この世に絶望した天才がギターヒーローに救われるお話 作:うぇるしゃ
「二組の模擬店はメイド喫茶に決まりね!」
メイドかあ。メイドと聞いて何を想像するかで年齢バレるらしい。わたしはPADちょ(粛清)
どうせやるなら萌え萌えキュンって感じのことをしたいな。アキバ行くか、後学のために。
「メイド服って色々種類あるけど、何にするの?」
「クラシカル!」「ミニスカ!」「あえての男装!」「和装!」「バニー!」
「全部用意するのです。おじいちゃんが縫製工場の社長なので」
「すげえ」
「じゃあお願い!」
その場のノリで言ったけど、幾らになるんだろう。色んな種類を用意するのって大変だし、それだけお金もかかるのに。
『二日間のレンタルで一着……ばあさん幾らだ。今作った学割入れて千円だ』
「ありがとうねおじーちゃん」
『たまにはうちに来い。待ってるから』
「はーい」
文化祭の予算は三万円で接客する女子は十人、服代一万円で残りは材料費に回せる。
これは模擬店売り上げ一位だな、間違いない。
「勝ったなガハハ、風呂入ってくる」
「灘谷さん携帯しまおっか」
「やっべ」
携帯をしまって、文化委員に費用を伝えるとぎゅってされた。
「ありがとっ!」
「よせやい」
それじゃあわたしはいったん帰って──
「灘谷さん!後藤さんが倒れた!」
「ふぁっ!?」
よく考えたらいつものことじゃん。驚いて損した。いやでもそれならわざわざ報告するんだろうか、いやしない。
しゃーねえ、行ってやろう。
「保健室がどこか分からないのです」
「連れてってあげるから」
ついていく、ついていく……
「へえい後藤さん。どうして倒れたのです?」
「あっ頭を打ちました」
「思ってたのと違った。今日一日は安静にするのですよ」
頭を一日に二回強打したら最悪死ぬらしい。こっわ、サッカー部はヘディング止めたら?そんな威力はないけどね、サッカー。
「後藤さん、この用紙は?」
「あっそれは……文字の練習に……書いたやつです」
何の用紙だ、まさか退学届?
学歴はだめかもわからんね。高校中退もロックらしいよ後藤さん。別にかっこいいとは全然思わないし、むしろダサいと思うけど。
「ナマポは誰でも受けれるのです。路頭に迷ったときは考えてくださいね」
「ナマ……あっ生活保護………………ギャアアッ!ニートォォォ!」
「死んじゃった!」
わたしのせいです。
あ~あ。
「灘谷さんも直すの手伝ってください」
「こんな感じです?」
「それは左目よ、右につけちゃだめじゃない」
おっと危ない。うん?しれっと顔のパーツ取れてるな。なんでだ?
……そうか、そうだったのか……ゲッターとは……宇宙とは……
「んがっ」
「大丈夫?」
「なのです」
「じゃあ私は行くわね」
「はい、さよなら」
喜多さん紙持って行ったけど、ちゃんと捨ててくれるかな?あんなものが受理されたら困るし。
「あっあの」
「はい」
「えっと……文化祭ライブ、出ていいんでしょうか」
しらね。出る権利があるなら出たほうがいいんじゃないかな。回数こなさないと知名度上がんないし、それに──
「ライブハウスでは味わえない大観衆の前で演奏できるのです」
「あっああ……」
やれることをやらずに、全力を出したなんて言うべきじゃない。大舞台の経験を踏めて若者世代の知名度も向上する上、コケたとしても不利になることはほとんどない。すごく恵まれたチャンスだと思う。
まあわたしは注目されすぎると困るけど。前の家放火されたからね。せっかくの楽器が燃えたのは絶対に許早苗。
「頭では分かってるんですけど、どうしても、どうしても勇気が……」
「ふん、全校生徒が千人としても、その程度の群衆虜に出来なくてどうするのですか」
全員ファンにしろとは言ってないし、間違っても言わないけど。だってアンチも居ないよりはいいと思うし……
「まあいつか武道館でも行くなら慣れはいりますよ」
「な、慣れるまでに……緊張して死ぬっ!」
「誰だって緊張はするのです」
わたしだって緊張しながら演奏するのに慣れてるだけ。緊張しない音楽家なんてダメだ。適度な緊張がないと家で演奏するのと何も変わらない。
「じゃ、わたしも行くのです。くれぐれも頭に気をつけて」
「あっはい」
◇
「かわいーご主人様だ。ご注文は何にしますか?」
「にへへっ、上から二番目のちょうだい!」
「きゃわっ……持って帰ってうちの子に……いやいやっ、ふわ☆ぴゅあとろける魔法のオムライスですね」
「なのっ」
わたしは知っている。女性の多い店では見た目らしくふるまうとサービスしてくれるって。参考にするのは三歳のときのわたし。まだ世の穢れも人を挫折させることも知らなかった、思い出の中にしかいないピュアな自分である。
「じゃあ美味しくなる魔法、かけちゃうね」
「はーい」
「ふわふわ~」
「ふわふわー」
「ぴゅあぴゅあっ」
「ぴゅあぴゅあ」
「みらくるきゅん☆」
「みらくるきゅん」
「(ああ゛あ゛かわ゛いい゛っ。好き。死ぬ)……くっ」
☆が出てこねえ。どういう声帯してんだこの人!?
やはり適当な振り付けではダメか。もっとメイドさんを意識しないと……
「オムライスさんっ、美味しくなーれ!」
「なーれーっ!」
「グハッ」
なぜか分からないけどメイドさんが死んじゃった……罪深いなあ、わたしも。まあエアロ、これでメイド喫茶の何たるかは分かった。とにかくかわいいのが正義。かわいいでお客さんをメロメロにしてしまう完璧な作戦だ。
「……?」
いい匂いがして、条件反射で口を開ける。さしこまれたのはオムライス。
とてもおいしい。すぐに飲み込んで口を開ける。オムライス。おいしい。以下無限ループ。
「エンドレス餌付け作戦。我ながら完璧な作戦ね……」
「作戦?」
そのまま膝の上に乗せられて、なでりなでりと頭を触られた。まあいいか。中々上手で心地いい。すぐに夢見心地になって──
◇
気づいたら三万円くらい支払っていた。これがメイドの魔力……わちき覚えた。
「なに言ってんのー?ねえー」
「メイドさんはいいぞって話なのです」
「へー。私のライブチケットいるー?」
「値段によるのです」
別にいくらでもいいけどね。人は一生かかっても使いきれないお金があると、使い道を探してお金のかかる趣味を始めるらしい。
お金を使える時はガンガン使うのがわたしのポリシー。
「只でいいよー」
「只より怖いものはないのです」
「一円」
十分だろ。只がダメなんであって、一銭でも払えばオッケーだと思う。
「つーかこんな道端で飲まないでほしいのです」
「いーじゃんロックだし」
無様なロックだ。何で新宿に居んだろこの人。
「私のホームは新宿だぞう!チケット見てないのか君はー!」
「見てないのです」
そもそもチケットの見方がわからない。なにこれ……半券になったりするの?
っとそんなことはどうでもいい。せっかくおねーさんに会ったからには、わたしの愛機をもって勝負をせねば。
「ちょっと待ってるのです。ベース持ってくるので」
「おっけー」
わりと急いで行って帰ってきたのに、おねーさんはいなくなっていた。今度会ったらぶっ飛ばしてやろう。
灘谷美琴…見た目の年齢は小五ロリ以下。それらしい振る舞いをすれば可愛がられる器量があるし、自分でもそれを分かっている。
メイドさん…将来の夢は保育士だったが、色々あってメイド喫茶の店員に。世の中はかくも辛いものかと目が死んでいた。主人公とふれあって一瞬でも夢が叶った気がして、生きる気力がわいてきたらしい。
廣井きくり…私のライブの価値はお前が決めろってしたら一円と返された。あとで泣いた。かわいいね。