オリキリトくんのSAO冒険記   作:ジャパネットたかな

2 / 2
なんかつづいたわ


そのに

 

 

 

 月夜。彼を表現する言葉はいくつかあるだろうが、これ程しっくりくる言葉はなかなか無いだろう。漆黒の夜空に輝く一つの白き月。それはまさしく彼の戦う姿を彷彿とさせるもの。黒のロングコートに身を包んだ剣士はその手に持つ()を振るうのだ。

 

 遠吠えが聞こえる。

 狼型のモンスターだ。集団で狩りをするように戦う捕食者である。今回の獲物はたった一人の剣士。愚かにも6以上いる狼達を前に一歩も動くことは無く、ただ己の得物を鞘に納めて立つのみ。不動、静の極地。凪いだ水面のような静けさに恐れず化物らは剣士に襲いかかる。

 それを一閃。都度8振り。襲撃してきたモンスター達を全て一太刀にて確殺したのだ。神速の居合抜刀はただの通常攻撃にもあるに関わらず、その斬撃は最早ソードスキルの領域にある。通常攻撃がソードスキルで神速攻撃な主人公はお好きですか?

 

 夜空に月よりも輝く物がないように、孤高である彼は一人、夜の平原を駆けていく。平原には剣士の持つ刀が奏でる刃鳴りと、モンスター達の絶叫が響くのみ。この場はまさしく黒の剣士の狩場なのだ。

 

 ──この平原において、狼は捕食者ではなく、ただの狩られる側(非捕食者)である。

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 しかし、しかしだ。無双の力を持つかの剣士にも帰りを待つ家がある。あったかい我が家が待っているなんとかハイムではないが、彼の平穏が待っている我が家があるのだ。

 

「おかえりーキリト」

「…はぁ、ダッカー、確かに俺の家にはいつでも来ていいとは言ったが、ほぼほぼ毎日は来すぎだ」

「私も止めたんだけどね。キリトだからいいだろーって聞かなくて」

 

 少女の発言に、ニヒヒと笑う生意気そうな少年。それに周りの人達も苦笑い。ただ、そこに不快感はなく、彼らの仲の良さが伺える。

 剣士の家に居るのは黒猫達。月夜の黒猫団である。月夜の黒猫団は中層域で活躍する小規模ギルドで、その実力はよもや最前線の攻略組に届きうるのかと噂される中層プレイヤーの星である。

 ギルドリーダーのケイタに、メイス使いのテツオ、剣士のダッカー、槍使いササマル、そして紅一点の少女サチ。全員が現実で同じ学校、部活の友人通しで、明るくアットホームなギルドだ。

 

 そんな彼らとキリトが絡むようになったのは単純明快。黒猫団のピンチに彼が駆け付けたからである。そのことがきっかけで黒猫団はキリトに対してレベリングの手伝いを依頼し始めた。そこから関係を重ね、今のような、勝手に家に遊びに来るクラスメイトくらいの仲になったのだ。

 

「なあキリト、サチを前衛にするって話、やっぱりナシにしようと思うんだ」

「あー、あの話か。やっぱりサチの性格には合ってないだろ?」

「うん。…皆とも話し合ったんだけど、やっぱりモンスターと正面切って戦うのは怖い…から」

「それでもいいと思うぞ。無理して戦う必要はない。ましてやこんなデスゲームの中だ、怖いのは仕方ないさ」

 

 サチという少女は普通の少女だ。だからこんなデスゲームと化したこの世界に当然戸惑った。次に恐怖。ゲームの死が現実の死に直結する。しかし、ゲームにおいて『死ぬ』という行為は有り触れた物だ。死んで、蘇って、また死んで、また蘇って、そうしてゲーム性を理解し、上達していく。──それが通用しないのがこのSAO、ソードアート・オンラインである。ライフは現実と同じたったの1つ。HPが0になった瞬間に終わる究極のハードコア。

 戦いに溢れたこの世界で一度の死も許されないのだ。

 怖い、恐ろしい、死にたくない。

 ()()()()()()()。もう一度言うがサチは普通の少女。死が怖い、自らを殺しに怪物共が、異形のモンスターが怖い。だからモンスターをまじかで見ると足が竦んでしまう。緊張で固まってしまう。

 だから、こればっかりは仕方ない。時間をかけて、このもう一つの現実に慣れるしかないのだ。

 

 暗い雰囲気になった瞬間、ケイタが努めて明るい声で言う。

 

「そういえばさ、最近お金が貯まってきたからギルドホームを買おうと思うんだよね。そしたらさ、キリトも呼んで、皆で仲良くパーティーしようよ!」

「いいなそれ! キリトももううちのギルドメンバーみたいなもんだし」

「違うからなー。俺はどこのギルドにも入るつもりはないぞー」

「じゃあそういうことで。明日明後日に物件見に行ってくるから。お前らはコルでも稼いで来てくれ」

 

 あーい、と重なった緩い声がキリトの部屋に響く。それに誰かが笑ったのを皮切りに、部屋に笑いの輪が広がる。

 

 

 ───それが、夜叉と黒猫団の、最後に笑いあった光景でもある。

 

 

 

 

 

 

 警告音が響き渡る、赤く光る密室の中央には一つの宝箱と5人のプレイヤー、それを包囲するモンスターの大群。白い石ゴーレムとツルハシを持った小人が10、20と次々に際限なく出現(ポップ)していく。

 キリト及び黒猫団はギルドホームの家具分のコルを稼ぎに迷宮区へ赴いていた。順調に進んでいたと思われていた攻略は、ダッカーが見つけた隠し扉に入ることで一変した。

 

 

 罠部屋(トラップルーム)だ。

 部屋の中にあるトレジャーボックスを開けることによって発動する、ありきたりではあるが大変効果のあるメジャートラップ。ソードアート・オンラインにおいてもそれは同様、いや、それ以上の効果を発揮した。一瞬一時の油断が命取りになるこの世界で、それらトラップはレベルアップして増長したプレイヤーを容赦無く喰らい尽くす。

 そして、ポップし続ける数多のモンスターを前に黒衣の剣士──キリトだけが動き始めた。腰に佩いた刀に手を添えて駆け出し、呆然とする黒猫達に怒号の如き声をかける。

 

「転移結晶は!?」

「無理だ使えない!」

「結晶無効化エリアかっ! 全員で固まって周囲を警戒! 敵は俺が減らすからお前らは生きることだけに集中しろ!」

 

 その声にようやく正気に戻ったのか、キリトの言う通り円陣を組んで周囲を警戒している。それを見た彼もようやくやっと目の前に集中できる。

 駆ける。疾走する。その間にすれ違う全てのモンスター達の首を落とす。ウィークポイント。敵の弱点部位に必殺の一撃を叩き込むことでたったの一太刀で敵を処理。神速の抜刀術によってその初撃は目視することは能わず、モンスターはただ倒されるのみである。続く二の太刀、三の太刀も変わらず急所に(クリティカル)攻撃することで、周りのモンスターを殲滅する。レベル、ステータス的には問題がない。時間はかかるだろうが、生きてこの部屋から脱出することができるだろう。

 

 

 

 

 ───しかしそれは、ソロだったらという話で。

 

 現状、黒猫団はこの部屋のモンスター達を相手するレベルには達していない。つまるところ、お荷物を抱えた状態で最前線クラスのモンスター達を倒さなければならないのだ。今はキリトが奮戦しているから誰一人欠けてはいないが、その砂上の城は間もなく瓦解するだろう。正直な話、せいぜい助かっても一人か二人が限界。

 

 だが、そんなこと、知ったこっちゃない。

 

「ハァァ──ッ!!」

 

 夜叉が吼える。撒き散るモンスターへの殺気と闘志が部屋を震わせ、自我や感情のない只のAIであるモンスターの足を竦ませる。

 

 隙だらけだ!

 その一瞬を剣士は許さない。この狭い密室を縦横無尽に駆け巡り、斬って斬って、斬り尽くす。袈裟、逆袈裟、一文字、唐竹、地を走るだけではなく、怪物共の肩を足場にして跳躍、立体駆動。刹那のタメもなく、眼前の大群を斬り伏せていく。

 敵の攻撃が掠る。──関係ない。

 敵の攻撃によろめく。──すぐさま体勢を立て直しカウンターすることで倒す。

 仲間に敵の魔の手が迫る。──その前に相手の首を落とす。

 

「間に合っ…テツオ!」

「え、あっ──」

 

 目の前で一人、殺された。急に現れたキリトに目を奪われて隙を見せた瞬間をゴーレムに突かれたのだ。テツオが青いポリゴン片に変わって砕け散った。死んだ。この世界においてHPと現実のライフは等号。HPが0になった瞬間、向こうでも死ぬのだ。分かっていたことだった。だが、その事実が、今はどうしようもない重荷となってプレイヤー達にのしかかる。

 

「テツオッ!」

「クソッ! この野郎!!」

「待て、ササマル行くな!」

「──グアァァ!!」

 

 ササマルが特攻するが、ササマルの決死の一突きはゴーレムに突き刺さったまま、なにも効くことはなく、そのままササマルは小人のツルハシに耕される。悲鳴を上げ、無情にもそのままHPが消え去っていった。ただのポリゴン片になって、命が空気に溶けていく。

 

「くっ…サチ! ダッカー! 俺の傍を離れるな!」

「お、おう!」

「分かった!」

 

 攻守一転した。キリトが全力でモンスターを殲滅していた時と比べ、今は防御主体、返す刃でのカウンターを主体としてモンスター達を倒していく。剣士は生き残った二人を背後に、この窮地に歯噛みする。仲間の死、そのせいでサチとダッカーはひどく狼狽している。先程は頭数があった故になんとか持ちこたえていたが、今はその半分の数。キリトが居るとは言え、狼狽えている仲間がいる状況では厳しい。モンスターの数も減ってきてはいるが、それでも黒猫を殺すのに不足なし。

 

 右手に握る自身の相棒を強く、強く握る。

 生きて帰すんだ。この二人だけでも、ケイタの元に。絶対にだ。

 ───そうじゃなきゃ、俺がここに居る意味がない

 

 刀を納刀して、一息、呼吸する。極限の集中に合わせて、世界がスローダウンする。深く、深く、海に沈んでいくような感覚が体を支配する。万能感、全能感、そんな物ありはしない。ただ目の前に有る敵を消すという覚悟と鋭利化する意識が一切の雑念を斬り捨て、只一つ、黒猫団を生還させるという最終目標に全てを集中する。

 

 剣の鬼になる。

 

 

 

 

「ウ、ォォォオオオオオオオオ!!!」

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 果たして、キリトと黒猫団の三人は生き残った。あの密室から出てきた時には全員のHPはレッドゾーンだったが。生き残ったのだ。あの地獄から。そして帰った、あの二人をあそこに遺して、ケイタの待つギルドホームに。

 

「仕方ないよ、キリト。元々我儘を言って最前線に行ったのは俺達の方なんだ。だから、仕方ないんだよ。悲しくて悲しくて仕方ないけど、俺は君とサチにダッカーが生きて帰ってきたことが何よりも嬉しいことなんだよ」

「ありがとな。俺のミスであんなことになったのに、お前が命張って助けてくれてたのに……俺は、俺は、怖くてなにも出来なかった。テツオとササマルを殺したのは俺だ、お前が気に病むことはない。だから……いや、俺が言えたことじゃない、な…」

 

 

 

 キリトは究極的に言えば人が変わった。少年のそれは中の人格が変わったと言えるほどに変貌を遂げたのだ。今までは確かに人付き合いは少ない方であった方だが、現在は最低限度の会話しかしていない。仲のいい友人に笑みを浮かべて話していた少年は無く、顔に影を帯びてぎこちなく微笑むようになった。もちろんそんな彼を心配する者も居たが、誰も何もすることができなかった。

 対人関係だけではない。アインクラッド攻略に対する姿勢も変化した。かつてのように安全マージンを人一倍取り、堅実に攻略していくのではなく、狂ったように迷宮区を駆け抜けていく。まさに彷徨える亡霊。黒の剣士──かつて剣聖とも呼ばれた彼は消え去り、後に夜叉と呼ばれる(オニ)が残った。

 

 

「ねえ、キリト」

「………なんだ、サチ」

「今日、なんの日か分かる? 今日はね、12月24日。クリスマスイブだよ」

「それが、どうしたんだ?」

 

 雪降る森に少年と少女が、間を空けて歩いている。それは今の彼と彼女の心の距離か。2人の歩く森は厚い雪に覆われ、暗い夜の闇に包まれている。

 サク、サク、と小気味のいい音たてながら歩く2人はさながらクリスマスデートをしているカップルのよう。しかし、それには程遠いほどの目に見えない隙間が彼らにはあった。

 

「え〜、クリスマスだからこうやって一緒に歩いてるんじゃないの?」

「君が呼び出したんだろ?」

「あはは、そうだったね。だって君、全然私達に会ってくれなくなったんだもん。クリスマスイブぐらい一緒に過ごそうよ」

 

 数歩、少女が駆け出す。振り返ると少年に微笑んで、歌い始めた。

 なんのひねりもないただのクリスマス定番曲。しかし、彼女の鼻歌で周囲の雰囲気が温かくなった気がする。

 

「……なんだよ、急に」

「〜〜〜♪♪ 別にいいでしょ? 折角の聖夜なんだから」

「…はぁ」

 

 クリスマスだからと言って聞かない少女に、少年はため息が漏らす。その姿は彼と近しい人物ならここ最近で一番人間らしいと少年を評するだろう。普段なら、ため息なんて吐かない。ただ機械的に、レベルと熟練度を上げ、ボスを倒し、次の階層への道を開く。強さを求めて練り歩くだけの鬼。そんな少年が今、歌う少女を前にして少し人間性を取り戻している。

 黒猫が刻んだ傷を黒猫が癒す。だがそれは、微々たるものであって、完治するほどのものではない。尤も少年にとっては、久しく感じていなかった、感じたくなかったモノであった。

 

「──キリト」

「………」

「私はね、気にしてない…って言ったら嘘になるけどね。あの日のこと、ずっと謝りたいって思ってたんだよ。私は──もちろんケイタもダッカーも、キリトが助けてくれたから今ここにいる。このアインクラッド(この世界)で生きてる」

 

 少年は歯軋りする音を響かせると、すぐさま踵を返して歩き出す。少女はそれに待てをかけない。かけるつもりもなかった。

 

 だって君がこんなになったのは、私達のせいだから。私達ではその傷を、心を癒してあげられない(あげたかった)。君は優しいから、私達が傍にいればきっと自分を責めちゃうんだろうね。だから、だから、私達ができるのは、誰かが君の疵を癒してくれるのを祈るだけ。

 

 

 

「ありがとうキリト。そして、さようなら」

「───ッ」

 

 その言葉が鬼を人に戻したのか否かは、まだ誰も分からない。

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 ビーストテイマー。RPGにおいて大変ポピュラーなジョブだが、このソードアート・オンライン、アインクラッドにおいては希少極まれる。それはモンスターをテイムする難易度に由来するのだが、これがまた一段と難しい。まずテイムイベントの出現する確率が低いし、それ以外の条件も大変厳しい。それいうことで、この世界においてテイマーは希少職業(レアジョブ)である。

 

 

 

 なにゆえ、こんな話をしているかと言うと───……

 

「キリトさん! この度は、本当にありがとうございました!」

「…いや、別に構わないよ。こっちは依頼で来てるんだし。君も友達を蘇生出来て良かったね」

 

 黒衣を纏った少年と、傍らにいる短いツインテールの幼い少女と青い仔竜が宿屋の一室で談笑している。一見兄妹のように見えるその姿は、その実ただの傭兵とその依頼人(クライアント)であり、少女はともかく少年の言葉には距離を感じる。

 本来なら中層域のアイドルであるビーストテイマーの少女とこんな風に話していたら男性プレイヤーからの嫉妬の目線で貫かれるだろうが、幸いにもここは宿屋の部屋の中で、それらに晒されることはない。……来る途中にはそういった視線に突き刺されまくったが。まあ元より、少年──キリトには好奇の視線がよく集まる。なんせ彼は『攻略の鬼』、アインクラッドの最前線を駆ける攻略組を代表する剣士。その上で中層及び下層にも顔を出し、金額の大小問わず依頼を熟す傭兵業を生業とする有名人なのだ。

 

 その2人が一緒に歩いているだけで相当なゴシップなのだ。これが理由で白い細剣使いの少女にこってり絞られる──本人としては不本意に──ことになるのを少年はまだ知らない。

 

「キリトさんのおかげでピナと、私の大切なお友達ともう一度会えたんです。道中も何度も助けていただいたし、帰り道だって。何度でも言うようですが本当にありがとうございました!」

「感謝なんてしなくていい。それに、こちらの方が君に謝らなければならない。帰りの一件は全て俺が原因で起こったことだ。すまない、シリカ」

 

 キリトと少女シリカは今日の夕方、オレンジギルドから襲撃を受けた。

 

 事の発端は昨日の夜に遡る。

 アインクラッド第35層 迷いの森。そこで事件が起きた。シリカが当時組んでいたパーティーと些細なイザコザで喧嘩、そのままパーティーを解消してしまう。迷いの森と呼ばれるこの場所で、マップデータを持ってないシリカは当然のように迷い、さらに運の悪いことに自身よりも高レベルのモンスターに囲まれてしまったのだ。戦闘の末、モンスターの攻撃からシリカのテイムモンスターであるピナが主人を庇い死んでしまったが、通りがかったキリトによって窮地は脱したものの、彼女の心にはぽっかりと穴が空いてしまった。

 

 その後、紆余曲折を経て、テイムモンスターを蘇生するアイテム、プネウマの花を獲得したキリト達は帰り道にモンスターに囲まれてしまった。俗に言うMPKである。モンスターによるプレイヤーキルは仕立て人のカーソルがオレンジになることはなく、最近のオレンジギルドの犯行は殆どがこの手口によるものだった。

 目標はキリト。攻略の先頭を走る彼が持つレアアイテムに目が眩んだのだろう。運の良いことに(運の悪いことに)足手纏いの少女も居て、モンスターが全て倒されても機に乗じて人質にでもしたらあの剣士も快くアイテムを譲ってくれるだろうという計算であった。

 

 

 それも全て取らぬ狸の皮算用で終わってしまったが。

 

『シリカ、悪いけどちょっと捕まってて』

『ええ!? は、はい、分かりました!』

『──ハァッ!』

 

 モンスター達はいつの間にか全て倒され。少女も彼の背中に張り付いているため人質になんか出来るわけもなく。為す術なくオレンジギルドはキリトに鎮圧されていった。一切の抵抗を許さない圧倒的なまでの実力差は、反撃の希望を相手に与えさせないままプレイヤー達を無力化していく。

 

 紆余曲折は経たが、彼と彼女の絆は深まったようで、最初に出会った時とは少年の表情が少し柔らかい。

 だが、先述した通りにまだ二人には距離がある。

 これは()()()()のせいか、はたまた別の何かなのか。真相は夜叉のみぞ知る所である。

 

「…あ、あの! キリトさんって弟さんか妹さんでもいらっしゃるんですか?」

「いるよ、妹が。血は繋がってない義妹だけどね」

「あ、えと…ごめん、なさい…」

「別に気にしてないよ。ただ…ね、シリカがなんて言うのかな。似てるんだよ、雰囲気」

 

 照れくさかったのか手で頭を搔いて少年は笑った。

 ただそれだけの仕草に、少女は今までの何よりも少年の人間味を感じたのだ。だからだろうか。少女は自身の英雄をそんな顔にさせる人物がすごく気になった。柄にもなく、詰め寄るように尋ねるまでに。

 

「妹さんのこと、教えてもらってもいですか!?」

「…ん、そんなに面白くはないと思うけど」

「それでもです!」

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 それでも…か。そういうちょっと強引な所が似てるのかな。

 

 物心ついた頃にはもう俺は今の家に引き取られてた。みんな俺を心配してくれてるのが分かったしありがたかったんだけど、やっぱりその空気がちょっと嫌でね。ずっとおじいちゃんの傍に居たよ。おじいちゃんはそれはもう厳しい人でね、「泣くな、立て」ってしょっちゅう言われたなぁ。

 そんで、ずっと剣道の稽古ばっかりしてた俺がおじいちゃんにいじめられてるって勘違いした義妹いもうとが直談判しに来たのがきっかけだった。

 

『おじいちゃんはおにいちゃんをいじめないで!』

 

 って強面のおじいちゃんに泣きながら言うもんだから、流石におじいちゃんも慌てたのか義妹を宥めるのに手一杯。それを見てた俺は大爆笑でさ、おじいちゃんにめちゃくちゃ睨まれて、お前が何とかしろ〜みたいなな感じ。

 

『俺はいじめられてないよ。これはね、直葉を守るために強くなる練習だよ』

『おにいちゃんがスグをまもってくれるの?』

『そうだよ、お兄ちゃんがずっと直葉を守るからね』

 

 そんな約束をして義妹は泣き止んだんだけど、おじいちゃんに対する態度はツンケンしたままで、しばらくおじいちゃんはスグのご機嫌取りに必死だったよ。

 

 それからかな。義妹を、家族を守るって明確になったのは。でも、そのせいでやっぱりこの家族は本当の俺の家族ではないんだよなって思いも強くなっていったんだ。

 

 だから、俺は義妹のことを本当の妹のように思えていないし、父さん母さん含めて家族だとも思えない。なのにこの人達を守りたいと思ってるんだ。おかしいだろ? 家族だと受け入れられたのに10年もそれを俺自身が受け入れられてない。

 

 

「おかしくなんかないです」

 

 ……え?

 

「おかしくないです。だって、普通は大切じゃない人をそんなに守りたいって思えないですよ。だからキリトさんは家族の皆さんのことを、キリトさんが思っているよりもずっと愛してるんです」

 

 

「それを自覚できてないだけなんですよ、きっと…」

 

 

 

 そうかな?

 

 そうだと、いいな。

 

 

 

 

 

 

 





・オリキリトくん
クロネコ団イベント勃発。サチとダッカーとケイタが生存。正史同様心に傷を負った。
シリカとはほぼほぼ同じ流れ。違うのは最後だけ。どうやら妹に思うところがあるらしい。

・サチ
メンタルが正史よりも安定してる。キリトのことを思って別れを切り出した。キリトに好意を寄せていた。

・月夜の黒猫団
半ば壊滅。残った3人で中層域に留まり続け、治安維持に貢献。数々のプレイヤーを救助したことがある。

・シリカ
今のところヒロインのなれそうでなれなさそうな枠の一人。番狂わせが起きれば有り得るかも。


次回の冒険記は───

『鍛冶師』『S級食材』

────の二本です。

正妻戦争、勃発!!喜べ少年、君の願いはようやく叶う───

  • 正統派ヒロイン アスナ!
  • シスコン特攻持ちか? リーファ!
  • 君のハートをジ・エンド シノン!
  • 剣士には剣士を ユウキ!
  • 卑しか整合騎士ばい アリス!
  • 僕の英雄 ユージオ!
  • 新たな転生者 オリキャラ!
  • MORE出番!! MORE出番村
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。