バカとクズは使いよう。   作:枕魔神

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おまたせしました。


幕間
クズと黒歴史と襲来する姉 前編


【Side楠木晴楓】

 

 ある者は好きな女子の転校を阻止し、ある者は腕輪の新たな力を、ある者は人生の墓場への片道切符を、ある者は新たな黒歴史を、そしてある者は花火爆弾の餌食に。

 

 十人十色の結末を迎えた文月学園、清涼祭。

 

 そんな濃すぎる祭りを二日間全力で楽しみ、企み、頑張り、愉しみ。当初の目的である美波とのデートを取り付ける事を見事成功させた俺はと言うと……

 

「……ずびっ……風邪ひいた……」

 

 生来のもやし体質が災いして完全にダウンしていた。

 毎日の登下校すら徒歩ではしんどい俺が、短期間であんなに東奔西走駆け回ればぶっ倒れるのは当然と言えば当然の結果。

 

「無理しすぎたぁ、頭いてぇ。あ゛ぁあ……くそ……根本の処刑用写真集作んねぇと行けねぇのに」

 

 布団に肩まで収まったまま、そんな恨み言を一人呟くが、ただでさえ具合悪いのにそんな気持ち悪い物なんて作れる訳が無かった。間違いなくさらに悪化する。

 

 まぁ風邪ひいてしまったのは仕方が無い、うだうだしてても意味無いので、さっさと休みの連絡を入れて寝てしまおう。

 

 もそもそと枕元に置いてあった携帯を取る。現在時刻は七時半前、この時間なら起きてるだろうと俺は適当に一番上にあった連絡先をタップした。

 

 ぷるぷッ

 

『おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません』

 

 ツー……ツー……

 

「……あのやろ」

 

 携帯に写った明久の文字を睨んで舌打ち。恐らく俺からの連絡=碌でもない事と勝手に決めつけてやがるのだろう、まったくもって心外である。俺はこんなにも品行方正に毎日を過ごしていると言うのに。

 

「ああ゛……もういいや面倒くせぇ」

 

 バカ如きにムカつくのも面倒くさいと、スマホの電源を落としてポイッとその辺に転がす。

 

 もういい無断欠勤してやる。爆睡してやる。幸いにも例のデートは今週末、流石にそれまでには治るだろう。知らんけど。

 

「鉄人先生に怒られたら、明久のせいにしてやろ」

 

 俺はそう呟いて布団を頭から被るのだった。

 

      ◇

 

「………………ぁ?」

「あ、起きた」

「………………」

「喉乾いてない? スポドリあるわよ?」

「…………何でおるん?」

 

 寝返りをうった拍子に目を覚ませば、目の前に居たのは島田さん家の美波さん。

 おかしいな、寝てだいぶ元気になってるはずなのに幻覚が見える。熱で頭やられたかな? 俺の家に美波がいる。いや夢じゃないわ、だって今額に当てられた手が冷たくて気持ちいいもん、これ夢じゃないわ。

 

「うん、熱はだいぶ引いてるわね」

「あの、流れるように額に手を当てて体温計らないで? 質問に答えようね?」

「なんでって、お見舞いだけど」

 

 自身の額にも手を当てながら、美波は当たり前の様にそう答えるけど、俺が聞きたいことはそう言うこっちゃないねん。

 

「……まずさ、学校は? どしたん?」

「学校? サボったけど?」

「何してんの?」

 

 サボったけど? じゃ無いんだよ。今平日の昼12時なんですけど。

 

「昨日のあの様子だとハル、絶対風邪ひくだろうって思ったのよね」

「流石美波、もやしへの理解度高いね」

「それで今朝ハルに連絡を入れたんだけど、案の定全然電話に出ないから」

「それで家に来たと」

「うん。あ、迷惑だった?」

「いやそれは全然むしろマジ助かるありがとうございます」

「そ、そう。なら良かったけど」

「うん、良かったけどさ、俺が言いたいのはそういうことじゃないんだよね」

 

 そう、さっきからずっと言ってるけどそういう事じゃ無いのだ。もちろん見舞いは助かるし凄い嬉しい。俺の風邪を予想した事は納得がいった。何故我が家の住所を知ってるのかって問題も明久辺りに聞けば分かるだろう。

 

 だけどさ、どうしても解せ無い問題があるよね?

 

「家、鍵かけてたよね?」

 

 どうやって入ったん? と問いかければ。コテンと小首を傾げる美波。

 

「どうやっても何も普通に入れてもらったわよ?」

「入れてもらった?……俺、寝ぼけながら起きて鍵開けたん? 全然覚えてないんだけど」

「いいや? ハルはウチが来てからずっと寝てたけど」

「は? ……え?」

 

 なに急にホラー? なら誰に入れてもらったん?俺一人暮らし何だけど? 鍵は絶対に締めるんだけど? この家俺以外いるわけ無いんだけど?

 そんな俺の疑問に答えるかのように、ガチャリと部屋の扉が開いた。

 

 そこから現れたのは金髪の女。今どころか今後一切視界に入れたくなかった女。俺と似たツリ目のクソ女。

 色んな疑問が腑に落ちて、その不審者が誰かと認識した俺の行動は早かった。

 

「あ! ハルちゃん起き「何勝手に家に侵入してやがる貴様ぁ!!」バフッ!?」

「ハル!?」

 

 枕を握り、俺の家に不法侵入している不審者目掛けてぶん投げる。その間コンマ一秒。

 突然の俺の暴挙に美波が驚くが、その事を気にする余裕は俺にない。一刻も早くヤツを始末しなければ。

 

「も、もぉ〜突然痛いなぁ。ハルちゃ「その呼び方すんなや!!」アイタッ!?」

 

 枕元に置いてあったぬいぐるみを投げる。

 

「久し振りにあえて嬉しいのはわかるけど落ちつ「誰がじゃボケェ! 帰れマジで!!」ぐふっ!?」

 

 そのへんに落ちてた箱ティッシュを投げる。

 

「ちょっ! 待っ「待たんわ! さっさと帰れ腐れ変態女!!」ギャンっ!?」

 

 美波が買ってきたペットボトルのスポドリを投げる。

 

 他に投げれるものは……あ、良いのあんじゃん。

 

 対Fクラスのバカ共用に用意していた灰皿を手に取り投げ「ちょっと待ちなさいハル!? それ投げたらヤバいから! 最悪死ぬから!!」

 

 振り上げた腕に抱きついて俺を止める美波。いったい何がヤバくて止めるのだろうか? 分からない、だって……

 

「ふふふっ……久々にハルちゃんに本気で怒られてる。これも深い姉弟愛の証よね」

「コイツは殺す気で殺んなきゃ黙らねぇんだよ! 寝ぼけた事言ってんじゃねぇぞボケがぁ!!」

 

 美波に止められた灰皿を諦めて、逆の手で掴んだ延長コードを引きちぎりながらヤツの顔面に向かってぶん投げた。

 

「アベシッ!」

 

 ベシンっ見事にヒットしたそれがトドメとなり、我が家を侵す変態は地に沈む。よし! ようやく黙ったなこのクソアマ。

 

「ちょうど今日は生ゴミの日だから、さっさとこんなゴミ捨てなきゃ」

「だから辞めなさいって! アンタのお姉さんでしょ!?」

「違う!!」

「これだけ似てて無理があるわよ!!」

「知らん!」

 

 俺はコレを姉だと認めない。俺の事を本気で妹と認識して、あまつさえ洗脳紛いの事をしてきた女が俺の姉なわけがない。認めないったら認めない。

 

「俺に姉なぞおらん! そんな事実はない!!」

 

 絶対に認めない!

 

      ◇

 

「たはは、ありがとね美波ちゃん。ハルちゃんを止めてくれて」

「いいんですよお姉さん。慣れてますから」

 

 あの後、話が進まないと美波にアイアンクローで黙らされた俺。我、病人ぞ? と異議を申し立てれば、アレだけ暴れられれば平気でしょと正論でぶん殴られて今に至る。万全の状態でも美波勝てない俺が、病み上がりで勝てるわけ無いよね。悲しいね。

 

「俺は……無力だ」

「なんの話よ全く、大丈夫でしたお姉さん?」

「大丈夫大丈夫! こちらも慣れてますから!」

 

 そう言ってヤツは何が楽しいのかニコニコと笑う。コイツこそが我が人生における最大の汚点、俺の黒歴史の根源、全ての元凶……

 

「改めて自己紹介させてもらうね。私は楠木百合香、そこにいる可愛いハルちゃんのお姉ちゃんでーす」

「違います」

「違くないでーす。いい加減諦めてくださーい」

「ちっ……クソ姉貴が」

 

 己が無力さを噛み締めながらそう毒づく。目覚める前に美波とコイツが知り合ってしまったのが運の尽き。

 絶望で打ちひしがれる俺の横で、美波は緊張した様子でピンと背筋を伸ばして姉貴に向き合った。

 

「あ、あの……ウチ、島田美波って言います! ハルとはその、クラスメイトです! よろしくおねがいします!」

「コイツ相手にそんな真面目にせんでも良いぞ美波。無駄だから」

「そんな訳には行かないでしょ? 何事も最初が肝心なんだから」

「? 何そんなに意気込んでるか知らんけど、マジで無駄だぞ。何なら会話することすら無駄」

「無駄なんて酷いなー。折角美波ちゃんが丁寧に自己紹介してくれてるのに」

「俺としては一生合わせたくなかったんだがな」

 

 割と本気で。だってこの女、マジで余計な事しか言わないしやらないんだもん。

 

「もー、かわいい彼女を独り占めしたいのは分かるけど、お姉ちゃんにも紹介してよ」

「かのっ!?」

「クラスメイトって言ってんじゃん。耳腐ってんの? なぁ?」

 

 ほらな? 余計な事しか言わない。初っ端からジャブ感覚で戯言抜かしてんじゃねぇぞ。

 

「え? 学校サボってお見舞い来てたし、違うの?」

「ち、違いますから! ハルとはまだ友達です! 恋人とかじゃないですから!!」

 

 ボッと顔を真っ赤にして言葉を詰らせつつ必死に弁明する美波。

 元気だったら全力でイジりたい大変揶揄いがいのある反応であるが、その顔はいけない。俺より質の悪い変態が反応してしまう。

 

「美波ちゃんきゃわわ〜!!」

 

 そんな奇声を発した後、変態が繰り出す恐ろしく早いハグ。哀れ美波は捕まってしまった。

 

「あーん、お顔真っ赤になって照れちゃって可愛いわぁ! 滅茶苦茶可愛い! 何この美少女!」

「お姉さん!?」

 

 戸惑う美波を、俺は死んだ目で見ていた。可哀想に、あの変態は可愛いモノに見境が無いからな。美波もちゃんと琴線に触れたのだろう、可哀想に。

 

「え、ヤバ美波ちゃんお肌ぷるぷる! すべすべ! 凄いよハルちゃん! リアルJKヤバいね!」

「きゃっ! ぁんっ! お姉さん擽ったいです!」

「……本気で逮捕されればいいのに、セクハラやめぇやオイ」

「辞めない絶対に。え? この娘がハルちゃんの彼女……と言うことは美波ちゃんは私の義妹? 義妹!?」

「あ、あのぉ、もう離し「……義妹ならセーフ……すーハァ、クンカクンカ」お姉さん!!??」

「勘違い振り切ったまま発情して暴走すんなやボケェ!!」

 

 抱き締めたままの美波に顔を埋めて、あろう事か匂いを嗅ぎだした変態。俺はすかさず蹴りを入れる。が、しかし病み上がりが災いして、美波を変態の魔の手から助ける事は出来ても、顔面を狙った蹴りは避けられてしまう。

 

「甘いねハルちゃん! さっきの不意打ちならまだしも、美波ちゃんの美少女成分を摂取した私にそんな蹴りは当たらないよ!」

「意味不明な事をドヤ顔でぬかすなボケェ」

「あ! ハルちゃんも混ざりたかった?」

「死ねや! ……分かったか美波、この女はマトモじゃねぇんだ。脳味噌が溶けちまってんだ。だから今からでも遅くない、生ゴミにして捨てよう!」

「な、なるほど……少し変な人なのね」

「少しなわけあるか! お前腐れ清水のせいで感覚バグってるぞ!」

「もー酷いなぁハルちゃん。かわいい子の匂いを嗅ぎたいのは自然なことでしょ?」

「酷いのは貴様の頭だ、美波と自然に謝れ」

 

 異論は認めない。こいつが身内だという事実も依然として認めない。

 

「あはは、ごめんねー美波ちゃん。お姉ちゃん少しテンション上がっちゃった」

「い、いえ……」

「でも美波ちゃんが可愛いのが悪いんだよ? なら仕方ないよね!」

「どんな理論じゃ! このダボが!」

「…………この理不尽な感じ、凄くハルに似てる」

「やめて美波、俺とヤツの共通点を見出さないで。凄く、不愉快だから」

 

 腑に落ちた顔でしみじみと言うんじゃないよ、オイそこの変態も喜ぶな、俺に似ているは褒め言葉じゃねぇんだよ。

 

「コレが姉弟の絆だよね」

「そんなモノは存在しない。はぁ……マジで何しに来んだよ、てかどうやって家に入った。この不法侵入者め」

「不法侵入って……お姉さんは家族何だから合鍵くらい持ってるでしょ?」

「なわけ、我が家の合鍵は実家にも渡してねぇぞ」

「……え? 渡してないの?」

 

 ウチが来たときには家の中に居たわよと驚く美波。誰がこんな変態が身内が居る実家に合鍵なんて渡せるか。

 

「……おい貴様、どうやって家に入り込みやがった」

 

 嫌な予感がするが確かめぬ訳にもいかず、俺は恐る恐る奴にそう尋ねた。

 

「ふふふ、実はお姉ちゃん最近ピッキング出来るようになったんだよね。これで何時でもハルちゃん家に来れるよ!」

「え゛?」

「論理感バグってんのか?」

「失礼だなぁ乙女の嗜みだよ?」

「そんな峰不二子みたいな乙女は知らん」

 

 じゃ~んとポケットからピッキング道具を取り出して見せるクソ姉。本当に犯罪者じゃねぇかコイツ。

 俺はドン引きしている美波の隣で、今後絶対にチェーンはしよう、何ならセコムに入ろうと心に決めた。

 

「なんか実家にハルちゃんが学校休んだって連絡あったから、ピッキングを試せるチャンスだと思って来ちゃった♪」

「そうかなら用はすんだな、はよ帰れよ。むしろ土に還れマジで」

「嫌でーす! なんなら今日は泊まっていくし」

「は? 無理だけど?」

「えー偶にはいいじゃない。だってハルちゃん全然実家に帰って来ないんだもん。お姉ちゃん寂しい」

 

 そう言って態とらしくくすんと鼻をすすり、嘘泣きする姉貴。誰がそんな猿芝居に騙されるか。

 

「知らんがな帰れ」

「ちょっとハル、言い方が少しキツイわよ。お姉さんもハルが心配で来てくれたんでしょ?」

「そんな一般論は俺には通じん、この悪魔を我が家に置いておくわけにはいかん、俺の身に災が降りかかる前に除かねば」

「災って大袈裟ねぇ。少し……その、結構変わってるみたいだけど優しいお姉さんじゃない、そんな態度は可愛そうよ」

 

 事情を詳しく知らない美波はジトっとした視線で俺を責めるが、今回絶対に俺は折れないからね。本気で今すぐこのクソ姉貴が変な事をやらかす前に追出したいのだ。病み上がりじゃ無ければ、武力行使で追い出せるならば等にゴミ袋に詰めて捨てている。

 

 早く追い出さなければ、奴の一番クソな部分が露見する前に。

 

「美波ちゃん優しいー、妹にしたい! ハルちゃんも偶にはツンばかりじゃなくてデレてもいいんだよ?」

「そんな未来は永劫来ない、そして帰れ」

「そんなツンなハルちゃんも可愛いけどね!」

「聞いねぇよ、そして帰れ」

「けどそっかそっか……。なら最かわで優しい美波ちゃんにはご褒美をあげないとね」

「どんな脈絡だよ、そして帰れ」

「何がいいかなぁ……そうだ! 美波ちゃんにはご褒美として、ハルちゃんの昔のアルバムを見せてあげるよ!」

「黙れ、そしてかぇ……おい待て」

 

 姉貴、今なんて言いやがった?

 

「あ、反応した! なになに? 気になるのかな? 私が編集したハルちゃんアルバム全集!」

「俺のアルバム……だ、と」

「ハルの……アルバム!?」

 

 ちょうど持ってきてるんだよねぇと宣いながら、手持ちのトートバッグから、分厚いピンク色の本を数冊取り出す姉貴。本の表紙に書かれたタイトル『楠木晴楓ちゃんメモリアル』の文字。見覚えのあるそのポップな書体が今の俺にはとても恐ろしい。

 

 何故ソレがここにあるんだ、だってそれは……

 

「俺が実家を出る時に燃やしたはずなのに」

「ちっちっち、甘いよハルちゃん。アレは布教用、まだ保存用と使用用が残ってたからね、複製なんてお茶の子さいさいよ!」

「な……んだと……」

「一緒にパソコンのデータを壊された時は流石に焦ったけど何とかなったんだよね〜。これが転ばぬ先の杖って奴だよ!」

「く、クソがぁ……」

 

 そんなと膝を付き打ちひしがれる……フリをして俺は、

 

「ならまた燃やすだけじゃあ!! 次はバックアップ諸共なぁ!!」

 

 姉貴の手の中にある悪魔の書を奪い取る為に駆け出した。

 しかし、完全に不意をついたであろう俺のスタートダッシュは阻止される結果に終わる。

 

「くっ!? 美波ぃ!? なんで!?」

 

 クズの思考を読める美波が俺を羽交い締めにして止めたからだ。

 

「ま、まぁ待ちなさいよハル。何も燃やすことは無いじゃない?」

「いや燃やすが? アレは世に出しては行けないから、肖像権の侵害だから」

「いやいや、ただの思い出の品でしょ? ハルからすれば少し恥ずかしい写真があるかもだけど……ウチ、ちょっと見てみたいし」

「あらあら、美波ちゃん興味ある? 楠木晴楓ちゃんメモリアル」

「はい! とても!」

「いい返事すんな美波コノヤロウ!」

 

 藻掻いてみるがビクともしない。こ、コイツどんだけ俺のアルバム見たいんだよ。過去イチで力強ぇぞ。

 

「そうかそうかそんなに見たいかー、ならさっそく見せてあげよう!」

「ッ! やめろ姉貴!! ソレを開くんじゃねぇ!」

「えー? どうしよっかなぁ? 人にモノを頼むときはどうするんだっけぇ?」

「ぐうっ……」

「ねぇねぇハルちゃん? どうするんだっけ?」

 

 このクソアマ死ねよニヤニヤしやがって。誰が貴様なんかに頭を下げ、下げ……ぐっ…………ぐぁあ!!

 

「お、お願いします、辞めてください姉貴」

「姉貴ぃ?」

「くッ……がっ!お願いしますぅ!お姉様!!!!」

 

 俺は地面に額を擦り付けながらクソ女に懇願した。悔しさから食いしばり過ぎて口の中が血の味がする。我慢だ我慢、バレるわけにはいかない、美波に知られたくない絶対に。

 

「まだまだだねハルちゃん、命乞いなのにプライドが捨てきれてないよ!」

「…………(ギリッ)……どうか御慈悲を」

「……嫌がりすぎじゃない? ただのアルバムでしょ?」

 

 ただのアルバムじゃ無いから嫌なんだよ。見られたら明久にテストの点数で負けるより屈辱なんだよ。

 だから俺は頭を垂れる。心が砕けそうだがなにも考えるな、プライドは捨てろ。心を……殺せ。

 

「……ヤメテクダサイオネエサマ」

「片言になってるわよ!? そんなに嫌なの!?」

「イ……ヤ、ダ」

「……そ、それなら凄く気になるけど、ハルが見せたくないなら、ウチ我慢するわよ?」

 

 み、美波ぃ! マジでお前、お前ぇ!! 天使かよ!!

 過去イチで輝いて見える聖母美波様に、俺が感極まって抱き着いてしまおうとしていると、悪魔クソ女が頬を膨らませてこんな最低な事を宣う。

 

「えー! それはつまらないじゃん」

「ふぁ!? な!?」

「だから見せます。オープン・ザ・ブック!!」

「え? あ……」

 

 クソ女ぁ!! マジでお前! 貴様ぁ!!! クソ! 悪魔ぁ!!! 俺が恥とプライドを捨てて土下座した意味!!

 

 悪魔によって開かれたアルバム、元々気になってた美波の視線は好奇心に抗うことできずアルバムに固定。

 そこに載せられて居たのは、ピンクのフリフリスカートを履いて、大きなクマのぬいぐるみを抱き抱えた女児の写真だった。

 

「見て見て美波ちゃん! かわいいでしょ私の妹!」

 

 あ、終わった……

 

「い、妹? これハルのアルバムなんじゃ……」

「うん! ハルちゃんのアルバムだよ?」

「?? でもこの写真の子女の子だし、妹ってお姉さん……ん?」

「??? ハルちゃんは私の妹だよ?」

「??? …………ッ!? ハルっ! アンタ女の子だったの!?」

 

 悪魔の戯言を真に受けた美波が、驚愕の表情でそう尋ねてくる。そんなわけ無いだろボケェと普段の俺なら言っていただろう。声高々にツッコミを入れながら、俺を舐め腐った悪魔を殺しに行ってただろう。

 

「……もう、殺して」

 

 そんな元気、無いわ。

 

「……もぅマヂ無理、お家帰る」

「ここハルちゃんの家だけどねー」

「待って! どっちなの!? 確かにハルの女装はビックリするくらい可愛いかった、身体の線も細いし男の子っぽくない……え? 本気で? え?」

「可愛いよねぇこの頃のハルちゃん、いや今もすっごくかわいい可愛いけどね! 絶望してる顔とかレアでキュンってくるわね!」

「……して、殺して」

「え? 男? 女? ハル? え?」

「いつからかスカートも履いてくれなくなっちゃったし、やっぱりこの頃のは特別だよね! ほら見て美波ちゃん! これは動画なんだけど可愛くない!? 不思議の国のアリスみたいでしょ!」

 

 そう言って姉貴はTVを点けていつの間にか用意してた動画を流しだす。映し出される忌まわしき記録。

 

『きゃあー! アリスコスのハルちゃんかわわ! 流石私の妹!』

『えへへ、ありがとうねーちゃん。僕可愛い?』

『可愛い! 可愛いよハルちゃん!!』

『そんなに褒めないでよ、恥ずかしいよねーちゃん』

『ポーズ決めて! ハルちゃんポーズ!』

『えー、一回だけだよ? ……はい、ポーズ!』

『ハルちゃんのダブルピースかわわわわぁ!!』

 

 誰だこれマジで(現実逃避)

 

「あ、本当だ凄く可愛い、けど……え? やっぱり本当に? 妹ってお姉さん言ってるし……え? ………………え?」

 

 絶望する俺。困惑する美波。興奮する変態。これがカオスである。

 20XX年某日、楠木晴楓の尊厳は死んだ。

 

 





後編を明日投稿します。
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