【side吉井明久】
僕と雄二のペアは、Aクラスとの試召喚戦争で反省したのか、意外にもちゃんと勉強して点数を上げていた雄二のお陰で危なげなく二回戦を突破。
そのまますぐに三回戦が執り行われるらしいから、控室で待機していた。
「次の対戦相手は霧島さんたちだね」
今大会一番と言っても過言では無い強敵だ、僕は緊張で体が強張るのを感じながら、浮かない顔の雄二に声をかけた。
「チッ、晴楓の奴と当たってくれたら楽だったんだがな。宛が外れたぜ」
「晴楓だったら普通に不戦勝とかで勝ち上がりそうだもんね……けど当たっちゃったのはしょうがないよ」
僕の言葉にわかってると答える雄二の顔は暗い。それもそうだよね、つい先日雄二は霧島さんに負けてるんだもん、当然負ける気な無いけれど、一筋縄ではいかないのは明白だ。
「一応、木下優子の方は秀吉が入れ忘れる様にムッツリーニ達が手を打っているが、それが成功したとしても正直勝機は薄い」
「霧島さん、最強だもんね……」
「確実に勝つにはそれだけじゃ足りないんだ。クソッこんな時に晴楓の野郎は何処に行きやがった」
「あの二回戦の後から姿を見ないよね」
ある意味(勿論悪い意味で)元天才と言われた雄二と同じか、それ以上に作戦を考えるのが上手い晴楓。先の試召喚戦争でもドローに持ち込むファインプレーをした彼が一緒に考えてくれれば、霧島さんたちに勝つ方法が浮かぶかもしれなかったけど、肝心の本人は姿を眩ませて電話にも出ない。
「もしかしなくても雄二が怒らせたから隠れてるんじゃないの?」
「……隠れてるだけならまだマシだがな」
「断言しても良い、絶対にそれだけで済まないよ」
いくら根本くんでストレス発散をして、いく分か大人しくなったとしてもあの晴楓が大人しく黙って隠れてる訳がない。
まぁ、晴楓が何を企んでようとも被害に合うのは雄二だし? 僕は今回関係無いからどうでもいいけどね!
そんな事を考えていると、サッと何処からか忍者のように焦った様子のムッツリーニが姿を現した。
「……すまん、作戦が失敗した」
「チッ、木下優子をどうにか出来なかったか」
「……秀吉が誘き出して隔離するまでは上手く行った、ただ不意を付いて縄で縛ろうとしたところ返り討ちに」
そう言ってロープで縛り上げられた秀吉の写真を見せるムッツリーニ。
なんだろう、激しく抵抗したからか頬を染め、瞳を潤ませ、チャイナ服のまま縛り上げられてる秀吉の姿は、何かが目覚めそうな気がするよね。
『それでは第三回戦を開始します。選手は出場してください』
僕が新たな扉を開きそうになっている所に、作戦会議の時間切れを告げるアナウンス。
「クソッ、結局実力勝負って訳か」
歯を食いしばり、悔しそうにそう吐く雄二。
確かに雄二の指示した入れ替わり作戦は失敗した。だけど、僕だって何も考えずに大会に挑んだりしていない。実は僕にも、霧島さんが参加するって聞いてからずっと考えてたとっておきの作戦があるんだよね!
「安心してよ雄二! 僕にとっておきの作戦があるんだ!」
「マジか明久っ!」
僕は浮かない顔の雄二を励ますように、大丈夫だと背中を叩いた。
「この作戦で恐らく霧島さんは大丈夫だよ!」
「……明久の作戦、不安しかない」
「失礼な! これは僕が一晩考えたスキの無い完璧な作戦だよ!」
「ムッツリーニの言うとおり不安は残るが、今は時間がないっ! 本当に大丈夫なんだろうな明久!」
「大丈夫! ドロ船に乗ったつもりで任せてよ!」
晴楓風に言うなら名付けて【ラブラブ♡プロポーズ大作戦】!! これで三回戦も勝てるはずだ!
「……一気に不安になった」
「それを言うなら大船だバカ」
◇
『三回戦。赤コーナー、Aクラス霧島・木下優子ペア。青コーナー、Fクラス坂本・吉井ペア』
「さっきはどうも、秀吉と入れ替えようだなんて小癪な真似をしてくれたわね」
「そのまま捕まってた方が、恥をかかないで済んだかもだぞ?」
「ハッタリね、この前の楠木くんみたいな手はもう通じないから」
「……雄二、負けない」
キッとこちらを睨む木下さんと、意気込む霧島さん。どっからどう見ても気合い充分、普通に戦ったらまず勝てない相手。
けど大丈夫! 僕の考えた【スーパーラブラブ♡プロポーズ大作戦】があればね!
「明久、それで作戦は?」
「とりあえず雄二は、僕の言ったことをそのまま復唱してくれれば良いから」
「わかった、信じるぞ」
コクリと頷いた僕は、雄二にだけ聞こえる声で指示を出す。
(翔子、戦う前に伝えたいことがある)
「翔子、戦う前に伝えたいことがある!」
「……なに? 雄二」
小首を傾げる霧島さん、よしっ! 食いついたぞ! 僕はそのまま指示を続けた。
(翔子の気持ちも嬉しい、だが俺にも考えがあるんだ)
「翔子の気持ちも嬉しい、だが俺にも考えがあるんだ!」
「雄二の……考え?」
(俺はこの大会で優勝して、自分の手で手に入れたペアチケットでお前と幸せになりたい)
「俺はこの大会で優勝して、自分の手で手に入れたペアチケットでお前と──ってちょっと待てぃ!!?」
突然大声を上げる雄二。何やってんだコイツ、折角いい感じだったのに。
「駄目だよ雄二、恥ずかしがってちゃ」
「おい明久! 何だこの作戦は!?」
「なにって、雄二を生贄にする【超絶ラブラブ♡プロポーズ大作戦】だよ?」
「何だその巫山戯た作戦! 馬鹿にしてんのか!?」
「四の五の言わずに続けなよ、ほら愛してるって叫べばいいから」
「誰がそんなこと言うか! クソっ! テメェに頼った俺が馬鹿だった!!」
そう言って腕を組み、口を固く結ぶ雄二。コイツ、頑として言わないつもりだな?
だけど甘いよ、今日の僕は冴えてるからね、雄二がゴネるなんてのもお見通しさ!
「ムッツリーニ! 秀吉!」
「「了解っ!」」
僕の一声で現れる友人二人、打ち合わせもして無いのに先程のやり取りを見ていて全てを察したのだろう、流石だ。
「なっ! テメェら何を──」
「……黙れ」
「くぺっ!?」
「よし、気絶したのぅ……あー、あー』
恐ろしい程に手馴れた手付きで、雄二の首を直角にへし折るムッツリーニ。一瞬で意識を刈り取られた雄二はぐったりとしていた、これで操り人形の完成だ。
後はこの人形に、チューニングを済ませた秀吉の声を付け足せば!
『俺は、この大会で優勝してお前にプロポーズするんだ! 優勝したら結婚しよう! 愛してる 翔子ー!』
「……雄二、私も愛してる」
くねくねと人形をムッツリーニが動かし、完璧に雄二の声を模した秀吉が霧島さんへの愛を叫ぶ。それにぽっと頬を染めて嬉しそうな霧島さん。
完璧だこれで霧島さんは僕に勝ちを譲ってくれるはず!
『だから、ここは俺達に勝ちを譲ってくれないか』
「……それはできない」
僕達は勝ちを確信して、雄二人形にそう言わせる。しかし、帰ってきた返事は予想してたものとは違って拒否の言葉だった。
「お、可笑しいな? 秀吉もう一回だ!」
「相分かった……愛してる 翔子ー!!』
「……嬉しい、けど勝ちは譲らない」
頬を染めて嬉しそうにはするが、全く首を立てに降る様子が見られない。なんて言うことだ、あの雄二大好き好き好きウーマンの霧島さんなら、雄二がこう言えば何でも言う事を聞いてくれると思ったのに。くそっ、やっぱりゴリラに魅力が足りないからか!
そう僕が雄二の不甲斐なさを嘆いていると、霧島さんの方から「……条件がある」と言い出した。
チャンスと心の中でガッツポーズ。僕達はこの作戦が失敗したら絶体絶命、条件と言ってもどうせ雄二が被害被るだけなんだから、霧島さんのその提案は乗るしか無かった。
「ぐ、ぐぉ……じょ条件だとぉ? 誰がそんな──」
「煩いっ! くたばれ!」
「グハッ!?」
『……分かった、条件を呑む。愛する翔子からの頼みを聞くのが夫の勤めでもあるからな!』
「……ぽっ、夫だなんて。雄二、大胆」
途中復活しかけた無駄に頑丈な雄二の息の根を再びしっかりと止めて、秀吉に条件を飲む事を代弁させる。
何時もの釣れない態度ばかりの雄二とは反する、雄二人形の言葉に、霧島さんはとても嬉しそう。頬を染めてくねくねしながら、ぽしょりと僕等に条件を述べた。
「……雄二、これを着て」
そう言って、取り出されたるは一着の衣。白と黒を基調としたフリフリ可愛い、丁度霧島さんの来てるやつと全く同じお洋服。そう、メイド服だね。
「やっぱりあのクズが企んでやがった!?」
脳裏にチラつくダブルピースでヘラヘラと笑う晴楓の顔に、堪らずに僕は叫んだ。
可笑しいと思ったよ! 霧島さんにしてはやけにチョロくないなぁと思ってたんだ! あのクズの入れ知恵だって言われたら納得だよ!
「……これで、ペアルック」
恥ずかしそうに恐ろしい事を呟く霧島さんに戦慄が走る。まさか女物の服を着せる事でペアルックをしようとするだなんて、普通こう言うのってTシャツとかじゃないの? メイド服のペアルックって何だよ。
Aクラスみんなが着ているメイド服で、それは本当にペアルックと言えるのかとか、本当にそんな汚い物が見たいのとか、色々とツッコミだらけの霧島さんの条件。こんな巫山戯た条件を呑んでしまったら、雄二の尊厳やら未来やら色んなものが壊れてしまうだろう。
それはつまり、全く何も問題無いってことだよね!
『分かった! 喜んで着させてもらう!』
速攻条件を承諾。ムッツリーニが霧島さんからメイド服を受け取っている内に、僕と秀吉は雄二の服をひん剥いていく。僕もさっき無理やり着せられたし、晴楓ほどじゃないけど不満だったんだよね。仕返しのチャンスには当然乗るしかなかった。パンツは情けでそのままにしてあげたから感謝してほしい。脱いだ服は……邪魔だから捨てておこう。
三人で協力して、あっという間に完成したアーマードゴリラメイドゆーじちゃん。そんなゆーじちゃん人形をよっこいせと抱え直し、先程と同じ要領でくねくねと動かす。
『これでどうだ翔子! 似合ってるか!?』
「……雄二に女装は似合わない」
「な、なら何で着せ──」
「……しぶとい」
「かはっ!?」
『翔子とペアルック、とても嬉しい! だから今回の勝負は譲ってくれ!』
「……うん、私達の負けでいい。ね、優子」
「……う、うん代表がそう言うなら良いわよ? 私も彼らとこれ以上関わり合いたくなかったし」
ドン引きしながら霧島さんに従う木下さん。前にAクラスに改造根本恭子が宣戦布告にやってきた時と同じくらい嫌そうな顔をしている。分かるよその気持ち、汚いもんね。
『えーっと、つまりどういう事ですかね?』
戸惑いの声を上げる実況の福原先生に、霧島さんが棄権しますと意志を示す。
『…………三回戦勝者、Fクラス坂本・吉井ペア』
『ありがとう! 愛してる 翔子ー!!』
「……雄二、優勝頑張って。プロポーズ……待ってる」
渋々と言った福原先生の勝者宣言、シーンと白ける大会会場。そんなお通夜みたいな雰囲気の中、何処からかこの惨劇を見ているであろうクズの声が響く。
「ぎゃはははは!! ざまぁみろゴリラ!! 汚いメイドゴリラさんは大人しく人生の墓場に出荷じぁ!!」
その声を聞いた僕たち三人は、見るも無残な姿で力なく横たわる雄二の姿を見て、あのクズを二度と怒らせないようにしようと強く心に刻むのであった。
◇
数十分前
「……優子、何処行ったんだろう」
「おっす霧島パイセン」
「……楠木」
「へへっ、実は折り入って頼み事がありやしてね?」
かくかくしかじか
「なんで、多分雄二が愛を囁いてくると思うんで、勝ちを譲ってほしいんですよね」
「……分かった、素直じゃない雄二には困ってたところ。楠木には助けられる」
「いえいえ、滅相もない。で、問題はここから何ですが、そこで簡単に勝ちを譲ってほしくない訳ですよ」
「……難しい、雄二に好きって言われたら、私は頷いてしまう」
「そこをなんとか! だってこの状況優位なのは霧島パイセンっすよ? 今なら雄二とペアルックとかもできるっすよ!」
「……ッ!? 詳しく」
(にやっ……食いついた)
「簡単だ、そこにメイド服があるじゃろ?」
以下、想像通りの展開が続く。
ここまで読んでくれた皆様、ありがとう御座います。
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