【Site吉井明久】
大盛況のAクラスとの合同喫茶も一息つき、僕達Fクラスの面々は召喚大会二回戦の会場へとやって来ていた。(なお、流石にメイド服は着替えた。姫路さんが残念がってたのは見ないことにした)
自分達の試合が近いって意味もあるけれど、それよりも何よりも、ブチ切れたまま大会へと向かった晴楓の様子が気になったから。
「絶対に……碌な事にならないよね」
「……とりあえず対戦相手は……どんまい」
晴楓の八つ当たりが確定してる相手チームに南無と合掌するムッツリーニ。
僕達は知っていた、本気で怒った時の晴楓は何時もの数倍理不尽で、なりふり構わず、復讐のために動くと。だから最悪そのせいで大会が中止になるかもしれないなんて予想もしていた。
「久しぶりに本気で怒ってるみたいだったわね」
「去年のバレンタイン以来かのぉ」
「あぁ、アレは悲しい事件だったね」
通称【紅いバレンタイン事件】たしか唯一下駄箱に入ってたチョコレートを色々と妨害にあって食べそこねた晴楓が、邪魔した人全員の靴箱に女子からと偽って激辛チョコレートを詰め込んだんだよね。アレは辛かったなぁ……。
「……他にも【お昼の黒歴史校内放送事件】や、【気になるあの娘かと思ったか? 放課後体育館裏でのパイ投げ事件】とか」
「クズの名に恥じぬ事は一通りしてきとるのぉ」
「どれも遠慮とか容赦がなかったよ、僕が保証するよ」
「だいたい何時も真っ先に狙われるもんね、吉井」
ほぼ毎回晴楓の復讐リストに名前が乗る僕に、呆れた様子で島田さんはそう言う。
「僕だって不本意さ! ただ僕は晴楓の幸せが許せないってだけなのに」
「明久は学ばんからのぅ」
「……だから、晴楓の地雷を思いっきり踏み抜く」
「ほとんど自業自得ね」
三人がどうしよもう無い人を見る目で僕を見つめてくるが、僕のやらかしを加味したとしても晴楓の復讐は度を超えてると思う。絶対に晴楓の方が悪い。
「まぁ吉井の話は置いときましょう、多分今回は吉井は狙われてないんだから」
「あの、そもそもなんでそんなに楠木くんは怒ってるんですか?」
姫路さんがおずおずと手を上げながらそう聞いてくる。なんでって……ねぇ?
僕達は一斉に今まで知らん顔をしていた雄二の方へ振り向いた。
「……なんだよ」
なんだよじゃ無いよこの暴君ゴリラめ。
「どうやらこのゴリラが、晴楓を女装したまま大会に行かせたらしいんだよね、無理やり」
「元々晴楓は女装を嫌がっておったからのぉ、服を隠されブチ切れておった」
「そ、それは怒っちゃいますね……」
「でしょ? 確かに女の子のハルは可愛いけど、無理強いし過ぎるのは酷いわよね」
「……雄二、やりすぎ」
皆から白い視線を向けられて居心地悪そうに身じろぐ雄二は、ぐっと言葉をつまらせながらもこう反論した。
「晴楓の奴だって根本に女装強要してたじゃねぇか」
『『『それは根本(くん)が悪い』』』
声を揃えてぐうの音も出ないほどの正論を即答する僕達。アレは誰がどう考えても根本くんの自業自得だろう。
「まぁ、集客率アップの狙ってってのはわかるが、やり過ぎたのぉ雄二」
「そもそもハルのお陰で妨害の件はだいぶ改善したじゃない」
「……Aクラスとの合同も晴楓の案」
三人の言うとおり今回の清涼祭に関しては晴楓の功績は大きなものだよね。だけど、
「……こうやって言葉にして並べてみると、晴楓が真人間みたいに感じるから不思議だ」
「あはは……楠木くんはやる気があると凄いですもんね」
僕の呟きに苦笑いする姫路さん。確かにやる気がある時の晴楓は何だかんだで頼れるもんね。頼ったら頼ったで後が怖いのは確かだけど。
「けど、これは雄二が悪いんだし。後でちゃんと謝っておきなよ? 多少は仕返しを手加減してくれるかもよ? たぶん?」
「……はぁ、確かにそうだな」
僕達からそう諭されて、本当に珍しく自分の否を認めた雄二。普段からそれくらい素直だったらいいのにと僕が思っていると、アナウンスが二回戦の開始を告げた。
『これより召喚大会、二回戦を開始します』
巨大な電光掲示板に表示される晴楓と根本くんの名前と、今回の対戦相手の名前。
「始まるようじゃの」
「相手はCクラスね」
『赤コーナー、Cクラス山坂・川口ペア』
すでにステージにやって来ていたCクラス女子のペアが観客に手を降って答える。あぁ可哀想に、これから不機嫌なクズを相手するなんて思ってもないんだろう。僕は彼女達がとても哀れに感じた。
『対する青コーナー、Bクラス根本・Fクラス楠木ペア』
福原先生の抑揚無い声で、次いで呼ばれる晴楓達の名前。それに合わせてステージに現れる影二つ。
その衝撃に会場の全ての人が息を飲んだ。
一人はフリフリのメイド服を身に纏い、恐ろしいまでに美少女になってしまった我らがFクラスを代表するクズ野郎、楠木晴楓。
ロングスカートを優雅に棚引かせ、カツカツとヒールの音を響かせながら現れたその姿はまさにメイドの中のメイド、キングオブ……いやクイーンオブザメイドさんだ。
一方もう一人。
ピチピチのチャイナ服に見を纏い、恐ろしいまでに化け物になってしまった悲しきBクラスを代表するクズ野郎、根本恭二くん。
ミニすぎるスカートのスリットから男物の下着をチラつかせ、モジモジと恥ずかしそうに現れたその姿はまさに化け物の中の化け物、キングオブ……いやワールドオブ…………スペースオブザナンバーワンクリーチャーだ。
『『『うぉおおおお!? 美少女ぉ!?』』』
『『『ぎぁああああ!? 化け物ぉ!?』』』
会場はまさに混沌の極み阿鼻叫喚、晴楓の美少女具合に色めき立つ人と、根本くんの化け物具合で気分が悪くなる人続出だ。
『さぁ、さっさと勝ちますわよ恭ちゃん』
『本気で覚えてろクソッタレぇ!!』
相変わらずの女声で晴楓が根本くん、もとい恭ちゃんに声をかると、恭ちゃんはそんな真っ当すぎる恨み言を叫んだ。
並び立つ二極の二人の姿を見て、僕は察する。あぁ、八つ当たり、全部根本くんに向いたんだと。これでひとまずは晴楓が対戦相手の子を惨たらしくいじめ倒したり、大会が中止になるようなことはしないなと、僕は安心してホッと息を吐いたのだった。
「おい、アイツやっぱクズだろ、俺より酷いぞ」
「まぁ、根本くんだしいいんじゃない?」
「じゃな」
「……異議なし」
「…………ハル可愛い」
「み、美波ちゃん……美波ちゃんには楠木くんしか見えてないんですね」
◇
【Site楠木晴楓】
その後、敵が化け物に動揺しているうちに難なく撃破した俺達は、三回戦へと駒を進める事ができた。やったね、俺の作戦勝ちだ!
「次は三回戦だな、んじゃそれまで解散って事で」
「おい、説明しろ! なんで俺がチャイナ服着せられてんだ!」
一刻も早くこんな化け物から距離を起きたい俺はそそくさと立ち去ろうとするが、残念化け物根本に行く手を阻まれた。
「待ち合わせにやって来るなりチャイナ服を着ろって、ナメてんのか貴様は!」
「んだよ、嫌なら着なけりゃよかったじゃん」
「写真集で脅迫しといていけしゃあしゃあとっ!」
目をひん剥いてそうキレる根本。本当に何を言ってるんだろうかコイツは。
「俺だけが女装するなんて、理不尽だとは思わん? 普通にお前も道連れにすんじゃん俺なら、それくらい分かれよな」
「お前の存在が理不尽だわ!! 意味がわかんねぇよ!?」
「意味なんて俺のストレス発散しかないだろ? 多少はスッキリしたぞ」
「巫山戯んなクズが!!」
「文句は全て坂本ゴリラ雄二に言ってくれ。俺は悪くない」
そう、全てはあの悪魔ゴリラが悪いのだ。嫌がる俺に無理やりメイド服を着させ、そんなあられもない姿のまま民衆の中に出ろと強要したのだから、本当に最悪だなアイツ。
「四の五の抜かすな、結果勝てたんだからいいだろうがよ? 負けて優勝逃したら写真集は捨てんぞ?」
「くっ……あと三勝するまでの我慢って事か」
「そうそう、お前はこの清涼祭が終わるまで俺の奴隷って思っとけよ。良かったなぁ? 優勝して彼女に良いところ見せることができる上、俺のお陰で儲けることもできて、感謝しろ」
「代償がデカすぎんだよ! チャイナ服は!!」
そう叫び、着けてたウィッグを床に叩きつける根本。
「わかるよその気持ち、まじで情緒滅茶苦茶にされるよな……」
「うるせぇよ! ……チッ、何で女装してるのか知らんが、俺を巻き込むな!」
「善処しよう。んじゃまたな」
「だから待てっ! そうやってすぐに帰ろうとするな話があるんだよ!」
「いや、お前みたいな化け物とは一秒でも早くお別れしたくてよ」
「貴様が生み出したモンスターだろうが!!!」
そう言われるとその通りなのだが、やっぱ何度見てもコイツの女装は似合ってなさすぎる。明久でさえ一部には需要がある完成度になっているってのに、マジで見るに耐えない。
やっぱ顔か、顔が駄目なんか? 仕方ないよな、こいつブサイクだもん。
「可哀想に、ブサイク」
「……なぁ、そろそろ本気でキレていいか? 真面目な話なんだが」
「お、すまんすまん。何せお前が巫山戯た格好してるからさ」
「…………はぁ、もう良い。賭博の話だ耳をかせ」
そう言って根本はパソコンの画面を俺に見せる。
そこに写っていたのはこれまでの全試合の購入者リスト。誰がどの試合の証券をどれくらい買ったのかがひと目でわかるようになっている。
「んだよ、俺別に誰が買ったのかとか別に興味とかねぇんだが」
「……殆どの試合で予想を当ててるやつが居るって言ってもか?」
「なんだと?」
もう一度リストに目を通す。確かにほぼ毎回勝っている購入者を見つけた。
「この【K.H.LOVE】って奴か」
「あぁ、ふざけた名前だがお前のとこのバカ二人が出てる以外の試合で、今の所全部勝ってる超ラッキーな野郎さ」
「……そんな訳ねぇだろ、売場が解禁して速攻で高額購入、試合を重ねるごとにどんどん金額が増えてやがる。金の賭け方がギャンブラーの動きじゃねぇ、明らかに勝つって確信に近い何かを持ってやがる!」
「この大会、どうもきな臭いと思わないか? 楠木」
根本の問に俺は舌打ちで返事する。
「イカサマ野郎がいやがるぞ、この大会!」
「あぁ、選択教科が試合の直前でランダムに発表される都合上、クラスが離れてるならともかく、全ての試合で完璧な予想なんて無理に決まってる訳だ」
「それを予想してるって事はつまり……」
「イカサマ野郎は、選択教科を知っているもしくは指定できるって事さ」
つまりそれは運営側の息が掛かった奴が居るって証明、この大会は出来レースの可能性が高いって事になる。
「この【K.H.LOVE】って奴どうにかしないと優勝無理じゃね?」
「だからお前に相談してるんだろうが、俺は何としても優勝しないといけないからな」
予想外のトラブルに頭を抱える俺。
この大会は一応うちの学校の特有の召喚システムをスポンサーに見せるって名目の為、それなりにお金を掛けてしっかりと執り行われている。つまりその大会に茶々を入れれる奴って事は一般教師レベルの相手じゃないって訳だって。
つまりイカサマを事前に防ぐのはほぼ不可能、イカサマ野郎を特定し、イカサマだと主張してもバックにいる奴に揉み消される可能性大だし、そもそも証拠となるこの購入者リストは教師に見せられない為、証拠にならない。
「特定すんのは難しいよな」
「少なくとも現段階ではまず無理だな、準決勝まで行けば絞り込めるはずだが」
「それまでコイツと当たらない事を願うしかないんだが……根本、とりあえず今わかってる試合の売り場全部解禁しろ」
そう言って根本に指示を出す。それに従って根本がそのままパソコンを操作し、全試合の売り場を解禁すると、さっそく【K.H.LOVE】が次々に証券を購入していた。
やっぱコイツは黒確だなと心の中で舌打ちをしながら、俺は次の俺等の試合の証券を確認する。
「イカサマ野郎は俺等に賭けてやがる、って事は次の相手は白、ひとまず安心か」
「クソッ……全部コイツの手の平の上って思うと腹が立つ」
「珍しく奇遇だなぁ根本、俺もムカついてるわ」
召喚大会には少なからず美波みたいに真剣に取り組んでる奴も居るってのに、こんなイカサマ野郎が嫌がるって事実が不快だし、その上そのイカサマで意地汚く賭け事で儲けてるのが輪にかけてムカつく。
博打とは己の技術、運、力のみで勝利を勝ち取るもの、後ろに居る誰かのお溢れで勝って良いものじゃないのだ。博打の神を冒涜した罪は重い。
「ちなみにそいつ、次の明久達の試合はどっちかけてんの?」
「バカコンビの試合なら当然相手に賭けると思うが……あぁやっぱりな、と言うかコレは誰が見ても相手に賭けるわ」
「相手誰よ?」
「Aクラスの霧島翔子と木下優子のペアだ」
なるほどね、そりゃあ誰もが霧島達に賭けるわなと納得しつつも、その上で俺は明久達を勝たせれば多少はイカサマ野郎に嫌がらせが出来ると考えていた。
ちょうど良かった、実はめっちゃ冴えてる作戦があるんだよね。
「よし、とりあえず準決勝までコイツのことは放置、当たったらそん時に考える!」
「業腹だがそれしかないか、俺は着替えてからクラスの出し物に戻るが、お前はどうする楠木」
そう根本に問いかけられた俺は、にっこりと笑いながらこう答える。
「ちょっくら生贄の準備してくるわ!」
イカサマ野郎も大事だけど、それより大事な復讐を俺が忘れるわけ無いじゃんね。根本への八つ当たりで多少はスッキリしたんじゃ無いかって? それはそれ、これはこれよ。
ゴリラ差し出せば霧島にだって勝てんだろ! 雄二に復讐ができて、イカサマ野郎にも嫌がらせできる。人はコレを一石二鳥もとい一ゴリラ二ざまぁと呼ぶのだよ! ガハハハ!!
俺は軽い足取りで悪巧みの準備に向かうのだった。
一話の初めにバカテストをまとめてあるので、そちらも良かったら是非。
ここまで読んでくれた皆様、ありがとう御座います。
良かったら感想、高評価、ここ好きもよろしくおねがいします。