【Side吉井明久】
その日はとっても清々しい朝だった。奮発して朝食にパン粉を食べて、昨日みたいに遅刻しないように家を出る。登校の途中で通りかかるクズの住むアパートは当然スルーした。
確か今日のお昼は姫路さんがお弁当を作って持ってきてくれるって約束だったから、起きた時から本当に楽しみだったのを覚えている。
「昨日はDクラスには勝てちゃうし、今日も何か良いことがあるかもなぁ!」
そんな淡い期待を胸に校門を通り抜ける僕、それが地獄の入り口だと知らずに。
「会いたかったわ! 吉井くん!」
僕が教室へ向かっていると、不意に背後から僕を呼ぶ女の人の声が聞こえた。僕に会いたかったって、まさかモテ期か!? さっそく良いことが起きようとしてるよぉ! 何処かの誰かと違って日頃が良いからだよね!
そう思った僕は調子に乗って「僕も会いたかったよハニー」なんて言いながら振り返る。
なぜ僕は振り返ってしまったんだろう、声をかけられた瞬間に走って逃げなかったのだろう、ここまで過去の自分をぶん殴りたいと思ったことは
今までに無い。
だってその瞬間まで、その日は本当に清々しい朝だったんだ。
振り返ってしまった僕の目に写ったのは、やけに厚化粧して色気づいてる、まるで野獣のような姿の船越先生が、身を気持ち悪くクネクネさせながら立っているところだった。
「まぁ! ハニーだなんて明久きゅんは、おませさんね!」
「ぎゃああああああああ!!!!」
◇
【Side楠木晴楓】
今日はとても穏やかな午前中だった。だってバカが一人教室に居ないから。
「うーん、平穏こそがジャスティス」
「そーいや今日は明久が居ねぇな。晴楓、何か知ってるか?」
昼休み、その事に気がついた雄二が俺にそう尋ねてくる。当然俺は知らぬ存ぜぬを貫く。
「いや、知らんわ。どっかで拾い食いでもして腹壊したんじゃね?」
「……ありえる」
「下駄箱に靴はあったし、学校には来とるみたいじゃぞ?」
「ちっ、今からBクラス戦に向けての作戦会議をしようってのに、何処に行きやがったアイツは?」
「バカの行動なんて読めないだろ、そんな事より飯食いに行こーぜ。もう昼休みだ」
そう言って俺達は昨日のように屋上へと向かう、今日は確か美波が弁当作って来てくれる約束だったな、楽しみだ。心なしか軽くなる足取り、今日は本当に気分が良い、一人だったら鼻歌でも歌ってしまうかもしれない。
しかしそんな俺の気分を害するかのように、廊下からドタドタと喧しい足音が聞こえてくる。
「見つけたぞォ!! この腐れド屑野郎ォ!!」
バーンッと音立てて開かれた扉から現れたのは鬼の形相でブチ切れている明久、汗だくの上に所々擦りむいていてボロボロで、まるで何か恐ろしい存在から逃げ切って来た後みたいだった。
あの様子だと、どうやら真実にたどり着いたらしい。
「おはよう明久、いや、もうこんにちはの時間か? ともかくどうだったよ? 親友からの粋な心遣いは?」
「やっぱり貴様が原因かぁ!!」
「何をそんなに怒ってるんだ? 俺は親切心で彼女が欲しいって言うお前の願いを叶えてやっただけなのに」
「彼女どころか食い荒らされて人生の墓場にダンクシュートされるところだったよ!!」
「それの何が不満なわけ? お似合いだと思うぞ? ほぼ30歳年の差夫婦。あ、式には読んでくれ、絶対に断って行かないから」
「クズが本気で死ねぇ!!」
ブンッ! と明久の全力右ストレートが俺の顔面目がけて飛んでくる。甘いな、美波の暴力に日々晒されている俺にそんなに大ぶりの拳が当たるわけ無いだろう?
身体を捻って華麗に回避する俺。
追撃を狙う明久。
再び回避しようとする俺。
俺を羽交い締めにして抑えるムッツリーニ……ムッツリーニィ!!?
「何してやがる離せムッツリーニ! 俺を止めるんじゃなくてあの暴れてるバカを止めろよ!!」
「……異端者には死の鉄槌を」
「異端者ァ!? 俺が何をしたってんだよ!?」
「……とぼけるなっ! 貴様は昨日の放課後、島田とイチャついてた!!」
この変態何故その事を……まさかっ!?
「盗聴してやがったなムッツリーニィ!!」
「……ナメるな! 盗聴だけじゃない、証拠写真も入手済み」
「誇んな!!」
ちくしょう! この変態が校内の至る所に隠しカメラを設置している事を失念していた! 提示された証拠写真には、腹立つほどに高画質で写ってる俺に肩を貸す美波(二人とも顔が真っ赤)、こんなものを出されたら言い逃れは不可能。
そして、俺はこんな話をこの教室でされるとどうなるかも失念していた。
『今こそ立ち上がれFFF団よ! 楠木晴楓、クズの分際で調子に乗った裏切り者には死をォ!!』
『『『リア充死すべき殺すべき!!』』』
Fクラスの男子で構成される、他人の幸せを絶対に許さない悲しき集団が、各々凶器を持って立ち上がる。サラッと明久もその集団の中に紛れ込んでいた。
「待てよ! あれはただの介護だ!」
『『『問答無用死刑!』』』
「お前らが思ってるような事は1ミクロンとも起きなかった!! 本当だ!!」
『『『問答無用死刑!!』』』
「そもそもお前らが俺を置いてったのが悪いんだろ!?」
『『『問答無用死刑ィイ!!』』』
駄目だ話が全然通じない、今のアイツらは普段のバカ共ではなく、目の前の敵をぶっ殺す事しか考えられないただの殺戮マシーンだ。
にじりよるFFF団達、逃げようと身をよじるが、運動神経の塊であるムッツリーニから運動神経皆無の俺が逃げれるわけもなく、ガッチリ抑え込まれてまったく動けない。
『これより異端審問会を始める。判決、罪人を紐無しバンジージャンプの刑に処す』
「異議あり!!」
『却下する』
『『『異議なし!』』』
「ふざけんな! 何でもありかテメェ等!!」
『安心しろ、高いところは怖いだろうから目隠しして突き落としてやる』
「余計怖いわ!」
「ちょっと! アンタ達そのへんで止めなさいよ!」
まさに絶体絶命そんな時、今にも刑罰を執行しようとするバカ共を止めようとする声が上がる。頼りになる美波さんだ。
「み、美波ィ! 助けてくれぇ!」
『止めるな島田、このクズは異端審問会の血の盟約に背き、一人だけ女の子とイチャついた、これは我々の正当なる権利なのだ』
「べ、別にイチャついてなんてないわよ!!」
『……本当か?』
「嘘だ! こんなに密着してイチャついてない訳がないよ! そもそも密着してること自体が僕には許せない!」
「……きちんと盗聴も確認した、殺意を覚えるほどにイチャついてた」
『……だ、そうだが?』
一瞬だけ形勢が傾きかけたが、バカとムッツリの最悪コンビの証言せいで振り出しに戻る。
駄目だ、証拠が残り過ぎている。これでは有罪確定死刑待ったなしだ。なんとかして逆転の芽を探すため、俺も悪あがきをして見せた。
「そ、そもそも! 俺と美波がイチャついてたとして! それの何が悪い!!」
『開き成りやがったぞこのクズ!』
「ちがう! だいたいお前等は本当に羨ましいのか!? 美波だぞ!? 文月学園、彼女にしたくない女子ランキング堂々の一位の美波だぞ!?」
『『『……確かに』』』
「楠木? 死にたいのかしら?」
「ひいっ! すいませんほんっとすいません、今はこいつ等から開放されるために許してください、後でお礼はさせてもらいますから!」
「……まぁ、それなら」
そう美波に謝り倒して許可を貰い、さらに俺の悪あがきは続く。
「しかも忘れたのか! 日頃から俺に奮われる暴力の数々を! そんな美波と密着してる? トキメキより先に恐怖が勝つのが普通だろうが!!」
『しかし! 島田は腐っても女だ!』
『そもそもこの体勢だと島田のおっぱいも当たってるだろっ!! このクズめ!!』
「美波がそんなに胸あるわけねぇだろ! ふざけんな!」
「やっぱそこで死になさい楠木!!」
「しまった! 誘導尋問か!!」
『『『今のは貴様の自業自得だ』』』
最後の味方であった美波からも見放され、いよいよ俺の処刑が現実味を帯びてきた。
『それじゃあ島田の許しも出た所で、とっとと死刑!』
「待て! マジで止めろって!!」
『待たん! 見苦しいぞ、たまには潔く死んだらどうだ』
俺の懇願をあっさり切り捨てて、異端審問会共は俺を縛りあげようと縄を持って近づいてくる。
ちくしょうちくしょう! 何かないのか! アイツ等を止める策は!
フル回転する頭、人間自分の死が間近に迫ると走馬灯を見るってのは本当らしい、フラッシュバックする過去の出来事、そして思い出す。
「……ふっ」
呆れてつい笑みが溢れる、どうやら俺の脳は最期の瞬間が近づいても、他人を蹴落とす為にフル回転するみたいだ。
「そう言えば!! 明久は今日姫路さんからお弁当作って貰ったんだってぇ!?」
『『『なにぃ!!?』』』
「何バラしてるのさ、このクズ野郎! 大人しく一人で死ねぇ!!」
「もう遅いわ! ふはははは! 俺は一人では死なんぞ! 助かりたければ俺も助けろ、俺が死ぬなら貴様も道連れじゃあ明久!!」
美波に見捨てられて味方がいないなら、敵を引きずり下ろして味方を作ればいいじゃない。共通の敵と目的さえあれば、さっきまでの敵は今の戦友なのだから。
「あ、ちなみに情報提供の報酬で恩赦なんて貰えたりすんの?」
『無論ない』
「了解だ。よし明久二人でこの危機的状況を打破するぞ!」
「何さらっと一人だけ助かろうとしてやがる! このクズめ!」
「言ってる場合か! ほら何か考えろじゃなきゃ二人で死ぬぞ」
「生きて帰れたら絶対にぶん殴ってやるから本当に覚えてろよ!」
俺の隣に縛られて放り出された明久がそう吠える。安心しろ明久、お前の協力が得られた時点で、この勝負は勝っている。逆転の鍵はお前が持ってるのだから!
『コントは終わったか? そろそろ刑を執行したいのだが』
「まぁ待てよ、俺達を殺すのは賢い選択じゃないぜ」
『戯言を、もはや貴様に反論の余地は何処にもない。バカが一人増えただけで何になる』
嘲笑うかのようにそう言う異端審問会のリーダー須川に、俺は逆転の一撃をお見舞いしてやる為に、口を開いた。
「このバカと俺なら、お前らに女の子を紹介出来るとしても同じ事を言えるか?」
『……ほう、続けたまえ』
食いついた! あとはゆっくりと俺達の開放へと誘導してやれば言いだけだ。
「ちょっと! そんな嘘ついたらもっと酷い目に会うよ!」
「大丈夫だ、お前も知ってるだろ一人、絶対にフリーで誰でも付き合えそうな女を」
「知らないよ! 誰だよ!」
「……船「オーケー分かった、その路線でいこう君は天才だ」……だろ?」
瞬時に理解して結託する明久。こういう時のコイツは謎に理解力があるのだ。
つまり、現在明久に粘着している船越先生を、こいつ等に擦り付けてやるって作戦だ。明久経由でおびき寄せ、俺が口八町で話を持っていけばスムーズに事は進むだろう。
なに、嘘はついていない。ただ、船越先生を女の子と読んでいいのかだけはすっげぇ疑問だけど、あの人は精神年齢幼いから女の子と表現しても良いだろう。これが表現の自由である。
「お前等の電話番号を、とある女の子におしえてやってもいい、上手くいけば付き合える筈だ」
電話で繋がるなら当分バレないし、バレたときには手遅れ、多分そのまま結婚までさせられる筈だ。
『そ、その女子はどんな子なのか!?』
「ちょっとお茶目だけど、大人な年上の雰囲気の人だよ!」
そのとおり、お茶目すぎて生徒に手を出そうとする駄目な大人だ。
『くっ! 年上女子か……魅力的だ』
「ちなみに本人は恋愛に積極的だ、今までいい出逢いが無かったと悩んでいた」
45年も出逢いが無いのは完全に地雷女だけどな。
「「さぁ! どうする!?」」
『……楠木と吉井は以前変わらず我々の同志である! 異論はあるか!』
『『『ありません!』』』
『よろしい! これにて異端審問会を終了する!』
「「しゃあ生き残ったぁ!!!!」」
無罪放免を勝ち取った俺達は、互いに喜びを叫んでハイタッチしあう。
「良かったなぁ! 明久!」
「良かったよ晴楓!!」
((アイツ等が騙されやすくて本当に良かった!!))
こうして、ケダモノに捧げる沢山の生贄の出荷が決まった。
◇
【Side吉井明久】
バカなクラスメイト達を騙してから、僕達はようやくお昼を食べるために屋上まで来ていた。
ちなみに唯一騙されなかったムッツリーニは晴楓からエロ本で買収されていた。チョロかった。
「ふぅ、ようやく落ち着いて飯が食える」
「そうだね、僕も今日は疲れたよ」
「いつもいつも馬鹿騒ぎしてよく飽きないなお前ら、いやバカだから馬鹿騒ぎに参加するのか?」
「俺が好き好んであの騒ぎに参加してると思ってんなら、マジで獣医に行ったほうがいいぞ。脳みそ見てもらえクソゴリラ」
上から目線で物を言う雄二の態度にムカついたのか、晴楓が過剰に雄二を煽る。
当然雄二が晴楓に掴みかかり、取っ組み合いになる二人。
「なるほど、その無駄に達者な口が災いのもとらしいなぁ? 晴楓」
「はっ! 偉そうにスカしてんじゃねぇぞ雄二、貴様もいつか俺達と同じようにあの連中から目を付けられる事になるだろうからよぉ!」
「俺はお前と違ってスキを見せるほど甘ちゃんじゃねぇんだよ!」
「俺の慈悲の心で生かしてもらってるだけのクソゴリラが吠えるねぇ! お前の弱みなんてとっくの昔に握ってんだよこちとらよぉ!」
「ほぉ? 何だそれは聞かせて貰いたいぜ!」
「K島、幼馴染、熱烈アプロー「俺が悪かった晴楓、さっきは大変だったなあのバカ共に絡まれて」……分かればいいんだよ雄二」
晴楓が謎の単語を告げると、一転して態度を軟化させた雄二。あのプライドの高い雄二が素直に頭を下げるなんて、いったいどんな恐ろしい弱みを握ってるのだろうあのクズは……と、僕が疑問に思っていると、隣からかわいい袋に入った弁当箱を持っている、かわいい姫路さんが声をかけてきた。
「あの、吉井君! これ、約束のお弁当です」
「本当!? わーい、楽しみだったんだよね!」
「そんなに喜んでくれるなんて、嬉しいです」
そう言って笑顔で弁当を僕に渡してくる姫路さん。妖怪独身女に追いかけ回された上に、さっきまで嫉妬に駆られる青春の墓場みたいな醜い集団に囲まれてたからだろうか。その弁当を受けとった僕は、言葉じゃ言い表せ無いほどの幸福を感じていた。
「そうだ弁当、美波俺の弁当は?」
「はいどうぞ、ちゃんと作って来てるわよ」
「おぉ! サンキュー。美波の飯は美味いからなぁ」
「べ、別に普通よ!」
幸福を噛みしめる僕の隣で行われる、晴楓と島田さんのやり取り。
頬を染めて照れてる島田さんはとても可愛らしく、僕が姫路さんに弁当を貰ってなかったら喜ぶ晴楓を嫉妬で殺してたかもしれない。現にエロ本で買収されたから大人しくしてるけれど、ムッツリーニが晴楓の事を親の敵の様に睨んでいた。晴楓め、命拾いしたな。
「あ、飲み物がねぇや」
それじゃあ食べようかって事で皆が輪になって集まろうとしていると、先に座って島田さんから受け取った弁当をウッキウキで開封しようとしていた晴楓がそう呟いた。
「それならウチも欲しかったから買ってくるわよ? 先に食べてたら?」
「いや、俺も行く。飲み物くらいは奢らせてくれ」
「あ! それなら私も一緒にいいですか? 私も飲み物持ってくるの忘れちゃって」
「もちろん! 一緒に行こう瑞希」
そう言って三人は先に食べててと言い残して、一旦校舎に戻って行った。
昼休みも時間に限りがあるし、ここはお言葉に甘えて先に頂いておこう。僕はいただきますと両手を合わせ、姫路さんの弁当を開ける。
きれいに敷き詰められた色とりどりのおかず、タコさんウインナーに、ハート型に盛り付けられた卵焼き、うさぎにカットされたリンゴ。手間暇惜しまないその一品一品に、姫路さんの思いやりを感じる。
「お、美味そうだな。一つ貰うぞ」
「ちょっと雄二! 何すんだよ!」
その素晴らしい弁当に感動して、僕が何処から食べようか悩んでると、隣からスッと雄二の手が伸びて、静止の声を無視してミートボールをかっさらって行った。
「いいじゃねぇか一つくらい、ケチケチすんなよ明……カハッ!!!?」
そしてそのミートボールを食べ、咀嚼して、飲み込んだ瞬間、ぶっ倒れる雄二。
一瞬にして、屋上に緊張感が走る。
「大丈夫か! しっかりするのじゃ雄二!」
「……あ、明久コノヤロウ。ど、毒を盛りやがったな」
「盛ってないよ!」
「……つまり、その弁当が毒」
「まさか! こんなに美味しそうなのに!?」
どうせ雄二が大袈裟なリアクションをしてるだけだ、姫路さんの弁当が毒だなんて!
信じられ無かった僕は、弁当の匂いを嗅いでみる。
スゥ……………………………………ハッ!!
「危ない危ない、思わず魂が持ってかれるところだったよ」
「匂いだけで死にかけるとは、凄まじい威力じゃ」
「……恐ろしい」
「何かの間違いだよ! あの姫路さんが料理ベタなんて!」
「現実を見るのじゃ明久! 現に雄二は倒れておる!」
「……料理ベタの範疇を超えてる」
本当に信じたくは無かったけど、さっき匂いを嗅いで、自ら臨死体験をしたばかりの僕は、この残酷すぎる現実を信じるしか無かった。
そして、さらに信じたくない現実に気がつく。
「この弁当……どうしよう」
手に持った毒物と判明した弁当を見ながら、僕はそう呟いた。どうにかして欲しいと思って、秀吉とムッツリーニに視線を向けるとサッと視線を反らされる。
「そ、それは姫路が明久の為に作ったものじゃろう? 食べるのは悪いのじゃ」
「……(コクコクコクコクコク)」
「そんな事無いよ、二人も一緒に食べようよ!」
「「まだ死にたくない(のじゃ)」」
「ちくしょうだと思ったよ!」
駄目だコイツ等全然頼りにならない! だけどそれならこの危険物をどうやって処理しよう、捨てるのは駄目だ姫路さんが悲しむし嫌われる! それなら食べるか!? これも駄目だシンプルに死ぬ!
張り巡らせる僕の思考、しかし全然いい解決策が思いつかない。どうあがいても死ぬ未来しか予測できない。
「……仕方ない、雄二に詰め込むか」
「雄二を殺す気か明久!」
「秀吉、仕方ないんだ……コレは必要な犠牲なんだよ!」
「………………フ……ザケ」
「ふざけてないよ僕は本気だ!!」
本気で僕が生き残るために必死なだけだ。
このままじゃ埒が明かないため、止めようとしてくる秀吉とムッツリーニを押しのけようと僕がした時に、屋上の扉から開かれて生贄が帰ってくる。
「たでーまー、美波達なんか先生に呼び止められてて遅くなるっぽいわ……ってなんで雄二倒れてんの?」
「寝てるだけだよ」
「…………ふーん、まぁゴリラの事なんてどうでも良いけど」
誤魔化す僕の言葉に、興味なさそうにそう返した晴楓は倒れる雄二の近くに座り、手に持った島田さんの弁当箱を開ける。
そのお弁当は、姫路さんの様な華やかさはないけれどとても美味しそうで、ハンバーグやエビフライにシュウマイと晴楓の好物ばかりが詰められており、ひと目で晴楓の為を思って作られたものだと分かった。
当然、そんな安全で美味しそうな物を一人で食べるなんて許せないよね。
僕は怪しくないように笑顔で晴楓に話しかけた。
「ねぇ晴楓、よければだけど姫路さんのお弁当も食べない? とっても美味しいよ?」
「美波のあるからいらん、お前が食え」
「まぁまぁ遠慮しないで食べなって」
「…………まぁ、そこまで言うなら少し貰おうかな」
そう言って姫路さんの弁当から唐揚げを取って口に放り込んだ晴楓。
しめたとほくそ笑む僕、倒れたら残りの弁当を詰め込んでやると晴楓の様子を観察。
しかし、一向に倒れる様子が見えない。僕はしびれを切らして晴楓に話しかけた。
「ど、どうかな?」
「……普通にうまいな、流石姫路」
「嘘ぉ!?」
「嘘って、お前が美味いって言ったんだろうが」
そう言ってモグモグと唐揚げを咀嚼している晴楓は全然普通に食べてる。
つまり姫路さんの料理は毒なんかじゃ無いんだ! 雄二が大袈裟なだけなんだ!
「助かったぁ!!」
「…………なんだか知らんがお前も食えよ、時間ないぞ?」
「うん! いただきます!」
そう言われて僕も姫路の弁当をいただく。卵焼きを咀嚼して飲み込むと口いっぱいに広がる生臭い香りと辛味と苦味のハーモニー……生焼けで最悪の口当たり、ほのかに感じるピリリとした酸味がアクセントになって僕の口内を破壊した。
「ムグァ!!」
姫路さんのお弁当は、紛れもない毒だった。
薄れゆく視界の中、きれいなままの唐揚げをティッシュにペッと吐き出す晴楓の姿が見え、僕はまんまとクズに騙された事を自覚した。
◇
「まっっっず、何これ唐揚げ? なんで酸っぱいの? なんか舌ピリピリするし、噛んだり飲み込んだら絶対に駄目なやつだろコレ」
「相変わらず策士じゃのう晴楓よ」
「いや、あのバカが分かりやす過ぎるだけだろ。予想以上に不味かったけど」
そう秀吉に返事して、俺は買ってきた飲み物で口を濯ぎまくる。そして、俺を愚かにも騙そうと図ったバカの口に毒を詰め込み無理やり飲み込ませた。
「死ね、バカめ」
「……容赦がない」
「はっ! 美波の弁当食ってるの邪魔したこのゴミグズバカが悪い。撃っていいのは撃たれる覚悟があるやつだけ、毒を盛っていいのは毒を盛返される覚悟があるやつだけだわダボが」
「正論じゃが、何時にもまして口が悪いのぉ」
コイツやべぇ見たいな視線を向けてくる二人を無視して、俺は口直しで美波の弁当を食べる。
美味い、さっきの毒とは大違い。ハンバーグはしっかり中まで火は通っているものの固くなく、味も濃厚なデミグラスがご飯を進ませる。エビフライもぷりぷりで美味いし、シュウマイも肉汁がジューシーで満足感がすげぇ。美波の弁当マジでうめぇ。
「弁当を食べ始めて、みるみる機嫌が直っておるの」
「……チョロい」
「チョロくねぇわ、美波の弁当ナメんなよガチで美味いから。絶対にやらねぇけど」
「流石に人様の物を勝手に取ったりはせん、バチが当たってしまうのじゃ」
「……末路は雄二が実演した」
「そりゃ自業自得だよな。……おい卑しゴリラ起きろ、Bクラス戦の作戦知ってんのお前だけなんだからせめて伝えてから逝け」
そう言って俺はパチパチと隣で死んでいる雄二の頬を叩く。
「はっ! 俺はいったい何を……」
「起きたか雄二、ちゃんと記憶はあるか?」
「記憶……確か俺はさっきまで確かさっきまで川を渡ってたはずだ」
「……十中八九三途の川」
「それと、渡ってたら後ろから明久がやって来たところまで覚えてるんだが……」
「三途の川って他人と合流できんの? え? てかアイツも今三途の川渡ってんの?」
「この様子だと明久は渡りきるかも知れんのう」
「……これは事故、俺達は何も知らないやってない」
「そだな、触らぬバカに祟りはねぇんだ」
白目を向いてピクピクと痙攣している明久。今すぐ介抱しなければ川渡達成するかも知れないらしいが、俺達三人はスルーすることにした。
下手に手を貸せば次からあの毒物の処理を擦り付けられると察したからだ。イケてる釜炊きのジジイも言ってた手ぇ出したら終いまでやれと、なら最初から手を出さなければ良いじゃない。
そんな事より雄二に今後の作戦を聞く事が先だった。
「それで雄二よ、復活したばかりで悪いのじゃが、そろそろ作戦の方を教えてくれぬかのう?」
秀吉が口直しのお茶を裕二に渡しながらそう問いかける。
「ゴクッ……あぁそうだな。正直なところこの弁当を根本に渡せば勝てると思うんだが」
「「「激しく同意(じゃ)」」」
「流石にそれは最終手段だ、リスクが大きすぎる」
「だな、クズ一人を殺すのはともかく、これからAクラスとも試召戦争をやろうってのに教師から睨まれるのは避けるべきだよな」
「……それなどうする?」
「昨日の戦争はすでに他のクラスにも伝わっておろう、姫路による奇襲は二度も通じぬじゃろうなぁ」
「あぁ、だから今回のキーマンは姫路じゃねぇ」
そう言って雄二は俺を指差してこう言った。
「Bクラス戦はカンニング大魔王と噂のクズノ木晴楓の出番。根本と晴楓、どっちか本物のクズか勝負と行こうじゃないか」
「お前いい加減にしとけよマジで、姫路の弁当食わすぞ」
ここまで読んでくださった皆様、お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます