“智慧”、“陽炎”、“ガチャ”を得た転生者の異世界冒険譚~ありふれ編~ リメイク版 作:白の牙
光によって塗りつぶされた視界が元に戻った斗真が最初に目にしたのは巨大な壁画だった。縦横10メートルはあるであろう壁画には後光を背負い長い金髪を靡かせ、微笑む中性的な顔をした人物が描かれており、背景に描かれた草原や湖、山々を包み込むのように両手を広げている。
「(気色悪い絵だ)」
その絵を見て、薄気味悪い感情となるも状況を確認するために周りを見回す。
「(・・・テレビで移された中世の聖堂の広間に似てるな)」
場所の特定を終えると、自分達を取り囲む者達へ視線を移す。その者たちは全員、白い法衣を身に纏い、祈りを捧げるように両手を組んで跪いていた。すると、1人の老人が前に出てきた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そして、ご同胞の皆様。私は聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルトと申す者。皆様のご来訪、心から歓迎いたします」
「(う、うさんくせ~~)」
好々爺とした笑みを浮かべながら自己紹介する老人を見てそう思うのだった。
大広間へと通され、席に着くと。メイド達が部屋に入ってきて、全員に飲み物を給士する。刀真を除くクラスの大半の男子がメイドを凝視し、その男子に女子が氷河期のような冷たい視線で見ている。ハジメも凝視しそうになったが悪寒を感じたのか正面に視線を固定していた。
「(腹減ったな~~)」
一方、斗真は腹を空かせていた。収納した弁当を取り出し、食べようかと思ったが行儀が悪いと思い、メイドが淹れたお茶を飲んで空腹を紛らわすことにした。
「(・・・美味いっちゃ美味いんだが、グレイフィア達の淹れてくるお茶のほうが何倍もうまいな)」
「さて、貴方方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞きくだされ」
そう言うと老人“イシュタル”はこの世界について話し始めた。
イシュタルの話を要約すると、ここはトータスと呼ばれる世界で、“人間族”、“魔人族”、“亜人族”と呼ばれる3つの種族が存在すること。その中でも“人間族”と“魔人族”は何百年も戦争を続けていること。“魔人族”は個の力で“人間族”は数の力で対抗していたが、互いの戦力は均衡しており大規模な戦争はここ数十年起きていなかったらしいが、その均衡が最近破られてしまった。“魔人族”が"魔物”と呼ばれる生物を大量に使役し始めたという。"魔物”とは野生の動物が魔力を取り込んで変異した存在で、個としての実力も高いうえに種族特有の魔法を扱うことが出来る。"魔物”は"人間族”だろうと"魔人族”だろうと関係なく襲い掛かり、使役することが出来ても1,2体が限度だったのだが、その常識が覆されたのだ。数としての有利を失った“人間族”、そんな彼らにある神託が下った、それが勇者の召喚である。
「貴方方を召喚したのは“エヒト”様と呼ばれる我々人間族が崇める聖教教会の唯一神です。召喚された貴方方はこの世界に人間に比べ上位の力を秘めています。ぜひその力を発揮し、エヒト様のご意志のもと、“魔人族”を打倒し我ら“人間族”を救っていただきたいのです」
神託のことを思い出し恍惚とした表情を浮かべるイシュタル。
「ふ、ふざけないでください!結局、この子達に戦争をさせようってことでしょう!?そんなの許しません、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く返してください、ご家族も心配しているはずです。それに、どんな大層な理由を並べようと貴方達のしていることはただの誘拐です!!」
そんなイシュタルに抗議を上げる人物がいた。彼女の名は“畑山愛子”。刀真達のクラスの担任を務めている女性だ。皆からは“愛ちゃん”という愛称で親しまれており、刀真もその一人だ。
「お気持ちはお察しします。ですが、貴方方の帰還は現状では不可能なのです」
「ふ、不可能ってどういうことですか!?喚べたのなら帰せるはずでしょう!?」
「先程も言った通り、貴方方を喚んだのはエヒト様です。我々ではエヒト様のような世界に干渉出来る魔法を扱うことができません。ですので、貴方方が帰還できるかどうかもエヒト様のご意志次第ということです」
「そ、そんな」
イシュタルの言葉に愛子は脱力し、生徒もパニックに陥る。そんな中、大きな音がなった。生徒全員が音のなったほうを見ると光輝が自分の手をテーブルにたたきつけていたのだ。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。俺は・・・・俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って放っておくなんて俺にはできない。それに人間を救済するために召喚されたのなら救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。だから、俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が、俺が世界も皆も救って見せる」
「(その自信はどこから来るんだ?)」
光輝の言葉を聞いて斗真は心底あきれ果てた。横目でグレイフィア、朱乃、雫を見ると呆れていることが分かった。
「(はぁ~~しゃあない)」
光輝の言葉を聞き、1人、また1人と賛同していくクラスメイト達。そんな彼らを見て、少し現実を見させてやろうとしたとき、
『告。それを言うのは現状やめたほうがいいと思われます』
ラファエルからストップがかかった。
「(なんでだ智慧之王?)」
『解。今それを言って、士気が下がれば行く当てもなくこの世界をさまようことになります。最悪の場合、殺される危険も』
「(一理あるな。行動するなら信頼できる者達とのほうが得策か)」
ラファエルの言葉に納得した斗真は光輝の言葉を聞き満足そうな笑みを浮かべるイシュタルを見る。
「(流石な世界的宗教のトップって所か。あの馬鹿がこの中で一番影響力を持っていることを瞬時に見抜いて、魔人族の冷酷非道さ、残酷さを強調してあの馬鹿の無駄に大きい正義感を刺激して、この流れへと持ち込んだ)」
色々な意味でイシュタルを要注意人物リストに加え、慎重に事を進めることを決めるのだった。