バカとクズは使いよう。   作:枕魔神

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決勝戦とクズの報復

 

【side楠木晴楓】

 

「なんとか勝ったみたいだな」

 

 準決勝。明久を囮にした雄二が一人勝ちしたのを見届けた俺はそう呟いて、今にも転送しようとしていた明久の黒歴史メールを取り消した。

 

「これで決勝戦はアイツ等と常夏に決まった訳だ」

 

 準決勝棄権したかいあってコチラの準備完璧、常夏の勝利は絶望的。ただでさえ本気の明久達を相手にするのに、俺の策が加われば勝てる訳が無い。

 

「万が一、往生際の悪い常夏が負けた後に何かしようとしても大丈夫。そっちの準備もバッチリ」

 

 何されようと対処できる様に備えは完璧。迅速にゴキブリ並みのしぶとさのアイツ等を塵にできるだろう、奴らは既に俺の手の平の上なのである。

  

「そして一番大事な……報復の準備。おーけー」

 

 俺を女装させる原因を作った事。妨害で店の売上が減り、俺の賭博の儲けが減った事。賭博で散々イカサマし腐った事。美波と葉月を拉致って怖がらせた事。

 以上の理由で常夏は絶対に許さないと心に決めていた俺。

 

「ふ……ふふっ」

 

 ああ愉しみだ。一体アイツ等は公衆の面前でどんな声で鳴いてくれるのだろうか。羞恥に、絶望に、怒りに染まった顔を見せてくれるのだろうか。

 

「ははははっ!!!」

 

 待っていろ常村勇作&夏川俊平!

 

「俺様をコケにした事を! 舐め腐った事を! 美波に手を出した事を! 俺の全身全霊全ての人脈とコネと情報を駆使して!! 死ぬほど後悔させてやるわぁ!!」

 

      ◇

 

【side吉井明久】

 

「さて、いよいよ決勝だな」

「言い残す事はそれだけかこの人で無し!!」

 

 場所は決勝戦の控室。僕は数分前に僕ごと姫路さん達を倒した外道に向けて、そんな正当な怒りをぶつけた。

 

「勝つ為には必要な犠牲だった!」

「だからって手心を加えるとかあるだろ! 意気揚々と僕の召喚獣ごと殴りやがって!」

「落ち着くのじゃ明久! 決勝前に揉めるでない!」

「どいて秀吉っ! 僕はそのクソ野郎をぶっ殺さないと気がすまないんだ!」

「……逆の立場だったら、どうした?」

「愚問だねムッツリーニ! 問答無用で雄二ごとぶっ倒してたよ!」 

「……いっそ清々しい」

「どっちもどっちじゃのう」

「つまりそういう事。俺が恨まれる筋合いがない」

 

 そう言って雄二はこの話を終わらせる。

 絶対に許さない、天罰が当たればいいのにと本気で思うし、何なら僕が率先して罰を与えたい。いや与えてやる。(決心)

 

「何はともあれ、これでようやく最終決戦じゃ。気張るのじゃぞ二人とも」

「当然だよ! 絶対に勝ってくるから!!」

「これまで散々煮え湯を飲まされて来たんだ、俺等で真正面から叩き潰すぞ」

 

 雄二の言葉に力強く頷く僕。ムッツリーニと秀吉に見送られ、気を引き締めて決勝のステージに続く道を歩く。

 決勝戦と言うだけあって、会場の盛り上がりは最高潮らしく、道中で聞こえてくる観客の声援がビリビリと地面を揺らしていた。

 

「凄いね、大盛り上がりだ」

「なんだ明久、ビビってんのか?」

 

 眉を釣り上げて挑発してくる雄二にまさかと答える。

 

「むしろやる気が出てきたよ! 絶対に勝とう!」

「ふっ……当たり前だ!」

 

 そう言って互いに拳をぶつけ合った所で、声援を裂くアナウンスの声が響き渡る。

 

『長らくお待たせ致しました! 決勝戦!! 選手の入場です!!』

 

 僕と雄二は頷きあって、群衆の中へと歩み出て行った。

 

 僕達がステージに上がれば、そこには既に憎き常夏コンビが雁首揃えて立っていて、ニヤニヤと腹の立つ笑みを浮かべていた。

 

「よぉ。逃げずに出てきたな、Fクラスの落ちこぼれコンビ」

 

 トンガリ頭の常村先輩がそんな安い挑発を吹っかけてくる。その言葉に、小馬鹿にしたように雄二は鼻で笑った。

 

「コソコソとセコい小細工ばっかしてた先輩のセリフとは思えねぇな、なんだもうネタ切れか?」

「お前等が公衆の面前で恥かかなようにって、俺等の優しい配慮だったんだが。……バカのお前らには分かんねぇらしいな」

 

 そう雄二の言葉にイライラしながら応えた坊主頭の夏川先輩。不意にニヤリといやらしい笑みを浮かべてそう言えばと口を開く。

 

「お前等と違って、さっきの楠木って奴は利口だったぜ? 自分の立場って奴を弁えてやがる」

 

 その夏川先輩の言葉に、隣の常村先輩もアイツなと同意する。

 

「俺等と顔を合わせるや否や早々に棄権したもんなぁ! あれは卑怯な臆病者らしい逃げざまだったぜ!」

「お前等もあの臆病者みたいに逃げてたら助かったのに、バカってのは難儀だよなぁ!」

 

 ゲラゲラ口汚く笑いながら準決勝での晴楓の様子をバカにする常夏。同じクラスの仲間を引き合いに出す当たりに二人の性格の悪さが滲み出ている。

 

 だけどそんな下劣な挑発は、僕と雄二には全くもって効いていなかった。

 きっとコレが晴楓じゃなくて、秀吉だったり姫路さんだったり、島田さんやムッツリーニ、須川くんでも烈火の如くブチ切れただろう。

 

 だけど晴楓だと怒りは湧いて来ない。変わりに浮かぶ感情は深い哀れみと悲しみだった。

 

「……クズの気も知らずに、呑気な奴らだ」

 

 僕と同じように遠い目をしながら、雄二が僕にしか聞こえない声でそう呟く。きっと雄二も準決勝から一切姿を見せない晴楓が大人しくしてるはずが無いと思っているんだろう。

 今頃絶対に碌でもない事を計画している筈、僕は晴楓がやられたらやり返す、やられて無くてもやり返すクズ野郎だって信じているんだ。

 

「何だその目は!」

「ナメてんのかテメェら!!」 

 

 そんな僕等二人の哀れみの視線に気がついた二人が騒ぐ。

 いつ晴楓の計画が動き出すか分からないけれど、そう遠くない未来に常夏は地獄を見る事だろう。

 そう思えば、目の前の常夏の挑発なんてなんてことは無い。むしろ滑稽にすら思えてくる。とても可愛そうな二人である。

 

「儚いよね、人の命って」

「哀れんでいる場合か明久、この試合に負ければ俺達も晴楓の手で地獄行きだぞ?」

 

 訂正、とても可愛そうなのは僕を含めて三人だった。さっき僕を囮にした雄二は妥当だと思う。

 

「……なら絶対に勝たないとね」

「気合入れ直せよ明久!」

「当然だよ」

 

 だって死にたくないしね。

 

『それでは決勝戦! 試合開始!!』

 

 中央に立つ審判の教師の合図で僕等は一斉に叫んだ。

 

「「「「試獣召喚!!」」」」

 

 瞬間、電光掲示板にノイズが走り、表示された教科が数学から日本史に切り替わる。

 

 日本史

 Aクラス

 常村勇作 175点

 夏川俊平 128点

 VS

 Fクラス

 坂本雄二 215点

 吉井明久 166点

 

『『『何ぃ!!?』』』

 

 表示された召喚獣の点数にざわつく会場。観客の気持ちを代弁するかの様に常夏コンビも喚き出す。

 

「畜生! なんでよりによって日本史なんかに!」

「それもそうだが、そんな事より! おいてめぇ等!! なんでバカのてめぇ等がそんな高得点を取ってやがるっ!?」

 

 そう叫ぶ常夏コンビに向けて僕と雄二は一冊のプリントの束を突き付けた。

 

「そ、それはっ……!」

 

 狼狽える常夏。そうだろう、きっと見覚えがあるはずだ。これは昨日晴楓が学園長に頼んで常夏コンビに流した例の晴楓印の問題集。その本物である。

 

 ────

 ──────

 

「んじゃババア、これ頼むわ。教頭に見つかるようにババアの机に置いとけばなんとかなるでしょ」

「コレが噂の問題集かい。……呆れた、三年の問題だってのにほぼ範囲があってるじゃないか」

「教師は変わんねぇから出題の癖は直んねぇんだよね」

「そういうもんかねぇ」

「俺がやってるのはただの人読みだし、急ピッチだが、補填で勉強だけが取り柄のクズキノコを使えばこんなもんよ」

「それで本命の日本史は全部適当書いてるってわけかい」

「ざっつらいとだババア。三年ならBクラス戦で俺がフェイク使ったってバレてねぇだろうし、警戒されんだろ」

「この前の試召喚戦争でも思ったけど、本当に厄介な特技だね……」

 

 ──────

 ────

 

「つまり! お前らに渡ったやつは偽物だったって訳だ!」

「そして僕等にはちゃんとした問題集が渡されたってわけ!」

 

 晴楓の予想通り教頭経由で偽の問題集を渡され、まんまと騙された常夏コンビが、僕等の種明かしに歯噛みする。

 

「ちぃっ! 卑怯な!」

「小癪な手を使いやがって!!」

 

 そう言って僕等を睨みつける常夏。今まで散々僕等を妨害してきたのにどの口が言ってるのだろう。

 

 この件に関してもこっちは非難される謂れがない。だって別にカンニングしている訳でも無ければ、偽の問題集で勉強するのを強制した訳でも無い。

 ただ常夏達が勝手に問題集を使い、僕達を侮ってそれでしか勉強しておらず、勝手に騙されただけ。

 試験強化の変更だって常夏が散々やってきた事だし、自業自得だろ。ざまぁ見晒せ。

 

 ……と昨日僕等に本物の問題集を渡す時に晴楓が言っていた。

 

「晴楓の奴には感謝だな、明久が160点代とか奇跡だぞ」

「雄二のお陰でもあるよ、暗記方法すら分からない僕に勉強を教えてくれてありがとね。お陰でも初めてあんなに暗記できたよ」

「ふんっ、勝つ為だからな……行くぞ!」

「おうっ!」

 

 先手必勝、雄二にそう応えて僕の召喚獣は駆け出した。

 

 消して負けられない戦い。僕の尊厳と命の為、学園の存続の為、そして何より姫路さんの転校を阻止するために!

 

「くらえぇ!!!」

 

 夏川先輩の召喚獣の脳天目掛けて振りかぶる。

 

「っ! 舐めるなぁ!!」

 

 相手は剣を構えて迎え撃とうとするが、先程の動揺から抜けきれていないのだろう、少し反応が遅れていた上に剣筋は雑だった。

 

「そんな攻撃当たるかぁ!」

 

 タイミングをずらし、目の前を敵の剣が通過したのを見切る。振りかぶった僕の木刀はそのまま一直線に夏川先輩を叩いた。

 

「チェストぉ!!」

「糞がぁ!!」

 

 夏川俊平 128点→95点

 

 吹き飛ばされる夏川先輩の召喚獣。

 

「夏川っ! ちいっ! バカの癖にちょ……なっ!?」

 

 夏川先輩と僕の戦いに気を取られ、スキを見せた常村先輩。そんなスキを僕等の代表が見逃すわけ無かった。

 

「よそ見してんなよ!!」

 

 バッと飛び出し背後からラッシュを仕掛ける。

 

「オラオラァ! どうした先輩、顔色が良くねぇみたいだぞ!」

「……Fクラスの分際でぇ!」

 

 なんとか防御した常村先輩だったが、雄二の猛攻にジリジリと押されている。

 

「このまま行けば、勝てるっ!」

 

 そう僕が思った時だった。僕に吹き飛ばされた夏川先輩の方からドゴッと大きな音と共に大きな砂煙が舞う。

 慌てて煙から逃げたが、これじゃあ観客からも僕からも先輩の召喚獣がよく見えない!

 

「二年相手に大人気ねぇと思ったが、この際仕方がねぇか……」

 

 そう呟く夏川先輩、煙がステージに広がっていく。

 視界が悪い中、何をしてくるかと僕が警戒していたら不意に側頭部に強い衝撃と痛みが走った。

 

「かはっ!」

 

 依然先輩の召喚獣は煙の中、しかし今度は腕に攻撃が直撃する。

 

「ぐっ……なんで! 先輩の武器は剣だったはず!?」

「何も真正面から戦うだけが全てじゃねぇんだよ!」

 

 そう叫んだと同時に飛来する何か、これ以上食らっては行けないと集中して構えていた僕は今度はきちんと目で捉えて躱す。

 

「なっ、石!?」

 

 それは唯の石ころ、小さな召喚獣が片手で投げれるくらいのサイズのモノでなるほどと僕は舌打ちをする。

 ただでさえあんな小さな石は見えづらいのに、投げている所が見えてればまだしも、不意に煙の中から出てくるこれは観客や審判からから見えるわけが無かった。

 

「なるほどな!」

 

 夏川先輩の作戦を察した常村先輩。そうニヤけながら呟いて、常村先輩の召喚獣も煙の中に潜っていった。

 

 そして次の瞬間、雄二にも同じように石礫が飛来する。

 

「ちぃっ! 面倒な!」

「いいか二年坊これが経験の差ってやつだ!」

 

 接近しようにも敵の姿が見えなければリスクが大きいし、かと言って煙の外に居る僕らの召喚獣は相手の格好の的だ。このままだとジリジリと削られてしまうだろう。

 

「どうする雄二!?」

「ったく陰湿な野郎だぜ!」

 

 背と背を向けあって周囲を警戒する僕と雄二。四方八方、煙の中からから繰り出される石礫。煙が晴れるのを待とうにも断続的に破壊の音は聞こえ、煙は収まるどころか酷くなるばかりだった。

 

「このままだと負けちゃうよ!?」

「仕方ねぇ……一か八かだがこれしかねぇ」

 

 険しい顔でそう呟いた雄二、そのまま僕の召喚獣の胸倉を掴み上げた。

 

「恨むなよ明久」

「ちょ!? 待って何してるのさ!?」

「何って……お前を煙の中に放り込むんだよ」

「そんな事したらボコボコにされるよね!?」

 

 また僕に囮になれって言ってやがるのかこの野郎!

 

「大丈夫だ、この砂煙の中じゃお前に正面から石をぶつけるなんて出来やしねぇよ」

「二人で近づかれたら終わるよねぇ!?」

「大丈夫、木刀振り回しながら真っ直ぐ全速力で走れば平気だ」

「危険なのは変わりないじゃん!」

「当たり前だろうが! 腹を括れ明久!」

 

 このっ、悪びれる様子を少し位は見せろよ! と僕も普段なら怒っていただろう。召喚獣ほっぽってリアルファイト開幕したはずだろう。

 だけど実際に他に案は思いつかないし、雄二だって無意味にこの場面で僕を死地に送ることはしないだろう。

 

「雄二……本気で、それで勝てるの?」

「お前の働き次第だ」

 

 だから死ぬきで行けとニヤリと笑って宣う雄二に、絶対に勝たなければ行けない僕は当然こう答える。

 

「……ッ上等!!」

 

 パンっと雄二の召喚獣の腕を振り払い、木刀片手にクラウチングスタートの構えを取った。

 

「行って来いや明久ァ!」

「うぉおおお!!!」

 

 ダンっと力強区地面を蹴り、僕の召喚獣はブンブン木刀を振り回しながら砂煙に突撃した。

 

「何だアイツ、ヤケクソか?」

「やっぱバカだぜ! 何処に進んでんだよ。お望み通り袋にしてやる!」

 

 常夏のコンビがそう僕をあざ笑う。アイツ等が言うように常夏のコンビが何処にいるかは分からない。無謀なのは百の承知。だけど僕は雄二の指示に従って、脇目もふらずに直進する。右に左に前に上に、背後以外の全方位の煙を闇雲に切り裂いていく。

 

 すると不意に、そうやって多分半分くらい進んだ僕の背中に、鈍い痛みが走った。

 

「ぐっ!?」

「へっ! 背中がガラ空きだぜ!」

「ほらほら、ちゃんと狙って木刀振れよ!」

 

 連続で僕を襲う痛みに、堪らず足を止めてしまいそうになる。だけどグッと歯を食いしばり、削れる点数も気にせずに僕は走り続ける。

 

「気張れや明久! 真っ直ぐ走り続けて引きつけろ!」

「ぐぬぬぅあ! 任せろぉお!!!」

 

 雄二の激昂にそう応えて走り続け、終ぞステージの端に僕はたどり着いた。

 

「よし! 追い詰めたぜ!」

「このまま倒すぞ夏川!!」

 

 後ろから聞こえる常夏の召喚獣が近づいてくる音。このままだと本当に犬死になるタイミングだった。

 

「未だ明久ァ! 振り返って木刀を後ろにぶん投げろ!!」

 

 会場に響き渡る雄二の声に僕はようやくかと力を貯める。そして振り返った勢いそのまま木刀を僕の走ってきた道に沿うようにぶん投げた。

 

「さっきからバシバシ痛いんだよ!! 喰らえ怒りの木刀ストライク!!」

 

 ブォンっと風切り音を鳴らしながら煙を巻き込んでグルグルと飛んでいく木刀。僕らの予想どおり背後に常夏が居るのなら、見通しの悪い煙の中に居る二人は僕の木刀を回避できないはず。

 

 まさに捨て身の必殺の一撃、並の相手ならこの一撃で全てが決まる筈だった。

 

「甘いぜ!」

「誰がそんな見え見えの手に乗るかよ!」

 

 しかし相手は僕等よりも経験値の高い三年生。僕の必死の攻撃を高く飛び跳ねる事によって回避していた。

 

「武器を手放すなんてバカだな吉井ぃ!」

「まず最初はテメェからぶっ殺してやるよ!」

 

 攻撃を外した僕を高い場所から嘲る常夏。そんな二人にすごい勢いで迫る影が一つ。

 

「ようやく煙から出てきやがったかっ!」

 

 さっきの攻撃の風圧で晴れた道を駆け、更に高いところから僕から受け取った木刀を振りかざすは坂本雄二。

 

「なっ! ガハッ!」

「ぐはっ!?」

 

 落下の勢いを殺さず、バットを振るかのようなフォームで木刀を振り抜き常夏を地面に叩き落とす。

 それは丁度煙の晴れた場所、僕の目の前だった。

 

「クソッ! 俺等がFクラスの馬鹿共何かに!?」

「ありえねぇ!!!?」

「残念だが、これが現実だ先輩方ぁ! やれ明久ぁ!」

 

「これで! トドメだぁあ!!!」

 

 全身の体重を乗せて繰り出す渾身の拳は、常夏を二人まとめて刈り取る。

 

 日本史

 Aクラス

 常村勇作 53点→0点

 夏川俊平 35点→0点

 VS

 Fクラス

 坂本雄二 167点

 吉井明久 16点

 

『勝者!! Fクラスの坂本雄二! 吉井明久!!』

 

 勝敗を告げる審判の宣言と同時に、割れるような歓声が会場を埋め尽くす。

 

「ま、お前にしては上出来じゃねぇか明久」

 

「ぃぃよっしゃああああ!!!」

 

 その歓声中。僕と雄二は互いを讃えて、拳を合わせるのだった。

 

      ◇

 

 そして激闘の決勝戦の熱が冷めぬまま、それは突然に始まった。

 

『ちゃんちゃらちゃん♪ ちゃらちゃらちゃん♪』

 

 突如として会場に流れる陽気で間抜けな音楽、何だ何だと周りの観客もざわつく。

 

 ……中には優勝者のセレモニーが始まるのかと予想している人も居たけれど、多分そんなちゃちな物じゃないよねコレ。

 

 ザザッとノイズが走って画面が移り変わる電光掲示板、そこには『清涼祭超特別企画♪ ラブラブキューピット大作戦♡』と、さっきまでの僕と雄二の名前から変わって、そんな巫山戯たタイトルが巫山戯たピンクのフォントで映っていた。

 

「……あぁ、ようやく始まるんだね」

 

 クズによる公開処刑が。

 

『あー、あー……てすてすこほん……いやぁ素晴らしい試合でしたねぇ。そんな素敵な試合をしてくれた選手達に感化されてやってきました!どうも楠木晴楓の特別企画緊急企画のコーナーでぇす』

 

 スピーカーを通して聞こえてくるクズの鳴き声に、僕達Fクラスから遅れて、段々と観客達も事態を察する事はできずとも、無意識下で『あ、ヤバいぞこれ』と感じている筈だろう。ざわつきが五割増した。

 

『このコーナーはタイトル通り! 俺が恋のキューピットになって決勝メンバーの恋を成就させるって企画です! 文化祭らしく浮かれた企画で最高ですよねぇ』

 

「な、何だこれ?」

「分からんが、何か始まんのか?」

 

 黙々と悪魔の企画を進行していく晴楓の声に、僕等に負けて意気消沈していた常夏コンビも狼狽える。今更狼狽えた所でもう遅いのに、彼等は決勝に参加なんかしないで逃げるべきだったんだ、悪魔の手の届かない所に。例えば火星とかに。

 

『具体的に何するかって言われりゃラブレターを読み上げます。はい、公開告白とか青春っすねぇ、うらやまー。手な訳で記念すべき一通目は【K.H.LOVE】こと常村勇作! 三年Aクラスの常村勇作! 決勝戦出場者の常村勇作先輩が書いたラブレターでぇえええええす!!!』

 

「は? いやいやいや、何いってんだコイツそんなこと出来るわけ『タイトルは【太陽と向日葵】……は? なにこれサム』なっ!?」

 

 待てと常村先輩が叫ぶも、ここには居ないクズに声が届くわけも無く。たとえ届いていたとしても辞めるわけがなく、無慈悲にその内容は公開される。

 

 

『気が付けばいつも

 お前の姿を追っている

 思い出せばいつも

 お前の笑顔を求めてる

 木下秀吉

 たとえるならば俺は向日葵で

 お前は俺を照らす太陽で

 お前の輝きを追いかけて

 俺は大輪の花を咲かせよう

 この気持ちをうまく表す言葉を知らないが

 それでもお前に伝えたい

 好きだ木下お前のことが

 MAJI ZOKKON LOVE してる……』

 

「やめっ! やめろぉおおおおおお!!!?」

 

 流れる激痛ポエムにこの場の空気が死んだ。

 聞こえるのはエコーがかった晴楓声と常村先輩、もといK.H.LOVE先輩の絶叫だけ。

 

 ポエムも含めて色んな意味で酷い、酷すぎる。

 同情こそしないけれども、これが悪魔の所業なのは疑う余地が無かった。

 

『いやぁ初っ端からエグいのが出ましたねぇ……どう思いますか? アシスタントの秀吉さん』

 

「アイツ鬼だな」

「……本当に容赦がなさ過ぎるよね」

 

 自分の事じゃないのに青ざめてる雄二の呟きに全力で同意する。秀吉まで用意してるのが人の所業じゃなさ過ぎた。

 

『その、すまんのじゃ……わしは男じゃし……そうじゃ無くてもその……すまん』

『いや、キッパリ言えやドン引きだって。ハンドルネームからキモいって、MAJIで ZOKKON LOVE してるの部分とか鳥肌ですって、そんな半端な思いやりは童貞のためにならねぇんだぞ? 』

『じゃ……じゃが、流石に……』

『じゃがもポテトもねぇんだよ。てなわけでほれ、リピートアフタミー? キモいからむりー』

『…………その、すまん。正直ゾッとしたのは事実じゃし……無理じゃ』

『はい! 振られましたねー。ざまっ……こほん。ドンマイケル♪ んじゃ次行きましょうか! あ、秀吉は帰っていいよ』

 

 まさに天の声状態の晴楓に、下々の様子なんて関係ないのだろう。涙を流し悶うち転がる常村先輩の様子なんて知るかとばかりに淡々進めていく。

 

 これと同じ威力の奴があと一回かぁ……クズの過剰摂取で胸焼けしそうである。

 

『お、今度は夏川俊平先輩宛にラブレターが届いてますねぇ、読み上げますね』

 

「なに? お、俺にか?」

 

 さっきとは違って今度はターゲット宛の手紙らしい。常村先輩の惨状を横で見ていた夏川先輩がホッと安堵の息を吐いていたけど、安心するのは早すぎる。彼等は楠木晴楓を知らなすぎるよ……。

 

『えー、ハンドルネームはふなっしー。ふなっしーからのラブレターでぇす』

 

『今は直接は言えないけれど

 毎日見る貴方の姿に心がときめき

 あふれるこの気持ちは止められません

 卒業したら結婚を前提にお付き合いしたいです

 どうか宜しくお願いします』

 

 あれ? さっきのアレと比べると普通すぎるぞ? と思った。思ったが、すぐに考えを改めた。

 何故なら読み上げる声から滲み出る喜びの感情から僕は何か仕掛けがあると察する事ができるからである。

 

『シンプルながら素晴らしい恋文ですねー』

 

「な、何だよ……普通のラブレターじゃねぇか。脅かしやがって」

 

 白々しくそう言う晴楓の言葉を真に受ける夏川先輩。むしろ曲がりなりにもラブレターを貰った事実で少し得意げな様子である。

 

『んじゃコッチもコメント貰いましょうかね。船越先生あいや間違えた……こほん、ふなっしーさんどうぞ』

 

 見逃されるわけ無いのにね。

 

「なっ…………!?」

 

 そのラブレターの主の招待に、夏川先輩はあんぐりと口を開けて目玉が飛び出すぐらいかっ開いていた。

 会場も僕等も同じリアクションである、衝撃過ぎる。

 

『私は本気です、絶対に幸せにします、絶対に逃しません。だから待っててねダーリン♡』

 

「ぎゃああああ!!?」

 

『はい、短いながらも恐ろしい信念のこもったコメントでしたねー。ケダモ……ふなっしーさんありがとう御座いました。なお、ふなっしーさんには僕の方から代弁で告白のオーケーを伝えておきましたので、夏川俊平君は卒業したら二人で役所に行ってくださいねー』

 

「巫山戯んなボケェ!!」

 

『いやぁー、やっぱカップル成立しないと企画倒れだしね。どうせブ男の夏川先輩は彼女いないし、いいことしたなー』

 

「余計なお世話だ!!!」

 

 モニターに向かって叫ぶ夏川先輩、なんて虚しい姿なんだろう。卒業まで待つと言ってる当たり、船越先生から夏川先輩は僕等の比じゃないくらいロックオンされてる筈だ。果ては船越俊平だろうか……南無三。

 

『えー、皆さん楽しめましたかぁ? 短かったですけどこれにてラブラブキューピット大作戦♡は終わります』

 

「ちょっと待てぇ!!」

「なんで俺達だけなんだよ! 決勝戦進出者って言うならFクラスの馬鹿どももやれよ!!」

 

 勝手に引っ掻き回して勝手に帰ろうとする晴楓に異議申し立てする常夏コンビ。僕等を巻き込むなと声を大にして言いたいけれど、下手に口を出せば巻き添えを食らうかも知れないと、僕は雄二の二人で黙って行末を見届ける。

 

『なお、雄二と明久にはラブレターなぞ有りません。不細工だから必然だよね』

 

 だから今日だけはその戯言を見逃してやろう。誰がブサイクだよ!

 

『以上放送室より! 楠木晴楓の復讐のコーナーでした! いやぁスッキリ爽快! 俺に逆らったらこうなるって理解できたかな? ざまぁみろ! ぎゃはははは!!!』

 

「何だそれ巫山戯んな!!」

「舐めやがってっ……てめぇ今放送室にいやがんのかぁ!!」

 

 もはや演技で取り繕うことも無く、素で爆笑している晴楓の様子に当然ブチ切れる常夏コンビ。

 

「糞が……こうなったら放送室に乗り込むぞ!」

「ついでに今までの事も全部バラしてこんな大会ぶち壊してやる!!」

「何!? 冗談じゃない!!」

 

 挙句の果てにそんな酷い事を言い出した。

 今までの事全てってのは自分達の不正やら何やらを纏めて自爆するつもりなんだろう。そんな事されたら今までの苦労が全て水の泡、姫路さんの転校どころか学園自体がなくなってしまう!

 

「そんな事させるか!」

「はんっ! テメェ等も悪いんだからな! 大人しくしてればいいものを!」

「精々そこでマグレ勝ちを喜んでやがれ!」

 

 二人はそう言い捨てると放送室に向かって駆け出す、止めようにも反対側に居る二人をすぐさま取り押さえる事は不可能だし、距離的にも常夏の方が放送室に近い、走ればあっという間だ!!

 

「マズイよ雄二!!!」

 

 慌てて雄二の方を振り返る僕。だがしかし、当の雄二は何食わぬ顔で常夏が向かった方を眺めていた。

 

「何ぼぉっとしてるのさ! このままじゃ学園が!」

「まぁ落ち着け明久。冷静になって考えてみろ。あの晴楓が今本当に放送室にいると思うか?」

「え?……あ!」

 

 そう雄二に言われて気が付く。

 晴楓は他人が悔しがる事を直に見て笑うことが趣味な最低な野郎、つまり会場にいない訳がないのだ。

 

「放送室ってのはブラフだ。そこまで読めてる奴が、ヤケになった常夏コンビの動きを予測できない訳が無い」

「……つまり?」

「何も心配する事はねぇってことさ」

 

 雄二がそう言った五分後。

 

ドォオオン!!

 

 後夜祭の花火が打ち上がったのと同時に、突如放送室が爆発した。

 

      ◇

 

【side楠木晴楓】

 

「わ! 花火がきれいです!」

「んだな、カスも散り際は美しいってもんさ」

 

 場所は大会の会場から変わって校庭。

 常夏共の痴態に盛大に笑い転げた俺は、近くに居た葉月を連れて校庭で打ち上げ花火を見ていた。

 因みにさっきついでに放送室に誘き寄せた常夏を花火で処理したところである。パチンコ使いの俺に掛かれば百発百中こんなもんよ。精神的な復讐はしたけど肉体的な復讐はまだだったからな、当然の報いである。

 

「どうだ葉月、文化祭は楽しかったか?」

「はい! とっても! もやしのお兄ちゃんはどうでしたか?」

「楽しかったぞー」

 

 それはもう楽しかった、具体的には言えばトトカルチョで大金稼げてウハウハである。

 特に決勝で明久達が勝ったのが大きかったな、オッズもエグいことになってたし? 準決勝で常夏潰さなくて良かったぜ。ナイス判断。

 

「そんな訳で俺は今金持ちです」

「?? そうなのですか?」

「はい、そうなんです。だからその財力を持って、何時も頑張ってるかわいい葉月にはご褒美をやらないと行けないと思うんですよ」

「ご褒美!? 何してくれるんですか?」

 

 目を見開いて喜ぶ葉月の頭をまぁ待てと撫でると、ポケットから三枚のチケットを取り出した。今回の売上金で購入した、如月グランドパークの一般チケットである。

 

「葉月は遊園地はお好き?」

「ハイ! とっても大好きです!」

「なら良かった。なら週末に遊び行くか。これ二人分やるから美波にも伝えとってね」

「はい! ありがとう御座います!」

 

 疑う事をしない無邪気な笑顔で葉月はチケットを受け取る。これであの日の約束はようやく果されるだろう、俺は計画が成功してホッと息を吐いた。

 大会が終わっても皆と合流せずに、美波の目を盗んで葉月を拉致って来たのはこの為、全ては美波と休日に出かける予定を取り付ける為だった。

 

 あの例のペアチケットが曰く付きと判明した時の事だ。実は美波を遊園地に誘う口述が消えたと同時に、裏でその難易度は跳ね上がっていた。

 

 理由を簡単に説明するなら、FFF団のせいと言えば伝わるだろうか。

 

 俺の目的がペアチケットだとバレたせいで、須川を筆頭とする団員の警戒度が上昇。とっさに転売と嘯いたが、奴らにはそれが事実なんて関係無い、女子とデートする可能性がある奴はそれだけで粛清対処候補なのである。

 

 そんな訳で奴らキチガイ集団の警戒を解くために、より一層賭博の方に力を入れる俺。俺の文化祭での目的は金のためだと錯覚させる。そしてその後も色々ゴタゴタがあったお陰でこうやってチケットを渡す事が出来たのである。

 マジで俺の正確な位置が誰にも割れて無かったのもデカイし、常夏花火がいい感じのデコイになってくれたのもデカい。俺の完全なる作戦勝ちである。

 

「悩みの種も解消されたし! 復讐も果たしたし! 最高の文化祭やでホント!!」

 

 ガハハと高笑いする俺、これから葉月と二人で残りの出店でも回るかと思っていたところで、不意に後ろから肩をぽんぽんと叩かれた。

 なんだ俺と葉月のデートを邪魔すんなと思って振り返れば、そこに合ったのは筋肉の壁。視線を上げれば見慣れたゴリラ顔。

 

「何やら上機嫌じゃないか、楠木」

「やべ……」

 

 事態を把握するや否や、葉月を抱えて逃げ出そうとする俺。その間0.1秒。しかし相手は筋肉ゴリラの鉄人先生、もやしの俺の動きなんて対処するのは容易いことで、ガッシリと肩を掴まれて逃げられない。

 

「何がやべ……なんだ? 楠木よ」

「や、やだなぁ? なんの事です? 俺等は今から残りの屋台を全制覇しないと行けないんで、行っていいっすか?」

「そうかそうか、それは邪魔したな」

「分かってもらって嬉しいっす……だから手をは「なら端的に要件を話すとする」……うす」

 

 絶対に逃さんと握力と眼力と顔力が物凄く語っていた。残念ながら大人しく従うしか無いらしい。

 

 大丈夫、証拠は燃やして残って無い。だから鉄人は俺を裁けない。大丈夫……大丈夫と自分を言い聞かせ、改めて鉄人先生と目を合わせた。

 

「な……なんすか?」

 

 震えをなるべく抑えるように努めながらそう尋ねれば、鉄人先生はこほんと咳払いして口を開いた。

 

「さっきの、放送室にぶつかった花火。アレは誰が打ったんだ?」

「や、やだなぁ……僕が知るわけ無いじゃ無いですかぁ。僕花火に触ってませんよ、誓って。はい」

「そうだな、クズが打った花火だな」

「あの、話聞いてます? 知らないっすって」

 

 どんな耳してやがんだこのゴリラ。

 

「しょ、証拠が無いでしょ! 俺がやったって証拠が!」

 

 そう言って問い詰めると、鉄人先生は胸ポケットからスマホを取り出し、再生ボタンを押す。

 

『グッバイカス共!! 常夏の風物詩の花火で逝けや!!たぁまやぁああああああ!!!!』

 

 そこには放送室に向けて、ロケットバズーカ宜しく花火を打ち込む俺の姿。望遠で撮影したのか若干ボヤケつつも確かに映っていた。

 

 ば、馬鹿な!? この計画は誰にも言ってねぇ筈だ! それこそ俺の思考が完璧にトレスできるようなクズでもない限り不可の……はっ!?

 

「………………鉄人先生、それチクったの誰っすか?」

「………………守秘義務がある」

「なるほど、根本っすね」 

「………………守秘義務だ」

 

 ふ、ふふふ……やってくれるじゃねぇかあのクズ野郎。写真を返した途端にこれか、散々女装写真で脅して振り回した意趣返しかぁ?

 

「……ぶっ殺す」

「楠木……眼の前に俺がいる事を忘れてるだろ」

「んな事どうだっていいんっすよ!!! あの糞キノコがぁ!!」

 

 今度は逃げる為じゃなく奴を殺す為に駆け出そうとするが、それすらも鉄人に阻まれる。

 

「話は終わってないぞ楠木!」

「罰なら後で受けますから! 今は行かせて鉄人先生!!」

「ならん! それに小さな女の子も居るんだから落ち着けみっともない!!」

「くっ!」

 

 鉄人に諭されて葉月を見れば、幸いにも花火に気を取られていて取り乱した俺の姿は見てない様子。助かった、兄の威厳は何とか保たれた。

 

「何時もながら目的の為になりふり構わん過ぎだ、楠木」

「それが俺の長所なんで」

「自重しろと言っている……」

 

 はぁと大きな溜息を吐く鉄人先生。葉月の手前俺がもう逃げ出さないと思ったのか肩を掴む手が離れた。

 明久ならここで再び逃げるだろうけど、俺はどうせ失敗するので無駄な事はしない。今回ばかりは年貢の納め時かと諦めて、両手を上げるのだった。

 

「すいませんした、やりすぎましたー」

「全く反省の色が見られないが……まぁ良いだろう。実際此方側の不手際でもある訳だからな」

「なんだ、知ってたんっすね」

「……幸い重傷者も居なかった上に、証拠もこの動画しかないからな。学園側は大きな問題にはしないと学園長からの伝言だ」

 

 そう告げる鉄人先生に、そっちの尻拭いをしてるんだから当たり前だと言いそうになった口をチャックして、表面上だけでも大人しく俺はへりくだる。

 

「いや、ありがてー。んじゃ何も問題は無いんっすね! いや良かった! 流石懐が深いっすね! 深すぎて身内の裏切りにも気がつかないなんてパネェっすわ!」

「……若干皮肉が混じってるぞ」

「そんな事無いっすよ!」

 

 あははと笑って、そのままの流れでフェードアウトすべく、鉄人の手を退けようとする俺。しかし、ゴツいゴリラの手は依然俺の肩を掴んでいた。

 

 まだ何か? と視線で尋ねれば、追加の伝言だと更に言葉を続ける鉄人先生。

 

「なんでも学園長曰く大きな問題にはしないが、賭博の件も見逃してるのだから多少は負担しろらしい」

「え゛……」

「だいぶ儲かったらしいじゃないか楠木。それこそ放送室の備品を買い直す事が出来るくらいには」

 

 そう言って鉄人はニヤリと笑った。

 

 なるほど、なるほどね。そう言うことですか。つまり根本クズ野郎のせいでバレて、学園長のせいで殆どパァって訳かい。へへ、ふふふ……

 

「ふざけんな! あのクズキノコ&ババァ!!」

 

 ヒュー…………ドォオオオオン!!

 

 同じタイミングで上がる特別大きな一尺玉。

 力の限り叫んだ俺の魂の言葉は、清涼祭の終わりを告げる花火のフィナーレに掻き消されて消えたのだった。

 

      ◇

 

 〜後日談〜

 

「前のデータは渡したけど、文化祭で追加されたニューデータが有るじゃんね! 根本恭司2nd写真集【新たなア・タ・シをウォーアイニー!!】本日発売じゃボケェ!!!!!」

 

「クズノ木クズこの野郎ぉお!!!!」

 

 

 

 





だいぶ掛かりましたが、これにて清涼祭編終了です。
今後は幕間で如月グランドパーク編や細々したの話を書いた後、最終章へと入ります。

ここまで読んでくれた皆様、お気に入り登録、感想や高評価をくださった皆さま。本当にありがとう御座いました。

今後もクズの楠木晴楓をよろしくおねがいします。
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