“智慧”、“陽炎”、“ガチャ”を得た転生者の異世界冒険譚~ありふれ編~ リメイク版   作:白の牙

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第08話

 

 

  檜山の迂闊な行動によって石橋へと強制転移させられた飛羽真達。一刻も早くその場から離れようとした矢先、上の階層へと戻る階段と奥へと続く通路に魔方陣が現れ、階段側からは骸骨の魔物“トラウムソルジャー”が、通路からは体長十メートルはあり、トリケラトプスに似た巨大な魔物“ベヒモス”が現われ咆哮を上げる。

 

 「(智慧之王、あの魔物についての情報をくれ)」

 

 『了。あの魔物の名はベヒモス。かつて最強と言われた冒険者をして歯が立たなかった魔物だと伝えられています。推定ですが強さは“波”の中級ボスと同じと思われます』

 

 「(倒せることは倒せるが、こう人目が多いとな)」

 

 智慧之王からの説明を聞き飛羽真は問題ないと判断する。

 

 「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! 奴を食い止めるぞ! 光輝、お前達は速く階段に向かえ!」

 

 「待ってくださいメルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいな奴が一番ヤバイでしょう! 俺達も・・・・」

 

 「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら今のお前達では無理だ! 奴は65階層の魔物。かつて“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け!私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

 智慧之王が教えてくれた説明をメルドが光輝に伝え、この場から逃げるよう鬼気迫る表情で言われ、一瞬怯んだ光輝だったが、“見捨ててなど行けない!”という無駄に高い正義感で踏みとどまった。

 

 「(力の差も解らないのかあいつは? まさか、自分は勇者だから勝てるとでも思ってるんじゃないだろうな?)」

 

 『告。マスターの考え通りかと』

 

 「雫、白崎と谷口を連れて階段に迎え」

 

 「でも、光輝と龍太郎が・・」

 

 「話を聞かないガキのことなんて放っておけ」

 

 「っ!?」

 

 飛羽真の言葉に雫は眼を見開く。

 

 「あの2人とお前、どっちを助け、どっちを見捨てるか? そう聞かれたら俺はお前を選ぶ。幼馴染だからや手のかかる弟だとかは頭から捨てて、今は生き残ることだけを考えろ」

 

 「・・・解ったわ」

 

 しばし考えた後、雫は香織と鈴に声をかけて階段のほうへと向かった。3人が走り出したのを見送ると、ベヒモスに視線を向けると、ベヒモスは咆哮を上げながらこちらに突進して来るのが見えた。

 

 「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず! “聖絶”!!」」」

 

 王国最強戦力が張った全力の多重障壁。1分だけの防御だが、張った障壁はベヒモスの突進を止めた。障壁とベヒモスの衝突したさいすさまじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元は粉砕し、石橋だというのに大きく揺れた。撤退中のクラスメイトらは悲鳴をあげ、中には転倒する者もいた。

 

 「(相当混乱してるな。まずいぞこれは)」

 

 階段からくるトラムソルジャーに加え、後ろから迫る恐怖に全員が半ばパニック状態に陥る。隊列など無視して我先にと階段を目指して進んでいく。アランがパニックを抑えようとするも、目の前に迫る死の恐怖により耳を傾ける者は誰もいない。

 

 いまだメルドと言い合う光輝とやる気を見せている脳筋の龍太郎をほっといて飛羽真も階段へと向かうと、後ろの1人に突き飛ばされ、転倒する優花を見つけた。そんな優花に1体のトラムソルジャーが剣を振り上げていた。

 

 「朧・紫電突」

 

 それを見た飛羽真は刀を抜き、瞬動で距離を一瞬で縮め、最速の突きを繰り出しトラムソルジャーを仕留めた。 

 

 「大丈夫か園部?」

 

 「え、えぇ。ありがとう八神」

 

 飛羽真は優花の手を引っ張り立ち上がらせながら安否を尋ね、優花は少し頬を赤くさせながら飛羽真にお礼を述べた。すると、雫が慌てた様子で近づいてくる。

 

 「優花、大丈夫!?」

 

 「八神が助けてくれたから大丈夫よ」

 

 「そう、よかった」

 

 「・・・まずいな」

 

 優花の答えを聞いてほっとする雫。一方、飛羽真はパニックになって滅茶苦茶に武器や魔法を振り回しているクラスメイトを見て顔をしかめる。率いていたアランが必死に纏めようとしているが誰も耳にも届かず、いずれ死者が出るだろう。更に魔方陣から続々と増援が送られきており、全滅もあり得る。

 

 「(この状況を打破するには・・しゃくだがあいつの力が必要だな)」

 

 この危機的状況を打破することは飛羽真も可能だ。だがそうすると、本当の実力が全員にばれ、国、教会へと伝わり、操り人形として体よくつかわれてしまうことは目に見えている。それを回避する方法はただ一つ。そう考え飛羽真が行動を起こすよりも早く、誰かが飛羽真の横を通り抜けた。

 

 「南雲君!?」

 

 「ちょ、香織!?どこに行くの!?」

 

 「雫!?ああ、もう!」

 

 飛羽真と同じ考えに至ったのかハジメが光輝の下へと走っていく。それを見た香織が追いかけ、ハジメを追いかけていった香織を雫も追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ええい、くそ! もう持たんぞ! 光輝、早く撤退しろ! 龍太郎も早く行け!」

 

 「嫌です!メルドさん達を置いていくわけにはいきません!絶対、みんなで生き残るんです!」

 

 「くっ、こんな時にわがままを」

 

 今だ自分の指示を聞かず、残っている光輝と龍太郎にメルドは苦虫を噛みつぶしたような表情になる。この限定された空間でベヒモスの突進を回避するのは難しい。その為、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。その微妙な匙加減はベテランだからこそ出来るのであって。今の光輝達には無理なことだ。その説明をかいつまんでだが、何度もしているのだが、光輝は“置いていく”っと言うことがどうしても納得でず、また、自分ならベヒモスをどうにかできると信じてやまない目をしていた。

 

 「(えぇい。ここにきて戦闘素人である光輝達に自信を持たせようとほめて伸ばす方針が裏目に出るとは!)」

 

 「天之河君!!」

 

 自分がした育成にメルドが舌打ちをしていると、ハジメが光輝の目の前に飛び込んできた。

 

 「な、南雲!?」

 

 「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!!」

 

 「いきなりなんだ?それより、何でこんな所にいるんだ!ここは君がいていい場所じゃない!ここは俺達に任せて南雲は・・・」

 

 「そんなこと言っている場合か!!」

 

 「っ!?」

 

 今まで見たことのない乱暴な口調で怒鳴るハジメ。苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに光輝は硬直する。

 

 「あれが見えないの!? 皆パニックになってる。リーダーがいないからだ!!」

 

 光輝の胸倉をつかみ、ハジメはトラムソルジャーに襲われ、右住左住しているクラスメイト達を指さす。

 

 「一撃で切り抜ける力が必要なんだ!皆の恐怖を吹き飛ばす力が!それが出来るのはリーダーの天之河君だけでしょう!前ばかり見てないで後ろもちゃんと見ろ!!」

 

 「・・・・・。あぁ、分かった。直に行く!メルド団長、すいませ・・・」

 

 「下がれーー!!」

 

 呆然と混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見ていた光輝は頭を振るうと頷き、メルドに“すいません、先に撤退します”。そう言おうとした瞬間、メルドの悲鳴と同時に障壁が砕け散った。

 

 暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う。咄嗟にハジメが前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさりと砕かれ吹き飛ばされた。

 

 『グォオオオオオオ!』

 

 舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。そこには、倒れ伏し呻き声をあげるメルドと3人の騎士。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。光輝達も倒れていたが直に起き上がる。メルド達の後ろにいたことと、ハジメの石壁が功を奏したようだ。

 

 「南雲君!」

 

 「南雲君! 天之川君!」

 

 香織と、香織と同じように追いかけてきた恵理がハジメ達に駆け寄る。光輝が苦しそうではあるが確かな足取りで前に出ようとしたとき、光輝の頭上を飛び越えて飛羽真が前に出てくると地面に手をつき、錬成魔法で石壁を作る。

 

 「南雲!メルドさん達のところに行って覆う形で石壁を作れ!他の奴等は急いで耳を塞げ!」

 

 飛羽真はアイテムボックスから1個の筒を取り出すと口でついているピンを外し、石壁の向こうへと放り投げた後、自分も耳をふさぐ。数秒後、爆発音と閃光が生じた。数秒間続いた閃光が止んだのを石壁越しで見ていた飛羽真は立ち上がるとメルド達のところに行く。

 

 「天之河、坂上、メルドさん達を連れて引くぞ」

 

 「や、八神、今のは」

 

 「俺が南雲と一緒に作ったスタングレネードだよ。そんなことより早くしろ!」

 

 動けないメルド達に肩を貸し、撤退しようとしたところ、

 

 「俺は大丈夫だ」

 

 3人の団員と同じぐらい傷を負っていたはずのメルドがしっかりとした足取りで立ち上がった。よく見ると負っていた傷は治っていた。

 

 「メルド団長、傷は?」

 

 「ハジメに貰った薬を飲んだら治った。龍太郎、ベイルを頼む」

 

 驚く光輝を他所にメルドは2人の団員に肩を貸し、残りの1人を龍太郎に任せると階段に向け早足で歩く。飛羽真は地面に捨てられている空の瓶を見て自分が渡したハイポーションを飲ませたんだと瞬時に理解した。

 

 「天之河、お前は先に行って他の奴らを一つに纏めろ」

 

 「君はどうするつもりだ八神?」

 

 「殿を務める。早く行け!」

 

 雫達を先に行かせ、どうやってベヒモスの足止めをしようか考える飛羽真。『いっそのこと倒すか』っと思っていると1人の少年と少女が隣に立った。

 

 「南雲に中村!? お前らなんで!?」

 

 「僕もベヒモスの足止めを手伝おうと思って」

 

 「わ、私は南雲君のサポートをしようと思って」

 

 「ったく、ほれ」

 

 飛羽真は収納ポーチから大量の魔力回復薬を取り出しハジメに渡す。

 

 「準備してきた分はもうないんだろう?やるよ。魔力だけならあの馬鹿以上にあるからよ」

 

 「ありがとう」

 

 ハジメは飛羽真から薬を受け取るとベヒモスの咆哮が聞こえ、飛羽真が錬成した石壁を崩してこっちに向かってきた。

 

 「2人とも下がってろ」

 

 「「う、うん」」

 

 「(智慧之王、タイミングは任せた)」

 

 『解。了解しました』

 

 飛羽真はハジメと恵理に下がるよう言うと石を拾って石槍へと錬成させるとベヒモスに向け投擲する。たいしたダメージにはならなかったがベヒモスは石槍を自分にぶつけた飛羽真を標的にした。頭部の兜を焼けた鉄のように熱くさせると咆哮をあげ、突進、跳躍すると赤熱させた頭部を下に向け隕石のように落下してきた。

 

 『告。今です』

 

 ベヒモスをギリギリまで引き寄せた飛羽真は智慧之王の合図で瞬動を使い、距離を取った後、宙高く跳躍する。それと同時に練り上げた気を拳に纏わせる。

 

 「破甲拳」

 

 そして、石橋にめり込んだ頭を抜き出そうとしているベヒモスの頭部に右拳を叩き込み、更に地面にめり込ませた。

 

 「南雲!」

 

 「っ!錬成!!」

 

 飛羽真に呼ばれたハジメはベヒモスに近づく。赤熱化の影響が残っておりハジメの肌を焼く。肌が焼ける痛みを無視してハジメは何度も使ってきた魔法を唱える。ハジメが錬成を発動すると、さらに深く石中に埋まった頭部を抜こうとしていたベヒモスの動きが止まった。周囲の石を砕いて頭部を抜こうにもハジメが錬成して直してしまうのだ。

 

 「錬成」

 

 地面に着地した飛羽真も錬成魔法を発動し、ベヒモスの足元の部分を柔らかくさせ1メートル以上、足を沈み込ませ、すぐさま錬成で足元を固める。ベヒモスのパワーはすさまじく、油断すると石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、2人はその度に錬成で直し、抜け出すのを阻止する。恵理は自分の分と飛羽真から渡された魔力回復薬をハジメに飲ませ続けハジメの魔力が無くならないようサポートする。

 

 「(あっちの立て直しは出来たみたいだな)南雲、中村! あとは俺に任せて先に行け!」

 

 「で、でも」

 

 「魔法で援護があったとしても、2人の足の速さじゃギリギリになるだろう。俺なら大丈夫だだから行け!」

 

 「・・解ったよ。行こう中村さん」

 

 飛羽真に言われ、ハジメは錬成を止めると恵理の手を掴んで階段のほうへと駆けだした。ハジメと恵理が走り去るのを見ながら飛羽真は魔法の詠唱の準備に入っているのを見た後、数十度目の亀裂を錬成で直し、拘束したと同時に飛羽真は階段へ向け駆けだした。

 

 「こいつはサービスだ」

 

 そして、収納ポーチに仕舞っていた手榴弾と閃光弾を取り出し、安全ピン取り外してベヒモスのほうへと投げる。5秒後、地面が破裂するように粉砕され、ベヒモスが咆哮と共に起き上がる。その目には憤怒の色が宿っており、無様な姿を晒させた怨敵を探し・・・逃げる、飛羽真、ハジメ、恵理の3人を捉えた。

 

 怒りの咆哮を上げ、3人を追いかけようと四股に力を溜めたとたん、飛羽真が置き土産に残した爆弾が爆発した。そして、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到する。色とりどりの魔法がベヒモスを打ち捉えるが、ダメージは入っていない。しかし、しっかりと足止めをしていた。

 

 後から走り出したというのにあっという間にハジメと恵理に追いついた飛羽真はハジメと恵理を回収しようと手を伸ばした瞬間、爆発と共にハジメの身体が後ろへと吹き飛んだ。

 

 「何!?」

 

 手をつないでいたため恵理も爆発を受けたのか一緒に吹き飛んでしまった。飛羽真は急停止する。

 

 フラフラしながらも少しでも前に進もうと立ち上がる2人を見て、飛羽真は2人を回収するために駆けだす。それと同時にベヒモスの咆哮が鳴り響いた。見るとベヒモスは再度頭の兜を赤熱化させており、その赤熱化した頭部を盾のようにかざしながら突進、跳躍する。

 

 迫りくるベヒモスを見て2人はなけなしの力を振り絞って、その場を飛び退いた。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が振動する。

 

 「うぉ!?」

 

 さすがの飛羽真もその振動にバランスを崩し、倒れてしまう。

 

 着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走り、橋が悲鳴を上げる。そして遂に・・・橋が崩壊を始めた。度重なる強大な攻撃に晒され続けた石橋は耐久限度を超えたのだ。

 

 『グゥアアアア!?』

 

 崩壊の中心地にいたベヒモスは崩壊から逃れようともがくが、意味をなさず奈落へと落ちていった。

 

 起き上がった飛羽真は全力で2人の元へと駆ける。あと少しで必死に這いずる2人の手に手が届く距離にたどり着く。だが、2人の手を掴もうとした瞬間、2人の足場が完全に崩壊し、飛羽真の手は虚空を掴んだ。

 

 「っ!? ・・・・・・・ちくしょぉおお!?」

 

 2人を助けることが出来なかった飛羽真の悲痛な叫び声が部屋全体に響いた。

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