続くかどうかは分からない
そのいち
物心つく何年か前には既に自分が普通じゃないことは分かっていた。いや、気付いていたという方が正しい気がする。
子供の頃、それも幼稚園とかにも行く前に、何かこう、戻ってきたというか、這い上がって来たものを1度感じたことがある。それでだ。自分が転生したことに気が付いたのは。
ちなみにだが、ライトノベルやネット小説でありがちな前世の記憶や転生特典などは一切持っていない。ただ自分は転生したんだという自覚だけを持っている。
前世は知らないが今世は優しい両親に恵まれ、愛に包まれて育ててもらった。『鳴坂和人』という名前を貰い、子供ながら自慢の両親だった。転生したせいか、普通の子供より大人びた自分は子供としては少し気持ち悪かったと思う。実際保育園や幼稚園で保育士さん達に変な目で見られたし。それでも普通以上に愛を注いでくれていた。ありがたかった。ただそれだけで、嬉しかった。
「今日からはね、私達が貴方の家族よ」
「辛いことがあったらなんでも言うんだぞ」
そんな中、両親が死んだ。事故だそうだ。
飲酒運転していた車から二人の子供を守ったらしい。大人達がヒソヒソと話しているのがたまたま聞こえた。優しいお父さんとお母さんらしいなと思った。誇らしかった。ぼくの親はヒーローなんだぞ。命を救ったんだぞって。
だけどそれ以上に悲しかった。ぼくは、──俺は、まだ何も返しきれていない。それが悔しかったし、やっぱり悲しかった。
だから、ぼくを引き取ってくれた今の父さんと母さんに、義妹になる幼い少女に、ぼくの手の届く人達に精一杯お返しすると決めた。本当のお父さんとお母さんには出来なかったことを、少しでも。子供ながらの誓いだ。自慢の両親にかけた誓いだった。
新しい家族になってちょっとした後、おじいちゃんにこう言われた。
「和人、いいか? 男はな。家族や、惚れた女、大切なモノを守る為に力が強いんだ」
「強くなれ。体も、心も」
その言葉が転機だったと今では思う。おじいちゃんの言う通り体を鍛える為に剣道を始めた。辛い修行で心を鍛えた。おじいちゃんはなかなか堅い人で表情を顔にはあまり出さない人だったが、それでも自分を愛してくれていたのは分かった。
こうして、ぼくは『鳴坂和人』から『桐ヶ谷和人』である今の俺になった。
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朝、4時半とまだまだ肌が冷える時間帯。
いつものように道場で素振りをする。流れ動作ではなく、必要のない力みや動作がないか、重心が逸れてないかを心の中で確認する。この動きを続ける。そうしていると、
「おはよう、直葉」
「おはよう、お
しかし今日も義妹が可愛い。いや声には出さないが。声に出したら思春期真っ只中の直葉に嫌われてしまう。というかそれにしても可愛いなおい。寝癖を直したつもりだけどまだ残ってるのに気付いてない所とかっていうかまずこのあどけない顔が良い。声も良いよね。それに最近お腹周りのことを気にして食事制限をしている所も愛らしい──うおっ!?
「…お兄ちゃん、なんか失礼なこと考えてない?」
「いきなり兄に向かって竹刀を振り下ろすのもどうかと思うが!?」
「もし考えていたんなら、天誅」
「もうしてるし!」
おじいちゃん、兄妹仲は今日も今日とて良好です。お兄ちゃんとしては兄に懐いてくれてとても嬉しい。しかし暴力的なところは少しいただけない。まあそんな所も可愛いのだが。
おじいちゃんは2年前の暮れに亡くなった。悲しいことだが、特に後悔はしていない。感謝を伝えた。感謝を伝えられた。愛を伝えあった。そして、笑って逝った。だから後悔はない。
けど、おじいちゃんが亡くなったからとはいえ、剣道を辞めるつもりはない。そのまま続けていって今に至る。もちろん中学では剣道部に所属した。しかし、貴方が義妹にも剣道を始めさせたおかげで、私は小さな子供を持つ父親のような気持ちです。毎日が日曜日。遊んで遊んでとせがまれる。
「とりあえずお兄、朝の運動がてら試合しようよ」
「珍しいな。お前から誘ってくるなんて」
すると直葉は(ない)胸を張りながら、自信満々げに笑う。いや小さいのを気にしてるのも可愛いんだけどね? 成長期だから! きっと直葉の理想通りのスタイルになれるさ。それには少し腹回りをどうにかしなければならないが。
「ふっふっふー、今日はお兄ちゃんに勝てる秘策を考えてきたからね! ……あと失礼なこと考えてたでしょ」
「そうか、それは楽しみだ。……気の所為じゃないか?」
「よしボコる」
義妹よ、防具も着けずに試合を始めたら、もし当たった時に怪我をする可能性があるのだが。しかも結構本気で振ってない? それ当たったらお兄ちゃん怪我しちゃうなぁ。いくら慣れているとはいえ痛いもんは痛いんだけどなぁ。
「そう言って! お兄! 避けてるじゃん! だから大丈夫、だよね!」
「理屈になってないが。義妹よ」
ハァ、これ以上続けても意味はないか。流石にそろそろ朝の支度をしなければ学校の朝練に遅れてしまう。ここいらで打ち止めだ。
「がら空きだぞ。もっと腋を締めろ」
「ひぅっ! い、いいい、いつの間に!?」
「ちょっとした小技だ。お前も慣れたら使えるようになる」
右手で持った竹刀で直葉の竹刀を絡め取る。そのまま相手の勢いを利用して足払いし、転けそうになった直葉を左腕で抱きとめる。腕の中で直葉がわーぎゃー喚いているが、気にしない気にしない。にしてもおっきくなったなぁ。前までは肩に乗せれるくらい小さかったのに、今では俺の肩くらいか。女子の成長期は早い。1歳差という歳の差があるから抜かされはしなかったが、同い年とかだったらどうだったことか。
「ああもう離せー! 横抱きにするなー! するならすべてお姫様抱っこを所望するー!」
さあさ朝飯だ。母さんが作ってくれた卵焼きが俺を待っている。
あ、しっかりとお姫様抱っこはさせていただきました。
「ソードアート・オンライン?」
「そうっ! それが最近クラスでも話題になっててね。是非とも私もやってみたいと思いまして!」
「抽選だから俺もやってくれと」
「そゆこと!」
うん、別に構わない。ハガキを書いて応募するぐらいだし、全然問題はない。俺の方は、だが。
何しろこの義妹、今月分のお小遣いを既に使い果たしているのである。気に入った服が見つかったのだが、少しお高めだったらしい。女の子だからその辺りは仕方ないかとは思うが、もう少し躊躇いを持って欲しいと兄は思うわけだが。
「そこでお兄にお願いなんだけど……いいかな?」
「……金が無いんだろ」
「そこをなんとかしてくれないかな?」
最新のゲームは何かとお高いものだ。それを義妹の為に立て替えるのは吝かではないと思う。しかし、子供、それも中学生の今だから許せるのであって、大人になったらそれは通用しないだろう。正直自分には通用する自信しかないのだが、それはまた別問題とする。
「1ヶ月、俺の家事当番代わるならよし」
「いっか……2週間じゃダメ?」
「ダメ」
「うぅ…」
涙目に上目遣いでもダメだぞ俺。耐えるんだ。そう、これは全て直葉の為。耐えろ耐えるんだ…! 義妹が将来誰かのヒモにならない為だ!
「……分かった」
「よし、じゃあ約束な。もしそのソードアート・オンラインが買えたら俺がお金を払う代わりに直葉が家事を代わる」
「買えなかったら?」
「別になにもしなくていいよ。俺もお金使ってないし」
まあ当たる確率は低いと思うが。直葉には悪いがそう思う。先程倍率を見させてもらったが、全国で一万しか販売されないらしい。ベータ版は千しか無かったらしいが、それでも大量に応募が寄せられたという。今回は製品版、それもベータテストでの評判でテレビや雑誌に載るほどである。何十万人も応募者が居て、その中のたった1万人しか選ばれない。
はっきり言って望み薄だろう。宝くじよりはマシだろうが。
「……それしてもご飯おいひ〜」
「母さんの料理は美味いよな。身内贔屓でも店出せると思う」
実際、本当にそれぐらい美味しい。作った本人は今はもう仕事で家を出てしまったが。なんでも、俺の本当のお母さんが料理人だったらしい。それを手伝ったりしているうちに上達したとか。確かにお母さんも料理が上手かった様な気がする。
白米に味噌汁、卵焼きにサラダ。運動兄妹である俺達にとってはすこし少ない量ではあるが、朝練があるので態と少なめにしてくれている。朝練後の軽食や昼食用のお弁当もきちんと作ってくれている母さんの優しさには感謝しかない。
「直葉、そろそろ時間だぞ。大丈夫か?」
「うぇ、ホントだ。ちょっと待ってて。すぐ用意するから」
「弁当は先カバンの中入れとくぞ」
ありがと〜! と言って直葉は自室に小走りで駆けていった。
まあまさか当たるとは思わないが、一応貯金残高の確認をしておこう。まあ当たるとは思わないが。兄としては金を出すと言った手前、こうしてお財布の中身をいちいち確認する様を見られたくないのである。
やっべ、ギリギリしか無い。
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『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ』
中世ヨーロッパ風の街並みは赤い市松模様の天井に包まれ、その中には眉目秀麗な男女の群れに、真紅のフードを身に纏った巨大な顔の無い人の姿があった。フードの人影以外はこの状況に困惑しているのか周りを見渡した挙句、最終的にその紅へと目を移していた。
紅のその声は大人の男で、騒ぎ立ったこの広場に重々しく響き渡ってる。
『私の名前は
茅場晶彦。このゲームの開発者であると同時に、ソフトであるナーヴギアそのものの基礎設計者でもある男。数年前まで弱小ゲーム開発会社であるアーガスを、たった一人の力で最大手にした若き天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。
その名を出されて広場の幾人かは明らかな動揺を顔に出した。声に出した者もいた。そして何より、その姿を紅は嘲笑う。
『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す、これはゲームの不具合ではなくソードアート・オンライン本来の仕様である』
『諸君は今後、この城の頂きを極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』
『……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合── 』
この場に集まった一万人が息を詰めた。
ゆっくりと、別に何事もないように、されども重苦しく言葉が放たれる。
『 ──ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる』
『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要ではない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま2時間の回線切除猶予時間のうちに病院その他施設へと搬送され、厳重な介護体勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』
ふざけるな。ここから出せ。そんなのゲームじゃない。
数多の野次が飛ばされる。それに合わせたように茅場の見えない口が、抑揚の薄い声を響かせる。
『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、ソードアート・オンラインは、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に───諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
視界左上にある緑に輝く横線。HP。命の残量を数値化した物が、0を指し示した時点で現実の肉体も同時に死を迎える。
仮想と現実のリンクがされ、死と生が混じり合う。アバターが消滅すれば、その者も消滅する。命懸けのデスゲーム。
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べたとおり、アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』
『 ───健闘を祈る』
ああ、もちろんだ。生き残ってやるさ。
───まだ何も遺していない。何も返せていないのだから。
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「なあ、アスナ。なんでお前俺に付いてくるんだ? 血盟騎士団はいいのかよ。副団長だろアンタ」
「いいのよ、別に。今日休みだし。それに団長から貴方のことを見ておけっていう命令なの。君のせいで休日出勤よ」
「それ俺が原因か…?」
アインクラッド第56層 パニ。
フィールドボスは攻略会議をする前に黒衣の剣士に葬られ、おかげで手持ち無沙汰になった攻略組は各々の過ごしたいように過ごしている。レベリングに励んだり、クエストに挑んだり、パーティーメンバーとの仲を深めたり、その中でもこの二人組は一味違う。
「……別に面白い物はないぞ。飯も奢ってやらんし、アクセサリーも買わない──」
「君は私をなんだと思ってるの!? ご飯もアクセサリーもたかろうなんて思っていません!」
「じゃあなんで…」
「さっきも言ったけど、貴方のことを見張っておくためよ。だって貴方、放っておいたらまた勝手に一人でボスを倒していくでしょ? それが積み重なって、今攻略組のレベルや装備は安全マージンは取れていてもそれ以上の余裕がない。だから貴方を放牧しないためにも私が付いていくってわけ」
その二人の姿は傍から見れば親と子。自由奔放な息子を咎める母親か、はたまた犬を散歩させる飼い主か。それを知らずして二人は主街区のメインストリートを歩いていく。
すれ違うプレイヤー達──主に男性プレイヤー──は美少女を傍に侍らす少年を羨み、自分には居ないことに涙する。
「俺はただ自分のペースで攻略してるだけなんだよなぁ。ほら、レベルも十分に上がってるだろ? 装備も良いの持ってるし。それを止められる言われは無いと思うんですよ、アスナさん」
「集団行動出来ないことを正当化しないの。ていうか、まずソロで階層ボスやフィールドボスに挑むこと自体自殺行為なんだからね」
「生きて帰ってきてるんだしいいだろ? ソロで無理だって判断したらちゃんと撤退するさ」
フィールドボス・階層ボス及びその他様々なボスのソロ討伐数、合わせて50以上。
そのレベル、全プレイヤー中ダントツのトップ。
青白い閃光を刀身から迸らせ、漆黒の外套をたなびかせてモンスター共を蹂躙する姿を指して、【夜叉】と呼ばれる彼の名は──キリト。
黒衣の剣士は最前線は兎も角、中層ひいては下層にも顔を出し、報酬の過多を問わず用心棒を担う傭兵でもあり、決してギルドに入らずソロを貫き通す孤高の戦士。ユニークスキル『神聖剣』の使い手、かの血盟騎士団団長聖騎士ヒースクリフをして彼には敵わないと言わせしめた強さは異常の一言。
本来この世界に存在するプレイヤーなら誰もが使うソードスキルを使わないのだ。ただ自身の剣技を以て敵を屠るその姿はまさに【夜叉】。
──その実、彼の本性はただの楽天家。そしてシスコンで、おじいちゃんっ子。
隣に居る少女──アスナに胃袋を掴まれ、その内正妻の座も勝ち取られるかもしれないただの少年。
転生したという記憶だけを持つ、
──これはそんな
・桐々谷和人くん
元々の魂も原作キリトと全く同じ。ただ輪廻転生した時の感覚だけ覚えているだけ。
そのほんのちょっとの差異が物語に変化を齎した。
・義妹
正史より兄妹間の関係が拗れてないので色々変わった。中学一年生。"まだ″絶壁。
・副団長さん
正史での正ヒロイン。今作ではヒロインがまだ未定だが、最有力候補の一人。飯が美味い。
・団長
二刀流は?どこ?……ここ?
次回の冒険記は───
『月夜の黒猫団』『ビーストテイマー』
───の二本です。多分、続いたら
正妻戦争、勃発!!喜べ少年、君の願いはようやく叶う───
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