【Side平賀源ニ】
「第三防衛ライン突破!」
「代表! Fクラスのクズ野郎が物凄い勢いで攻めてきます!」
「分かってる! くそっ!」
Dクラスの教室内に響く悲報の数々に、俺は頭を抱える。バカのFクラスとの試召戦争だと甘く見ていた俺達は、現在一人のクズに苦戦を強いられていた。
「なんとかして倒せ無いのか!?」
「遠距離攻撃しかしないから、こっちの攻撃が当たんないの!」
「ならフィールドの切り替えは!?」
「今はちょうど6限目の最中だ! 教師は他のクラスの授業中だよ!」
「くっ! 少しでも点数を減らせ! アイツさえ倒してしまえば俺達の勝利は目前だ!」
そう強がってクラスメイトを鼓舞するが、正直万策尽きている。
まさか自分を犠牲にしてまでフィールドを張り替えるとは思わなかった。あのクズの何処にそんな底力があったと言うのだろうか、不思議で仕方ない。
「最終防衛ライン突破!」
「クズ! 来ます!」
「ええい! この際教室への侵入は仕方ない! 入り口を取り囲め! 袋にしてしまえば遠距離攻撃も出来まい!」
そう言って俺は出入り口を片方封鎖し、自分を含めて残った数対の召喚獣を入り口から円状になるように配置させた。
扉の向こうから聞こえてくる、仲間の悲鳴とクズの雄叫び。見ていろ、この扉を開けたが最後目にものを見せてやる!
そう意気込んだ次の瞬間、封鎖し鍵を締めたはずの扉がけたたましい音をたててぶっ飛んだ。
ガッシャアアアンッ!!!
『『『何ぃい!!?』』』
「バレバレなんだよぉ! 誰がそんな待ち伏せされてるとっから入るかぁ!! 蹴り壊してやったぜ!!」
「鍵が締めてあっただろう! 躊躇とか無いのか!」
「んなもん生きる為に必要ねぇわ!」
「いるわ! 超無鉄砲か!」
無茶苦茶な侵入方法でやって来たのは、案の定Fクラスの楠木晴楓。血走った瞳をギラつかせ、肩で息をするその姿は、まるで生きるか死ぬかの野生で生きる獣の用だった。
その姿に気圧されるが、ここで引いては俺等があの廃屋行きになってしまう、それだけは回避しなければ!!
「教室の設備がかかってるんだ! 俺達は負けるわけにはいかない!」
「教室の設備ィ!? 知るかそんなもん!! こっちは命かかっとんのじゃい!!」
鬼気迫る表情でそう叫んだ楠木に仕掛けて来るかと身構えるが、楠木に動く様子は見られない。まさかコイツ、ここに来るまでの連戦でもう限界なのでは? そんな希望が脳裏に過ぎった。
「ど、どうした……来ないのか?」
「そうしたいのは山々だが、あいにく点数を減らしすぎてね。迂闊に攻めたらこっちが殺られるのよ」
しめた! やっぱり限界だったか! それなら一気に叩き潰すのみ! なのだが、嫌な予感がする。あのクズの態度が、まだ何かあるように感じさせる。
「まぁ、ここまで来てしまえば俺の役目は終わりさ」
不意にそう呟いた楠木。次の瞬間、カラカラと音を立ててもう一つの方の扉が「失礼します」の声と共に開かれた。
しまった! 楠木に気を取られ過ぎていた! と振り返ると、そこに居たのは意外な人物だった。
ふわふわした桃色の髪の毛に柔らかそうな雰囲気を纏った女の子、姫路瑞希さんだ。予想外すぎる人物の登場にみんな驚く。
「あ、あの平賀君はいますか?」
「え? 俺が平賀だけど。ひ、姫路さん? どうしてここに?」
不意に名前を呼ばれて戸惑いながらも、俺は姫路さんの前に出る。すると、姫路さんは「良かった」と微笑んで呟き、こう言葉を続けた。
「Fクラス姫路瑞希、Dクラスの平賀源二君に勝負を挑みます!ーー試獣召喚ッ!」
「へ?」
「ごめんなさい!」
現国
Fクラス
姫路瑞希 370点
VS
Dクラス代表
平賀源ニ 106点→0点
姫路さんが振るう大剣の一太刀で一瞬にして消し飛ぶ俺の召喚獣、こうして俺達の試召戦争は最後の最後であっけなく敗北に終わった。
試召戦争 勝者Fクラス。
◇
【Side吉井明久】
『やったぞぉ!』
『俺達でもやれば出来るんだ!』
『これであのちゃぶ台ともおさらばだぜ!』
姫路さんがDクラス代表の平賀くんを討ち取った事で僕達の勝利が決まり、みんな口々に喜びの声を上げている。
誰もが勝利を目指して戦っていたけど、本当に新学期始まったばかりで格上クラスに勝てるなんて、姫路さんが偶然クラスに居たのもあるだろうけど、本当に雄二の作戦はすごい。
「やったね雄二! 本当に勝てたよ僕達!!」
『流石大将! ナイス作戦だったぜ!』
『最高だ! 一生アンタにつせてくぜ!』
「あぁ、まだまだこれからだが、まずは1勝だ!」
勝利の報告を受けて、Dクラスまでやって来た雄二に僕は喜びを伝える。他のクラスメイトからも賞賛の声が上がっており、流石の雄二も照れるらしく頬をポリポリと掻いていた。
「まさか、Fクラスに姫路さんが居るなんてな」
そんな僕達に、さっきまで負けたショックで放心していた平賀くんが話しかけてくる。
「うちのエースだ、上手く隠せてただろう?」
「あの、すいません。騙し討ちみたいになっちゃって」
「いや、姫路さんが謝る必要は無いよ。Fクラスだからと情報収集を怠った俺達の怠慢が原因さ」
「実際、そっちが俺達をナメてなきゃ勝ち目は薄かっただろうな」
「よく言うよ、姫路さん以外にもあんなとんでもない奴を抱えてるくせに」
そう言った平賀くんが向ける視線の先には、自らの貞操を危険に晒し、見事敵将までの道を切り開いた男、楠木晴楓が敗者のDクラスよりも真っ青な表情でぶっ倒れており、死んだ瞳で虚空を見つめていた。
「あのクズには煮え湯を飲まされたよ。まさかあそこまで覚悟がある奴だとは思っても見なかった」
「晴楓のあの放送に関しては完全に予想外だったが、想像以上の働きをしてくれたよ」
「確かに、今回の戦争のMVPは晴楓かもね」
「あ、あの……その楠木君がとても具合悪そうですけれど、大丈夫なんでしょうか」
「大丈夫だ無視しておけ。自業自得だ」
「日頃の悪行のツケが回って来たんだよ」
「何ならざまあみろって気持ちさえあるな」
姫路さんが晴楓の具合を気にする様子を見せるが、優しい姫路さんとは違って、僕も雄二も当然平賀くんもクズがどうなろうと知った事では無かった。いくら戦争で活躍しても、晴楓の行動は決して絶対に褒められるものでは無いのだから。
「……生き、てる? まだオレイキテル?」
「すごく不安になること言ってますけど!?」
「「「無視でいいよ」」」
こひゅー、こひゅーと息も絶え絶えそう呟く晴楓。たぶん緊張から開放されて疲れが一気に出たのだろう。ずっとテンションが高かったし、最後は無理して戦場を駆け回ってたから、極度のもやしっ子の晴楓ならぶっ倒れても仕方ない。
その上この後、船越先生から逃げなければいけないのだから、彼が明日を純潔を守って迎えれるか、最低でも生きて朝日を拝めるかは僕には分からなかった。
「なんにせよ負けてしまった事に変わりはない。よし、潔くルールに則ってクラスを開け渡そう、今日はもう放課後だし、明日でいいか?」
「もちろん! 明日でいいよね雄二!」
「いや、その必要はない」
気持ちを切り替えてクラスを開け渡そうとする平賀くんの申し出を、雄二はきっぱりと断った。
何を言ってるんだこのゴリラは、ついに頭がボケてしまってボスゴリラからボケゴリラにジョブチェンジしたのか、僕はそう思った。
「おい明久。お前今、ついにボケたかコイツって思ったろ?」
「そんなことないよボケゴリラ」
「やっぱ思ってんじゃねぇか。いいか? 俺達の最終目標はあくまでAクラス、Dクラスは奪う必要がない」
「じゃあなんで最初っからAクラスを攻めないのさ」
「はぁ……少しは自分で考えたらどうだ」
雄二にそう言われて僕は理由を考える。
最初からAクラスを攻めない理由、それは雄二が勝てないと思ってるから、つまり雄二はAクラスにビビってる、イコール雄二はAクラス代表の霧島さんにビビってる。
結論、雄二は女の子にビビってる。
「ふっ、しょうがないなぁ雄二は。いいかい? 女の子は怖いものじゃ無いんだ、ビビって接してちゃいつまで経っても春は来ないよ!」
「どういう思考回路したら、そんな回答が帰ってくるんだお前は。そんな様子だと近所の小学生に『バカのお兄ちゃん』の愛称で呼ばれてるんじゃないか?」
「…………そ、そんな訳無いじゃないかー。人違いダヨー」
僕のその言葉に、さっきまで騒がしかった教室内が一気にシーンと静まり返り、晴楓の不規則な呼吸音だけが聞こえる。みんな僕の方を見て、嘘だろコイツって顔をしていた。
「嘘だろコイツ」
「口に出さないでよ雄二ィ!」
「いったい何をしでかしたら、小学生からそんな不名誉なあだ名で呼ばれるのかのう」
「……明久がバカなのは、町内の共通認識」
「吉井君……あの、どんまいです!」
「やめて姫路さん! そう言う気遣いが一番傷つくんだ!」
姫路の同情の視線がグサリと突き刺さる。違うんだ、小学生皆から言われてる訳じゃ無いんだ、僕の事をバカのお兄ちゃんって呼ぶ子は一人だけなんだよぉ。
「ったく、明久のバカのせいで大幅に逸れたが話を戻そう。つまりFクラスとしては、Dクラスの教室を奪う意思は無いってことだ」
羞恥で打ちひしがれる僕を、まるでゴミを見るような視線で一瞥して話を進める雄二。
「どうせその代わりに何か要求するんだろ? いいさ、俺達は何をすればいい?」
「話が早くて助かる。なに、心配しなくても大したことじゃない。俺が指示したらアレを動かなくして欲しい」
そう言って雄二はDクラスの窓の外に設置してあるエアコンの室外機を指差す。
「多少教師に睨まれるかもしれんが、教室はそのままなんだ、悪くない取引だろ?」
「俺達に拒否権が無いのを分かってて言ってるんだったら、アンタもそうとういい性格してるぜ」
「何、あのクズ野郎には負けるさ」
「それは言えてる。……OK、交渉成立だ」
平賀くんが了承してDクラスとの試召戦争は完全に終わりを迎えた。
教室の交換は無し、戦利品は室外機を壊す約束の取り決めだけ。
「さぁ! 帰るぞお前等!」
『またあの廃屋かよぉ!』
『せっかく勝ったのになぁ』
「どうせ最後にはAクラスの設備が手に入るんだ、今回は諦めろ」
『『『えーー!!』』』
不平不満を呟くクラスを引き連れて、元のボロボロ教室へ戻っていく雄二に、平賀くんは「なぁ坂本、最後に聞いていいか? 」と声をかけた。
「室外機を壊せなんて、なんでこんな事を?」
その問いかけに、雄二は振り返り、まるで野獣の様な獰猛な笑みを浮かべてこう返す。
「なぁに、ただの前準備だよ」
次はBクラスだ。
次の獲物を見据えてそう宣言する雄二。勝利の美酒に酔いしれる暇もないまま、僕達の次の戦いはもう始まっていたのだった。
◇
【Side楠木晴楓】
放課後、試召戦争も終わって夕日が廊下と俺をオレンジ色に照らす。
戦後の疲れからぶっ倒れて居た俺は、Fクラスの連中から置いてかれ、当然Dクラスの教室からも追い出され。現在、廊下で床の冷たさを味わっていた。
「あの、薄情者共がぁ……誰のお陰で勝てたと思ってやがる。ふ、ふざけやがってぇ」
一人寂しくそう恨み言を吐き捨てて、疲れから力が入らない身体に鞭打って、ようやく俺はフラフラと立ち上がる。
目指すは体育館裏、おそらく今だに俺を待ってるであろうケダモノの処理をしない事には、安心して帰ることすら出来ない。いつ襲われるか解らない生活なんてゴメンなのだ。
しかし、悲しい事に全く言う事を効かないこのもやしボディ、立ち上がった姿は産まれたての子鹿の方がまだマシじゃないか? ってくらいぷるぷる震えていた。とうぜん、一歩踏み出そうとすれば膝から崩れ落ちる。
「ぎゃふん」
「なにやってんのよ楠木」
そんなコケた俺の背後から聞こえる女性の呆れた声。
「その声は美波! そっか……俺にとどめを刺しに来たんだな」
「バカなこと言ってないでさっさと立ちなさい。肩かしてあげるから」
そう言って美波は俺を引っ張り上げると、俺の腕を自身の肩に回して起き上がらせた。流石の腕力である。
「まったく感謝してよね」
「……そもそもの原因は美波の命令じゃん。これがマッチポンプか」
「アンタがウチを美春の囮にしたのが悪いんでしょうが」
「そうでしたね、すいません」
「……ううん、ウチも楠木がここまで無茶するとは思って無かったから……ごめんなさい」
そうやってお互いに謝り合った俺達は、放課後で人気のない廊下ゆっくりと歩く。文字列だけ見たらまるで青春ラブコメのワンシーンだが、実際は俺が美波に寄りかかってるため、完全に介護のソレだ。女の子に担がれる男ってどうなのよ、情けなくね?
「いい加減体力つけようかな」
「それ去年も言ってたわよ、ウチに運ばれながら」
「進歩が無いってことかぁ。いや、何時もすまないねぇ」
「別に、ウチが好きでやってる事だから」
「将来は良い介護士になれるよ、美波は」
「誰かさんのせいで慣れちゃったもんね、人を運ぶの」
そんな軽口を言い合い、笑い合う。気心しれた友達とのやり取りは心地よかった。
「不思議な話よね、こうやって楠木と話してるって、一年前の自分に言っても絶対に信じないわよ? だってウチ、最初の頃は楠木の事大嫌いだったもん」
「おい、薄々分ってたけど直接本人にそういう事言うんじゃねぇよ。傷ついちゃうでしょうが」
突然の美波のカミングアウトに軽くショックを受けるものの、嫌われる心当たりしか無いため強く反論は出来ない俺。
「何だっけ、『少し静かにしてください』を間違えて『黙りなさい豚野郎』って言ったんだっけ? あれ今でも謎すぎる間違いだよな」
「そうそう、その間違いで周りの人が凍りついてるのに、後ろの席の楠木だけは大爆笑」
「当然美波は笑われた事に大激怒、周りの奴らも美波が間違えて言った事に気がついて、笑う俺に失礼だってキレてたよなぁ」
「それからウチが日本語を間違う度に笑いながらいちいち指摘してきて、本当にコイツぶっ飛ばしてやろうかって何度思ったか」
「俺マジでクズ野郎だな」
「そうよ、楠木はクズ野郎よ」
出会いの部分を思い出しただけでも仲良くなる要素が微塵も見当たらなくて、もはや笑えてくる。
「けれど、面と向かって間違いを正してくれる人は楠木以外に居なかったわ。みんな影でコソコソ笑うだけ、その人達に比べたらまだマシね」
「いや、紛れもないクズだろ。大丈夫? 思い出美化されてない?」
「それ、自分で言っちゃうんだ」
そう言って呆れたように笑う美波に「当たり前だろ?」と返すと、「確かに」と言ってさらに笑った。
「クズだし空気は読まないしデリカシーも無いし、あと変な気は回すしクズだし以外にカッコつけだし、一度した約束だけは守るけどやっぱりクズだし、日本にはこんな最低な人が居るのかって、本気でだいっきらいだったんだけどなぁ」
「おい、今は俺の罵倒大会じゃねぇんだよ。マジで泣くぞ? 見たいか? ほぼ成人男性の号泣シーン」
つらつらと俺の悪口を吐き続ける美波に、たまらずツッコミを入れる。悪戯っ子の様な笑みを浮かべて、そんな俺の反応を楽しんだ美波は「けどね」と言葉を続けた。
「けど、今は楠木の事、結構嫌いじゃ無いわ」
「今も変わらずクズだけどね」そう言ってそっぽを向いた美波。耳まで赤く染まっているのは夕日のせいだけでは無いだろう、肩を借りて顔が近い状態だからよく分かった。
照れるくらいならそんなこっぱずかしいセリフを言わないで欲しい、こっちまで照れ臭くなってしまうから、いやマジで切実に!
何だこの空気は! 美波お前ぇ! 不意打ちにツンデレしてんじゃねぇよ! せっかく介護って割り切ってたこの状況が意識しすぎて滅茶苦茶恥ずかしく何だろうが! 顔真っ赤にして無理してんじゃねぇよ!
流れる沈黙、むず痒い空気。
そんならしく無い状況に耐えきれ無かった俺は、無理やり話を逸らす事で空気の入れ替えを図ることにした。
「えーっと、そ、そうだ。妹は元気か?」
「ふぇ!? う、うん。そうね元気よ」
「そか……」
「……」
「……」
「そ、そういえば!」
「お、おう! どうした!」
「は、葉月がまた楠木に会いたいって言ってたんだけど」
「へ、へぇー。なら今度美波も一緒にどっか遊びに出かける……か」
まてよ、それってデートなんじゃ?
完全に色ボケモードに入ってしまった脳みそがそんな余計な事に気がついた。その瞬間、顔が茹で上がったみたいに熱くなる。
おそらく美波も気が付いたのだろう、顔がさっきより真っ赤だ。
「……そ、そそれってデートなんじゃ?」
そしてあろう事か口に出しやがった。ちくしょう! 美波やつ羞恥で頭がショートしてまともな判断ができてねぇんじゃねぇのか!? これ以上恥ずかしい雰囲気にすんじゃねぇよ! いたたまれなくなんだろうが!
「葉月もいるだろーが! 保護者として行くんだよ! 三人で」
「……は! それって傍から見たら子連れのふう「言わせねぇよ!!?」
これ以上続けて自爆テロを起こさせてなるものかと、恐ろしい事に気がついた美波の言葉をすんでのところで遮る。
もうお互いに真っ赤っか、これ以上恥ずかし思いをするのはマジで避けたかった。
「落ち着け美波、マジで落ち着け。このままだとお互い小さくない黒歴史を背負うことになるぞ」
「そ、そうよね。ちょっと暴走したわ。そうよ、ただ普通に友達と妹と遊びに行くだけだもん」
「そうのとおり、ただ遊びに行くだけだ」
「遊んで、ご飯を一緒に食べて、一緒に休日を過ごすだけだもんね!」
「そうだ! 一緒に遊んで、一緒にご飯食べて、一緒に休日を過ごすだけだ!」
「…………」
「…………」
「「やっぱりそれってデートじゃねぇか(ない)!!」」
声を揃えてそうツッコむ俺達。ようやく落ち着いたと思ったのに、冷静になればなるほどに誤魔化しが利かなくなって自爆してしまう。完全に悪循環だ。
「よし! この話はひとまず保留としよう! 具体的には試召戦争が終わるまで!」
「そうね! そうしましょう!」
結局、熱に当てられてまともに働かない脳で俺達が導き出した解決方法は問題の先送りだった。
明久達に知られたらヘタレ野郎って言われる事間違いない……いや、その前に嫉妬で殺されるか? 絶対にこの話が外に漏れないようにしよう、うん。
そんな事を現実逃避していると、気持ちを切り替えた美波がとっても深いため息を吐いた。つられて俺も一緒にため息。
「はぁ、何だかとっても疲れたわ」
「奇遇だな俺もだ、柄じゃない事はするもんじゃ無いって事だな。それじゃあ、この話はこれで一旦終わりって事で、これ以上続けるなら俺はこの場からダッシュで逃げるからな?」
「どうせ数メートルでコケるじゃない」
「はっ! 這ってでも逃げてやるわ! はい、こっぱずかしい話は終了!! 俺はコレからケダモノの相手をしなきゃいかんのじゃ。美波よ、はよ体育館裏まで運んでたもう」
「はいはい、分かったわよ」
「うむ、善きに計らえ」
「そうだ、一応近くで待機しておきましょうか? 今無理やり迫られたら逃げれないでしょ?」
「それはマジでお願いします切実に」
いつも通りの軽口に、いつもとは少し違う胸の高鳴りを感じながら俺達は再び歩き出した。
そして最後に未来の俺よ……多分コレは俺から誘わなきゃいかんやつやぞ。そして絶対に今より恥ずい奴だぞコレ。頑張れ未来の俺。
◇
「あ、どもっすケダ……船越先生」
「あ、そっすね大事な話っすよね」
「実は先生の事がとっても好きなんです! 俺の友達が!」
「はい。吉井明久、2年Fクラスの吉井明久って言うんですけど。いっつも先生の事を素敵な人だ、結婚したいって話してて」
「だけど、生徒と教師だから諦めるって!」
「俺! 俺ッ! そんなアイツのそんな姿が見てらんなくて!!」
「先生にこんな事言って困らせるのは分かってます! だけど俺、アイツの親友だから!! 」
「先生……アイツを受け入れてくれんですか!?」
「ありがとうございます!! これで親友も、2年Fクラスの吉井明久も救われます!!」
スキップしながら去っていく見るに耐えないケダモノを見送り、後ろでいつでも俺を救い出せるようにスタンバイしていた美波に俺は話しかける。
「ふぅ、これで良いだろう。どうだった? 俺の名演技は」
「……アンタ本当にクズよね」
「はっ! 今更だろ?」
今回の試召戦争で一番頑張った俺があんなケダモノに貞操を奪われるなんて割りに合わない。
それなら一番貢献度が低かった、クラスで一番のバカに身代わりになってもらうのは当然だろ?
「俺を廊下に放置し、ぞんざいに扱った天罰じゃああ!! 明日を楽しみにしてるんだなぁ! 明久ァ!!」
悪魔のような俺の笑い声と呆れた美波のため息が、生徒が居なくなった校内に響いた。
今後は週1投稿となります。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。