バカとクズは使いよう。   作:枕魔神

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【side吉井明久】

 

 雄二が考えた作戦は至ってシンプル。まず見た目完全に女子の晴楓と秀吉が店員を装い潜入、女子達の安全を確保、二人の合図で僕と雄二とムッツリーニが突入して不良を退治するって算段だ。

 

『さてと、依頼された通り人質を攫ってきたが、こっからどうすんだ?』

『坂本と吉井って奴を呼び出すんだよ』

『マジか、吉井って奴は知らねぇが坂本はまずい。今は鳴りを潜めてるが、中学時代はそうとう暴れてたみたいだからな』

『坂本ってあの坂本か!?』

『できる限り事を構えたくない相手なんだが……』

『そうは言ってられんだろ、その二人を動けなくするってのが依頼なんだから』

 

 ムッツリーニの持つ受信機からそんな会話が聞こえてくる。

 

「依頼って、常夏コンビがしたのかな?」

「さぁな、関わってる事は間違いないだろうが、あいつ等がすべての黒幕ってのは腑に落ちん」

 

 犯人が居るカラオケのパーティルームに、何時でも突入できる場所で、バレ無いように声を潜めて話す僕達。

 度重なる僕達Fクラスに対する、粘質な嫌がらせや妨害、雄二の言う黒幕の目的は分からないけれど、拉致だなんて下手したら警察沙汰になる様な手を使ってくるなんて、一筋縄では行かない相手なのは確かだと思った。

 

「……晴楓、ブチ切れてたな」

「確かに、ちゃんと潜入出来るんだろうなアイツ」

「秀吉も居るからか大丈夫だとは思うけど、あの様子だと顔を合わせるなり殴り掛かりそうな勢いだったよね」

 

 作戦会議中も一応冷静を装ってたけど、内心はらわたが煮えくり返ってたのは見てわかったし、さっき別れた時も目が血走ってたもん。

 まぁ女の子達に危険が及ぶような事だけはしないだろうから、大丈夫だとは思うけどね。

 

『お、お姉ちゃん……』

『葉月! あんた達いい加減妹を離しなさいよ!』

 

 受信機から聞こえる島田さんの怒鳴り声。なるほど、Fクラス随一のバーサーカーである島田さんが付いてて、何で連れ去られたのかが疑問だったけど、なるほど、葉月ちゃんが捕まってるせいで抵抗ができなかったのか。

 

『お姉ちゃん、だってさ! 可愛いー!』

『ぎゃはははっ!』

 

 吐き気をもよおすくらい下衆で品の無い笑い声。上等だ、今すぐその汚い口を閉ざしてやると僕は立ち上がろうとしたが、待てと雄二に肩を捕まれその場に留まる。

 

「気持ちは分かるがまずは人質の救出が先だ、晴楓達が上手くやるまで待ってろ」

「……わかったよ」

 

 そう僕を止める雄二の拳は強く握られていて、爪が食い込んでいる。そうだよね、雄二だって霧島さんが心配なんだ、ここで僕が一人先走って、誰かが怪我をしてしまうなんて事があれば、後悔してもしきれない。

 僕は救出班の晴楓達を信じ、ぐっと我慢をしながら自分の出番を待つことに徹した。

 

……失礼しまぁす

『……灰皿を取り替えにきました』

 

 聞こえる晴楓と秀吉の声。今の二人は秀吉のメイクで別人な上に完全に女子だからね、疑われることもなく潜入に成功したみたいだ。

 

『おぅ、でさ! このオネーチャン達はどうするよ? ヤッちゃって良いわけ?』

『お! なら俺はこっちの巨乳のボインちゃんがいいぜ!』

『お前ほんとおっぱい好きよな、俺はむしろそっちのスレンダーな子がタイプだ!』

『そんな誰が良いとかケチくさい事言ってんなよ! 全員回せば良いだろぉが』

『そりゃそうだ! ぎゃははは!』

 

 聞くだけで気分が悪くなる下品な笑い声がパーティルームに響く。そんな中、凛とした姫路さんの臆することない声が聞こえる。

 

『あの、葉月ちゃんを離して、私達を帰らせてください!』

『だってよ、どうする?』

『そりゃあ当然、オネーチャン達の頑張り次第だよなぁ? 俺達が満足したら返してやるよ』

『ぃやっ! さ、触らないで──』

『……っ瑞希!』

『ちょっと!瑞希から離れなさいよ!』

『あーもう、うっとおしい女だな! テメェに用はねぇんだよ!』

『きゃあ!!』

 

 ドンッと言う何かを突き飛ばした音と島田さんの悲鳴。その後遅れて聞こえた、ガシャンッと言う何かが割れた音に、僕の中で何かがトんだ。

 

「もう我慢できない!」

「ちょ待て明久っ! あぁクソっ!」

 

 後ろで制止する雄二の声も気にせずに、そのまま扉を蹴破る。

 

「お邪魔します!」

 

「よ、吉井くん?」

「吉井!?」

 

 やって来た僕の目にまず写ったのは、身を縮めている姫路さんと姫路さんに寄り添う霧島さん、それと僕の予想に反して無事だった様子の島田さん。

 そしてそんな島田さんを守るかの様に立ち、割れたビール瓶を持ったまま、倒れた不良を足蹴にする晴楓の姿だった。何かが割れた音って晴楓が武器にしたビール瓶だったんだ……

 

「……よぉ、遅かったじゃん明久、先始めてるぞ」

 

 こちらをチラリと一瞥してフリフリと瓶を振る晴楓。なるほど、どうやら僕と同じ様に晴楓も我慢できなかったって訳だ。

 

「ちょ、いきなり入ってきて、誰だよお前」

 

 つまりもう遠慮は要らないって訳だね。丁度近くに来てくれたわけだし、この人からやっていこう。

 

「じゃ、失礼して……死にくされやぁああ!!」

「ほげぇええ!!?」

 

 手首を捻った後に股間にシュート! 何かが潰れたような嫌な感触が足に伝わる。当然敵はその一撃で白目を剥いて失神した。

 

「タクオに引き続きヤスオまで! てめぇら! 何しやガハッ!!!」

「余所見してんなよ、死ぬぞ? ……まぁどのみち全員殺すんだけど」

 

 激昂して僕に殴りかかろうとしていた不良を、背後から今度は灰皿でぶん殴る晴楓。

 

「ナイス晴楓! チェストォオ!!」

「カハッ──」

 

 丁度此方に倒れてきたので、僕はそのままそいつの顔面にハイキックを食らわせてとどめを刺した。

 

「こ、こいつが吉井明久って奴だ!」

「どうしてここが!?」

「って事はコイツが坂本雄二か!?」

「坂本は男だろうが! こいつは女だぞ!?」

「どうでもいい! とにかくぶっ殺せ!」

 

 残った五人が僕に群がる、顔を狙って振り抜かれた拳が意識を奪おうとするけど、お返しとばかりに僕も殴り返した。絶対に倒れるもんか、こいつら全員ぶっ倒すまで!

 

「コイツ、意外にも強えぞ!」

「なら女の方を狙え! 俺等に逆らった事を後悔させてやる!」

 

 不味い! 不意打ちならともかく正面からの喧嘩は僕達五人の中で晴楓は秀吉にも負ける最弱っぷり。そんな晴楓が集中的に狙われたら溜まったもんじゃない!

 

「死ねぇ! クソ女!」

 

 晴楓目掛けて全力で繰り出されるパンチ。助けに間に合わないと焦る僕をよそに、当の晴楓は冷静に倒れた敵の髪を掴み、そのまま盾のように掲げて攻撃を防いだ。

 

「死体ガード」

「グェッ──」

「うわぁああ! タクオォ!?」

「こいつ何て酷いことを!」

「人の心とか無いんかぁ!」

 

 当然仲間を盾にされ怒る不良達。そんな不良を鼻で笑いながら、手に持った死体を捨てて再び足蹴にした晴楓は堂々とこう言い切った。

 

「はっ! ゴミを再利用して何が悪い! 無知で恥しく生きてるだけで罪な貴様らに優しい優しい俺様が教えてやる。いいかゴミ共! これがリサイクルだ!!」

 

「「「なわけあるか! クズ野郎!!」」」

 

 口を揃えて叫ぶ不良達。ほぼ初対面の相手にクズだと速攻でバレるなんて流石晴楓、今ので完全に晴楓にヘイトが向いたよね。

 

「たった二人で何ができるってんだ!」

「舐めやがって!」

「ぶっ殺せぇ!」

「あ、ちょまやば、全員一斉は流石に無理無理、明久頼んだ!

「だと思ったよ! しゃがめ晴楓!

 

 囲まれる晴楓を助ける為に、僕はその変に合った椅子をぶん投げる。何人かはそれで怯ませたけれどまだ二人残っている。くそ、やっぱり僕だけじゃカバーしきれないかと思っていると、

 

「ったく、少しは考えて行動しろってのっ!」

「ゲブッ!!」

「……一番弱い癖に、晴楓はすぐ粋がる」

「……カハッ!」

 

 晴楓に向かっていた相手は一人は壁に叩きつけられ、もう一人はその場に膝から倒れ込んだ。

 

「ナイスタイミングだよ二人とも!」

「……貸し一つ」

「おっせぇよ雄二、ビビって出てこないかと思ったわ」

「吐かせ、計画に無い事しやがって。そんなに島田に手ぇ挙げられたのが頭に来たか?」

「はっ! 当然だろぉが。逆に聞くけどお前霧島だったらどうしたよ?」

「愚問だな、生きてる事を後悔させてやるさ」

「だろぉ?」

 

 そう無駄口を叩きながらも、雄二は更に他のやつに拳を叩き込み、晴楓は雄二が怯ませた相手の足を払って倒して顔面を踏みつけてとどめを刺している。

 晴楓ってタイマンだとクソ雑魚なのに、強い人と組んだら恐ろしい程に強くなるよね。

 

「さ、坂本だ! 坂本までいやがったのか!」

「坂本よぉ! このお嬢ちゃんがどうなっても良いのか?」

 

 僕が二人のコンビネーションに感心している内に、雄二にビビった奴らは、葉月ちゃんを羽交い締めにして僕らを脅してくる。しまった小学生の女の子になんて卑劣な奴等なんだ!

 

「お、お姉ちゃん! 助けてー!」

 

 今まで我慢していた葉月ちゃんの瞳から大粒の涙が溢れる。その瞬間、彼女の身に何かあっては行けないと攻めあぐねる僕の隣で、晴楓の怒りのボルテージが数段階上がったのを感じた。

 

      ◇

 

【side楠木晴楓】

 

 俺は決めた、こいつ等は社会的にも物理的にも抹殺してやると。

 

「……言うに事欠いて葉月で脅すだぁ? どうやら本気で死にてぇ見てぇだなぁ?」

「へっ! 口で偉そうな事言っても手が止まってるぜ! ここまで俺等をコケにしてくれた上に、タクオを無駄に痛めつけやがって、おいお前ら! 最初にこいつからヤッてやれ!」

 

 クソ野郎の指示でしぶとく生き残ったチンピラ二人がジリジリと俺等との距離を縮めてくる。

 どうにかして葉月を開放しないとなと、考えを巡らせていると、物陰に潜んでいた秀吉と目があった。

 

(時間稼ぎすっから、ヤツの息の根を止めろ)

(了解、任せるのじゃ)

 

 アイコンタクトで秀吉に指示を出し、俺は時間稼ぎのための情報を得るためにスマホを開く。

 

 実はここに来る前、こいつ等の学校が分かった時点で色々と情報を集めていた俺。

 ムッツリーニが撮った映像と共に、こいつ等の弱みを教えろさもなくば貴様の弱みバラすぞと、同じ高校に入学した中学の同級生やら、その高校に友達が通ってる奴やらにメールを一斉送信していた。

 手持ちの弱みで新たな弱みを掴む、俺が良くやる手法なんだけど効果覿面なんだよな、これが。

 

「……△△高校三年生の中条貴史ってお前?」

「……は?」

 

 さっそく手に入れた個人情報を開示してやると、ぽかんと間抜けな声を漏らすクソ野郎。どうやら当たってたみたいだな。なら、

 

「右の奴が田村一平、左が二年の谷口隆也で合ってるよな?」

「な、テメェが俺等の名前知ってんだよ!?」

 

 次々に名前を当てられて狼狽える不良達。

 心なしか味方の明久たちもなんで知ってるんだよとドン引きしてる気がするけど気にしない。

 俺はそのまま、一人一人の弱みを告げていった。

 

「中条、中学の時に好きな子に告白したら泣かれて、虐めてると勘違いしたイケメンにボコられグレる。なお、イケメンと好きな子は付き合った模様」

「なっ!」

「田村はシンプルに高校デビューだな、中学まではボッチで掲示板とかでレスバしかしてなかったタイプ。根っからのド陰キャ野郎」

「カハッ!」

「谷口、お前が一番しょうもない。まだ母ちゃんと風呂入ってるってなんだよ。そんなんで不良やっての? マジで? 恥ずかしくないわけ?」

「ゲホッ!」

 

 すらすらと口から出るわ出るわ敵の弱みや黒歴史。こう言う不良とかって人の恨み買いやすいから割と簡単に弱み見つけれるんだよな。ザマァみろだ、美波達に手ぇ出した事、俺の怒りを買ったのが運の尽きだと諦めて死んでくれ。

 

 トラウマ刺激されて死に体の不良共は、当然こっそりと動く秀吉にも気が付かない。

 俺が一通り開示し終わったところで葉月を捕まえている外道の後ろに秀吉が到着した。頃合いだな。

 

「く、くそっ! コイツ怖ぇよ! 何でそんな事まで知ってんだよ!」

「狼狽えるな! 寧ろここでぶっ潰さなきゃいけねぇ、尚更人質は開放できねぇなぁ」

「おら! この嬢ちゃんに酷え傷負わせたくなければ手を上げて跪「よし、やれ秀吉」「合点承知じゃ」──ガフッ!!」

 

 俺の指示で思いっきり頭めがけて灰皿を振り抜く秀吉、当然白目を剥いて倒れる外道。流石秀吉、無駄のない完璧な仕事である。

 残り二人は明久か雄二かどっちかが処理してくれるだろ、そうクズの処理を押し付けて、俺はすかさず開放された葉月の元へ向かい、安心させるように抱きしめてやった。

 

「ほれ葉月、ゴミは処理したからもう大丈夫だぞ」

「もやしのお兄ちゃーん!! 怖かったよぉ!」

「葉月っ! 良かった! ごめんね怖かったよね?」

「お、お姉ちゃん!お姉ちゃーん!!」

 

 泣きながら俺に抱きつく葉月。姉の美波も駆け寄ってきて葉月ごと俺を抱きしめる。

 俺まで抱きつかれると思って無かった俺は、戸惑いつつも美波だって相当怖かったんだなと思い、今回だけだと誰にも聞こえぬ言い訳をしながら、美波の背中に手を回してぐっと抱き寄せた。

 

「は、ハル?」

「二人とも怪我とかしてないか?」

「はい、大丈夫ですぅ」

「ウチも、ハルが受け止めてくれたから平気」

「そうかぁ、はあぁああ……マジ無事で良かったわ」

 

 二人が無事なのを確認し、安心からクソでかいため息を漏らす俺。おのずと二人を抱き締める腕に力が入る。

 

「ちょ、ハル……力強い」

「苦しいです、もやしのお兄ちゃん」

「いやごめん、けど心配かけたんだから甘んじて受け入れろ。マジで焦ったんだから」

 

 実のところ今回は割と本気で焦った、攫われたって聞いた時から不安で仕方が無かったし、もし二人が怪我でもしたらと思うと生きた心地がしなかった。

 美波が突き飛ばされた時なんか、後先考えずその場にあったビール瓶掴んで相手ぶん殴ってたからな、俺喧嘩弱いのに。

 

「……そんなに心配してくれたんだ」

「そりゃそうだろ、死ぬほど心配したわ。こういうのはもうコリゴリだね」

「そっか……助けてくれてありがとね、ハル」

「おうよ」

 

 いつものツンケンした感じじゃなくて、優しい安心する笑顔でそう俺に感謝を告げる美波。

 いつもとは違う、少ししおらしい態度に若干の不整脈になりつつも、冷静を装って素直に感謝を受け取った。

 

「けど、やっぱ喧嘩は嫌だね。結局明久達に戦力面は頼りっきりなわけだし。俺はダセェけど、影からコソコソと精神攻撃する方が性に合ってるわ」

「そんなこと無いと思うけど……」

 

 素直にお礼を言われたのがこそばゆくて、そんな事を呟いた俺の言葉を、美波がそんなこと無いと否定する。

 

「そうか?」

「うん……寧ろカッコよかったし

 

 ぽしょりと滅茶苦茶小さな声でそう告げる美波。あの、この距離だからどんなに小さな声でも聞こえるんですけど、いやむしろ俺の鼓動とか聞こえてない? 大丈夫?

 

「……だから晴楓はダサくなんてないわよ」

「……そうですか」

「葉月も! もやしのお兄ちゃんはかっこいいと思います!」

「そっかそっか! ありがとなぁ葉月!」

 

 少し元気を取り戻した葉月がそう言ってくれたことに便乗し、恥ずかしいのを誤魔化すかの様に更に腕の力を強める。二人が苦しいと笑って、俺も釣られて笑った。

 二人の温もりを腕の中に感じながら、俺は本当に無事助けられて良かったとしみじみ思うのだった。

 

      ◇

 

【side吉井明久】

 

 その後、生き残った不良にとどめを刺したり、意識を取り戻しても暴れられない様に気絶した奴らを片っ端から縛り上げた僕達。一通り作業も終わって一息ついたら、なんかクズが島田さんと葉月ちゃんとイチャついてた。凄くイチャついていた。

 

「え? なに晴楓の奴三人だけの世界作ってるの?

「……許されない、異端審問会案件

 

 僕と同じ気持ちのムッツリーニの歯軋りの音が聞こえる。なんでアイツにだけご褒美タイムがあるんだよ!

 

「……まぁまぁ、晴楓も頑張った訳じゃし」

「僕は残党が邪魔してきて、姫路さんから抱きしめられて無いんだよ!?」

 

 宥める秀吉にそう叫ぶ僕。せっかくさっき姫路さんの方から腕を広げて駆け寄ってきてくれたのに、待ってた僕にドンと来たのはチンピラのパンチだった。おのれ千載一遇のチャンスだったのにぃい!!

 

 僕が血の涙を流しながら悔しがっていると、これまたどこからかラブコメの波動を感じた。そう、雄二と霧島さんだ。

 

「……雄二、怖かった。私も抱きしめて」

 

 雄二を上目遣いで見上げながら、いじらしくそう雄二告げる霧島さん。

 こんな可愛い子にこんな可愛い事を言われたら、男なら誰でも言うことを聞いてしまいそうになるだろう。だがしかし、当の雄二の態度は素っ気なく、霧島さんをチラッと見て、

 

「そうか、災難だったな」

 

 と最低な返事だけを返した。このボケカスが、もっと気の利いた言葉とか無いのかクソゴリラ。

 

 当然雄二のそんな態度が気に入らなかったであろう霧島さん、髪の毛を逆立てドス黒いオーラを撒き散らしながらもう一度雄二に話しかけた。

 

「…………雄二……私、怖かったっ」

「おう、だから災難だったなって」

「…………それだけ?」

「それ以外に何があるんだ?」

 

 そう言ってあろう事か霧島さんから背を向けるボケカス。あ、今ので霧島さんが完全にブチ切れた。

 

「……雄二は、私を……抱き締めるべき」

 

 そう呟いて雄二の背後から抱き着く霧島さん、そしてそのままギリギリと音が聞こえるくらい力を込めて雄二を締め上げる。

 

「や、やめろ翔子! 百歩譲って抱き着つくは良いが力を強め過ぎだ! 背骨が折れる!?」

「……雄二は本当に素直じゃない、ほら、私に抱きつかれてドキドキしてる」

「それは命の危険に心拍数が上がってるだけっ! 力を強めるなぁああ!!!」

「……バカ」

「ぎゃあああ!!」

 

 断末魔を上げながら霧島さんにされる我儘のクソボケ雄二。ここがカラオケルームで良かった、他の人の迷惑にもならないし、思う存分泣き叫んでくれ。

 

「雄二も二人だけの世界へ旅立っちゃったね」

「……そのまま、あの世へ旅立つ勢い」

「雄二は晴楓と別のベクトルで捻くれとるからのぉ」

「実際はすっごく心配してた癖にね」

 

 全く素直じゃないんだからと三人で呆れていると、おずおずと姫路さんが僕に話しかけてきた。

 

「あの明久くん、一ついいですか?」

「なんだい姫路さん? もしかして頑張った僕にハグしてくれるの!?」

 

 さっき無粋な邪魔が入って出来なかったもんね! それなら何時だってウェルカムだよ! と両手を広げて見せる僕。

 

「さぁカモン!」

「あぅ、いえその、それはまだ恥ずかしいからまた今度で……ってそのそうじゃなくて、質問があるんですけど」

「そっか、凄く残念だけどその今度に期待しておくよ。なんだい?質問って」

 

 なんだ、違ったのか。テンションが著しく落ちるのを感じつつも姫路さん質問にはちゃんと答えなきゃと思い直す僕。

 

 言いにくそうにもじもじしながら、晴楓、雄二、秀吉にムッツリーニ、最後に僕に視線を向けながら、当然すぎる疑問を僕に投げた。

 

「……その、何で皆女の子の格好をしてるんですか?」

 

 姫路さんの問いかけに言葉を失う、彼女の言うとおり僕達は現在進行形で女装男子だった。

 理由はいちいち着替える時間は無かったってのが一つ、晴楓と秀吉は変装して潜入する為そっちが都合が良かったのが一つ、そんな事より早く助けて上げたかったのが一つ、計三つだ。

 

 そんな訳で僕達は喧嘩で大立ち回りしてる時も、救出して感動の再会をしている時も、ずっと女装をしていた。うん、そりゃあ姫路さんも何でって思うよね、僕だってそう思うもん。

 

「………………色々、あったんだよ」

 

 だけどそれを説明する気力は今の僕にはなくて、察してくれとそう答えるしかなかった。

 強いて言うならこの女装の流れを作った雄二、誰彼構わず道連れにした晴楓、それに悪乗りして写真を取りまくるムッツリーニ、めちゃくちゃ可愛い秀吉、僕以外の皆が悪い。

 

「あ、ちゃんと似合ってるから安心してください!」

「……ありがとう姫路さん、やっぱり全然フォローになってないけどありがとう」

 

 この場で唯一まともな感性を持ってるらしい姫路さんからの慰めの言葉が、僕の疲れた心に染み渡った。





一旦ここまでで連続投稿は終了です。今後は少し別の小説も書いたりしながら、また暫く書き溜めます。

ここまで読んでくれた皆様、ありがとう御座います。
よろしければ高評価、感想等をよろしくおねがいします。
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