バカとクズは使いよう。   作:枕魔神

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【Side吉井明久】

 

「開戦じゃあ!! Bクラスをぶっ潰せぇ!!」

 

 何時にもましてやる気と殺気に満ちている晴楓の掛け声で、Bクラスとの戦いは始まる。

 クラスの士気は絶好調、晴楓のプリントのお陰で普段より高い点数を取った彼らに怖いものは無かった。

 

「狙うは真正面からの強行突破ッ! 英語でBクラスの前線を崩壊させろ!」

「任せて雄二!」

「今回は姫路も前線に出てくれ! 出し惜しみはしない!」

「はい! わかりました!」

「よっしゃぁ! 全軍俺に続けぇ!」

 

 雄叫びを上げながら先頭を駆ける晴楓、いったい何が彼をそこまで駆り立てるのか分からないけれど、殺る気がある事はいい事だ。

 そんな殺る気満々の晴楓率いる僕達は、丁度渡り廊下でBクラスと鉢合わせた。

 

「いた! Bクラスだよ晴楓!」

「了解だ明久っ! ーー試獣召喚ッ!!」

『くっ! さっそくクズの相手か! 試獣召喚!』

 

 英語

 Fクラス

 楠木晴楓 110点

 VS

 Bクラス

 男子生徒A 148点

 

 巨大パチンコを装備した晴楓の召喚獣と、Bクラス生徒の召喚獣が対立する。

 

「おやおやおやおやぁ? 点数が低いですねぇBクラスなのにぃ? いったいぜんたい! どしたのかなぁ!? かなぁ!?」

『くっ! Fクラスはやはり英語で攻めてくるか!』

『ちくしょう! 根本のやつまんまと騙されやがった!』

『お前のせいだろうが! 煽ってんじゃねぇぞクズ!』

 

 今朝から不機嫌だった晴楓が、ストレスを発散するかのようにBクラスを煽り倒していた。当然、普段なら170点以上は取れてるはずのBクラスの生徒達からブーイングの嵐が飛んでくるが、それすらも晴楓からすれば楽しいらしく笑みが溢れている。相変わらず他人の妬み嫉み悔しがる顔が大好きな外道野郎だった。

 

「勝手に持っていって勝手に使ったのはそっちじゃねえか! 異論反論抗議質問クレームは一切受け付けませぇん! 永遠に負け惜しみだけ吠えてろ!」

『く、クズだ……』

『味方の俺達ですら引くわ』

『絶対ろくな死に方しないよなアイツ』

「聞こえてるぞテメェ等! さっさと召喚して、俺のお陰で手に入れた力で役に立て!」

『『『試獣召喚!!』』』

 

 英語

 Fクラス

 男子生徒A 98点

 男子生徒B 105点

 男子生徒C 116点

 VS

 Bクラス

 男子生徒B 150点

 女子生徒A 134点

 女子生徒B 141点

 

『慌てるな! いくら点数が下がっても、実際は俺等の方が点数は上だ!』

『Fクラス如きに私達が負けるはずないわ!』

『調子に乗ったバカ共を叩き潰せ!』

「帰りうちにしてやるよ! Fクラスの底力ナメんなよ!」

『『『ウオォォ!!!』』』

 

 一気に召喚される召喚獣、僕達の軍とBクラスの軍が真っ正面からぶつかり合う。点数の差が少なくなった事でいい勝負をしているけど、それでも確かにBクラスの方が点数が高く、このまま普通に戦い続ければジリ貧になった僕達が負けるだろう。

 けど、僕は全く負ける気はしなかった、だって僕達Fクラスには勝利の女神がついてるからね。

 

「姫路瑞希いきます! ーー試獣召喚!」

 

 英語

 Fクラス

 姫路瑞希 337点

 

 姫路さんを中心に召喚陣が展開され、そこから西洋鎧を身にまとい、可愛らしい見た目に反してゴツい大剣を携えた姫路さんの召喚獣が現れる。

 

「今日は最初から本気です! 覚悟してください!」

『くそっ! 姫路か!』

『ただでさえ点数下がってんのに誰が姫路に勝てるんだよ!』

「無駄無駄無駄ぁ! 貴様等はジワジワと殺される運命なんだよぉ! 根本に伝えろ! 『ザマァ見晒せクズキノコ! ねぇ今どんな気持ち!? ドヤ顔でダミー掴まされて! ねぇどんな気持ちぃいい!?』ってなぁ! 俺を怒らせるからこうなるんじゃあ!」

 

 姫路から逃れようとする残党をパチンコで狙撃しながら、味方であるこっちもドン引きする程に敵を、正しくはBクラスの背後に居るであろう根本くんを煽りまくる晴楓。本当に根本くんは何をしでかしたのだろうか。

 

 怒れるクズに戦慄を覚えていると、姫路さんとの晴楓の攻撃でボロボロになったBクラスの生徒が僕を狙ってやって来た。僕なら勝てると思ったのだろうけど浅はかすぎる、成長した僕に勝てると思うなよ!

 

「くそぉ! せめて観察処分者のバカを倒してやる!」

「ナメるな! 僕だって晴楓のお陰で点数は上がってるんだぞ!ーー試獣召喚!」

 

 その掛け声に合わせて、召喚陣から学ランに木刀を装備した僕の召喚獣が現れる。心なしかいつもより凛々しく見えるその召喚獣の点数は……

 

 英語

 Fクラス

 吉井明久 28点

 VS

 Bクラス

 男子生徒D 81点

 

 ……見て驚け! 驚異の28点だ!!

 

「……え? たったの28点?」

 

 敵の戸惑う声が聞こえる。どうやら僕の成長を理解できてないらしい。

 

「バカにするな! 普段より二点も点数が上がったんだぞ!」

「それはもう誤差だろ!」

「は! 確かに!!」

 

 敵に言われて全く点数が上がっていなかった事に気が付く僕。確かにおかしい、あれだけ勉強したのに二点だと? 他の皆は何十点も上がってるのに。僕は真っ先に召喚システムのバグを疑った。

 

「ちょっと待ってタイム! 召喚システムに異常が!」

「異常なのはお前の頭だろ! 誰が待つか! くたばれぇ!」

 

 そんな僕の静止を無視して敵の召喚獣は槍を振り上げ攻撃を繰り出してくる。僕は大きく横に飛び、その攻撃をなんとか避けた。

 

「ちぃ! ちょこまかと!」

「明久ァ! 何やってやがる! その点数はどうしたぁ!」

「晴楓!? おかしいよ! なんで僕だけこんなに点数が低いのさ! あれだけ昨日勉強したのに! さては予想外したな!」

「俺を含めて他の奴らが上がってんのに外れてる訳ねぇだろ! ちゃんと二枚目のプリント勉強したのか!?」

「へ? 二枚目ってなんの事?」

 

 僕がそう答えると、スゥと息を飲んで米上を抑え天を仰ぐ晴楓、他の人達も似たようなリアクションだ。その様子だとまるで僕がとんでもないバカをしてしまったみたいじゃ無いか。

 

「もういい、お前は死ね」

「突然見放された! 僕は味方だぞこの外道め!」

「うるせぇ! 間違ってダミー勉強するバカに救いはありません!」

「うそぉ!! あれダミーなの!?」

「昨日雄二とあれだけ注意しただろうがこのバカァ!!」

 

 まさか勉強するプリントを間違えるなんて初歩的なミス僕がするとは……。

 しかし、過去の失敗はしょうがない。大切なのは今をどう切り抜けるかだ。

 

「なんか手違いも合ったみたいだし、この戦いはドローって事に」

「なる訳ねぇだろ! 大人しく補習室へ行けぇ!」

「ですよねぇ!? ひぃいいい!! 助けてぇ!」

 

 容赦なく繰り出される敵の攻撃、悲鳴を上げながら避けるのが精一杯の僕を、薄情な晴楓達は知らぬ顔。

 結局ボロ雑巾の様にボコボコにされ、最期のトドメが刺される直前で、僕は姫路さんに助けて貰うのだった。

 

   ◇

 

【Side根本恭ニ】

 

「クソッ! 」

 

 楠木にダミーを掴まされた結果、まんまと敵の策にハマり、戦況はあろう事か俺達Bクラスが劣勢。俺は行き場の無い苛立ちを壁にぶつけた。

 

「どうするんだよ代表!」

「簡単に騙されやがって! 設備が奪われたらお前のせいだぞ!」

「分かってる! 少し黙ってろ!!」

 

 騒がしいクラスメイトを黙らせて、俺は思考をフル回転させる。

 召喚フィールドを張替えたとしても、出鼻を挫かれたせいで兵の数はこっちが少ない。数の暴力で押し切られるだろう。加えて総戦力はこちらが上だが、相手には姫路と楠木、数学なら島田、ダークホースの土屋。Fクラスには認めたくないが粒のある奴らが揃っている。明らかに長期戦は不利、どう足掻いてもこのまま押し切られる未来しか見えない。正攻法での反撃の一手は存在しなかった。

 

 しかし外法なら、幾らでも反撃の手は存在する。

 

「しょうがない、背に腹は変えられないか……」

 

 底辺クラスあいてにリスクを負うのは腹立たしいが、そうも言ってられない状況だ。

 

「ひとまず放課後までの時間を粘れ!」

「時間稼いでどうするんだよ!」

「長期戦こっちが不利だぞ!?」

「明日まで持ちこせばむしろこちらが有利! 俺はその間に準備をする!」

「準備って今更何を!?」

「なぁに、ちょっと餌を用意するだけだ。クズが釣れるとびっきりの餌をな」

 

 現状を打破する為にするべき事は二つ、これ以上の戦力をFクラスに確保させない事と同時に戦力を奪うこと。

 

「俺は約束を守る男……俺は直接手を出さないさ。俺はな?」

 

 さて、手始めに生意気にも俺を騙してくれたクズを除外するとしようか。

 

   ◇

 

【Side楠木晴楓】

 

「Bクラス連中の戦い方が変わった?」

 

 開戦から一時間、敵の動きに変化が見られた。コチラが優勢な事は変わらないが、先程よりも撃墜数が減っている。敵陣に深く攻め込まず、危なくなったら即退散。

 

「……時間稼ぎ? どう思う姫路」

「確かに、私もそう感じました」

「……気持ち悪いな、何考えてやがる」

 

 嫌な予感を感じつつも、俺が今できる事は目の前の敵を相手する事のみ。コチラが優勢とは言え相手は格上のBクラスだ、気を緩めれば一気に攻め込まれる。

 どうしたものかと俺が考えていると、自陣から焦った様子のムッツリーニが伝令としてやって来た。

 

「……晴楓はいるか!」

「どうしたムッツリーニ!!」

 

 ただ事ではないムッツリーニの様子に、まさかもう根本の野郎が動いたか! と内心で舌打ちをする。

 そんな俺の予想通り、いやある意味予想以上に、ムッツリーニから伝えられた内容は最悪だった。

 

「……島田が……攫われた!」

「あ?」

 

 その言葉に一瞬脳がフリーズする。

 美波が攫われただと?

 誰に? Bクラスに? つまり根本に?

 

「………………ふっ」

「……ふ?」

 

「ふっざけんのも大概にしとけよあの根暗ドクズナルシストキノコがぁあああ!!!」

 

 溢れる怒りに身を任せ、俺は力の限りそう叫んだ。そうかそうか! つまり貴様等は全員皆殺しにされたい訳だな!?

 

「おいムッツリーニィ!! 美波さらった身の程知らずのバカ共は何処にいやがる!?」

「……お、おそらく、体育館裏」

「体育館裏だぁ? 体育館裏に美波連れてって何する気だぁ? ぶっ殺してやるッ!!」

「お、落ち着いて晴楓、今晴楓に抜けられたら前線が崩壊しちゃうよぉ!」

「知ったことか! こうしてる内にもクソッタレキノコの汚らわしい魔の手が! 俺は抜けるぞ!」

 

 こうしちゃいれないと体育館裏に向かおうとする俺。そんな俺を止めようと明久は慌てて腰にしがみついた。

 

「離せっ! バカ久!」

「お願いだから止まって! 心配なのはわかるけど落ち着いて! 晴楓が抜けて僕達が全滅したら意味ないよ!」

「そこはお前らが頑張れ! 大丈夫明久ならできる俺は信じてる多分きっとメイビーだから俺を美波の所に行かせろぉ!!」

「駄目だって! ちょっ! 普段もやしの癖して力が強い!」

 

 どちらも引かず、すったもんだ硬直状態の俺と明久。そんな俺達の間に入ってきたのは以外にも姫路だった。

 

「落ち着いてください二人とも!」

「これが落ち着けるか! 美波助けてあのクズぶっ殺さねぇと気がすまねぇ!」

「はい! だからこそ冷静になって、楠木君は美波ちゃんを助けに行ってあげてください」

「そんな! 晴楓がいなくなったら僕達が全滅しちゃうよ!」

 

 そう言う明久の反論に、姫路は大丈夫ですと答える。

 

「私が……私が楠木君の分も頑張ります」

「……俺が言うのもあれだけど、マジで言ってんの姫路」

「はい! だから楠木君は早く行って下さい」

「幾ら姫路さんでも無茶だよ!」

「土屋君が楠木君に直接知らせに来たって事は、坂本君も楠木君に行かせてあげるつもりだったんですよね?」

「……どうせ後で知ったらキレ散らかして暴走するのは目に見えている、それなら早めに伝えて被害を最小限にする。それが雄二の意見だ」

 

 姫路の質問に、頷きそう答えるムッツリーニ。つまりボスからのゴーサインが出ている。あとは腰にしがみついてるコイツをどうにかするだけ、早く美波の所に行きたい俺は明久と目を合わせて真剣に頼み込んだ。

 

「離せ明久、行かせてくれ頼む」

「私からもお願いします吉井君」

 

 俺と姫路からそう言われた明久は、不服そうな表情でしょうがないなぁと呟いて拘束を解く。

 

「全く勝手なんだから、そのかわりちゃんと島田さんを助けてこいよ! 晴楓!」

「……敵は明らかに晴楓を誘っている、罠かもしれない気をつけろ」

「ここは任せて下さい楠木君!」

「ああ、サンキューお前ら!」

 

 三人に背中を押された俺は、そう言い残して体育館裏に向けて駆け出した。

 待ってろよ美波、ぜってぇ助けてやるからな。

 

「さて、晴楓の分も気合入れて戦わないとね」

「はい! 私も頑張ります!」

「……姫路が晴楓の肩を持つの、以外だった」

「そうだね、晴楓と姫路さんってあんまり話した事無かったよね?」

「確かに楠木君の事は詳しくはわからないですけれど、一つだけわかったんです」

「わかった事?」

 

「私が同じ立場なら、多分楠木君と一緒の事をするって」

 

   ◇

 

【Side島田美波】

 

 楠木が体育館裏で体力を使い果たして倒れた、そう聞かされた私は現在、まんまと騙されてBクラスの男子三人に拘束されていた。

 

「いい加減離しなさい! 卑怯よ!」

「お前はクズを呼ぶ餌なんだから離すわけ無いだろ」

「こんな卑怯な手を考える根本の手先に楠木がクズって呼ばれる筋合いはないわ!」

 

 そう言って強がるけれど、現状は最悪。敵の召喚獣で囲まれて逃げることもできず、正面から突破しようにも、ここの召喚フィールドは現国、楠木のお陰でだいぶマシになったモノの、以前変わらず私の一番苦手な教科だ、返り討ちに会うのは目に見えている。

 それに加えて、体育館裏と言う人気のない場所だから助けを呼ぶことも出来ない。それこそおびき寄せられでもされない限り、授業中にこんな場所に来る人は居ないだろう。

 

「楠木をこんなところにおびき寄せて何するつもりよ!」

「当然リンチするのよ、生意気にも騙してくれたしな」

 

 そう言ってポキポキと拳を鳴らすBクラス生徒。

 

「たった一人の為に随分と大掛かりな作戦ね、Bクラスは暇な人が多いのかしら」

「あの男の厄介さはアンタもよくわかってるだろ? 早めに消すに越したことは無い」

「そうじゃなくても、うちの代表はクズノ木にご執心でな。ヤツの事になると容赦なくゲスい作戦考えやがる」

「それでウチを騙して捕まえたってわけね。最ッ低」

 

 如何にも卑怯な根本が考えつきそうな作戦だ、当の本人がこの場にいない事が尚の事ヤツの汚さをさらに際立たせている。

 正面から楠木と戦っても勝てないと悟ったからこその行動、つまり私は根本から楠木のお荷物、弱点と認識されたのだ。その事が悔しくて唇を噛み締めた。

 

「てか遅くね? マジで来るわけ?」

「わざと情報は流れるようにしてある、根本の言うとおりなら来るはずだ」

「あのクズだろ? あっさり見捨てるんじゃね?」

「それな! あのクズノ木なら有り得そうだわ!!」

 

 私を囲んでいる三人はそう言ってガハハと下品な笑い声を上げた。

 そんなわけ無い、楠木ならきっと私を助けに来る。例え罠だと感づいていても根本の思惑通りやってくるだろう。

 

 絶対に来ちゃ駄目だからね、楠木。

 

 これ以上迷惑をかけたくない私は、心で強くそう願う。囚われて何も出来ない私にはそのくらいしか出来る事が無かった。

 そんな時、何処からかキレて叫んでいる聞き慣れた声が聞こえて、私の願いは結局無駄に終わる。

 

「ぜぇッぜぇ、だっ、大丈夫か美波……このくっされキノコの下僕共がァ!! ぶっ殺してやる!!」

 

 そんな物騒なセリフを吐きながら、楠木は体育館裏にやって来た。体力無いくせに走ってきたのだろう、肩を荒げて息も絶え絶えだった。

 

「バカッ! 普段はクズな癖してどうしてこういう時は来ちゃうのよ楠木!」

「はっ! 何当たり前の事言ってやがる! 助けねぇと後々美波に殺されかねねぇからなぁ! 俺は昨日の事で学んだ!!」

「…………ほんっとバカなんだから」

 

 迷惑をかけるのが嫌で、本当に来てほしくなかったのに、いざ目の前に現れるとホッとして、嬉しく思ってしまう私。普段からクズのくせして本当にズルいと思う。

 

「さてと、美波に手ぇ出した落し前払ってもらおうかぁ!!」

「フンッ! そんな満身創痍で何ができるってんだ!」

「俺がボロボロだなんて関係ねぇよ、俺はてめぇら雑魚共をぶっ殺して美波助けんだ。死にたくねけりゃさっさと散れ」

「口は相変わらず達者だな、弱い犬ほどよく吠えるって知らないなか?」

「はっ! お前らこそここまで仕組んどいて、召喚フィールドが現国とか、俺の事ナメ過ぎだぁ。その傲りを後悔させてやるよ……試獣召喚ッ!!」

「「「試獣召喚っ!」」」

 

   ◇

  

【Side楠木晴楓】

 

 現国

 Fクラス

 楠木晴楓 194点

 VS

 Bクラス

 男子生徒A 203点

 男子生徒B 190点

 男子生徒C 188点

 

 現れた召喚獣の点数に、俺は盛大に舌打ちをする。分かってはいたがここまで差が無いとは思わなかった。

 

「おやおや? ご自慢の現国でその点数とは、調子でも悪いのか?」

「お前の予想は一回のテストに付き一教科まで、今回は根本の言ってた事が当たったな」

「糞チート予想を使えずに、メッキの剥がれたクズが俺達に勝てるのかい?」

「チィッ! うるせぇよ!」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる敵に、盛大に舌打ちを返す。

 いやらしい奴らだ、態々俺の得意教科で勝ちに来る辺り性格が悪い。立案者の根本はそうとう頭にキテるのだろう、俺の自尊心とかをへし折ってやろうって意思がビンビンに伝わってきた。

 

 正直、勝てる見込みは薄い。しかし美波を置いて逃げる何て選択肢は存在しなかった。

 

「御託並べてないでさっさと死ねぇ!」

 

 そう叫び、俺は敵陣に突っ込む。

 

「ヤケになったか!」

「好都合! 返り討ちにしてやる!」

 

 俺を迎え撃つ為に構える敵の召喚獣、俺は相手の間合いギリギリで急停止。そのまま斬りつける筈だったのだろう、思いっきり振りかぶられた敵の刀が目の前を通過した。

 誰が素直に真正面から攻めるかよ、そのスキにパチンコを最大限まで引っ張り発射、至近距離からズドンと一発ヘッドショットだ。

 

「へっ! ざまぁ!」

 

 攻撃に動じているうちにすかさず二発目、当然命中。敵の召喚獣は後方へ吹っ飛んだ。

 

 楠木晴楓 194点

 VS

 男子生徒C 188点→151点

 

「くそっ! 点数は下がっても流石に手強いか!」

「普段は一番後ろで威張り散らしてるだけなのに!」

「どうよ! テメェ等もコレは誤算だったろうが!?」

 

 普段は滅茶苦茶離れて絶対に安全な位置から撃っている俺のパチンコの威力と精度をナメてもらっちゃ困る。この距離で放てば必中高威力の兵器になるのだ。

 

「テメェ等もくらいやがれ!」

 

 そう言ってもう一人目掛けてパチンコを引く。

 さっきの威力を見ていたそいつはかわそうと俺から距離をとった。

 俺は威嚇で数発打ち、今のうちに美波を助けようとするが、狙われていないもう一人がすかさず邪魔に入る。

 

「そう簡単に人質を奪わせるかよ!」

「クソが邪魔すんな!」

 

 思惑が外れた俺は舌打ちを一つ、パチンコと言う武器の特性上、一人しか狙えず複数人相手にするのは不利。当然近距離戦となればもっと戦いにくい。俺の召喚獣は何処ぞの長鼻狙撃手みたいに一度に何人も狙撃したり出来ないのだ。

 

 普通なら遠くから距離を取って戦うのだろうけど、どうせ詰められて結局は不利になってしまう。だから不意をついた最初の一撃で美波を回収したかったんだけどな。

 

「畜生が……」

 

 最悪の状況に歯噛みして悪態を呟く。

 その後も何度か試してみるが、失敗に終わり回数を重ねるごとに敵の連携が取れ始め、美波に近づく事すら出来なくなっていく。

 本当にとことん相性が悪い。一人を崩しても、一人が美波への道を遮断し、もう一人が俺へ追撃を試みる。最小限の人員ででリスク無しに俺を相手できる布陣と言う訳だ。クソッタレキノコの癖によく考えれていた。

 

「もらったっ!」

「くっ! しまった!!」

 

 楠木晴楓 135点→94点

 VS

 男子生徒B 157点

 

 策を考えるために思考を巡らせたスキに、背後からバサリと切りつけられ、俺の召喚獣の点数が大幅に減少する。

 

「へへっ、手こずらせやがって」

「偉そうな事言ってた割には虫の息じゃねえか、ほらクズらしく惨めに命乞いしろよ」

「まっ、絶対に見逃さねぇけどなぁ!!」

 

 ゲラゲラと品の無い笑い声を上げる、Bクラス3人衆。余裕そうな表情を浮かべて明らかに勝った気でいるが、操る召喚獣に一切の油断は無く、最初のように裏をかいて攻めることは無理。

 おそらく根本が口酸っぱく注意喚起したのだろう、俺にスキを見せるとろくな事になら無い、トドメを刺すまで油断するなと。

 優勢になって油断さえしてくれればどうにか成ったかも知れないが、おかげで為すすべなしだよくそったれ、全く余計な事しかしないクズキノコだ。

 

「楠木ッ!」

 

 そんな満身創痍の俺を心配するかの様な美波の声が聞こえる。

 全く、自分も囚われの身なんだから自分の心配だけしてろよと思わなくもないが、こんな情けない姿を見せてる俺が悪いかと自嘲気味に笑う。

 せめて少しでも安心できるように、何時もと同じ人を馬鹿にした笑みを浮かべて美波の方を向いて返事を返す。

 

「なぁに泣きそうになってんだ美波、何時ものバーサーカーぶりはどこ行ったよ」

「バカ! そんな事言ってる場合じゃないでしょ!? ウチはほっといてさっさと逃げなさいよ!」

「はっ! 女助けに来きて、負けそうだからって尻尾巻いて帰れるかよ! そいつ根本以下のクズじゃねぇか!」

 

 そう強がりを美波に吐くが、現状は悪くなる一方。決定打こそ貰ってないもののジリジリと削られる俺の召喚獣。いずれ負けるのは俺だろう。

 

 だからこそ、出し惜しみなんて出来ない。俺は使えるものは、親であろうと目上の人だろうと鉄人先生だろうと遠慮なく使う主義なのだ。

 

「美波っ!」

 

 そう叫んで、俺は美波と視線を合わせてグッと親指を立てる。傍から見たら負けそうな俺が見栄でカッコつけてるようにしか見えないだろう。

 

「俺ら無視してイチャつくなんて余裕じゃねえか!」

「そう見えるなら眼科いけや! 嫌らしい戦い方しやがって。流石根本の手下、お似合いだ」

「誰が根本に似てるって!? 聞き捨てならないな、訂正しろっ!」

 

 アイツ、自分の部下からもそんな感じなんだとどうでもいい感想を思い浮かべながら、俺はパチンコで一人吹き飛ばす。すかさず二人に標準を合わせると、それを邪魔しに切りかかってくる三人目。

 ここで避ければ、さっきから何回も繰り返した流れ、きっとBクラス三人衆も学習しないなと馬鹿にしてるだろう。

 なのでここからはさっきとは違う流れ。俺は切りかかってくる三人目を回避せず無視して二人を撃ち抜いた。

 

「何っ!!」

「馬鹿め勝負を焦ったな!! 死ねっ!」

 

 打たれると予想して無かった二人目が驚きの声を上げるが、三人目はシメたと大振りで俺の召喚獣に刀を振るう。しかし、無視続行。そのままリロードして次の攻撃に備える俺。この一撃を食らったら俺の点数は全損するだろう。

 

「試獣召喚ッ!」

 

 ガキンッ!!

 

 しかし、その刀は俺の召喚獣には届かず、軍服を着た見慣れた召喚獣のサーベルに塞がれる。

 

 現国

 島田美波 35点→25点

 VS

 男子生徒C 84点

 

「さっすが、神対応すぎるぜ美波様よぉ!」

「本当っ! ウチが分かって無かったらどうするつもりだったのよバカッ!」

「信頼がなせる技ってやつよ、マジで愛してるぜ美波!」

 

 そう言って、美波が現れた事により思考を停止してしまっている三人目の眉間に、最大出力のパチンコ玉をぶち当てた。

 美波なら、俺があの場で無意味にカッコつける様な奴じゃないって事を知っている。

 美波なら追い込まれた俺が賭けに出ることをしっている。

 だから俺は美波なら意思を読み取ってくれるって信じてる。

 いや、本当に伝わって良かった。危うく死にかけて心臓バクバクだったぜ。

 

「馬鹿なっ! さっきのアイコンタクトだけでタイミング取り合ったってのかコイツ等!!」

「と言うか30点の奴がそんな土壇場であの攻撃を防げるかよっ! 一歩間違えれば戦死だぞ!」

「俺を必要以上に警戒してるお前ら一番の油断は、美波を眼中に入れて無かった事だよヴァカがぁ!」

 

 相手が動揺から建て直さないうちに俺は、立て続けに追撃。三人はあっけなくダウン、形勢は逆転、今攻め込めば勝てるかも知れない。そんな中、俺がする事は一つだった。

 

「逃げるぞ美波ッ!!」

「だと思ったわよ!」

「「「なんだとぉっ!!」」」

 

 俺の掛け声に合わせて一緒に駆け出す美波。息ぴったり過ぎてビビるぜ全く。

 

「逃げるな卑怯者ぉ!!」

「畜生っ! 俺達をコケにしやがって!」

「待てぇ!! ぶっ殺してやる!!」

「はっ! 待てと言われて誰か待つかよぉ! ザマァ見晒せクソ野郎どもがぁよぉ!」

 

 悔しそうに後ろから聞こえる負け犬の遠吠えに、100%の悪意スマイルで返事を返す。気分は最高だった。

 

「残念だったなぁ! 貴様等の敗因はクソキノコの指示を馬鹿正直に実行したこと! 従う相手を間違えたなぁ!」

「必要以上に煽らないの! 早く逃げるわよ!」

「鬱憤溜まってるんだからしょうがないじゃん美波、まったくよぉ! クズの根本くんがいくら策を練っても俺様には勝てねぇんだよぉ! これに懲りたら嫌らしく引き篭もって高みの見物決めこまない自分でやったらどうですかぁ!? そう伝えておけぇ!」

 

「ご忠告どうも、次からは気を付けるとしよう」

「……な」

「最も、お前に次は無いがな」

 

 現国

 楠木晴楓 94点→34点

 島田美波 25点→0点

 VS

 根本恭ニ 237点

 

「根本ォ!!!」

 

 鋭い大鎌が、逃げる俺達に襲いかかる。すんでの所でガードの姿勢を取るが、圧倒的な点数から振るわれるその暴力に為すすべ無いまま、俺の目の前で美波の召喚獣は砕け散った。

 

「不安になって来てみれば、念には念を、相変わらずしぶとい奴だな楠木」

 

 ニヤリと不気味にそう言って笑う根本。俺は激高し、そのクソみたいなニヤけ面をぶっ潰すために掴み掛かろうとする。そんな俺を抱きつく形で止める美波。

 

「駄目よ楠木!」

「止めんな美波っ! あのくそったれぶっ殺してやる!」

「なんだやるのか? いいぜ? 殴れよ、女一人守れないクズ以下の負け犬くん?」

「お望み通りぶん殴ってやるよ、吠えづら掻かせてやる」

「だぁから駄目って……言ってるでしょうがっ!!」

 

 美波を押しのける様にもがく俺、そんな俺を美波はぶん投げた。見事な背負投げ、突然の事で真っ白になる思考、見事すぎて投げられても全く痛くはないのが流石である。

 怨めしそうに投げた張本人を睨むが、逆に呆れたように見下された。

 

「な、何しやがる、美波この野郎!」

「召喚獣を介しない直接的な暴力は反則よ! 一発でウチらの負けが決まるの! その他にも普通に停学処分でしょうが! 落ち着きなさい!」

「け、けどよあの野郎、汚い手で美波を……」

「だからって楠木もムキにならない! 相手にしたら同じ土俵に立つってこと! あんなクズと一緒よ!? いいの!?」

「……………………それは嫌だ」

 

 そう俺が言うと美波は「でしょ?」と腕を引っ張って俺を立たせ、視線を合わせる。

 美波の言いたい事はその強い意志の籠もった翡翠色の瞳を見るだけで十分に伝わった。

 

「……任せとけ」

 

 いろんな納得のいかない気持ちを抑えて、俺は美波に小さくそれだけ言うとFクラス教室に向かって駆け出す。

 

「ッ!? おいおい逃げるのか! さっすがクズノ木! 仇を取ろうって気概もない! 口ばっかりの臆病ものだなぁ!」

 

 まさかあそこまで激高していた俺が、素直に一目散に逃げると思って無かったのだろう。根本は不意をつかれて召喚獣の操作にワンテンポ遅れる。

 そんな俺を止めようと根本が煽ってくるが、全て無視、黙って走る。

 くそったれが、そう叫びたいのをぐっと我慢して、背中に吐き捨てられる罵詈雑言から、追ってくる召喚獣から全力で逃げる。

 悔しい、悔しい、悔しい。

 勝った気になって油断してたのは俺の方だった、根本の方が何枚も上手だった。そのせいで、俺の甘さが原因で美波を殺させた。

 

「……畜生が」

 

 負けた、完全に敗北だ。

 次はこうは行かない、甘さを捨てて、油断を潰して、絶対に完璧に徹底的に還付無きまでにBクラスを……

 

「根本恭二ぶっ殺すッ!!!」

 

   ◇

 

【Side吉井明久】

 

 姫路さんが根本くんにラブレターを盾に脅されていた。その事を偶然知ってしまった僕は、雄二と話をする為に教室へと戻ってきいた。

 そしたらただでさえボロボロのFクラスの教室がまるで泥棒にでも漁られたかのようなひどい有様で、僕はなんで根本くんが姫路さんのラブレターを持っていたのかを悟った。

 

「雄二、話があるんだ」

「なんだ明久、見ての通り立て込んでる、ちょっと休戦協定を結びに席を離したらこれだ、どうでもいい事ならチョキでしばくぞ」

「姫路さんを戦線から離脱させて欲しい」

「…………何があった」

 

 僕の様子にただ事では無いと、瞬時に真面目な顔をする雄二。

 

「……ごめん、理由は言えない」

「どうしてもか?」

「うん、どうしても。頼むよ雄二!」

「はぁ、お前が真剣に言ってるって事は分かった……しかしなぁ」

 

 眉間に皺を寄せて難しい顔をする雄二。無茶なお願いをしているのは分かっている。けれど僕はどうしても我慢ならなかった、優しい姫路さんが根本くんの卑劣な策で傷つくことが。

 Dクラス戦の放課後、姫路さんと話した僕は知っている、姫路さんがどんな思いであのラブレターを書いたのかを。姫路さんがラブレターの相手をどんなに好いているのか。だから、そんな彼女の想いを踏みにじる根本くんが許せなかった。

 もう一回雄二に頼もうと僕が思っていたそんな時だった。

 

 ダァンッ!!!

 

 教室の扉がけたたましい音をたてて開かれる。

 やって来たのはものすっごく不機嫌な様子の晴楓、教室の様子を見るなり「チッィ!」とても大きな舌打ちをしてドカドカと僕達の方へと向かってくる。

 

「……やられた」

 

 そしてそう、一言だけ吐き捨てるように呟く。その言葉に、僕と雄二は晴楓の苛立ちの理由を理解する、つまり島田さんがやられたのだろう。

 拐われたと知って一番取り乱していた晴楓だ、目の前で助けられなかった晴楓のその気持ちは僕には計り知れない。

 

「……そうか」

「あぁ、そんでよ雄二。頼みがあるんだよ」

「お前もか、言ってみろ」

「根本は俺がぶっ殺す」

 

 普段とは全く違う真面目な様子でそう言う晴楓。頼みとは言ってたけれど、絶対に意見を曲げない気なのが僕にも分かった。

 その事を雄二も理解したのだろ、「はあぁー、全くお前らは」と大きな溜息を吐いて口を開いた。

 

「仕方ねぇ、ただし条件がある」

「「条件?」」

「まずは明久の姫路を戦線から離脱させるって頼みの条件、お前が姫路の役目を果たせ」

「分かった、任せてよ雄二!」

「晴楓の条件だが、明日までにどの教科でもいいから腕輪を用意しろ」

「いいぞ、カンニングでも何でもして用意する」

「カンニングはするな、鉄人に捕まるぞ。……ムッツリーニ」

 

 そう呼ばれて何処からともなく現れたムッツリーニ。

 

「話は聞いてたろ? Dクラスの奴らに指示を出してくれ。明日の朝作戦を決行する」

「……了解」

「俺もいい加減あの野郎には腹が立ってたんだ、明久に晴楓、お前らを信頼して任せる。明日は頼んだぞ」

「うん! 任せてよ! 」

「はっ!あの外道に吠えづら掻かせてやるわ」

 

 そう言って僕達は拳を合わせて笑い合う。こう言うのってなんか良いよね。

 あ、そうだった、大切な事を忘れる所だった。

 

「あのさ二人とも、もう一つお願いがあるんだよね」

「なんだ明久、言ってみろ」

「俺はあのクズキノコぶっ倒す為なら何だって手伝ってやるぞ?」

「根本くんの制服が欲しいんだ」

「「なんだ、目覚めたのか?」」

「違うよっ!!??」

 

 僕が根本くんを!!? 何ておぞましい事を考えるんだ! 趣味が悪いにも程があるよ!

 

「まぁいい、それくらいの事なら勝利の暁になんとかしてやる」

「ありがとう!」

 

 これで姫路さんのラブレターを取り返せるよ! 僕がそう内心で喜んでいると、ふと何か思いついた様子の晴楓が「それ俺に任せてくれ」と名乗りあげる。

 

「別に構わないが、どうするんだ?」

「根本の服を剥ぎ取るんだろ? それだけじゃ勿体無いじゃん?」

 

 雄二の疑問にそう言って笑う晴楓。どうするんだの答えになって無いし、その邪悪すぎる笑顔に嫌な予感しかしないけれど。まぁ、根本くんだし自業自得かと思考を放棄して、僕は明日の戦いに向けて集中する事にした。

 

 




ここまで読んでくださった皆様、感想評価その他諸々をくださった皆様、ありがとうございました。
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