「鉄人先生、ここの問題ちょっとわかんないんですけど」
「やだなぁ、何も企んでないっすよ」
「へー、なるほどなるほど。あとこの問題と……あとここも教えて貰っていいっすか?」
「いや、別に勉強に興味持ち出したとかじゃないんすけど……あ、これ先生に言うことじゃ無かったか」
「まぁ、あれっすよ。次のテスト対策でもしとこーかなぁって」
◇
【Side吉井明久】
屋上でお昼ごはんを食べていたはずが、気がつけば放課後の教室。秀吉から起こされた僕は、未だにキリキリ痛む胃を抑えながら起き上る。
「大丈夫かの明久よ」
「うん、少し死んだお爺さんと話してきただけだから大丈夫だよ」
「臨死体験は一般的に大丈夫に入らぬと思うのじゃが」
「あの毒全部食って生きてるなら御の字だろ」
「このいけしゃあしゃあと! お昼はよくも騙したなこのクズめ!」
「先に騙そうとしたのはお前じゃん」
「僕は過程より結果が重要だと思う! だから未遂の僕より晴楓の方が悪い!」
「どっちもどっちじゃがひとまず落ち着くのじゃ明久よ」
秀吉が呆れながら文句を叫ぶ僕をなだめるけれど、僕の怒りは収まらない。人の事を顔色一つ変えずに騙す卑劣な野郎はぶん殴ってやらないと気がすまない。
僕が肩を怒らせて晴楓を睨みつけていると、以外にも晴楓は一つため息をついてすまんと誤ってきた。
「俺もやりすぎた……すまんかったな明久」
「え? ま、まぁ確かに先に騙そうとしたのは僕だし、僕もごめん」
本当に珍しく素直に頭を下げる晴楓。その様子に毒気を抜かれた僕も釣られて謝罪する。
あの晴楓の事だから、どうせ開き直って煽ってくる筈とばかり思ってたけれど。どうやら人は成長するらしい、そうやって偏見で決めつけたら駄目だよねと心の中で反省した。
「詫びといっちゃあれだが、お前が倒れたあとのフォローはちゃんとしておいたから」
「フォロー?」
「あぁ、倒れたお前を不審に思ってた姫路には、ちゃんと説明しておいたから。美味しい美味しい言いながら弁当を食べたあと、お腹いっぱいで眠ったって」
「そっか、姫路さんは何て言ってた?」
「めっちゃ喜んでたよ。よほど美味しいって完食されたのが嬉しかったんだろう、後で直接感想でも言ってやれ」
「そうだね、そうするよ」
「良かったじゃないか明久、あの喜び様だとまたお弁当作って来てくれると思うぞ? 女子からの手作り弁当だ、嬉しいだろ? 俺からも姫路に明久が毎日でも食べたいって言っておいたから」
「うん、本当にうれ……オイ貴様なんて事をしてくれたんだ」
このクソ野郎フォローって名目で僕の退路を絶って来やがった。その邪悪な目論見に気がついた僕の目の前には、僕の不幸を喜ぶクズの笑顔。少し見直したばかりでコレだ、本気で殺意しかわかない。
「あ! 吉井君、起きたんですね」
晴楓をどうやって殺してやろうか考えていたら、僕が起きた事に気がついた姫路さんに声をかけられる。
「あっあの、楠木君が吉井君がすっごくお弁当喜んでたって教えてくれたんですけど、その、本当に美味しかったですか?」
「う、うん! 美味しかったよありがとう姫路さん!」
「本当ですか!? 嬉しいです! あの、よかったらまた偶にお弁当作ってきてもいいですか?」
何故だろう、今にもぴょんぴょんと跳ねそうなほど喜ぶ姫路さんの笑顔はとっても可愛いのに、僕には彼女の笑顔が恐ろしく感じるよ。
そんな嬉しそうな笑顔を向けられて断れる訳が無いじゃないか。
「も……もっちろんだよ姫路さん! すっごく嬉しいよ。でも大変だろうから偶に、ほんっっとうに偶にで良いからね?」
「はい! 次も気合入れて作ってきますね!」
「わ、ワーイウレシイナー」
「ファイトだ明久、愛はどんな毒も凌ぐって事を俺に証明してくれ」
「僕が死ぬときは絶対に貴様も道連れだからな!」
姫路さんの手前表立ってコイツを消す事は出来ないけれど、いつか必ず報いを受けさせてやると固く心に僕は誓う。
ちょうどその時、教室の扉から開いて何やら分厚い封筒を持った雄二が教室に入ってきた。
雄二はそのまま自分の席には戻らず教卓の前には立ち、バンッと封筒を置いてクラス全員の注目を集めて話し出す。
「全員注目してくれ! Bクラスとの試召戦争について話がある!」
その言葉に今まで各々自由にだらけていたクラスメイト達は皆、気を引き締める。
僕も一旦クズの事は忘れることにして、雄二の話に集中するのだった。
◇
「まずは皆、これを見てくれ!」
そう言って雄二は、封筒から取り出したプリントを配布する。
僕の所にも回ってきたそのプリントには、英語の問題とその答えがズラッと記入されていた。
「単刀直入に言う! コレは次のテストの答えだ!」
『『『なにぃ!!!』』』
何だコレは? そう思うクラスメイトの疑問に答えるかの様に、雄二はそんなとんでもない事を言い放った。
『ありえない! この学校のテストの問題は厳重に管理されてるはずだ!』
『あのバカでかい金庫だろ!? 昔俺も開けようと思ったけれど無理だったぞ!?』
「ついに犯罪に手を染めたのか雄二!」
「誰が犯罪者だ明久! 落ち着けお前ら! 正確には次のテストで出てくるであろう問題の予想だ!」
そう言って雄二はさらに詳しく説明を始める。
「文月学園はテストに力を入れてる学校、とうぜんその管理には厳重なセキュリティが設置してあるし、あの変態諜報員ムッツリーニにでさえ解除することは不可能だ」
「それならこのプリントはいったい何なんだよ!」
「お前らは忘れたか! Fクラスには、なぜかテスト前日からテストの答えを知っている、カンニング魔王がいる事を!」
その言葉にバッ! と全員が晴楓の方を向く。その視線を一身に受けた晴楓は、特に否定するわけでもなく、いつもの様にドヤ顔で鼻で笑った。
「はっ!」
『『『このクズやりやがったぁ!!』』』
その晴楓の反応に、さらにザワつくFクラス。悪い噂が後を立たない晴楓が用意した事が分かって、このプリントに信憑性が産まれたからだ。
そうか、ついにやっちゃったんだね晴楓。僕は、ぽんっと晴楓の肩を優しく叩いた。
「自首しよう晴楓」
「おい、俺が罪犯した前提で話進めんな」
「今回ばかりは言い逃れはできないぞ! 年貢の収めどきだ大人しく鉄人に捕まれ犯罪者ぁ!」
「おい雄二! このバカに分かるようにちゃんと説明しろぉ! あとカンニング魔王って呼ぶな! カンニングはしてねぇ!」
雄二は晴楓からそう言われると、ザワザワと騒がしい教室をひとまず沈めてから言葉を続けた。
「晴楓を疑う気持ちもわかるが、残念な事にソイツは本当に罪に問われる事はしていない、あくまで正攻法でこの問題を入手している!」
『そんな馬鹿な!』
『あのクズにそんな事ができるはずがねぇ!』
「それなら晴楓はいったいどんなグレーゾーンギリギリの汚い手を使ったのさ雄二?」
「お前ら言いすぎだろ。いや、日頃の行いが悪い俺の自業自得なのは知ってんだけどよ」
自覚がある為に強くは反論できない不服そうな晴楓を無視して、雄二は僕の質問に答える。
「昨日のDクラスとの試召戦争で、晴楓の召喚獣の点数を見た者ならわかるだろう! コイツはほんっとうに不本意だが、現国の点数が取れる! そのレベルはAクラス並だ!」
『けどよ! クズの召喚獣が強いのは現国だけだろ!?』
『数学はゴミカスだったぞ?』
『このプリントは英語だ! 2教科も勉強できるやつがFクラスにいるわけ無いだろう!』
「皆の言う通り晴楓ができるのは現国だけ、しかし! 問題はどの教科が得意かでは無く、普段どうやってテスト勉強をしてるかって事だ!」
「つまり?」
「コイツは授業中や質問した時の教師の反応で大体のテストの問題を予想することができる! その的中率は驚異の80パーセント!!」
『『『嘘ぉ!!』』』
「ただの山勘だ。その上時間がかかるからだいたい一回のテストにつき一教科が限界だけどな。あと、答えが分かっても普通にたくさん暗記ができん」
「素の状態での晴楓の現国の点数は頑張ってもBクラス、不自然なAクラス並みの現国の高得点の謎が分かっただろう! 」
雄二にそう説明された僕はもう一度プリントに目を落す。一見ただの英語の問題集、しかし正体は禁断のドーピングアイテム。これさえあれば僕達も晴楓と同じようにAクラス並みの点数が狙える、そう思うとプリントを持つ手が震える。
「Dクラスならこのプリントを用意する必要は無かった、こっちには姫路もいるしな。しかし! 今回の相手はBクラス一筋縄でいかない!」
雄二のその言葉に同意する。Bクラス代表は根本くんは卑怯で手段を選ばない事で有名だ、手段を選ばずに目的の為に行動するクズの恐ろしさを、僕はよぉく知っていた。
「勝利の為に皆に力をつけてもらう! 一夜漬けでこのプリントを集中して勉強し、明日の朝にテスト! そして午後から開戦だ!!」
『やれる! やれるぞ!』
『これさえあればオレも高得点者に!』
「はっ! 力が欲しいか、ならばくれてやる! その問題集を死ぬ気で覚えろ! そして俺様のことを敬え崇め奉れぇえ!!」
『うぉおお!! クズ神さまぁ!』
『『『くーず、あそれ、くーず』』』
まるで危ない宗教の教祖の様な晴楓を中心に、教室がクズコールで盛り上がる。
カンニング用紙とは名ばかりの、ただ山勘しただけのテスト対策プリントだけれど、80%の的中率を誇るそのプリントは必ず試召戦争の糧になる。
これでBクラスにも勝てる筈、そしたら次はいよいよAクラスだ! 確実に現実味を帯びてきた僕達の無謀な目標、絶対に果たしてやると僕はギュッと拳を握りしめて気合を入れ直した。
◇
【Side楠木晴楓】
「ふぅ、疲れた。雄二の野郎、放課後までに予想しろって無茶いいやがる」
作戦会議が終わった俺は、一仕事終えた体をぐぐっと伸ばしながら帰路を一人で歩いていた。
急ぎで鉄人先生にしかカマかけれて無いけれど、それでも的中率は最低でも70%はある思う。鉄人先生は感情が表に出るから割と分かりやすいのだ。
しかし、それでも俺の予想はあくまでも予想。万が一外した時は大幅な戦力ダウンしてしまうため、他のクラスの連中が使用すると危険が伴う。それに比べて元々点数の低いFクラスは外しても大して被害が無い。ローリスクハイリターン、俺の好きな言葉だ。
そんな事をつらつらと考えながら、歩いて校門を出ようとしていると、不意に後ろから声をかけられる。
「よぉ、久しぶりだな楠木」
とても不快で嫌味ったらしい性格の悪そうなゴミクズボイスが聴こえる。
俺は聞かなかった事にして歩みを進めた。
「…………(すたすた)」
「Fクラスに入ったらしいじゃないか、底辺のお前にお似合いだな」
「………………(すたすたすた)」
「しかも次は俺達Bクラスに戦争を仕掛けてくるって? Dクラスに勝って調子に乗ったか?」
「……………………(すたすたすたすた)」
「ちょっと待てぇ! 無視をするなクズノ木!!」
「誰がクズじゃこのクズが!!」
面倒くさい奴は無視するに限る、そのまま無視して帰ろうかとしていたが、聞き捨てならない暴言を吐かれたので、俺は回れ右して反論する。
「てめぇにだけは言われたくねぇわブッ殺すぞ根暗ドクズが!!」
「はぁ!? それはコッチのセリフだ! オープンドクズが!!」
俺の正当な怒りに逆ギレしてくるイカれたキノコヘッドクズ。霊長類クズ科キノコ属に属する根本恭ニと呼ばれるこのキノコこそ、この学校で一番のクズ、ついでにBクラスの代表。
一年の頃から何かと因縁深い相手で、清水美春に続いて俺の嫌いな奴ランキングTOP3に入るクズ。そのため、なるべく関わり合いたくない相手だった。
「で、何? 俺はクズにかけてる時間はねぇんだけどよ」
「ふんっ、なに明日の試召戦争の前に、俺の誘いを断った馬鹿の顔を見に来ただけさ」
「はっ! Bクラス代表も暇なんだな」
「お陰様で明日は午後から休みみたいなものだからな、底辺クラス相手に大した準備もいらないだろう?」
「相変わらずの減らず口だな、根本」
「お前には負けるさ、楠木」
一触即発、そんな空気が流れるなか根本が懐からプリントを取り出す。英語の問題と答えが書かれた、俺が用意した物だ。
「相変わらず意味不明な特技を持ってるな」
「チッ! もうバレてやがったか」
「お前の一番の武器を知ってるなら当然の対応だろ?」
「流石、人の裏を掻くことに関しては右に出るやつは居ねぇなぁ」
「負け惜しみか?」
「いんや、ただの称賛だよ。それでそれを態々俺に見せてどう言うつもりだ根本。教師にバラされたくなければって脅すつもりか?」
俺がそう問いかけると、根本は腹の立つ人を見下した笑みを浮かべて「そんな頭の悪い事するわけ無いだろと」答えた。
「せっかく手に入れた答えだ、馬鹿のFクラスと違って俺らが有効活用してやるよ」
「はっ! 俺の予想がハズレるとは思わないんだな」
「これでも俺はお前を高く評価してるんだぜ?」
「ほざけクズキノコが」
「いや、本当だとも。だから俺は一年の最期、お前をBクラスの副官としてスカウトしたんだからな」
そう言われて俺は、俺の予想を全力で使えばAクラスと行かずともBクラスなら入れると見込んだ根本が、一緒に手を組まないかとくだらない勧誘をしてきた事を思い出す。
「その話は断っただろうが」
「あぁ、確かにキッパリ取り付く暇もないほど断られたさ。だが、俺はまだお前のその力を諦めて無いんだよ」
「男に狙われて喜ぶ趣味はねぇ、お引き取り願うわクソ野郎」
「なぁ楠木、取引をしようじゃないか」
「あ? 取引?」
怪訝な表情でそう聞きかけした俺。根本はそうさ取引だと言葉を続けた。
「簡単な話だ、明日の試召戦争で賭けをしよう。俺達が勝てば、今後Bクラスの為にお前の力を使って貰う。お前達が万が一にも勝てたら、今後一切お前を誘わないとや約束するさ」
「どこが取引だボケェ、俺になんのメリットもねぇだろうがよ。誰か受けるかそんな馬鹿げた取引」
「いいや、お前は受けるね」
「何を根拠に「……あの女、島田美波っていったか?」…………チィッ! 本当にテメェは人の神経逆撫でるのが得意だな。ぶっ殺してやりたくなる」
不機嫌さを隠そうともせず盛大に舌打ちをした俺を、愉快そうに見下ろす根本。
クソが、最初っから掌で転がされてたって訳かよ。
「クズが……分かった。負けたらお前の言うことを聞いてやるよ」
「懸命な判断だ」
「その代わり……美波に手ぇ出したらぶっ殺すからな。二度とお郷の土踏めねぇと思え」
「あぁ、約束は守る。俺は島田に何もしない」
へらへら笑う根本のその言葉を聞いた俺は、再び盛大に舌打ちをした後、話は終わったと言わんばかりにその場を離れる事にした。
「明日はお互いに正々堂々戦おうじゃないか、楠木」
「ぜってぇ吠え面かかせてやるから覚悟しとけ根本」
そう吐き捨てて、帰り道を歩き始める俺。
あぁ、あのクズ如きに俺がいっぱい食わされた事実に腹が立つ、背後ではどうせ勝ち誇った根本がドヤ顔を噛ましているのだろう。
手に持ったプリントがダミーだとも知らずに。
俺は根本から見られない位置まで歩くと、携帯を取り出して雄二に電話をかけた。
「もしもし雄二か、あのクズ予想通りブラフのプリント持ってやがった。使うって言質も取ったぞ」
『やはりか、お前の言う通りだったな晴楓』
「クズなら絶対に利用するって分かってたからな。これで明日Bクラスの英語の点数は軒並み下がってるはずだ」
『流石、クズの思考を読むのはお手の物ってか?』
「不本意だがな、手筈通り皆には本物のプリントを勉強する様に伝えといてくれ」
じゃあ任せたと伝えて電話を切る俺。
電話して気を紛らわしてもなお、フツフツと怒りが湧いてくる。
「ふふふ、クズの分際でこの俺様を脅すといい度胸じゃねえか根本」
ダミーのプリントであのクズに一矢報いたとは言え、美波を引き合いに出されて取引に応じてしまった、この痛み分けの状態が心底不本意である。
「絶対にあのクズはぶっ殺す!!」
夕暮れの住宅街でそんな物騒な事を叫ぶ俺、周りの市民のドン引きしてる視線が刺さるがそんな事関係ねえ!俺を本気にさせたらどうなるか、根本の野郎に思い知らせてやる。
俺は明日の試召戦争にむけて決意を固めるのだった。
ここまで読んでくださった皆様。感想、評価をくださった皆様、ありがとうございます。