バカとクズは使いよう。   作:枕魔神

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【Side楠木晴楓】

 

「おかえりなさいませ、ご主人さま」

「…………」

「わぁ……霧島さんメイド服素敵ですね!」

「ありがとう姫路」

「……そうだった、ここは翔子のクラスだった」

「忘れてたのかよお前、何も言わねぇから覚悟決めたんかと思ってたわ」

 

 入るや否や、謎の雄二センサーを発揮させた霧島が入り口で出迎えてくれ、俺達はメイド喫茶の中へと入っていった。

 というか、本気でよく分かったな。雄二に発信機でも付けてんのか?……付けてんだろうなぁ(諦め)。

 

「オススメのメニューはメイドとのラブラブデートです。今夜は返しません……ダーリン」

「……今帰っていいか?」

「帰んなよ? やることあんだろーが」

 

 霧島の猛攻にうんざり気味の雄二。そんなリア充(笑)に帰るなと釘を差し、今現在もご丁寧に大きな声でFクラスの件のネガキャンをしている、件の常夏コンビを顎でしゃくる。

 

「いやー、ここは綺麗でいいなー」

「さっきの二年Fクラスの中華喫茶は酷かったからなぁ!」

「店は汚いわ変な匂いはするわ、店員は皆不細工で、おまけに中華喫茶なのにヨーロピアンって頭おかしいんじゃねぇの?」

「「だはははっ!」」

 

 下品な笑い声を上げる常夏コンビ。あんまりな物言いに明久が怒りを顕にして立ち上がった。かく言う俺も同じ気持ちである。うちの店員の何処が不細工じゃ、不細工なのは明久だけだろぉが!

 

「もう許さない! 嘘ばっかり言いやがって」

「そうよ、ウチら皆で頑張ってるのに」

「とりあえずさっさと黙らせようぜ、永久的に息の根を止めようぜ」

「まぁ落ち着けお前ら、今ここで殴りかかったら余計悪評が広まる」

「それじゃあ、どうするのさ雄二!」

 

 明久にそう問いかけられた雄二は、少しだけ考える素振りを見せると、霧島にメイド服を貸してくれと頼む。

 

 愛しの雄二から頼まれた霧島は二つ返事で了承。()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……その場でメイド服を脱ぎだしたぁ!?

 

「「ぶはっ!」」

「「霧島さん!?」」

 

 噴き出すバカとムッツリの鮮血。姫路と島田も顔を赤らめて、俺と秀吉も天井を仰ぎ霧島から目を反らした。

 

「待て待て待て翔子! ここで脱ぎ出すんじゃねぇ!」

「でも、雄二が……欲しいって言ったから」

「お前の来てるやつじゃない! 余ってるやつを貸してくれって意味だ!」

「………………わかった、今持ってくる」

「あからさまにがっかりするな!!」

 

 雄二に止められて、脱ぎかけの襟を戻しながら奥の方へとメイド服を取りに行く霧島。

 雄二が慌てて止めて大事には至らなかったので良かったが、多分雄二がフリーズして少しでもストップが遅れてたら、明久とムッツリーニが出血多量で死に、雄二が責任取って人生の墓場にゴールインした事だろう。

 マジで雄二に関してだけは猪突猛進過ぎるわ霧島パイセン。 

 

「相変わらず色々凄いわね……霧島さん」

「それな、パネェよ霧島パイセン。雄二あの人からマジで逃げ切るつもりなわけ? 無理じゃね?」

「愛が重いのう」

「……何も言うな、何も、言ってくれるな」

 

 テーブルに項垂れて意気消沈する雄二に何も言えなくなった俺達。いたたまれなくなって、鼻血を処理し終えた明久が話題を変える。

 

「それにしても、メイド服なんてどうするのさ雄二」

「雄二が着るんだろ? 秀吉、うんと可愛くしてやってくれ」

「なるほどのう、了解したのじゃ」

「違うわバカ共、着るのは俺じゃない」

 

 そう言って、ちょうど戻って来た霧島さんからメイド服を受け取る雄二。

 

「サンキュー翔子」

「貸し一つ」

「だってよ明久」

「だってよ晴楓」

「そうか、なら今度雄二を一日好きにしていいぞ」

「なっ! 勝手なことを!」

「ありがとう、やっぱり楠木は良い人」

 

 明久からのパスを雄二の弱点へダンクシュートする。恨みがましい視線を雄二が向けてくるが、自業自得である。俺は知らん。

 

「チッ……さて、メイド服も借りたことだし、着替えてこいよ」

「? だって、姫路さん」

「えっ! 私ですか!?」

 

 明久にそう振られて驚く姫路。まぁ姫路なら雄二よりもメイド服が似合うだろう、妥当な人選だと思ったのだが。雄二は首を横に降って否定する。

 

「ちがう、姫路が着替えても攻撃できないだろう?」

「え? それじゃあ島田さん?」

「は? よく見ろ明久、このメイド服じゃ胸の所が余っぶねぇええ!!?」

ツギハ アテル

 

 ノーモーションで俺の顔面目がけて繰り出された、コークスクリューブローを俺は全身全霊の緊急回避で避ける。危なっ! 常夏コンビの前に俺が殺されるところだったぜ!

 

「えー? それじゃあ誰が着るのさ」

「そうだな、どっちがいい?」

「どっちって誰と誰だよ」

「お前と明久」

「「明久(晴楓)に着せよう!!!」」

 

 末恐ろしい二択を持ち掛けてきた雄二に、俺は即答で明久と答える。俺と同じ速度で奴も俺の名前を上げやがった。

 

「おい明久、俺はお前と違って変態じゃないんだ、メイド服なんて恥ずかしすぎて着れないんだよ」

「ははは、面白い冗談だね。クズに羞恥心なんてないでしょ?」

「はっ! ブーメラン乙だわ、入学早々セーラー服で登校したバカな前科者は、俺と違って失う物はなにもないだろう?」

「「………………」」

 

「「お前を殺す!!!」」

 

 明久の分際で生意気な! 誰がメイド服なんて着るか! 絶対に嫌だね! 断固拒否する! 俺は二度とスカートは履かないって昔きめたんだ、絶対にコイツを殺して無理矢理にでもメイドにしてやる!

 

「死ねぇ晴楓ぁ!」

「お前がくたばれ明久ぁ!」

「待つのじゃお主ら、メイド服を着てから常夏コンビを止めるのじゃろう? ここで争っても生き残ったほうがメイド服を着る羽目になるぞ?」

「「チィイイッ! 命拾いしたなぁ!!」」

 

 秀吉の言葉で振り上げた拳を下ろす俺達。

 武力による解決は封じられた、それなら如何に俺がメイド服を着るのに相応しくないかを説明し、全ての元凶、提案者の雄二を納得させるしかない。

 

 そう思って、俺はメイド服特攻隊長には相応しくなさすぎる自身の貧弱性を説こうとした、そんな最中。美波が霧島にこんな恐ろしい事を聞いてた。

 

「ねぇ霧島さん、メイド服ってもう一着余ってないの?」

「オイ何余計な事を聞いてやがる美波この野郎っ!?」

「メイド服なら、沢山予備がある」

「そしてあるのかよっ!?」

「貸してくれない?」

「わかった」

 

 そう言って再びメイド服を取りに行く霧島。

 

「まてっ! 行かなくても良い! 戻ってこい霧島ぁ!!」

「そうだよ霧島さん! せっかく晴楓に押し付けれそうだったのに!?」

「大事よハル、きっと似合うから」

「そ、そうですよ吉井くん! 可愛いと思いますよ?」

「「そういう問題じゃない!!」」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 だからマジでそういう問題じゃないんだよ。俺はそう強くそう思った。

 

   ◇

 

「……うそ、ハルかわいい」

「おいおい、マジかよ」

「……ありえない」

「わしもここまで化けるとは思わなんだ」

「わぁ! もやしのお兄ちゃんがお姉ちゃんなのです!」

「楠木、可愛い」

 

「……いっそ殺せ」

 

 数分前の全力の抵抗虚しく、強制的にメイド服を着せられた俺は、死んだ目をして力無く呟いた。

 黒髪のウィッグをツインテールに結って、バッチリ化粧を施したゴスロリメイドの美少女それが今の俺の姿だ。

 周りの反応からも察せる通り、完璧な美少女になっているらしい。さぞかし驚いている事だろう、俺は予想通り過ぎて病みそうだがな。

  

 そうさ、あぁ、知ってたさ……。不本意でしかないが俺の女装適性が高いって事はガキの頃から知っていた。

 

 ──

 ────

 

『ねーちゃんねーちゃん。なんでボクの服はスカートばっかりなの?』

『それはね、晴楓。晴楓が可愛いからだよ?』

『可愛い? ボク可愛いの?』

『うん! この世界はね、可愛い子は可愛い服を着ないといけないんだよ!!』

『そっかぁ! ボク男の子だけど変じゃないんだね!』

『うん! 晴楓は男の娘だからね! 立派な私の妹だから! だから、フリルのいっぱい付いた可愛いスカートを履こうね!』

『はーい! ねーちゃん!!』

 

 ────

 ──

 

 思い出される、血縁関係上の姉、もとい糞ったれ変態ロリコン女との、幼少期の忌まわしき記憶。

 

 あぁ、忘れたい、なんなら死にたい。

 

 少しはあの悪魔を疑え過去のピュア晴楓よ。その上そっから小学生三年生まで騙されたままでいるなよ。

 それもこれも全部、全部全部全部全部全部あの変態のせいだ。

 

 そんな感じで過去を思い出し、鬱になっている俺の隣には、俺程ではないがそこそこに目を腐らせた明久。コイツもまた体の線が細い事が災して如何せん女装に違和感ない。可哀想に。

 

「……これ、僕いらなかったんじゃない?」

「私は吉井くんのほうが可愛いと思います! 自身持ってください!」

「一ミリたりともフォローになってないけど、ありがとう姫路さん」

 

 わかるぞお前の気持ち、男としての尊厳とかその他諸々が崩れ去るよな。

 

「「……屈辱だ」」

「晴楓、お前それで食っていけるぞ」

「ぶっ殺すぞ雄二貴様」

「そして、晴楓と並ぶと明久は完全にネタ枠だな」

「ぶちのめすよ? 雄二」

 

 ブチ切れる俺と明久。指示した本人の癖して、言うに事欠いて何てことを言いやがるこの腐れゴリラ。

 誰が食っていけるだ、誰にナニして金稼ぐんだよふざけんなよ。

 

 パシャ!

 

 そしてなに写真を撮ってやがるムッツリーニ、ぶっ殺すぞ。

 

「ちょっと! 写真は辞めてよムッツリーニ!」

「おい消せ」

「……つい」

 

 ついじゃねえよ、この姿の情報を媒体に残すんじゃねぇよ。万が一、億が一にもあの腐れ女に渡ってみろ。やつの襲撃で俺の平和な一人暮らしが脅かされるだろうが。

 

「……一枚、500円」

「ちょっと土屋、流石に写真は辞めてあげなさいよ。ハルの10枚買うわ」

「おいまて美波コラ!」

「そ、そうですよ土屋くん。可愛そうですよ。私は吉井くん10枚お願いします」

「姫路さん!?」

「……毎度あり」

 

 そう言ってムッツリーニはカメラを大事そうにしまう、アレではぶっ壊してデータを飛ばす事も出来ない。というかどうせムッツリーニの事だからバックアップも有るのだろう、あぁ詰んだわ糞ったれ。

 

「バカな事やってないで、さっさとアイツらを黙らせてこい」

 

 絶望の中、人の心が無いゴリラがそう言う。腹立つが、此処でうだうだやってても変わらないのは事実だった。

 

「……こうなったら即片付けて、着替えるぞ」

「うん……うん、そうだね晴楓」

 

 心の中で指示した雄二に思いっきり中指を立て、明久と一緒に常夏コンビへ近づいて行く。

 覚えてろ雄二この野郎、俺達の心の傷の代償は大きいぞ、絶対に、絶対に許さないからな。

 

   ◇

 

失礼しぁます

追加のご注文は御座いませんか?

「はぁ? ……なんっ!??」

「うひょ~、二人とも可愛いじゃねぇか!」

 

 元々そこまで低くない声を利用して、秀吉までとはいかないものの、見事な女声を作り出した俺達は、バレることなく常夏に近づくことに成功する。

 

「ちょっとこっちに来いよ!」

「へへ、メイドならご奉仕してくれよ」

 

 下卑た笑みを浮かべて俺の肩に手を回す常夏の常の方、明久は夏の方に捕まったか。

 

ちょ、困りますぅ……

そうです、やめてください

「あぁん? なんだよ」

「お客様の言う事聞けねぇってのかぁ!?」

 

 俺達の釣れない態度に声を荒げる常夏。元々うちのクラスのネガキャンをする為に態と目立ってた奴らだ、こんな事をしていればすぐに観衆の視線に晒される。周りからは可愛いメイドにちょっかいを出す、悪質な客に見えてる事だろう。

 こうなってしまえばこちらのもんだ。正当防衛が成立する。

  

 それに、いい加減もう限界だ。そもそもこいつ等がいらん事をしなければ俺がこんな目に合う必要も無かったってのに。

 

 もういい、さっさと殺ってしまおう。

 

「本当に困りますぅ、お客様っ! マジで死んでください!」

 

 バヂィヂヂヂヂヂィ!!!

 

「あばばばばばばばば」

 

 俺はベタベタ身体を触り、あわよくば胸を触ろうとしてきた常村のスケベ野郎の首にスタンガンを当てがって、迷わずスイッチを押した。

 

「常村ァ!? このアマなに「きゃーこの人変態ですぅ! 私の胸を触りましたぁ!?」 なんだとっ!?」

「大丈夫ハルコ!? おのれ乙女の恨み! くたばれぇええええ!」

「まっ! ギャフンッ!!」

 

 そして俺が悲鳴を上げてそう叫んだ所で、明久もといアキちゃんが、生き残りの夏川を後ろから抱えあげて、見事なジャーマンスープレックスを決める。

 そして懐からブラジャーを取り出して夏川の坊主頭に取り付けた。

 

「変態よぉ!!」

「なんだコレ剥がれねぇ!? 何しやがる!」

「てめぇらただじゃおかねぇぞ!」

「公衆の面前で破廉恥行為とは! 下衆な奴らめ!」

 

 二人が反撃をしようとしてきた所で、満を持して雄二の登場。俺ら二人ならともかく、一度ボコられてる雄二の登場に常夏は怖気づく。

 

「お前らまさかっ! Fクラスの……」

「ちっ、形勢が悪い……逃げるぞ夏川!」

 

 俺達の正体に気がついたらしいけど、完全に雰囲気はアウェイ、誰がどう見ても常夏が悪者だ。

 集まったギャラリーの視線に耐えきれずに、しっぽ巻いて逃げ出した。

 

「こらっ! 逃さない!」

 

 慌てて明久が二人を追いかけようとするが、そんな明久を「待て」と雄二が止める。

 

「なんだよ雄二! 早く追いかけないと!」

「大丈夫、これだけの観衆の前でやらかしたんだ。アイツ等だってこれ以上目立つ行動は出来ないさ」

 

 そう言って雄二はギャラリーを解散させ、俺達は美波達が見守るテーブルへと集まった。

 

「お疲れ様、ハル」

「おう、二度とやらんぞ」

「吉井くんもお疲れ様です!」

「うん、ありがとう姫路さん。これでお店の売上が戻ればいいんだけど……」

 

 明久がそう言うが、その言葉を俺は首を横に降って、「難しいだろうな」と否定する。

 

「一度広まった噂ってのは早々落ち着かないもんだろ、ましてや食品の衛生面に関してなんて顕著だ。この前寿司屋とかでも問題になったろぉが」

「こればっかしは晴楓の言うとおりだな。長い目で見るならまだしも、今日と明日で稼がないと行けないんだ、目標金額に達するのは厳しいだろう」

「それに、あの常夏が別の策で妨害して来ないとも限らないしな」

 

 さっきの騒動で暫くは大人しくなるだろうが、あそこまでなりふり構わず妨害してきた奴らだ、もう大丈夫と言い切れる保証は無い。

 

 しかし、だからと言って捕まえれば良いかと言われるとそうじゃない。あの二人からFクラスが恨まれる心当たりがない以上、常夏に裏で指示を出している何者かが居る可能性が高い。今日明日と監禁しても第二の刺客がやってくる可能性だってあるのだ。

 

「それじゃあどうするのさ雄二!」

 

 焦った様子でそう雄二に問う明久。対する雄二は焦った様子もなく俺に視線を向ける。はいはい、さっき言ってた解決案を話せって事ね。

 雄二の手の平で転がされてる感が否めずに俺はため息を一つ吐くと、今までじっと黙って話を聞いていたこの学年のトップに声をかけた。

 

「霧島、この前の貸し今返してくれ」

「……ん、何をすればいい?」

 

 そう言って頷く霧島。周りに居たAクラスの連中が若干警戒を見せるが、安心してほしい、今回はマジで変な事は頼まねぇから。

 

「こっから先の文化祭、出店をうちと合同でやって欲しい」

 

 チャイナとメイドの相乗効果で、目指せ売上一位である。





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