この世に絶望した天才がギターヒーローに救われるお話 作:うぇるしゃ
ここは新宿。わたしの出生地でもあり、現在の住所でもある。小学校までの住所でもあった。
なら土地勘完璧かと思ったかもしれないが、そんなことはない。三年以上離れていた上、楽器店ぐらいしか寄り道したこともなかったからだ。
つまり、つまりだ。おねーさんに呼ばれた新宿FOLTでのライブ。今日はその日で、自分の土地勘を信用して家を出たわたしは──見事に迷子だった。
「というか、新宿FOLTとかいうライブハウスに行ったことがないのです」
「土地勘関係ないわね!?バカなの?」
「ヨヨちゃん、保育園からの友達になんてことを言うのですか」
「あっごめん……友達……いや腐れ縁ね」
それにしてもよく分かったな、小さいままといえ保育園よりは成長したし、特徴的な白髪も黒に染めたのに。
「面影あったし……それに……一応ファンだし……」
「わたしのファンだったのですか?」
「なんで聞こえ……いや、そうだったわね」
大槻ヨヨコ。わたしとは保育園が一緒だった。何もかも昔に戻ったような気がして、ついつい抑えるべき性根が現れてしまう。
ヨヨちゃんもいじると楽しい。わんこみたいで。
「なんか失礼なこと考えたでしょ」
「細かいことを気にする人は友達出来ませんよ」
「いるわよ!ネットに」
そういうアンタも居ないでしょ、と言われて閉口した。
この話はお互いに傷つくだけだと悟ったのか、ヨヨちゃんは話題を変える。
「ねえ、どういう風の吹き回し?ピアノはどうしたの」
「やめたのです」
「嘘ね。ならその目に拘ったりしないでしょ」
目。特別で特殊なわたしの目。
これがあるから、わたしのピアノは魔法をかける。人を虜にする魔法を。
「その目とピアノの才能に何の関係があるかは知らないけど。今もそのままなんでしょ?」
「まあ、そうですね」
「じゃあピアノでいいじゃない」
「怖いのですか?わたしがロックに居るのが」
ピアノを持ち込めばウッドストックだろうと満員に出来るが、ベースでそうはいかない。現状のわたしは個人プレーが上手いだけなのは自覚している。だから今のは冗談、キディングというやつだ。でももしこれでツマラナイ回答をするなら──
「ふん。むしろ感謝してるわ。わざわざ倒されに来てくれてありがとうってね」
「ピアノに逃げるなと。いひひっ、好きですよ。そういうの」
良い答えだ。もしヨヨちゃんがピアノ奏者なら、絶対にそんなことは言わない。今のピアノコンクールははじめから二番手争いをしてる上、それで名実ともに二番になった人間がわたしに挑むわけでもない。そんな臆病者しかいないのに、ヨヨちゃんだけが特別とは思えない。
でも、それが無知ゆえの勇気だとして。わたしに挑む人がいる。それだけでわたしは嬉しいのだ。
「ま、いいわ。ここがFOLTよ。広いでしょ」
「音響設備整ってるなら狭くてもいいのです」
「分かってないわね。大人数の前で演奏って憧れないの?」
「慣れてるのですよ」
コンサートホールも大人数の前も。なんなら国家元首の目の前でだって弾いて見せる。経験豊かだからね、わたしってばオットナー。
「あっそうだった……」
「妙なところでメンタル弱いのですね」
あまり変わってなくて安心した。ここがおねーさんのハウスね、ひろーい。
「あらかわいい子。大槻ちゃん友達?」
「とも、腐れ縁です」
「友達なのです」
おねーさんじゃなくてオネエさんだ。で、誰?
「店長の吉田銀次郎37歳で~す」
「吉田銀次郎さんじゅうななさい。好きなジャンルは?」
「パンクロックよ~」
「世界はそれをー?」
「愛と呼ぶんだぜー!」
ハイターッチ。多分吉田さんからしたらロータッチ。
いやあ自分のコミュぢからが怖くなるぜ、もう友達だ。これがロックか、音楽の力は偉大なり。
「あっ、もしかして結束バンドの方ですか?」
「誰だ貴様は!名を申せ」
「おおオダイカンサマ!」
「えっとSICK HACKのドラムス志麻と申します?」
「私イライザって呼んでネー」
「灘谷美琴、結束バンドの六弦ベースです。好きなジャンルはサブカル系なのです」
「え私もー!」
流れで言ったけど四苦八苦って何?おねーさんのバンドか。変な名前(ブーメラン)。変な名前じゃないバンドってあるのか?あるわ。
「イライザさん好きなプリキュアを教えるのです」
「スマイル!」
「同志だ!」
みんなハートキャッチプリキュアばっか話題にあげるしわたしも好きだけど、でもスマイルが一番好き。世代直撃してるからね、ピアノ弾いてたからリアタイしてないけど。すればよかった。今ふたりはプリキュア追っかけてる。
正直声優の演技が上手くてストーリーしっかりしてれば何でもいい。作画とかどうでもいいって言うと、じゃあボイスドラマ聞いとけってなるから言わんけど。
「そういやおねーさん来ないですね」
「廣井はそういうとこあるからな。チッ」
「もー二人だけでリハしヨーよ」
「わたしも混ぜてー」
「いやなに言ってんのよアンタ!?」
ヨヨちゃんが喋った!じゃなくて、よく考えなくても良いと思う。おねーさんとわたしは同じベースだし、わたしは上位の人と弾けて楽しい。
「アンタ変拍子弾けるの?」
「わたしを誰だと思っているのですか?」
「ぐっ……」
楽器変わってもリズム感は変わらないし。というか変拍子の曲弾くのね、四苦八苦。
「面白そう!」
「どれくらい弾けますか?」
「一度聴いたらコピーして弾けるのです」
「じゃあお願いします。最悪廣井が来なかったら代役も」
やったぜ。音源聴いたら何のことはない、普通に弾ける難易度。聞きながらコピーしてアレンジも入れ、入れ……入れなくていいか。人のバンドだし。
「全部大丈夫です」
「じゃあ合わせします」
「オー!」
うーん、上手い。ドラムが超上手い。三年間リズム感を鍛えさせた吹部のパーカスみたい。中学時代吹部の部長を務めた経験からしても、すごい上手に弾いていると思う。ギターも上手い。合理と感性を両立させている。流石はインディーズ最高峰のバンドといった所か。
まあ、負けないが。
「楽しかったのです!」
「上手かったネー」
「廣井より上手いかもしれない」
「ええ……」
おねーさん酒のせいで手が震えてるんじゃないかな。それで演奏が下手になってるとかありそう。
「廣井も上手いんだけど、酒飲むからな」
「交換したいヨ」
「それはダメでしょう?」
「なんだかんだで廣井は要るな。普段は要らんけど」
身内のノリとはいえ人徳低いなおねーさん。聞いてみたいな、馴れ初めとか。まだ好感度が足りない。
◇
おねーさんと結束バンドの面々はライブに遅れる事無く来た。来たんだけどさ──
「えー今日はゲストで結束バンドの灘谷ちゃんがきてまーす」
「拉致か?いいぞ廣井」「六弦ベース使う幼女とかどこで拾って来たんだ」「犯罪臭すごいぞ廣井」
「美琴ちゃん何やってんの!?」
「なんか一言言えよう」
「……よろしくう!」
なんでわたし人のバンドのライブに出てんの?