バカとクズは使いよう。   作:枕魔神

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クズとメイドと黒歴史01

 

【Side吉井明久】

 

「暇だねぇ」

「暇だわ」

「そうじゃのう」

 

 僕と島田さんと秀吉はそう呟くと、はぁとため息を吐く。現在中華喫茶は閑古鳥が鳴いてすっからかん、人っ子一人居やしなかった。

 

「最初は順調だったのに、どうしたのかしら」

「そうだよねぇ、多少のアクシデントはあったけど、あの調子なら目標の売上を達成できそうだったのに」

 

 島田さんの言うとおり一体どうしたのだろうか。このままじゃお金が足りなくて教室設備の改修ができないよ。

 

 なんとかしないとと僕が頭を悩ませていると、建付けの悪い教室の扉がガラガラと久しぶりに開いた。お客さんだ!

 

「いらっしゃいませぇ! 中華喫茶ヨーロピアンでぇす! 美味しい胡麻団子! 可愛いチャイナ娘もいるよぉ! 今ならチャイナ娘からのあ~んがついてくるよぉ!」

「俺だ明久、詰め寄るなキモい」

「あ! バカのお兄ちゃん!」

 

 そう言って僕ぐいっと押しのけて教室へ入ってきたのは、十中八九サボりで今の今まで存在を眩ませていた晴楓と、その晴楓と手を繋いでやってきた葉月ちゃん。って葉月ちゃん!?

 

「なんだ葉月、お前が言ってたバカのお兄ちゃんって明久かよ」

「そうなのです! 一番バカなお兄ちゃんです!」

「なるほどなぁ、確かにコイツはバカのお兄ちゃんだ、納得だわ」

「納得しないでよ!? というか何で晴楓が葉月ちゃんと一緒にいるんだよ!? はっ!! もしかしなくても誘拐!?」

 

 なんてことだ! このクズ野郎いつもの小悪党じみたクズムーブだけに飽き足らず、ついに犯罪を犯しやがったのか!?

 友として誤った道へ進もうとする晴楓を、どうやって断罪してやろうかと僕が考えていると、後ろからトンッと後頭部にチョップが入り、思考が停止する。

 

「誘拐じゃないわよ吉井、葉月はウチの妹だし、ハルと葉月はだいぶ前から知り合いだもの」

「まぁ美波より先に仲良くはなってはいたな、あとお前のその反応はもう飽きた、どいつもこいつも人を誘拐犯みたいに扱いやがって」

「それは……日頃の行いが悪いからじゃろうな」

 

 秀吉の呟きに葉月ちゃん以外の全員が頷く。晴楓も流石に気まずくなったのか明後日の方を向いた。

 

「どんまい、晴楓」

「うるせぇわ。てか俺からしたら明久、なんでテメェ葉月と知り合いなんだよ」

「そうね、それはウチも気になったわ?」

 

 そう晴楓と島田さんの二人に問いかけられる僕。

 僕と葉月ちゃんの出会いは、お金が足りなくてお姉ちゃんにプレゼントするぬいぐるみが買えなくなって困ってる葉月ちゃんに、僕が手を貸した事がきっかけだ。れっきとした人助け、晴楓と違って何もやましい事は無い。

 

 僕がその事を、疑いの視線を向けてくる二人に説明しようとするよりも早く、先に葉月ちゃんが笑顔で二人にこう言った。

 

「バカのお兄ちゃんは葉月のお婿さんです!」

「「は?」」

「ちょっ!?」

「結婚を前提にしたお付き合いをしてるんだもん!」

「「あ゛?」」

「ちょっと葉月ちゃん!?」

 

 葉月ちゃんの発言をきっかけに、眼の前の二人が殺気立つ。

 しまった! なんとか誤解を解かないと! って思っていると、急に僕の視界が真っ暗に染まる。そして何者かにロープで縛り上げられた。

 

 ダンッ!

 

 聞こえてくるのはお馴染みの木槌の叩く音、僕は全てを察した、警戒すべきは眼の前の二人だけじゃ無かった事を。

 

『これより異端審問会を開く』

「何するのみんなぁ!?」

 

 転がされ、乱暴に頭に被された麻袋を取られると、そこには黒装束に見を包んだ我等がFFF団面々が僕を囲んでいた。

 

『被告、吉井明久は、我々異端審問会の血の盟約に背き、一人だけ女の子と付き合うと言う大罪を犯した。これは事実に相違は無いか』

『『『相違ありません!』』』

「相違しかないよぉ!?」

『被告、言い残すことは』

「弁護の前に遺言なの!?」

『判決、死刑!!』

「ぎゃああああ!?」

 

 弁解の余地もないまま僕は判決を下され、ジリジリと寄って来る異端審問会の皆に、僕は恐怖の叫びをあげる。

 まさに絶体絶命、そんな時だった。

 

「異議ありっ!」

「は、晴楓ぁ!」

 

 異端審問会と僕の間に割って入り、そう唱えたのは、まさかの晴楓。普段とは違う頼れるその後ろ姿に、僕は感動を覚える。

 普段は弁護の余地なし、完璧で究極のドクズ野郎だけど、そうだよね! 眼の前で殺されそうな友達は見捨てないよね!?

 

『なんだ楠木、貴様も殺されたいのか』

「発言が完璧に悪党だぞお前ら、あと殺されたいわけ無いだろ」

『ならばそこをどけぇ! 先に貴様を女の子と手を繋いでデートしてた容疑でぶっ殺しても構わんのだぞ』

「お前ら葉月も女の子判定なのかよ、頼むから葉月に近づくなよ。毒でしかないから」

 

 そう言って晴楓はリーダーである須川くんの前に立つ。

 

「明久は殺させねぇ、手を引けお前ら」

『許可できない! そいつは裏切り者だ!』

「……そんなことしてるからテメェ等はモテないんだよ」

『『『ぐはっ!!!』』』

 

 言ったぁ! 皆が気がついてるけど目を逸らし続けてた事実をハッキリと突きつけやがった!

 

「とりあえず、明久の身柄をさっさとこちらへと寄こせ」

『だ、だがしかし……』

「駄菓子もクソもないわ、逆に考えるんだよ。お前らは大罪人も許せるほど器の広い男だったってアピールになるだろ?」

『う、うむ』

「 女ってのは器の広い男に惚れるらしいからな、つまり? お前らはここで明久を見逃せば?」

『っ!? 俺達に……も、もももモテ期が!?』

「ざっつらいと」

 

 ダンッ!

 

『被告、判決無罪!』

『『『異議なし!』』』

『こんな事してる暇はない! モテ期がやって来た今! ナンパに出かけるぞ同士達よ!!』

『『『うおぉおお!!』』』

 

 そう雄叫びをあげ黒装束を脱ぎ去り、ナンパの為校内へ散らばるFFF団の面々。僕は戦慄を覚える、彼らのバカさ加減に、口八丁で詐欺師のように人を騙す晴楓に。

 

 しかし、そんな詐欺師の晴楓のおかげで助かったのは事実。やっぱり持つべきものは友達だよね! 友情って素晴らしい!

 

「ありがとう晴楓! じゃあとりあえずこのロープを解いてよ!」

「は? 嫌だが?」

「へ?……ぐへっ!」

 

 そう言って晴楓は簀巻きにされた僕の上に座り込み、じっと僕の顔を見下ろしてくる。

 

「いたたた、何するんだよぉ」

「何って、決まってんだろ?」

 

 ザクッ!(包丁が僕の目の前に突き刺さる音)

 

「今からバカのお兄ちゃんを、バカのお兄ちゃんだった物にするんだよ。葉月に手を出したやつは万死に値する」

「誤解だっていってんじゃんこのクズ野郎! そもそも、ならなんでさっき僕を助けたのさ!」

「俺の手でぶっ殺すためだが?」

「だろうね! クソ野郎!?」

 

 さっき少しだけ見直した僕の感動を返してほしい! 全力で!

 今にもその包丁を僕に突き立てそうな、そんな気狂いな晴楓に待ったをかける声。そう、クズ専用ストッパーの島田さんだ。

 

「ちょっとハル」

「し、島田さん助けて! このクズの暴走を止めれるのは君しかいない!」

「ウチの分の包丁が無いわよ?」

「駄目だこいつ等! どっちも狂ってやがる!!」 

 

 ストッパーもぶっ壊れてちゃ話にならないよ!

 

「誤解なんだよぉ! 話を聞いてぇ!!」

 

 僕の涙目の懇願に、包丁から手を離さない晴楓は「仕方ねぇな」と舌打ちをして、葉月ちゃんを呼んだ。

 

「葉月もう一度聞くが、こいつはお前のなんだ」

「お婿さんです!」

「どんな関係だ」

「将来を近いあった仲です!」

「だそうだ、どうする美波」

「ぶっ殺すわ」

「ぎゃあああ!!? 丁寧に誤解が深まってくよぉ!?」

 

 このままじゃ本気で殺される、そう思った僕は唯一この二人を止めれそうな葉月ちゃんにアイコンタクトを送る。頼む葉月ちゃん! 僕を救えるのは君しかいないんだ!

 

 そんな僕の思いが通じたのか、はっ! とした顔をして葉月ちゃんは二人に「待ってくださいと」と待ったをかける。その姿は僕の目からしたらまさに天使だった。

 

 ありがとう葉月ちゃん! 君が子供じゃなかったら僕は君に本気で求婚して「バカのお兄ちゃんは葉月とファーストキスをした仲なんです! 本気です!」……え゛っ?

 

「「死ね」」

 

 ビシィッ……ダンッ!!

 

 葉月ちゃんがそう言った瞬間、表情が抜け落ちた二人が僕に向けて拳を振るう。僕は悲鳴を上げる暇もないまま一瞬で意識を刈り取られ、床に倒れた。

 

 薄れゆく意識の中、真っ赤に染まった視界の先で、包丁の補充をする二人が見える。

 

 それが僕の最後の記憶、そこから先の記憶は無かった。

 

   ◇

 

「死ぬかと思ったよ」

「普通、あれだけされたら人は死ぬと思うのじゃが」

「……血を片付けるの大変だった」

「だ、大丈夫ですか? 吉井くん」

 

 ムッツリーニの電気ショックによる心肺蘇生と、秀吉と姫路さんの甲斐甲斐しい看病のおかげで何とか息を吹き替えした僕。三人が言うには犯行現場は血だらけだったらしい、本当によく生きてたよね僕。

 

「俺はお兄ちゃんを遂行しただけだから」

「ウチも姉として当然の責務を果たしただけよ」

 

 痛ましい殺人現場を作り上げた二人は、いけしゃあしゃあと反省の色が無い。これが司法国家の敗北である。

 

「なんだ、終わったのかお前ら」

 

 これまでのやり取りを、巻き込まれないように遠目から観察だけしていた雄二が、やってきてそう言った。

 

「それにしても島田の妹は態々うちのクラスまで、何の用だったんだ?」

「はい! せっかくの文化祭なので、葉月もお姉ちゃんのお手伝いに来たです!」

 

 そう雄二の疑問にそう答える葉月ちゃん。その申し出は凄く有り難いんだけど、葉月ちゃんが手伝うまでもないのが現実だった。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいが、見ての通り店は閑古鳥が泣いておる、ぺんぺん草も生えそうな勢いじゃ」

「だから手伝いをしてもらうまでも無いんですよ」

「そうですか……残念です」

 

 秀吉と姫路さんがそう言うと少し葉月ちゃんはショボンとしてしまった、そんな葉月ちゃんの頭をぽんと撫でて励ます晴楓。

 

「気持ちだけでも嬉しいから落ち込むな。なに、忙しくなったら葉月に手伝いをしてもらうからな、頼むぞ」

「っ! はいです!」

 

 そうして葉月ちゃんに笑顔が戻ったのを確認した晴楓は、一瞬だけ微笑んだ後に何時もの不機嫌そうな顔に戻って、ポケットから取り出したスマホを僕達に見せてきた。

 

「なぁ……うちに客が来ねぇのって、多分ってか十中八九こいつ等のせいなんだが、心当たりある?」

 

 そう言って流された動画に写っていたのは、ちょっと前に雄二が追い出した、迷惑なクレーマーの三年生。二人が僕達Fクラスの悪口を叫んでいる動画だった。

 

「心当たりも何も、こいつ等さっき来てたぞ」

「やっぱな、明らかに営業妨害が目的だったし」

「何でこんなこと……ウチ等はちゃんと掃除もしたし飾り付けもしたわよ!?」

「そんな事関係ないんだろ、動機は知らんがな」

 

 そう言って晴楓は舌打ちをした。

 

「とりあえずこうなったら、常村と夏川……面倒くせぇから常夏コンビで良いか。ソイツらを見つけ出してもう一度交渉するしかねぇな」

「交渉が成功したとして、ここまでイメージダウンしてしまったら売上の回復は厳しいじゃろうな」

「……目標金額に届かない」

「ま、元々Fクラスなんて評判悪いしな」

「そうだね、クズが居るクラスなんて評判最悪だよ」

 

 特に全校生徒から嫌われてる晴楓なんて、居るだけで営業妨害になるよね。

 

「問題は山積みよね」

「まぁ、売上の回復については任せとけ美波。俺に案がある」

「ほう、どんな案だ? 晴楓」

「まぁ、それよりも先にこの常夏共を黙らせる方が先だろ」

 

 そう言って晴楓は秀吉に、自身の携帯にメッセージが届いてないか確認をする。

 

「ちょうど今、姉上から来たぞ。常夏コンビは今Aクラスにいるそうじゃ」

「それじゃあ俺達も向うか、根回しご苦労だったな晴楓」

「なんてことはねぇよ、妨害は気に入らねぇからな」

「Aクラスはなんの出し物をしてるんだっけ?」

「確か……メイド喫茶だった気がしますよ?」

 

 島田さんの疑問に姫路さんが答える。その答えに僕は言葉を失った……。Aクラスと言えば霧島さん、木下さん、工藤さんと美少女だらけの場所、そんなクラスの……

 

「メイド……喫茶だとっ!?」

「……っ! (カチャカチャ)」

「お主ら、本来の目的を忘れとりゃせんか?」

 

 呆れたように秀吉は言うけれど、目的を忘れてる? そんなわけないよ!

 僕達の目的はメイド喫茶の調査! 可愛い女の子をこの目に焼き付けないと!

 

「急ごう! 麗しのメイドさんが僕等を待っている!」

「……念入りにローアングルで調査しないと」

「……はぁ、やっぱりのぅ」

「酷いです吉井くん」

「お兄ちゃんのバカ!」

 

 後ろからの非難の声なんて気にならなかった。 

 

 






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