この世に絶望した天才がギターヒーローに救われるお話 作:うぇるしゃ
夏休み、と聞いて心が躍らない者はいないだろう。わたしの場合は好きなだけ楽器を触れるから。リア充という人種は友達と遊びに行けるから。共通しているのは、好きなことを好きなだけやれるということだ。
で、それにかまけていたらしっぺ返しを受ける。良い事ばかりが続かないように、悪い事にも備えなければならないのだ。それが何であれ、普段は小さな良い事悪い事が連続してプラマイゼロなのに、大きな良い事があったら、もう確実にすごい不幸が訪れる。
長々と言ったが要するに──
「宿題が終わらないっ!」
「はいはい馬鹿なこと言ってないで連立方程式を連立させるよ」
わたしバカだからわかんないけどさ、連立方程式って連立させるものじゃなくて、連立してるものじゃない?
それより解き明かさねばならない、xとyが何を表すのかを。
「美琴ちゃん今まで宿題とかどうしてたのさ」
「提出したことないのです」
「なんで高校行けたのよ……」
喜多さんが後ろで『こんなのが通える高校で平均ちょい上の成績の私って……』みたいな空気を漂わせている。
「大丈夫なのです。だいたいの教科で平均点より上を取ってるので」
「いやいや、どうなってるの?」
カンニング(不可抗力)。わたしの聴力だとさ、隣の人がどんな文字を書いてるかくらいなら余裕で分かるもの。
こんなこと言ったら間違いなく怒られる。だから別の回答を用意しておいた。
「一夜漬けなのです!」
「リョウと同じタイプか!」
結局怒られた。というかそもそもの話、わたしは東京藝大の名誉博士号持ってたりする。教える側の人間なんだよね、弟子が育ったことないけど。
「それよりお前らぼっちちゃん何とかしてくんない?」
「なんかあったのです?」
よし、これを機に宿題からは逃げ出そう。
「朝からライブハウスの前に蝉のお墓作ってる」
「うわっ」
関わりたくないな、それ。宿題やってた方がましかもしれん。
◇
遊びに行く事になった。場所は江の島。鉄道唱歌に出てくる名前だよね、行ったことない。
身長もあってか、倒れた後藤さんを運ぶ係にはならずにすんだ。
「海だーっ」
冷た、戻ろ。ああっ!みんなが陽キャに絡まれてる!
やめて!陽キャ特有のパリピオーラで、後藤さんの陰キャガードを焼き払われたら、闇のライブでギターと繋がってる後藤さんの精神まで燃え尽きちゃう! お願い、死なないで後藤さん! あんたが今ここで倒れたら、喜多さんや先輩との約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、陽キャに勝てるんだから! 次回──
「ぴいっ」
「ぼっちちゃんが爆発四散した!」
「えっ大丈夫?」
知ってた。もう慣れたよこの感じ。人間って簡単に形を変えるんだよね……わたしも子供のままだし。
「それより焼きそば食べたいのです」
「友達だよね、大丈夫なの?」
「慣れたのです」
焼きそばうめえ。お腹いっぱいになったわ、みんなの分も買ってやろっと。
「ほら後藤さん、焼きそばなのです」
「ひとりちゃん、皆で焼きそば食べよ?」
「んぁ……みんなで食べる焼きそば……夏の思い出……夏の思い出っ!」
「あ、起きた」
「うまうま」
りんご飴硬っ。食べれないわ、物理的に。後藤さんの口に突っ込んどこ、なんで歯立てて食べれるんですか。感動ー、後藤さん顎強いのね(精一杯の喜多さんボイス)
「食べ終わったら展望台行きましょう!」
「展望台ぃ?」
何見るんだ、星とか?
「もちろん歩いて!」
「は?」
「あ、歩き?」
「綺麗な景色、見たいですよね?自分で歩いて見に行った景色、最高ですよ!」
「ネットでいくらでも見れるじゃん」
「歩きはちょっとね」
「確かに見たいのです。でも遠慮したいのですよ」
必死の抵抗もむなしく、歩いて階段をのぼることになったわたし。何段あるのか数えてたら意外と登れる。
ペルーとかに比べたら全然楽。あれ、足が動かない……
「うわっ!?」
「灘谷さん!」
死ぬかと思った。後藤さんは命の恩人八人目だ。もう立てないからおんぶして。だっこでもいいよ。
「もう疲れちゃって、全然動けなくてェ……」
「わっ私が運びますから!」
「皆、エスカーある」
やったぜ。
有料らしいが関係ない。ここはわたしが出そう。
「ありがと美琴。恩に着る」
「楽ちんだね」
「文明開化の音がするのです」
「インドア人め……」
命の危機だったし別にいいじゃん。確かに努力して手に入れるのは素晴らしいけど、努力しなくても同じものが手に入るなら、努力の価値は下がると思うんだ。
「頂上だ」
「そう考えるとテンション上がってきた」
「写真撮りましょう。はい、チーズ!」
「ちぃず!」
……何やってんだろ。風は気持ちいいけど、景色については言う事がないし。それってさあ、無駄な時間をかけて無駄な体力を使ったってコト!?
「この景色を君にあげるよ」
「ちっ。リア充が……孫に囲まれて老衰で死ねなのです」
よし帰ろ。
「あっちょっと、弁財天様にお参りしましょうよ」
「七福神ならえべっさんでいいじゃないですか」
「音楽の神様ですよ!」
それならわたしにお参りすればいいのに。ご利益はないけど。
五円玉を投げつけ、ノッカー代わりにでかい鈴をならす。そして手を叩いて驚かせる……なんてひどい行動なんだ。わたしなら絶対願いとか叶えない。
「人の子よ……聞こえますか」
その声は、神様!?
「私は神です……あなたの信心を認め、一つお願いがあるのです」
すごい、全然信心とかなかったのにいつの間にか信仰してることになってる。
「山田リョウにヤマハのBBP34ヴィンテージホワイトを購入して授けるのです。さすれば音楽家として大成し、宝くじも当たって恋人もできるでしょう」
「おふざけもほどほどにするのですよ、リョウ」
「バレたか」
最初からわかってた。楽器を買って欲しいなら、わたしを認めさせてからだと前にも言ったのに。
◇
「疲れたね」
「ですね」
めっちゃ眠い。家帰ったら寝るなこれ、楽器の練習できないじゃん。いやここで寝ればいいのか。
「ねえ美琴ちゃん、楽しかった?」
「んあ?ああ、楽しかったのですよ」
今まで音楽以外に楽しい事なんて知らなかったし、この楽しいが何の楽しいかは分からないけど。
「楽しい。楽しいって良いですね」
「何言ってるの。当たり前じゃん」
そうかな、そうかも。
「ふふ。ふう……ぐー」
「寝ちゃった。喜多ちゃん、あたしも寝るから下北ついたら起こしてね」
「はいっ」