試獣召喚!!」
「あぁ! 勝とうぜ! 試獣召喚!!」
社会
Dクラス
男子生徒A 102点
男子生徒B 90点
開始の合図と同時に敵側の召喚獣が現れる。
バックルと片手剣を装備した戦士風の召喚獣と道着をきた格闘家風の召喚獣。
なんてことない一般召喚獣二匹、特別警戒する必要もないはずだ、さっさと倒してしまおう。
「しゃーねぇ、弱々なクズキノコの前に邪魔者を処理しねぇとな」
「懸命な判断じゃねぇか。まぁ、クズノ木なんざいつでも殺せるしな」
「…………」
「…………」
前言撤回、まずはクズキノコをぶっ殺す。
「「死ねやクズ野郎! 試獣召喚!!」」
社会
Bクラス
根本恭二 412点
Fクラス
楠木晴楓 28点
現れるはお馴染み、巨大パチンコを装備した袴姿のイカした俺の召喚獣と、巨大な二対の鎌を装備した、胡散臭い宗教家みたいな和服のクソダサ根本の召喚獣。金色の腕輪が尚の事ダサすぎる。
対戦相手のDクラスコンビニは目もくれず、お互いに武器を構え合う。そして躊躇なく俺はパチンコ玉を根本相手にぶっ放した。
「おりゃあ! 喰らえ! キノコこの野郎!」
「効くかよ! そんな豆鉄砲! その首刈り取ってやる!」
俺の弾幕を意図もせずに鎌を振り回して攻めてくる根本。俺も距離を取りながら発泡を続ける。
「アイツ等マジで仲間割れしだしたぞ!?」
「今がチャンスだ! 攻めるぞ!」
「あぁ! 楠木覚悟!」
そんな俺達の様子に意気揚々とDクラスコンビ。まずは圧倒的に弱い俺を倒そうと向かってきた。
つまり今の状況は三体一、根本と敵に挟み込まれるかのような状態だ。
馬鹿め、かかったな。
「くたばれぇ!!!」
そんな物騒な事を叫びながら、根本の大鎌が俺の首を刈り取ろうと横一文字に薙ぎ払われた。
当然俺はしゃがんで回避、大鎌は虚空を斬る。
瞬間、光り輝く金色の腕輪。
「切り裂け……【鎌鼬】」
【特殊能力発動】
根本恭二 412点→382点
そう根本が呟いたと同時に、切り裂いた虚空から真空の刃が、俺の召喚獣の直線上に並んでいた敵の召喚獣を2体とも真っ二つに切り裂く。
社会
Dクラス
男子生徒A 102点→0点
男子生徒B 90点→0点
「「なっ!?」」
「勝負あり、この勝負楠木・根本ペアの勝利です」
『『『なにぃいいい!?』』』
福原先生が俺等の勝利を告げると、会場から色んな戸惑いの声が上がる。
仲間割れがブラフだったと驚いたのだろう、誰だって騙される、俺だってびっくりした。
だってあのクソキノコ、マジで俺を狙って切り裂いてやがったんだからな。
「……ちっ、外したか」
「クズキノコてめぇ! マジで俺ごと切り裂く気だったろうが! クソったれ!!」
「はん! なんの事だか?」
「舌打ちと外したかって呟き聞こえてんだよ! 白々しい!」
いけしゃあしゃあとそんな事を嘯くクソ根本。当初の予定では攻撃は当たっても問題ない、火力の少ない俺だけが、ちまちまと距離を取りながらする予定だったのだ。それをあの野郎ガンガンに距離つめて鎌を振り回しやがって。
「なにか俺に言うことあるんじゃえねぇの? なぁ? 謝罪の言葉とかあるんじゃねぇの?」
「ん? あぁ……囮ご苦労さん」
「貴様本気でぶっ殺してやろうか」
沸々と根本への怨みを募らせる俺。そんな俺達のまるで勝って当り前みたいなやり取りに、ギャラリーは騒がしさが増す。
『あの仲間割れは演技か!?』
『相変わらずやる事が汚い!』
『やっぱクズコンビは卑怯だった!』
『そんなことより根本が腕輪だと!? 馬鹿な!?』
『ありえない!それこそカンニングしたとしか……あ!?』
誰かが何かに気が付いてそう叫ぶと、騒がしかった会場がシンと静まり返った。
あれれぇ? 何だか視線が俺に集まってる気ががするぞぉ? よく分からんがここは素敵な笑顔を返してあげようか。
「……はっ!」(人を心底バカにした嘲笑)
『『『やっぱてめぇが原因かクズノ木ぃ!?』』』
「いえい」
ギャラリーの疑問に笑顔とピースで回答する俺。
そう、今回の試召戦争にガチで優勝する気だった俺は、事前準備として俺が可能な限り全教科の予想プリントを根本に渡しておいたのだ。
元々Bクラスの主席に狙ってなれるくらいには頭がいい根本が、俺お手製のプリントを使えばどうなるか。そうだね、今だけ学年首席も夢じゃないよね。
「つまり! 俺がそこまで頑張らくとも、根本だけで優勝が狙えるって算段じゃあ!!」
「くっ! 腕輪で不意打ちなんて卑怯な!」
「はー? 自業自得だろぉ? 俺達が仲間割れしたからって好機だと思っただろぉ!? 初戦なのに俺達の状態の把握を怠っただろぉ!? 最初っから根本の腕には趣味の悪い生意気な腕輪があっただろぉ?」
「……敵の仲間割れに目が眩んだ俺達の負けって事か」
「そのとぉりじゃあ! ザマァ見晒してごめん遊ばせ!!」
そもそも敵が仲間割れしだしたら、俺なら攻めるんじゃなくてどちらかが死ぬまで傍観を決め込むね! これ常識。
大きな釣り針に引っ掛かって、こちらの戦力を見誤った向こうの自業自得だった。
『『『くーず! くーず! 』』』
「はっ! ルールは守ってるから批難される言われはないわ! そんな事も分からんおつむナメクジの有象無象共! 2回戦までさらだばー! はっはっはっ!!」
会場に響くクズコールとブーイングの嵐。
今更そんな批判にメンタルやられる程ヤワじゃない俺は、勝利の美酒に酔いしれながら会場を後にするのだった。
確か美波もこのあと試合だし、教室戻っても居ねぇんだよな。
中華喫茶の手伝いだりぃなぁ……よし、りんご飴でも食いに行こう。
鬼のいぬ間にサボろうそうしよう。
とても、難産でした。
ここまで読んでくださった皆様、高評価、感想をくださった皆様、本当にありがとう御座いました。