この世に絶望した天才がギターヒーローに救われるお話 作:うぇるしゃ
文化祭初日。わたしは自分のシフトを一人で回していた。料理作る人は他にいるけれど、接客は完全に一人だ。つまり冷やかしに来た結束バンドのメンバーへの対応も、わたしに任されることとなる。
ほんとはもう一人シフトに入っているのだけれど、今ちょっと行方不明だし。しょぼい偏差値の高校である秀華だと、許可を取らない限り携帯が使えないから、連絡手段もなかった。イベント中は使えるのかもしれないけど、先生の話とか聞いてないので分からない。
「はい新曲」
「どれどれ……綺麗な構成。ドラムとギターの掛け合いが上手」
「あれ、あたしよりドラム上手……」
この前買った電子ドラムなら叩けたってだけで、アコースティックは全然叩けない。それにわたしはだいたいの楽器を弾けるから、あんまり気にしなくてもいいと思う。先輩と違ってわたしは周り見れないし。
「明日の文化祭ライブで弾くのです」
「明日は無理だからね?」
「ねえ、いきなりギターが三人になったけど」
そこはわたしがギターを持つ予定。せっかく持ってる楽器だし、使ってあげなきゃかわいそうだ。あとその曲にはサックス入ってるけど、そこもわたしが演奏する。
「……いや、そうじゃなくて!ぼっちちゃん探さないと」
「気づきましたか」
リハの時点でなんかダメそうな予感がしてたから、当日失踪されてしばらく接客ワンオペでも黙ってたのに。
「ちょっと怒ってない?」
「怒ってないのです」
「座敷童みたいでかわいいじゃん」
「怒ってな……今それ言うのです?」
わたしのコンセプトは大正ロリメイドらしい。送られてきたメイド服(和装とバニーを含む)の中で、一つだけサイズがわたしにドンピシャだったから、これはおじーちゃんの趣味だろう。
そんなことより、後藤さんだ。わたしも探しに行くのはシフト的に無理だし。いや誰かが代わってくれたら行けるけど。
「話は聞かせてもらったわ!」
「ヨヨちゃん」
「あっいや別にアンタの出し物見に来たわけじゃなくて結束バンドの偵察に来たというか、いつライブやるのか分からなかったから二日とも来てるってことは全然ないから」
「ありがとう、じゃあバニー着るのです」
「えっ?」
ヨヨちゃんが着替えている間に、先輩から知り合いかと聞かれた。知り合いじゃない、友達だと返したら驚かれた。
わたしにだって友達くらい居る。小学生のときは一人も居なかったけど。
◇
喜多博士によると、後藤さんはナメクジのいそうな場所に生息するらしい。ナメクジのろのろなにぬねの。
「デトロ!開けろイト市警だ!」
「ぴいっ」
「はよ開けんかいゴラァ!」
「引き戸だからこれ!蹴破っちゃ駄目なやつだから!」
もう遅い、とラノベ風に言ってみる。キャメルクラッチを受けた。ライフで。
実際言うのが遅すぎたので、扉は吹っ飛ばされていた。リョウに三千円渡して一緒に嵌めなおす。この三千円を軍資金に、わたしの店にお金を落としてくれると嬉しい。
「みっ皆さんどうして……」
「美琴ちゃんが呼吸で分かるって言ってた」
「いや奇声が聞こえたので」
流石に離れた場所の呼吸音は聞こえない。教室くらいの広さなら聞こえるけど、全部聞こえるわけじゃないから。ちょっと引くのやめてくれないかな。
「さ、帰りましょっか」
「誤魔化せないからね?」
ごまかした。帰る途中に色々まわってみたり、写真を撮ってみたりしながら自分の教室に入ると、たくさんのお客さんに囲まれたヨヨちゃんがいた。
なんならおじーちゃんとおばーちゃんもいたし、マネジさんもいた。わたしの恰好についてお話しているけど、これまあロクな内容が出てこない。ガーターベルトだのミニスカだの。自分の歳考えて引退してくれないかなって思う。
「オムレツを貰いたい」
「わたしはスパゲティね」
「私はサンドイッチをお願いします」
「……フィールドに後藤さんを特殊召喚!」
「ひいっ!?」
わたしのシフト終わったし。ここからはもてなされる側として参戦。
三人の席に座って楽しんでいると、ガヤガヤとクラスメイトの声がした。聞けば結束バンドのメンバー全員がメイドになったらしい。
そんなみんなとヨヨちゃんが親交を深めているのを感じて、ちょっと嫉妬した。数少ない友達が取られるみたいな心配はしてないけど。
「そういえば、明日の文化祭ライブにご両親が来られるそうです」
「おお、帰ってくるのか」
「マジ?やったー!」
今度こそライブを見せてあげられるのと、あと久しぶりに家族と会えるのに対する喜び。おじーちゃんは会いに来いって言う割にしょっちゅう会いに来るからありがたみがない。
「明日の朝に羽田空港に着くらしいので、迎えに行きましょう」
「やっぱ一日休暇なのですね」
「ライブを見たら直ぐ帰るとのことです」
お父さんの仕事が忙しいのはしょうがないし、二日以上の休暇を滅多に取れないのも知ってる。元はわたしが小六のときに一年中世界を連れまわしたのが悪いから、わがままは言えない。もう言い尽くした。
「もっと我儘言って、小遣いタカって欲しいんだがね」
「はいチップ。これでお友達と遊びなさい」
「わーい!」
五千円もくれた。ラッキー。
◇
灘谷が団らんしているのを他所に、大槻ヨヨコは結束バンドに対抗心を燃やしていた。
バンドマンとしてではなく、保育園以来疎遠になってしまった幼馴染のことだ。
(アイツは覚えちゃいないでしょうけど)
彼女は灘谷のピアノを聴いたことがある。工作中にハサミで指を切って、泣いていた自分を笑顔にするために、灘谷は初めて自分のピアノを人目にさらした。その音色に聴き入るうちに、気づけば指の切傷も治っていた。その時、輝く瞳の星を輝かせた灘谷はこう言ったのだ。
『わたしはみんなを笑顔にするヒーローになるの!』
その日から、大槻ヨヨコの目標はヒーローになることに決まった。
まず憧れを追うようにピアノを始めた。猛練習しているうちに賞も取ったし、ピアニストとして大成する灘谷にいつか並び立とうと努力を続けて──灘谷がピアノを止めたと聞いた。
『何よそれ。バカみたいじゃない』
その努力を灘谷が知ることも無く、彼女のピアノ人生は終わった。そしてこれまでの鬱憤を晴らすようにロックの道に入って、紆余曲折を経ながら少しずつステップアップしていった。
だから、新宿でベースを背負った灘谷を見たとき、チャンスだと思った。今度こそ競い合える、なんなら自分のバンドに欲しいと。
その気持ちは新宿FOLTで輝く灘谷を見て更に強くなった。わたしを見ろ、わたしだけを見ろと叫ぶような演奏に引き込まれた。
「結束バンド。明日のライブで不甲斐ない演奏したら、ただじゃおかないから」
「ひっ、あっハイ!」
だから知りたい。自分の憧れが結束バンドに居る理由を。
W(私が)S(先に)A(憧れてたのに)
なおフラグ。