バカとクズは使いよう。   作:枕魔神

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第一章
クズと新学期と開戦の狼煙01


 

 文月学園で一番バカな生徒は誰か、そうこの学園の生徒に問いかければ、皆口を揃えて『吉井明久』と答えるだろう。

 入学初日に男子生徒でありながらセーラー服で登校、生活指導教員の私物を中古ショップで売りさばく等々の常軌を逸したエピソード。

 それに加えて、よほどのバカをやらかした者にしか与えられない、バカの代名詞と言える唯一無二の称号『観察処分者』を有している吉井明久は、間違いなく文月学園一バカな生徒である。

 

 文月学園で一番の不良は誰か、そう学園の生徒に問いかければ、皆『坂本雄二』と答えるだろう。

 中学の頃から悪名高い『悪鬼羅刹』とは彼の事、よく吉井明久と喧嘩しているところを目撃されており、悪い噂が後を立たない学園屈指の問題児。

 

 文月学園で一番の変態は誰か、そう学園の生徒に問いかければ、皆『ムッツリーニ』と答えるだろう。

 本名土屋康太、盗撮盗聴何でも御座れの情報収集能力で、彼がスリーサイズを知らない女子は存在しないと言っても過言ではない。女子の写真を芸術と宣って売りさばく、変態クソ野郎。

 

 文月学園で一番の美少女は誰か、そう学園の生徒に問いかければ、主にFクラス男子生徒は『木下秀吉』と答えるだろう。

 演劇部に所属する、可愛くて優しい完璧美少女。その美少女ぶりは数多の男達の初恋を奪ったであろうまさに初恋キラー。だがしかし、男である。

 

 それならば、文月学園で一番のクズは誰か、そう学園の生徒に問いかければどうなるか。

 

「それで? 遅刻した言い訳を聞こうか、吉井に楠木!」

「はい鉄人先生、全部明久のせいです」

「何しれっと人のせいにしてるの!? 晴楓が寝坊したせいじゃん!」

「確かに、俺は寝坊した。しかし、それを予想して起こしてくれるのが友と言うものでは無いだろうか?」

「起こしたよ! どれだけ電話したと思ってるの!? 」

「ましてや俺は体力ないじゃん? 学園まで走れるわけないじゃん? それなら、おんぶして明久が走ったら間に合ったよね? ほら、明久のせいじゃん」

「責任転嫁も甚だしい!!」

「俺は悪くない! 遅刻は悪だと言う風潮を広めた世間が悪い! あとついでに明久も悪い!!」

「このクズめ!!」

「騒がしいぞ貴様ら!! もういい! 二人ともFクラスだ! さっさと教室に向かえ!!」

 

 ごちゃごちゃと言い争う二人に西村の鉄拳制裁が降りかかる。

 新学期早々、学園一のバカの吉井明久と一緒に叱られていた、くすんだ金髪に狐のような鋭い目つき、着崩した制服の如何にもチンピラ見たいな見た目をした彼こそが『楠木晴楓(くすのきはるか)』。

 この学園で一番クズな男で、不本意ながらもこの話の主人公である。

 

   ◇

 

【Side楠木晴楓】

 

「朝から災難だ、まったく」

「それは僕の台詞だよ!」

 

 たどり着いた廃屋もといFクラスの教室。ぺらっぺらな座布団に腰を掛けながらそう呟く俺に、明久が反論してくる。二人とも頭には大きなコブがあった。

 

「二人一緒に被害に合うより、一人が犠牲になったほうが効率的だろ?」

「そうだね、それなら僕の代わりに晴楓が身代わりになってくれても良かったよね?」

「俺が? は? バカじゃねの? 何で明久如きの為に態々殴られなきゃあかんのじゃ」

「くっそ殴りたいその顔面!!」

「朝から元気だな、お前ら」

 

 再び言い争う俺等に、このFクラスの代表となった坂本雄二が、呆れた表情で話しかけくる。

 

「聞いてよ雄二! 晴楓のクズがクズなんだ!」

「何言ってんだ吉井、楠木がクズなのは当たり前だろ?」

「そうだろバカ久、俺がクズなのはお前がバカであるのと同じようにこの学校の共通認識なんだから諦めとけ」

「なんで開き直ってんだよ! あと僕は馬鹿じゃない! ちょっとお茶目なだけだ!」

「「それはない」」

「口を揃えて否定しないでぇ!?」

 

 受け入れ難い現実にさめざめと泣くバカは放置して、俺は改めてこの寂れた教室を見渡した。ホコリの被ったちゃぶ台にささくれだったかび臭い畳。割れた窓ガラスからは隙間風が吹き込んでいる。

 

「それにしても、ひっでぇ教室だな。流石はド底辺Fクラス」

「何を他人事みたいに、お前もそのド底辺の住人だろ?」

「まぁねド底辺代表。知ってる顔もちらほら見えるし、類友ってやつだな」

「……晴楓と一緒にされるのは、不本意」

「確かにその通りじゃのう」

「お、ムッツリーニに秀吉じゃねぇか。久しぶり」

 

 反論と共に会話に入ってきた、むっつりと男の娘に、俺はひらひらと手を降って返す。

 

「やっぱお前等もFクラスだったか」

「うむ、演劇ばかりやっておったからのう。仕方ない」

「俺は趣味で忙しい、勉強する暇なんてない」

「わかるわ、マジそれだよな。俺も勉強してる暇があれば他の事してぇもん、昨日も夜中までネット麻雀しててさ、まぁそのせいで寝坊したんだけどさ」

「「本当に一緒にしないでほしい(のじゃ)」」

「秀吉はともかくムッツリーニは人の事言えないだろ? まぁでも二人も一緒のクラスで良かったわ、見知った顔が居るのは気が楽だし」

 

 俺が伸びをしながらそう言うと、雄二は「他にもいるぞ?」とニヤけながら親指でくいくいっと指差す。

 

 視線を向けると見慣れたポニーテールの少女。バッチリと目があったので、俺はさっと目を反らして見なかった事にした。

 

 危ない危ない、野生動物と視線を合わせる危険性は、Fクラスに落ちた俺でさえ熟知している。刺激しないように存在を無視出来ない強烈な痛みが俺のこめかみにぃいいい!!!?」

「おはよう楠木♡」

「おはようございます美波様ぁ!!」

 

 とても良い笑顔で俺にアイアンクローを仕掛けてくる特定危険生物、島田美波。一年の時からの付き合いで俺の天敵とも言える少女、特徴は赤みのかかったポニーテールと断崖絶壁の胸。おっぱいじゃ無くて胸、これ重要。

 

「何かムカつく事考えてるわね?」

「ぎゃあああああ! 考えてませんすいません!!」

 

 第六感で思考を読んだ美波がさらに握力を強める。ギシギシと頭蓋骨が鳴ってはいけない音をたてながら軋み、俺の叫び声と絶望の旋律を奏でていた。

 

「それで? さっきなんでウチを無視したのかな?」

「愚問だろ! 触らぬバーサーカーに祟り無しと言う日本語を知らんのか!」

「うん、知らないからもっと締め上げるね?」

「すいませんごめんなさい調子乗りましたぁ! 助けろ明久ァ!!」

 

 全力で謝罪しながら明久に助けを求める。たとえ相手がどんな格下の人間であろうとも、プライドは頭蓋骨に変えられないのだ。

 

「えー、どうしよっかなぁ?」

 

 しかし、俺からのSOSを一丁前に渋る明久。バカの癖に生意気だと思う暇も無い俺は必死に明久に頼み込む。

 

「早く助けてください明久ァ!!」

「やだね! 今朝の恨みだ観念しろ!」

「後でエロ本やるから!!」

「「任せろ!」」

 

 餌をちらつかせると一瞬で掌返しをしてみせた明久と一緒に釣れたムッツリーニは、全力で美波を宥め始める。

 一通り俺を締め上げて満足したのだろう、美波はエロ本に釣られた二人の説得でようやく俺から手を離した。

 

「……し、死ぬかと思った」

「まったく、楠木は相変わらずなんだから」

「それはお主も一緒じゃろ島田よ、昨年度よりも技にキレが増しておるぞ」

「何よ木下、仕方ないじゃない。ウチの趣味は楠木をぶん殴る事なんだから」

「そんな危険な趣味はドブにでも捨ててしまえ!!」

「いい趣味だな島田、そのまま極めてくれ」

「何を抜かすかこの腐れゴリラァ!!」

 

 良心の欠片も無いゴリラの言葉に俺はブチ切れた。

 

「テメェ見てたよなぁ今の惨劇、止めろよクラス代表いつか死人が出るぞ!?」

「その場合クズが一人減るだけだから問題はない。実際、このクズを制御できるのは島田くらいだ、正直俺には手に負えん」

「確かに、それもそうじゃのう」

「……そもそも、大体晴楓が悪い」

「島田さんは晴楓の保護者だからね。任せたよ島田さん」

「何みんなして認めてんの? イジメか?」

「しょうがないわねぇ、コレからもウチがしばいてあげるわよ」

「お前はお前でなんで頬染めて可愛くツンデレっぽく言ってんの? 暴力系ヒロインは流行んねぇぞ?」

「だ、誰が可愛いヒロインよ!」

「都合の言いところだけ聞いてんじゃねぇよ! 暴力が枕詞につくんだよ!この暴力女!」

 

 可愛い顔してりゃ許されると思うなよ!? 毎日毎日ボコスカ殴りやがって、俺はドMじゃねぇんだよ!

 

「本当に嫌なら晴楓が揶揄うのを辞めたらいいと思うのじゃが」

「俺の趣味は博打とソシャゲと美波を揶揄う事なんだ! 辞めるくらいなら死ぬ! 絶対に無理だね!」

「それなら甘んじて受け入れるのじゃな」

「自業自得、慈悲はない」

「お前らそれでも友達かよ!? 俺がこのムネタイラーに殺されてもいいってのか!?」

「「「「うん」」」」

「この人でなし共め!!」

 

 人の事をクズって呼ぶ癖して、お前らも中々のクズじゃねぇか! と叫ぶ俺は、背後からの殺気に気が付きバッと振り返る。

 

「誰がムネタイラーですって?」

 

 怒れる美波は心なしか髪の毛が逆だっていた。俺は慌てて弁明に取り掛かる。

 

「待て落ち着け美波! 勘違いだ!」

「言いたい事はそれだけ?」

「ちょっとマジで待てって!! そもそも胸が平らな事は短所なのか? 嫌違う、昨今そこまで平らな胸も珍しいとは思うが、珍しいって事は特別なんだ! ほら! 言うだろ貧乳はステータスだ希少価値だと!」

「フォローになってないっ!!!」

 

 その言葉を最後に俺の記憶は無い。ムッツリーニの奴が言うにはとても綺麗なハイキックが顎に入ったらしい。何とは言わないがライトグリーンだったらしい。

 

   ◇

 

【Side吉井明久】

 

 島田さんから一瞬で意識を刈り取られたクズを僕が教室の隅へ捨てていると、ちょうど担任の先生が教室へと入ってきた。

 

「えー、おはようございます。担任の福原です。よろしくお願いします。……ちなみにそこで寝ている楠木君は具合でも悪いのですか?」

「気絶してるだけなので大丈夫です」

「そうですか、それならホームルームを始めます」

 

 福原先生の質問に島田さんが答える。教師としてその対応はどうなのかとも思うけど、晴楓だし大丈夫かと納得して福原先生の話に耳を傾ける。

 

「初めに支給品の確認をします。ちゃぶ台に座布団は全員に支給されてますか? 不備があれば申し出てください」

『せんせー俺の座布団、綿がほとんど入ってないでーす』

「そうですか、我慢してください」

 

 クラスメイトの誰かが言った不満を、我慢しろの一言で流す福原先生。

 

『隙間風が寒いでーす』

「ビニールとテープを後で支給しますので各自で直してください」

『ちゃぶ台の足が折れてまーす』

「木工用ボンドが支給されてますので、それも各自で直してください」

 

 僕は戦慄した、まさかここまでFクラスの待遇が悪いとは思っても見なかった。僕たちFクラスに人権はないらしい。

 案の定あちらこちらで不満が漏れている。いくら僕達がバカだからって同じ学費を払っているんだからこの仕打ちはあんまりだと思う。

 

 そんなクラスメイト達の不平不満の声を遮ったのは、ガラガラと立て付けの悪すぎる扉の開かれる音だった。

 

「あの、遅れてすいません……」

 

 え?

 

「姫路さん……」

 

 僕がポツリと呟いたその言葉をきっかけに、Fクラス中がザワザワと騒がしくなる。

 当然だ、おずおずと教室に入ってきた彼女は本来ならこんな場所にいるはずの無い人だからだ。

 

「大丈夫ですよ姫路さん。事情は聞いてますから」

「は、はい! その、皆さん姫路瑞希といいます、よろしくお願いします」

 

 ペコリと綺麗な動作でお辞儀する姫路さんに、みんな目が釘付けになっている。

 

『あの! なんでここにいるんですか!?』

 

 不意に誰かがそう聞いた。失礼な質問かも知れないけれどそれがクラス皆の疑問だった。

 姫路さんは学年でもトップクラスで勉強ができる事で有名だ。誰もが彼女はAクラスに行くんだろうと思ってたはずなのに、実際やって来たのは底辺のFクラス。事情を知らない人からすれば何かの間違いだと思うのも無理は無かった。

 

「その、振り分け試験で熱を出しちゃって……」

 

 そう気まずそうに呟く姫路さん。その場にいた僕は彼女がテスト中に倒れ、点数が無効になっていた事を思い出した。

 

「そうなんだ、残念だったね」

「体調管理もテストのうちですから、仕方ないです」

 

 このクラスで数少ない同性である島田さんが、姫路さんに気を使ってそう言う。

 根は優しい島田さんの事だ、その言葉は本心だろう。それに比べてうちの男子共は……

 

『熱? あぁ、そうそう俺も熱のせいでこのクラスに……』

『難しかったよな、熱の問題。オームの法則だっけ?』

『バカ、フレミングの左手の法則だろ? アレ? 右手だっけ?』

『俺は妹が事故に会ってな』

『嘘乙お前一人っ子だろ』

『彼女がテスト前日に寝かせてくれなくて』

『それが事実だとしたらお前は俺達に殺されて、今日まで生きていないから、嘘だな』

 

 端的に言って最悪だった。

 そんなざわめく最悪な男子共を鎮めるために福原先生はタンッと軽く学級日誌で教卓を叩く。

 

 すると教卓はガシャンと音をたてて崩れ去った。

 

「おや? 壊れてしまいました。新しい物をとってくるので皆さんは待っててください」

 

 そう言って福原先生は唖然とする僕たちを置いて教室を出ていく。

 新しい物と言ってもどうせボロボロな教卓なんだろう、何処でそんなボロを仕入れて来るのか謎だった。

 

「教卓が壊れるなんて、Fクラスの設備は徹底して最悪だな」

 

 教師がいなくなったスキを見て、雄二は黒板の前へと向かいながらそう言う。

 

「俺はこんな学園の仕打ちに不満しかない! 皆もそう思うだろう!!」

『『『当たり前じぁあ!!!』』』

 

 クラス全員がそう叫んだ。その言葉を聞いてニヤリとした雄二。

 僕は知っている、あの顔をする雄二は何かを企んでいる時の顔だ。

 

「Fクラス代表として提案する! Aクラスに対して試験召喚戦争を申し込もうと思う!!」

 

 試召戦争、それはテストの点数に応じた強さを持つ召喚獣で行う、この学校独自のイベント。勝者は敗者とクラス設備を入れ替える事ができる、一発逆転の制度だ。

 ざわつく教室、悪童と呼ぶにピッタリの悪役ヅラをしながら、僕達のリーダーはさらに言葉を続けた。

 

「さぁ皆! 下剋上と行こうぜ!」

 

 こうして僕達の戦争の火蓋は切って落とされた。

 

   ◇

 

 雄二がせっかくカッコつけて宣言したものの、僕達は所詮Fクラス。最高クラスのAクラスに勝てると思っている人は少なく、クラスの士気はとても低かった。

 

『無理だろ』

『現実を見ろって』

『頑張ってEクラスだよな、高望みすんなー』

『姫路さんが居る、それだけで幸せだ』

『『『それな!』』』

 

 最後のセリフには激しく同意するけれど、負け犬根性逞しいFクラスの戦士たちは口々に弱音を溢している。

 しかし、そんな事は関係ないとばかりに自身に満ち溢れた表情の雄二。

 

「そう言うと思ってな、ちゃんと策は考えてある」

 

 そう言って雄二は「コイツを見ろッ!」と姫路さんを、正確には姫路さんの足元でスカートを覗こうとしているムッツリーニに指差した。

 

「きゃあっ!」

 

 雄二が指摘した事でムッツリーニに気が付いた姫路さんが可愛い悲鳴を上げてスカートを押さえた。それにより完全に希望が立たれたムッツリーニは残念そうに起き上がった、頬に畳の跡がついていた。

 

「今ので察した者も多いだろう。そう!コイツこそ保険体育最強の変態! 寡黙なる性職者こと土屋康太だ!!」

「(ぶんぶんぶんぶん)……」

 

 雄二にそう紹介されて、ムッツリーニは必死に首を横に振り否定する。あれだけ堂々とスカート覗いていてその否定は無理があるよ……ムッツリーニ。

 

『ムッツリーニ……あのムッツリーニか!』

『あの伝説のムッツリ商会の!?』

『見たかあの堂々とした覗きっぷりを!』

『まさにムッツリの名に恥じない姿だ!』

 

 男子生徒なら誰もが知っているビックネームにクラスの雰囲気は色めき出す。この波に乗るように雄二はさらにと言葉を続けた。

 

「木下秀吉を知っているか! 演劇部のホープ! コイツの高い演技力は必ずや戦争の武器となる!」

「うむ、そう言ってもらえて光栄じゃ」

 

 演技を褒められて照れ臭そうに頬を染めて秀吉がそう返事を返した。可愛い! 可愛いよ秀吉ィ!!

 

『確か姉がAクラスの木下優子だったよな!』

『あんな可愛い娘が男なわけ無い!』

『馬鹿野郎! 男の娘は至高! 可愛いは正義なんだよ!!』

『つまりこの勝負、実質勝ったも当然では?』

 

 さらに「他にもいるぞ!」と雄二は続ける。

 

「姫路瑞希! 彼女こそうちのエースだ!」

「え? わ、私ですか!?」

「ああ、期待してるぞ」

「はい! 頑張ります!」

 

 ぎゅっと握り拳を作って意気込む彼女に、周りは大盛り上がり。

 

『HIMEZI! HIMEZI!』

『そうだ! 奇跡的にも彼女がいるんだ!』

『俺、この戦争が終わったら彼女と結婚するんだ』

『奇遇だな、俺もだよ』

『勝ったなガハハ! 風呂入ってくる。姫路さんと!』

『『『させるわけねぇだろ死ね!!』』』

 

 さっきまでのお通夜見たいな空気が嘘の様にFクラスの皆はやる気に満ちていた。

 凄いよ雄二! ただの筋肉ゴリラじゃなかったんだね! と僕は雄二を見直していたのだが……

 

「そして吉井明久がいる!」

 

 と雄二が言い放った事でしーんと静まり返る教室。僕の中で一気にゴリラの評価は地の底に落ちた。

 

「おいコラ雄二! なんで態々盛り上がった空気を盛り下げるのさ!」

「おいおい明久、俺がなんの策もなくお前を紹介したと思ってんのか?」

「当たり前じゃん! このゴリラめ!!」

 

 どうせ僕の事をオチとして使うに決まってる!

 

「困惑してる皆に伝えたい、コイツこそあの悪名高き観察処分者だ!」

「あの、観察処分者ってなんですか?」

「観察処分者は特権として、物に触れれる召喚獣を出せる」

「まぁ! すごいんですね!」

 

 姫路さんが申し訳なさそうに手を挙げて質問し、雄二がそれに答える。姫路さんは凄いと言ってくれるけど、まったく凄くないし違うんだよ。

 僕の内心を代弁するかのようにムッツリーニと秀吉が説明を加える。

 

「……実際はその召喚獣で雑用を押し付けられる、教師の奴隷」

「その上召喚獣の痛みが本人にフィードバックするのじゃから、下手に悪用もできん」

「学習意欲が無い、風紀を乱す問題児にのみ与えられる烙印」

『つまりバカの代名詞だろ? それ』

「そう! バカの代名詞だ! 」

「力強く認めるな! バカ雄二!!」

「しかし!コイツにはあの鉄人の私物を売りさばく勇気がある!」

 

 その雄二の言葉にクラスが再び、いや先程までの否じゃないほどざわめき出す。

 

『バカだバカだと思っていたけど、まさかそこまでバカだったとは!』

『怖! バカ怖えぇよ!!』

『マトモじゃねぇよあいつ!』

『なんだ、ただの自殺希望者か』

 

 何だかバカにされてる気がしなくも無いけど、何だか盛り上がってるし良しとしておこう。我慢だ我慢……僕は大人なんだか「勇気あるコイツなら身を呈して俺等の盾となってくれるだろう」

「つまり僕はただの肉壁か雄二コノヤロウ!!」

 

 ふざけやがって! ぶっ殺してやる! と拳を振りかざして飛びかかるが、腹立つ事に相手は筋肉ゴリラ簡単に取り押さえられてしまった。

 

「まぁ落ち着けよ明久、まだ演説の途中だろ?」

「離せっ! 僕には貴様を殴る権利がある!」

「安心しろ、オチはちゃんと作ってある」

 

 そう言った裕二は、未だに意識が戻っていない晴楓に近づくと「おい起きろ」と頬に容赦のないビンタを数発。晴楓はよりグロッキーになっただけで反応は無い、まるで屍の様だ。

 

「はぁ……おい島田、コイツ起してくれ。話が進まん」

「いいけど、さっきので起きないんじゃ無理なんじゃない?」

「大丈夫だ、お前がやればコイツは起きる。手段は問わない」

 

 そう言われて裕二の代わりに島田さんが晴楓を起こしにかかった。

 

「楠木、起きなさい」

「……う〜ん」

 

 体を揺すってそう声をかける島田さん、裕二の行ったとおり晴楓はその声に反応した。

 

「起きてって楠木」

「……みなみぃ?」

「そうよ美波よ、起きて楠木」

「…………っさいぞ貧乳」

 

 そして半覚醒のまま地雷を踏み抜いた。僕達の耳にプチンと何かが切れる幻聴が聞こた。

 

「…………ねぇ坂本、コイツ永眠させていいかな?」

「気持ちは解るが我慢してくれ、後で煮るなり焼くなりしていいから」

「…………わかったわ。ふんっ!」

「ぐはっ! なっ、なんだ!?」

「おはよう、楠木」

「え? あ、はい。おはよう美波……さん」 

 

 ボディブローでようやく起きた晴楓は、状況が把握出来てないのか戸惑いながら視線をきょろきょろさせ、島田さんが怒ってる事を理解して体を萎縮させていた。

 

「ようやく起きたか。みんな! コイツの事を知ってるか!」

 

 晴楓が起きたことにより、裕二の演説が再開する。しかし、反応は著しく無い。誰だコイツ?って反応がほとんどだ。

 

「顔だけじゃ分からないなら名前を教えてやろう! コイツがあの楠木晴楓だ!!」

『『『なにぃ!!!!』』』

「え? 何うるさっ」

 

 一気に騒がしくなった教室に覚醒したばかりの晴楓は顔をしかめる。

 

『コイツがあのクズノ木か!』

『俺知ってるぞ! コイツ確かカンニング常習犯だろ!?』

『俺は教師を買収してるって聞いてるぞ!』

『俺は幼女を騙して誘拐してるって聞いた!』

『キングオブクズ! 根本より卑怯な男!!』

 

 出てくる出てくる、尾ヒレの付いた酷すぎる噂話。半分以上はただのデタラメなんだけど、それを知ってるのは僕を初めとする仲のいい人達だけ。

 人のマイナスな噂は広まるのも早いから、晴楓の悪行の噂を知らない人はこの学校には多分いない。

 

「そう! あのBクラス代表の根本恭二より卑怯なクズノ木晴楓だ!!」

「別にクズと言われるのはいい。けどよ、誰が根本より卑怯だ! ブチ殺すぞ貴様等!!」

「クズって言われるのはやっぱりいいんだ!?」

「事実だ!」

「清々しい!!」

 

 キレ散らかす晴楓、そんな明らかに不機嫌な晴楓と同じくらい不機嫌な人が一人。晴楓の隣の島田さんだ。

 

「ちょっとアンタたち、言い過ぎよ」

「そうだ! 言ってやれ美波!」

「確かに楠木はクズよ! けどね! 根本よりはまだ幾分か少しだけちょっぴりマシなんだから!」

「うん、あんまりフォローになってないけどそのとーりだ!! 撤回しろ!」

「どんだけ根本くんと比較されるのが嫌なのさ!?」

「根本以下になるくらいなら俺は博打を辞める!」

「楠木が根本以下になったらそうなる前にウチが楠木を殺すわ!」

「想像以上に嫌がってる!!」

「わかったわかった! 根本よりはマシだが他人を欺く事に置いて他の追随を許さない男! これでいいか!?」

「「まぁ、それならいい(わ)」」

 

 よく分からない判断基準で納得する二人、この二人何時も言い合いをしてるけど意外と仲が良いんだよなぁ。

 

「話は逸れたがつまり! コイツがウチのクラスに居る事は大きなアドバンテージだ!!」

『確かに敵に回したくない相手ナンバーワンだもんなクズノ木』

『良かった、アイツがFクラスで、味方で良かった!』

『味方ならこれ以上に頼もしい奴はいないぜ!』

「そうさ! 真正面から以外の戦いで俺に勝てる奴なんていねぇ! 見てろ! 他のクラスの奴ら全員の寝首を掻いてやるぜ!!」

『くーず! あそれ! くーず!』

 

 晴楓が切った啖呵に、鳴り響くクズコール。そのコールに答えるかのように拳を付きあげるクズ。

 僕は友人の一人として問いたい、お前は本当にそれで良いのかと。

 クズコールで盛り上がる中、雄二は演説の締めに入っていた。

 

「正直駄目で元々! なら出来るだけやってみようぜ!! 俺等はド底辺クラスのFクラスだ! だけど誰が底辺は勝てないと決めた! 失う物が無い者達の底力をみせてやれ! Aクラス! 討ち取りに行くぞぉ!!!」

『『『オオォォ!!!!』』』

 

 雄叫びがボロボロの旧校舎を震わせる。この瞬間、ただの底辺の集まりは初めてFクラスとして団結したんだ。

 試召戦争、無謀かも知れないけれど、勝てば不運でFクラスに落ちちゃった姫路さんも、ちゃんとした教室で授業を受けれるよね。そう思い立った僕は絶対に勝ってやると決意するのだった。 

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